ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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軽空母たちと晩酌セット+α

雨こそ降っていないが、暗い梅雨空が広がっている。

 

春の期間限定作戦を(丙で)完遂し、日常生活に戻った北の辺境鎮守府。

 

主要艦娘ほぼ全員を出撃させる大激戦のどこが「中」規模なのかという疑問は残しつつ……。

失った資源を回復させながら、雨の合間に釣りや農作業に精を出す日々。

 

提督も連日、労いの家族サービスに大忙し。

祝勝会やバーベキュー、大小の宴会はもちろん、作戦や遠征で頑張った艦娘たちに希望を聞いては、その望みをかなえていた。

 

「長門と陸奥はどこか行きたいとこはあるかい?」

「網戸を張り替えたいから、サ〇デー(東北ローカルのホームセンター)に行きたいな」

「あら、長門、それなら国道沿いのコ〇リも覗いてみましょうよ」

「いや、そういう話じゃなくて……」

 

大和たち坊ノ岬組と花巻温泉に行ったり、金剛姉妹と隣県の三〇デパートにショッピングに行ったり、一航戦と隣県のコ〇トコまでハイエースがパンパンになるほど買い物に行ったり、重巡洋艦娘たちと裏山キャンプに行ったり、白露型の子たちと河原でフリスビーで遊んだり、朝潮型の子たちとファミリー牧場に行って動物と戯れたり、陽炎型の子たちとパジャマパーティーしたり、中枢棲姫ら深海勢とワイキキビーチでダイヤモンドヘッドを眺めたり……。

 

「何で那珂ちゃんへのご褒美は近場の道の駅巡りで、深海の子たちはワイキキビーチなの!?」

「牛乳ラーメンと柿アイスが食べたいって言ったの、那珂ちゃんじゃないか」

「那珂ちゃんもワイハでパンケーキが食べたいー!」

「あー、無理。第百四戦隊で北海道に行った那珂ちゃんは、ハワイへの深海門は使えないよ」

 

などという一幕もありましたが、おおむね皆に喜んでもらえている。

 

 

そして、軽空母組へのご褒美アンケート。

 

『食堂で晩酌を一杯やりたい』

 

「え、本当にこれだけでいいの?」

「私は大和さんたちと温泉に連れて行ってもらいましたから、隼鷹と千歳さんに任せたら……」

 

今回、軽空母で一番の活躍を見せたのは、大和たち坊ノ岬組を航空援護し、激しい空襲を跳ね除けた飛鷹。

その飛鷹は先日、大和たちの温泉行きに同行していたので、軽空母組の希望を決めるのを呑兵衛組に委ねてしまったらしい。

 

まあ、隼鷹もハワイ攻略部隊の航空援護、千歳も第二次AL作戦での敵戦力の牽制に役立ってくれたから、十分に希望を出す資格はあるし……。

 

「鳳翔さんと龍驤はそれでいいの?」

「私はお留守番していただけですから」

「ウチも留守番やからなぁ。祥鳳や瑞鳳も食堂の晩酌セットはよく頼んどるし、ええんやないか?」

 

 

というわけで、今日は食堂で晩酌です。

 

木造で天井が高く、昭和で時間がストップした学生食堂か、あるいは鄙びた観光地の食事処兼お土産物屋っていう風情の、ここの艦娘寮の大食堂。

 

あくまでも食堂としての建前を崩さず、酒の肴はあまり作らない間宮だが、頼めば酒に合うつまみメニューだけを、まとめて出してもくれる。

ただし、それらは全て食堂で出すメニューの付け合せや、残りものを流用しているところに、居酒屋『鳳翔』との差別化とポリシーが感じられる。

 

最初に出てきたのは、そら豆の醬油煮の小皿と、鶏皮煮込みの小鉢。

 

昼の食堂メニューにあった「そら豆の炊き込みご飯」や「若鶏とパプリカのクリームシチュー」からの流用だろう。

そら豆の醤油煮からはニンニクの香りがするし、鶏皮の煮込みは生姜の効いた甘辛いタレで煮込んであるらしく、つまみ向けに一手間加えてくれているのが嬉しい。

 

