鎮守府の朝は早い。
田舎なので夜やることもなく、早寝早起きが習慣づいている(一部のノンベーズや夜戦狂を除く)艦娘たち。
だが、提督は重婚者の務めとして、寝室海域での夜戦がすごく大変(昨夜も「航空母艦11、戦艦2、巡洋艦3、巡洋艦もしくは駆逐艦1」という大本営発表のような撃破数だった)なので、グダグダと寝ていたい派だ。
しかし今日は、駆逐艦娘たちの朝のラジオ体操に付き合う約束をしていたので、島風に「おっそーい!」と容赦なく叩き起こされてしまった。
ラジオ体操は6時半から。
朝っぱらだというのに、元気にはしゃいで港に向かう駆逐艦や海防艦たち。
「苦手な夏だけど、やっぱり朝はいいわねぇ♪ 松風、朝から全開でいくわよ!」
「分かった、分かったから姉貴引っ張るなって!」
「ハチ、皆勤賞なんだよ。えへっ、提督ぅ、褒めてくれちゃっても、いいんじゃない?」
「この石垣も皆勤賞です。頑張ります…見ていて……ください…」
出席カードに1日1回押してもらえるスタンプを7個溜めれば、間宮アイスがもらえるので子供たちの出席率は非常に高い(当番や畑仕事で参加できなかった子は、8時40分からの再放送回で押してもらえます)。
すでに隣の漁港も稼働しているので「うるさい」とクレームを入れてくるような近隣住民も、この田舎の漁師町には存在しない(海鳥たちはピアノの音色に反応するのか、甲高い鳴き声をあげて大騒ぎを始めるが)。
「提督、チンタラやってんじゃねえぞ? チビたちも見てんだからな」
「司令官、さっきから五十鈴や名取の胸ばっかりジロジロ……ちゃんと真面目に体操してよねっ!」
お付き合い程度にダラダラと体操していたら、天龍と長良に怒られちゃいました。
で、ラジオ体操って真剣にやってみると、けっこういい運動で汗ばみますよね。
特に提督は汗っかきだし、昨夜の大激戦もあったので、朝風呂に入ることを考えたが……。
大食堂から漂ってくる香りに、どうせまたすぐに汗をかくと思いなおし、風呂は後回しにすることにした。
そう、この匂いは朝カレーです!
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裏ごししたペースト状のトマトの酸味と、バターの濃厚なコクの見事な調和。
ニンニクと生姜の風味に、甘いシナモンの香りが食欲を呼び覚ますインド風トマトスープ。
みじん切りにした玉ねぎや、ニンジン、ナス、ピーマン、ズッキーニなどの夏野菜もたっぷり入って超ヘルシー。
「このスープにチャイを合わせると、インド洋にいた時のことを思い出すわね」
「うーん、これは冷えた白ワインも欲しく……あ、いや、何でもないですよ、ザラ姉様」
「ピーマンがいっぱい。ふぅん…、ふふふ。大東ちゃん……よけちゃダメ」
こってり濃厚で、全身が活性化するようなスパイシーさの、真っ赤なチキンカレー。
一見すると具はゴロッとした鶏肉だけに見えるが、強めの火加減で揚げるように炒めたフライドオニオンと、ヨーグルト、香菜、赤と青の唐辛子をミキサーにかけたソースが入っているのが、このカレーのミソ。
「これは全身の毛穴が開くニャー!」
「ぢくまー、ぢぐまーっ!」
「あ、長門……ほら、ハンカチ」
もう一つはインドの国民的カレー「ダルタドカ」。
ほこほこに煮た二種類の「ダル(豆)」をたっぷり使い、完成直前に熱々のスパイスとバターを加える北インドの調理法「タドカ」で香りを存分に引き出した、優しくまろやかな味の黄色いカレーだ。
「こっちは、そんなに辛くないっぽい?」
「でも香辛料とニンニクがしっかり効いてて、じんわり汗ばむ……って、雲龍姉! 脱いじゃダメだって!」
これらを交互に、全粒粉と塩と水で作る発酵させないシンプルな生地を、鉄板で薄焼きにしたチャパティにつけて食べる。
つけ合わせには、さっぱりとしたゴーヤのアチャール(インド風漬物)。
何で今日は朝からこんなに手の込んだ朝食を……と考え、今日が8月15日だったことに思い当たった。
熱さと辛さにワイワイ騒ぎながら、朝から汗をかきかきカレーを楽しむ。
終戦記念日の暗いムードにならないようにと、間宮なりの気遣いなのだろう。
「ほっぽちゃん、ラジオ体操のスタンプ何個溜まったの?」
「じゃあ、3時にみんなでアイスもらいに行くのですっ♪」
「コロラド、タ級と車を出すから欧州バカンス用の服を買いに行かない? 」
「Thanks. リシュリュー、助かるわ」
平和な時間に感謝しながら、美味しくカレーをいただく。
あー、でも汗だく。
この後、山風と潜水新棲姫を連れて朝風呂に行こうっと。