ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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現在(2019.09)進行中のイベントの話が少し。
ネタバレや余計な脚色を見たくない方は回避して下さい。


けしからん夏の地中海料理

陽光が燦燦と降り注ぐ碧い海に囲まれ、「ザ・ロック」と呼ばれる巨大な石灰岩の一枚岩を背負った小さな半島の港町。

山頂からは海峡を挟んだ先のアフリカ大陸モロッコが望め、絶壁に沿った狭い台地に、パステルで描いたような淡い色彩の美しい町並みが並ぶ。

 

ここは地中海の玄関口、ジブラルタル。

スペインの南端にありながら、スペイン継承戦争の結果300年に渡ってイギリス領となっている、海運の要衝だ。

公用語は英語、通貨はジブラルタルポンド、町中にはイギリスのレストランやスーパーが多くある。

 

そんなジブラルタルに、チャーターしたパーティー客船でやって来た提督たち。

 

横須賀提督から「危険を顧みず最前線に赴き自ら陣頭に立って指揮を執る。その率先垂範の精神、まさに提督の鑑です」などと称賛され、イギリスの航空母艦『クィーン・エリザベス』を海上指揮所として使えるよう手配しようかと申し出を受けたが、丁重にお断りした。

 

だってこれ、ただの家族旅行ですから。

 

 

船が港に着いたら、町中で軽く買い物をしてビーチに。

 

美しい浜辺にビーチパラソルを立て、テーブルやイスを並べてお茶を飲んだり読書をしたり、ゆったり過ごすのが地中海流の大人の海水浴。

 

提督もビーチチェアに寝そべり、カクテルを飲みながら洋書を……なんて自由時間が、この超ジュウコン提督にあるわけなかった。

 

あちこちで艦娘たちにサンオイルを塗り、けしからん水着を褒め、ビーチボールや浮輪をふくらますようお願いされ、砂浜を駆け回る子供たちに飛びつかれ、砂のお城を作るのを手伝わされ、うーちゃんに砂に埋められ、バーベキューの焼き係を務め、迷子になったガンビア・ベイを探し出し、重巡夏姫を岩陰で「ヴェアヴェア」鳴かせ、「モウ……トベナイノ……」などとアンニュイな雰囲気の泊地水鬼にクリームソーダを届け……。

 

そう、もちろん港湾夏姫や集積地棲姫、潜水新棲姫たち深海勢も一緒にバカンス。

 

 

と、何やらビーチバレーをやっている辺りが騒がしくなってきた。

 

本日のメインカード、長門&陸奥VS戦艦夏姫2人。

 

負けたチームは今回の作戦期間中、電探の使用禁止という罰ゲーム付き。

勝って、マジ勝って!

 

「ヤメロヨ……CICニサワルナヨォ!」という集積地棲姫の抗議を無視し、彼女のメッシュ地の水着に手を突っ込んでサンオイルを全身にネッチョリ塗りたくりながら、ビーチバレーを観戦する提督だった。

 

 

夕食は船のパーティー会場に戻り、スペインで仕入れた食材をふんだんに使った地中海料理。

 

余談だが、ジブラルタルは英国面に堕ちているので、食材の買い出しにはスペイン本土まで行く地元民も多いそうだ。

この時、自動車で「国境」を越えようとすると検問所の渋滞に引っかかる(スペインはジブラルタルの返還をイギリスに要求しており、断続的に検問を強化して嫌がらせしたりするらしい)ので、おすすめの越境手段は徒歩とのこと。

 

広い会場にはビュッフェ形式で色とりどりの料理が並んでいる。

 

スペインの串に刺したお手軽前菜ピンチョス。

茹でた芽キャベツと小海老に、バルサミコ酢をかけたもの。

ペコロス(ミニキャベツ)のマリネと、しっとりしたイベリコ豚の生ハムで、蕩けるようなクリームチーズを包んだもの。

ブロッコリーとサラミに、燻香が香るスモークチーズを合わせたもの。

 

「うん、このスモークチーズの美味しいね」

「ソウネ……ワルクナイワ」

「それは、ガリシア州のサン・シモンっていうチーズよ」

 

時雨と、時雨にブレスト沖でコテンパンにされた戦艦仏棲姫、そして彼女の化身ともいうべきリシュリューが、仲良くピンチョスに舌鼓を打っている。

 

