ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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浜風のミルクワンタン

不振が続いていた秋の秋刀魚漁だが、10月末になって秋刀魚の群れが北海道沖までやって来た。

対潜哨戒にかこつけて海防艦たちをフル動員した結果、鎮守府秋刀魚祭りに必要な数の秋刀魚も手に入った。

 

それに今年は鰯が豊漁。

お刺身に握り寿司、つみれ汁、しょうが煮、南蛮漬け、カルパッチョ、そして鎮守府名産のオイルサーディン缶。

 

そのおかげで秋刀魚&鰯+ハロウィーン祭りは大成功。

 

しかし、磯風の作ったパンプキン秋刀魚パイを食べた提督が、原因不明の腹痛で寝込むことになってしまった。

 

「うーん……ポンポン痛いよぉ」

 

情けなく毛布にくるまって、一昼夜は布団でのたうち回っていた提督。

 

雷に「大丈夫よ、私がついてるじゃない!」と励まされ、夕雲に「はいはいなんですかぁ? 提督といい、巻雲さんといい、スキンシップ大好きですね」と甘えまくり、アクィラに「よしよし」で癒され、「はい、ふーふーして食べてくださいね。え、私が…ですか? ふーふー。はい、あーん」と、大鯨の特製おじやを食べられるぐらいには回復してきた頃……。

 

「金剛、比叡、プリンツ・オイゲン、摩耶、赤城、加賀。西方海域カレー洋リランカ島沖に出撃、港湾棲姫を撃滅してくれ」

「任せてくだサーイ!」

「ヤヴォール、ヘルナガート」

「一航戦、推して参ります!」

 

「日進さんと第二駆逐隊の皆さんは、私と一緒にグァノ環礁でK作戦を実施しましょう」

「わしの出番か? 仕方ないのう」

「がるるーっ、さあ、素敵なパーティーするっぽーい!」

「合点承知よ!」

 

鎮守府の庁舎や工廠は大賑わい。

 

提督がいないと執務がはかどり、長門と大淀の指揮の下に任務や特別海域が次々と片付けられていき、月初から鎮守府の戦果はうなぎのぼりになっている。

 

「なあ、鳥海さん! 今月は鉄底海峡に行くんだろ!? 絶対、俺を外さないでくれよなっ!」

「なあ、カレー洋の敵機ってどれぐらいおったっけ? うちの烈風 一一型がおれば、龍鳳はアメちゃんの夜戦機と零戦五二型で足りるかぁ?」

「秋津洲さんっ、ネルソンさんとピーコック島への出撃だそうです! アゲアゲでいきましょーっ!」

 

日頃、農林水産業やモノづくりに喜びを見出していても、そこは隠しきれない艦娘の本性。

 

「那珂ちゃんさん、今回の南1号作戦は秋刀魚漁支援じゃないから、探信儀(ソナー)と探照灯は置いてっていいんですってば!」

「利根姉さん、妙高さんたちと沖ノ島沖に行くんですから、ドラム缶を忘れちゃダメですよ?」

「鎮守府近海の対潜哨戒を10回ですか……致し方ありませんね。鳳翔、出撃致します」

 

いざ艦隊総出の出陣となれば、加賀でなくても気分が高揚してしまうのだ。

 

「ンフフ、良いものだなぁ。戦果を期待していろよ、提督」

 

不敵に笑う武蔵の眼前、軽トラックの荷台を沈ませながら倉庫から運び出される、51cm連装砲と46cm三連装砲改。

サーモン海域北方でレ級と戦うため、大和と武蔵もスタンバッている。

 

もちろん、提督が寝込んでいる現在、資源消費のことなど心配する者は誰もいない……。

 

 

鎮守府が活気に沸く中、磯風を除く第十七駆逐隊の面々、浦風、浜風、谷風は提督に付き添っていた。

 

「提督の直衛看護なら、この磯風も……」と張り切る磯風は、陽炎と不知火に強引に水上機基地建設の遠征メンバーとして南方海域に連れて行かれた。

看護どころか、トドメを刺しかねないからだ。

 

「提督さん、すまんかったねぇ。えらいもん食べさせて」

「いや、磯風が悪いんじゃないよ」

 

提督の額ににじむ汗をタオルで拭きながら、妹の行動を謝る浦風。

そんな浦風に、提督は優しく答えた。

 

「秋刀魚の苦味に気をとられて、黄ニラっぽいものが生のまま傷んで変色しただけのニラだと気づかなかった僕が悪いんだ」

「そもそもパンプキンパイに、焦げた秋刀魚や非加熱のニラが入っている時点で磯風の落ち度満点な気が……」

「浜風の、それを言っちゃあお終めぇよ!」

 

谷風が某昭和の国民的映画ヒーローの口癖を真似するが、恐ろしいことに今の若い子は○さんを知らなかったりするらしい……知ってるよね?

 

「提督さん、少しは胃が落ち着いた? お昼は何が食べたいんけぇ?」

「そうだなぁ、何か温かい……」

 

少し迷っていた提督は、謎のパワーワードを吐き出した。

浜風の胸を揉みながら「ミルクワンタン」と。

 

「ミルクワンタンだってぇ? あの有楽町の伝説が本当だったとは……」

「知っとるんか谷風!?」

「〆のミルクワンタンを注文するまでコース料理が延々と出てくる、ガード下のお店は関係ないと思いますよ」

 

小芝居を始める谷風と浦風に冷静にツッコミつつ、胸をまさぐり続ける提督の手をつねって撃退する浜風。

 

「ミルクワンタンですね。分かりました。少しお待ちください」

 

ご家庭でも簡単にできるミルクワンタンは、弱ったお腹にも優しい料理。

 

300mlのお湯を沸騰させたら、マルちゃん『トレーワンタン 旨味しお味』と牛乳200mlを加えて、弱火で3分煮込んで添付のスープの素を溶かして軽くかき回すだけ。

煮込む際に、白菜や青梗菜などの葉物や、しめじや椎茸などのキノコを加えれば、なお良し。

 

浜風の作ってくれたミルクワンタンをテュルンとすすりながら、ホウッと人心地ついている提督だが……。

 

もうすぐ、大本営からの秋季作戦の通告が、資源枯渇の報告とともに届くのであった。

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