ネタバレや攻略法を見たくない方は回避して下さい。
(!)はその海域で使わない方が良かった艦娘です。
12月に入り、風もいよいよ冷たくなってきた。
コタツとやかんストーブが常設されるようになった執務室で、提督は焼き芋の皮を剥きながら、蘭印部隊からの報告を受けていた。
朝潮、大潮、満潮、荒潮で構成された第八駆逐隊のバリ島攻略で幕を開けた、秋の第二次作戦「南方作戦」。
続けて愛宕、高雄、由良(!)らがジャワ島沖の重巡棲姫をいつものようにヴェァヴェァ言わせた後……。
妙高四姉妹と神通、那珂ちゃんを中核とした蘭印部隊は、千代田の艦載機と強力な基地航空隊の支援の下、スラバヤ沖で戦艦水姫と雌雄を決した。
「実際に戦ってみれば案外弱い」
上杉謙信が手取川の戦いの後、織田信長を評した言葉のように、戦艦水姫は見掛け倒しだった。
というか、随伴艦に空母も戦艦もいないので、制空権をとられたまま周囲の柔らかい味方を次々と沈められ、そのくせ自身の戦艦能力のせいで無駄に砲戦を二巡させるものだから、妙高(!)四姉妹の集中攻撃を一身に浴びて、昼の内に沈んでいった。
まあ、夜までもったとしても、探照灯を照射した神通のキッツイ追撃が待っているんだけど……。
そんなわけで、我が蘭印部隊は戦艦水姫をすでに「50回」は沈めている。
「デ・ロイテルが出ナイテル」
提督のつまらないダジャレも、すでに20回は繰り返されているので、笑う者やツッコミを入れる者は誰もいない。
代わりに、提督の頭にズシリと重い感触が乗っかった。
だるそうに提督に寄りかかる千代田の、大破してこぼれた見事なバインバインが提督の頭上で弾んでいる。
「これ、そこは乳置き場じゃありませんよ」
そう言いつつ、頭上の双丘のさらに上にあるであろう千代田の口あたりに焼き芋を差し出す。
焼き芋を頬張る感触が伝わってくるが、重い塊が頭から離れてくれる気配はない。
こうも連続出撃が続くと、焼き芋ぐらいでは千代田のご機嫌取りが難しくなってきた。
対潜要員として大活躍している山風や潮、村雨はともかく、夜戦のとどめ役として第二艦隊の末尾に入れたものの、一回も出番のない雪風(!)も退屈そうにしているし……。
こういう時に無理に作戦を繰り返すと、事故につながりかねない。
「千代田は
提督はいったん、作戦の中止を命じた。
何か美味いものを食べることを思いついたらしい。
「那珂ちゃん、パースを連れて……」
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「軽巡パース、いつでも抜錨できるわ」
「あー、ダメダメ、そんな格好じゃ。すぐにジャージに着替えて! 昨日は雨が降ったから、ゴム長も忘れないでね」
このスラバヤ沖で新しく仲間になった、初のオーストラリア艦娘パース。
せっかく艦隊に加わってくれたのに、デ・ロイテル掘りが難航して、ほとんど構ってあげられていない。
演習や遠征ばかりでは可哀想だろうと思った提督。
那珂ちゃんに、畑から今回の主役であるネギをとってくるのに同行させるよう伝えたのだ。
「あの、これはどういう……」
「さっ、急いで行くよっ!」
「農道のフェラーリ」と異名をとる、ミッドシップエンジンを搭載するホンダの軽トラック、アクティに訳も分からないまま押し込まれるパースであった。
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採れたての泥つきネギをよく洗い、大きめのフライパンに入るように青い部分の方をカット。
しかし、根元は食べる時まで切り落とさないのが、甘み成分を逃がさないコツだ。
フライパンにゴマ油をしいて強火で熱々に熱したら、ネギを入れてすぐに蓋をする。
素早く一気に高温にすることで、酵素の働きを抑えられて辛みが出にくくなる。
しっかり焼き目を付けたら、ネギをフライパンから取り出して、アルミホイルで包んでオーブントースターか魚用のグリルへ。
今度はじっくり10分ほどかけて熱を通していく。
すると……。
まるで炭火で焼いたかのように、外側はパリパリに焦げ、内側はみずみずしくトロットロな、ネギの一本焼きが完成する。
「ふぉいひー♪」
ハフハフ言いながら、自然な甘さをたっぷり備えたネギにかぶりつく贅沢。
これで停滞感なんか一気に吹き飛ばせる。
「Oh…wonderful!」
パースも、とろけるネギの甘い食感に驚いているようだ。
特に、自分の手で畑から採ってきたネギなのだから、その感慨もひとしおだろう。
すぐに、自分で植えて、世話をして育てた野菜を収穫した時の、あの最高の食べる喜びも教えてあげるからね。
細い目をパースに向け、提督は密かに微笑むのであった。
すぐに次話を投稿するつもりだったのが、こんなにかかっちゃいました。
それもこれも掘りのせいです。
今日やっと秋霜も出て(E-5は掘りのために丙にしました)、E-6に入りました。