 

フレッシュなオリーブオイルで作られた、タコとマッシュルームの熱々アヒージョは、パリッと香ばしいバゲットにつけていただく。

 

「うーん、ボーノ♪ これは、白からかしら?」

「えっへへぇ~、これはワインに合う、すごく合いますよ~♪」

 

ああ、イタリアとポーラはアンツィオ沖の出撃が残ってるから、飲み過ぎないようにね……。

 

 

イワシのエスペトは、オリーブの枝に連ねて刺した小イワシに、塩をふって炭火焼きにしたもの。

添えられた香草やレモンの彩りこそ違えど、まるで日本料理のような素材の新鮮さを活かした提供の仕方で親近感を湧かせる。

 

ふっくら柔らかく焼かれたイワシは手づかみで、頭からバクッと。

 

「ホッポ、エライエライ」

 

うちの食卓の魚料理で鍛えられたほっぽちゃんも、骨も残さずに丸ごとムシャムシャ食べて、港湾夏姫に褒めてもらって得意顔。

 

 

パドロンという、ガリシア州産のピーマンの、シンプルなオリーブオイル炒め。

しし唐の煮びたしにも似たその皿にフォークを伸ばすと……。

 

「ぢくまーっ! ぢくま゛ーっ!」

「ヤァダァ……コワレチャウ♪」

 

うん、しし唐と同じように時々「アタリ」があるらしい。

猛烈なピリ辛が舌を襲うやつが混じってる。

 

 

「提督、これも食べてみてくださいね? よしよし」

 

スペインだけでなく、イタリアからも料理が参戦。

 

アクィラが持ってきてくれた、ラム肉のタリアータ。

外は香ばしく中はレアに焼いた肉を薄く切って皿に盛りつけたシンプルな料理だが、ペコリーノ・サルドというサルデーニャ島原産のイタリアの羊乳チーズを削りかけ、ルッコラを添えてある。

 

クセがなくてジューシーなラム肉、いと美味し。

 

 

見た目にも華やかなオマール海老の香草焼きは、オレンジとハーブの香りが地中海の爽やかな風を感じさせる。

 

「見て、提督ー! すごく綺麗ネ!」

 

大きく割られた実の間には、細かく刻んだパプリカやタマネギが詰め込まれていて、その彩りの美しさもさることながら、野菜の旨味が海老の上品な甘さと見事に融合していて、舌が幸せに包まれる。

 

金剛は今回、深海地中海棲姫との戦い……というより、その後しばらく続いたグレカーレの捜索で、疲れて腐りそうになるところを明るく和ませてくれた。

 

「テートク、Ciao、Ciao♪」

「モー、提督ぅ! なに、小っちゃな子相手ににデレデレしてるデース!」

 

あぁ~心がチャオチャオするんじゃ~!

本当に感謝です。

 

 

「ねえ、ダーリン。これ美味しいよっ!」

 

最近ケッコンした新妻ジャーヴィスが、リゾットを持ってきてくれた。

いや、アサリのリゾット、と見せかけて米ではなく丸い粒粒のショートパスタが入ったスープだった。

 

「ああ、それは……」

 

新しく艦隊に加わったイタリア軽巡洋艦娘ルイージ・ディ・サヴォイア・ドゥーカ・デッリ・アブルッツィ(長い!)の説明によると、クスクスに似た丸い形と、米のようにしっかりした歯ごたえが特徴の、フレグラというサルデーニャ島を代表するショートパスタで、米がなかなか採れないサルディーニャ島では、伝統的にリゾットやパエリアに米代わりに入れられてきたそうだ。

 

アサリの濃厚なダシにフレグラによく馴染み、バジリコとサフランの香りが漂う、とても美味しい一皿。

 

実はジャーヴィスやローマ、ザラ、プリンツ・オイゲン、ガリバルディといった面々をジブラルタル沖で出撃させてしまっていて、それが次の戦いにどう響くか気になるけど……。

 

まあ、美味しいものを食べて笑っていれば、その内どうにかなるでしょう。




イベントは甲甲乙でクリアしました。
E-3、甲で装甲破砕までやってみたんですが、特効艦の面子が足りな過ぎて沼ってあきらめました。
ちなみに、装甲破砕ギミックを解除した後に難易度を下げても、アンツィオ姫はオレンジ色で柔らかいままでした。

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