日に日に冬の足音が近づいてくる今日この頃。
「提督さん、起きるっぽい!」
「しれー! 朝の散歩行こうよー! しれぇー!!」
「提督ー、チャオー♪」
「うぅ……あと5分……」
「ねぇ司令官! …え? 寒いから窓閉めろぉ?」
駆逐艦娘たちと週に一度行っている、朝の散歩がきつい季節になってきた。
「起きなさーい! Get up!」
「ご主人様、あんまりグスグスしてるとしばき倒しますよ」
「ほら、早く着替えてください!」
「おーそーいー!」
「もう、そんなんじゃダメよ! 靴下履かせてあげるわ!」
もちろん提督に拒否権があるわけなく……。
艦娘たちにパジャマを脱がされ、渋々とワー○マンのイージス防寒スーツに着替える寝ぼけ眼の提督。
元は温泉旅館だった艦娘寮の風雅な庭。
その裏山には、ここが温泉旅館だった頃に整備された、林道の散歩コース。
元気いっぱいな駆逐艦娘たちに手を引かれ、ドナドナされるようになだらかな林道を歩く提督。
特に元気が有り余っている島風や夕立などは、ムスタング式(足の遅い爆撃機を護衛するために、P-51Dムスタングがジグザグ飛行で移動距離を合わせた飛行方法)に、提督たちの周りを走り回っている。
朝の清涼な空気を吸いながら15分ほど歩けば、湾を望める見晴らしのいい場所に小さな池がある。
池の縁には廃材を利用して、東屋風の屋根とベンチがある休憩所が設けてある。
提督はベンチに座って一息つきながら、屋根の
羽子板は、柱と梁にL字に2本のボルトを通して固定するための金物なのだが、組み上げた梁に垂直のボルト穴を開けるのに難儀した。
柱と梁が交わる直近に穴を開けたいのに、インパクトドライバの本体が柱に当たってしまい、どうやっても穴の位置が際から1cm以内に近づかず、羽子板の穴の位置と合わないのだ。
猿のようにムキーッと顔を赤らめて四苦八苦する提督と長門に、陸奥が言った冷静な一言は……。
「要するに、組み上げる前の木材の段階で穴を開けとかなきゃいけなかったんじゃない?」
そのコロンブスの卵的発想(建築の常識)に、提督と長門はハニワのような顔で互いを見つめ合うしかなかった。
まだ鎮守府の建築スキルが日曜大工の域を出なかった頃の、苦くも懐かしい思い出である。
ちなみに、長門は何も聞かなかったフリをして、金属製の羽子板を腕力で捻じ曲げて、遠いボルト穴の位置に強引に合わせたのだった……。
それはそうと……腹が減った。
「司令官、何か物思いにふけって……はっ、来たるべき南方作戦の戦略を練っておられるんですね。さすが司令官です!」
「うふふ、違うんじゃないかしら~?」
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「提督、喜多方って漢字で書いてみて? ……ん゛んっ! 違いますぅ!」
むくれて「喜太方」と書かれた紙をクシャクシャにまるめる、軽巡洋艦娘の阿武隈。
朝食は、阿武隈の作った喜多方ラーメン(半ライス付き)だ。
日本三大ラーメンの一つ、喜多方ラーメンを生んだ福島県喜多方市は、人口一人当たりの店数が日本一とも言われる程にラーメン店がひしめき、朝にラーメンを食べる「朝ラー」文化でも有名だ。
阿武隈が修行して体得してきたのは、そんな喜多方の誰からも愛される老舗食堂の一杯だ。
あっさりした豚骨醤油ベースの黄金色に透き通ったスープ。
独特のもちもち感とつるつるしたのど越しの、多加水の手もみ平打ち太縮れ麺。
適度な脂身でトロトロと柔らかく煮込まれた自慢の豚バラ叉焼。
他の具はシンプルに、刻みネギとメンマのみ。
ふっくらと炊きあがったラーメンと相性抜群の半ライス。
そこには、天龍の超濃厚魚介豚骨つけ麺のようなインパクトや、龍田のJ郎系のような中毒性、夕張のほうれん草を練り込んだ麺を使った翡翠冷やし中華のようなアイデアはない。
だが、絶対に飽きることがない、毎日でも、それこそ朝にでも食べられる日常ラーメンの究極の完成形。
「阿武隈……おそろしい子!」
鎮守府のラーメンマスター長良をしてそう言わしめる、長良型の末っ子の実力。
レンゲで澄んだスープを口に運べば、ジンワリと広がる優しい味。
文字通り手間をかけて手もみした縮れ麺の、瑞々しい弾力感に心が踊る。
口の中でトロけていく豚バラ叉焼は、ご飯に合わせても極上の旨味。
刻みネギのシャキシャキ感と、コリコリとしたメンマの食感が良いアクセント。
おまけのピリ辛な漬物の小皿も、何気に嬉しい。
ほっこり心と身体が温まる、美味しいラーメンを食べてみんな朝から笑顔に。
「よーし、それじゃあ嵐、萩風、舞風、野分、それからジェーナスはドラム缶を持って、俺と東京急行だ」
「今日の長距離練習航海、冷凍サンマでノドグロ狙ってみない?」
「二水戦はほうれん草の収穫に行きます。各自道具を用意して玄関に集合してください」
「扶桑さん、大浴場のボイラーの調子がおかしいんで見てもらえます?」
さあ、今日も一日がんばりましょう。