栓を開けたビールの大瓶と冷やしたグラスが人数分、そして「下町のナポレオン」こと、麦焼酎いいちこの一升瓶と氷がついてくる。

 

ただし、それ以上のお酒の追加注文は1人3杯まで(セットを頼まず単品でも5杯まで)と制限が厳しい。

晩酌以上に腰を据えて飲みたいのならば、鳳翔さんの居酒屋や自室で飲め、というのが間宮の方針だ。

 

続けて、今日は串焼きが3本ずつ、いずれも塩で出てきた。

 

「やった! あたし、これ大好きなんだー」

 

すぐに千代田が手に取ったのは、ぼんじり(ぼんぼち、さんかく、などと呼ぶ地方も)。

鶏の尻尾の付け根のお尻の部分の肉で、ぷりぷりした食感と噛みしめるとジュワッと出てくる脂がたまらない。

 

毎日、丸ごと何十羽も鶏を仕入れているここの鎮守府では、ぼんじりは希少というほどの珍しい部位ではないが、骨から外したり脂壷と呼ばれる脂の分泌器官を切り落とす下処理に手間がかかり、単品としてメニューに載ることはない。

 

こういう嬉しい遭遇があるのも、晩酌セットの人気の秘密だ。

 

「あたしはこれ。コリコリがいいのよ」

 

瑞鳳が手に取ったのは、ナンコツ。

瑞鳳の言うとおり、絶妙の火加減で焼いたナンコツは歯応え最高だ。

 

焼き鳥などに使われるのは、鶏の胸骨の下方にある、ヤゲン軟骨という部分。

漢方薬などを混ぜる際に使う薬研(やげん)(時代劇なんかで薬をゴリゴリやってるアレ)に形が似ていることからそう呼ばれているが、現代ならアブローラー軟骨とでも呼ぶべきだろうか……。

 

「あたしはハツが好きなんです」

 

祥鳳が手に取ったのは、ハツこと心臓(ココロ、などと呼ぶ地方も)。

心臓の部位と聞くと多少グロテスクに感じる人もいるかもしれないが、ジューシーな旨味が詰まったB級グルメの王道だ。

 

ちなみに、間宮は(ハツモトと呼ばれるハツとレバー(肝臓)をつなぐ部位も加えて)丁寧に血管を除き、ハツとともに湯引きの下処理をして串に刺してくれている。

その手間がないと、臭みばかり感じるハツ焼きが出来上がるので、ハツの味と値段でその焼き鳥屋の良心が測れると言っても過言ではない。

 

「いや~、こりゃ酒がすすむねぇ」

「もう、隼鷹……みっともないわよ!」

 

飛鷹にたしなめられている隼鷹はと見れば、3本の串を一口ずつ順に食べ、その度に焼酎をグビグビとあおっている。

 

「そんなピッチで飲んだら、すぐお酒が頼めなくなっちゃうよ」

「ええ~、今日は"イッパイ"飲んでいいんでしょお?」

「提督、ありがとうございます」

 

隼鷹の企みに気付いて止めにかかったが、すかさず千歳に抱きつかれて動きを封じられてしまう。

 

「間宮さーん、今日は提督のお許しで無制限でボトル追加ねー!」

「牛筋カレーのライス抜き5つと、焼きサバ定食とミックスフライ定食のご飯味噌汁抜き5つずつお願いしまーす」

「ちょっと、千歳姉!?」

 

「ポーラもニシキスイセーンを飛ばしたから、ほとんど軽空母ですよね!? ワインを赤と白で注文ですぅ」

「んっふふ~、水上戦闘機ならイヨも(提督の誤采配で)飛ばしたから軽空母だもんね。前から食堂のおかずをつまみに好きなだけ飲みたかったんだー♪」

「あ…イヨちゃん……迷惑かけちゃ……」

 

こうして一部の自称軽空母な呑兵衛たちまで勝手に加わり、晩酌とは名ばかりの宴会が始まり……。

 

提督は後で間宮に謝るのが大変でした。




2019春イベ、残り20時間を切りましたね。

目標達成の方はお疲れ様でした。
「まだだ!まだ終わらんよ!」という方は応援してますので最後まで頑張ってください!

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