屋根を穿つかのように激しく叩く大雨に、吹き荒れる暴風が裏山の木々を轟々と揺らす。
夜半に鎮守府の上空を通過した超大型台風。
近くの川の氾濫や土砂崩れに備えて、三階にある大宴会場に布団を敷き並べて、提督を中心にした輪形陣の警戒態勢で眠った艦娘たち。
一夜明けて、厳重に対策をしておいた鎮守府や艦娘寮の被害は軽微だったが、畑や田んぼなどはかなりの被害を受けていた。
アスパラガスのビニールハウスが吹き飛ばされたり、リンゴの樹の枝が折れたり、棚田の土手の一部が崩れたり、炭の貯蔵小屋が雨漏りして何俵もの炭がダメになったり、ホタテの養殖棚が流されたり……。
それでも鎮守府はもちろん町内に人的被害はなかったし、米の収穫が終わっていたのも不幸中の幸いだった。
「さあ、片づけを始めようか」
提督は柔和な笑顔を崩さぬままだ。
「それが一段落したら、恒例の鎮守府秋刀魚祭りだよ」
雨風をしのげる屋根が健在で、畳に布団を敷いてぐっすり眠れる。
甚大な水害被害に遭った各地の被災者の方々の苦労に比べれば、これぐらいの被害で愚痴など言っていられません。
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などと遅れて始まった、今年の秋刀魚漁。
執務室に出されたコタツで、
「今年はSANMAが不漁のようだな。なに、案ずることはない。我がSwordfish隊にかかれば、多少の不漁など……」
「爆雷とかは禁止だピョン」
今年の日本近海の秋刀魚、本当に数が少ないし実も細い。
「今年は不漁ですか? 大丈夫、お任せください」
「赤城さんと一緒なら……不漁でも今年は気分が高揚します」
北方海域を回ってもなかなか秋刀魚が採れず、ガングートやゴトランドも苦い顔をしているが、さすが一航戦は余裕の構えだ。
「今年は秋刀魚は不漁……でも大丈夫、私達には鰯があるじゃない!」
「今年は鰯は豊漁なのです!」
それに、たくましい艦娘たちは自分達で鰯のパッチ網漁まで会得してくれた。
パッチ網漁は、網を引く2隻の網船で八の字に展開しながら、ももひき(パッチ)型の網の中に群れを囲い込む漁法で、艦隊運動の練習にはもってこいだ。
「秋の味覚は、秋刀魚だけじゃないからねぇ」
提督も間宮と相談して、不漁の憂鬱を吹き飛ばす昼食メニューを考えた。
「そうだクマ。これを忘れちゃ困るクマ」
球磨に頼んで市場で仕入れてきてもらったのは、地元の誇る「南部鼻曲がり鮭」。
産卵のために川を遡上してくるこの地方の、鼻が大きく曲がった雄のシロサケは、抜群に味が良いことで知られている。
また、雌の持つイクラは、海のルビーと呼ぶに相応しく、大粒で味が凝縮している。
丁寧にアクをとりながら、酒、醤油、みりんの煮汁でふっくらと煮込んだ鮭の切り身。
その煮汁で炊いた、優しい味の炊き込みご飯に、鮭の切り身を並べたら、これでもかと醤油漬けにした輝くイクラをたっぷりのせる。
いや、ここはイクラではなく、はらこと呼びたい。
鮭のはらこ飯。
ほうれん草としめじの副菜に、鮭のアラ汁と、生姜の甘酢漬けを添えて。
「いただきますっ!」
まずは鮭の切り身を一口。
ノルウェーサーモンなどのように脂がのっているわけではないが、鮭本来の繊細で奥深い味わいは数段上をいく。
炊き込みご飯を頬張れば、さらに鮭の旨味が広がる。
そして、はらこがはじけた瞬間の、口いっぱいに広がる恍惚感。
自然は時に残酷で、時に気まぐれだが、その自然の恵みが我々を生かしてくれている。
「午後も元気に秋刀魚&鰯漁に全力投球しよう」
北の辺境鎮守府は、たくましく元気に頑張っています。
自然災害により被災された地域の皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
千葉をネタにした話を書き終えた直後に台風15号
福島をネタにした話を書き始めた直後に台風19号
次の投稿どうすべきか迷っているうちにずい分と時間が経ち……
そうこうしている内に、僕自身も仕事で千葉に行って冠水に遭遇しまして、
この被害に触れないのも何か違う気がしたので、こういう話になりました。
次回は平常運転で早いペースで投稿したいと思います。