ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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大和のオムライス

 もともとは第三セクターの水産加工場だった、大型プレハブ建ての工廠。

 

 衛生管理のための入室管理室を流用したのが、明石が詰めている整備オフィスだ。

 乱雑に積まれたダンボールの間をすり抜けると、ネズミ色の質素な事務机がある。

 

 高度経済成長期というかバブル前夜というか、見事なほどに昭和のスチール机だ。

 イスももちろん、キャスター付きのネズミ色の事務用だが、鳳翔が手縫いした扇紋様の紫の薄い座布団がしいてある。

 

「ハイカラで機能的な机ですよね」

 

 明石は、この机を気に入っているらしい。

 

「陽炎と睦月の艤装は、藤波の近代化改修の素材に。多摩の艤装は解体、曙の艤装は一応キープしておいて」

 

 提督は建造結果表に目を通し、今日の改修予定を伝える。

 

「開発結果は……零戦21型、出なかったかぁ」

 

 装備改修や任務で、零戦32型(熟練)や零戦52型(熟練)にするための、零戦21型(熟練)を強化するのに使う、零戦21型を狙っていたのだが、結果はゼロだった。

 

(ゼロだけにゼロ、マジパナイ)

 

 心の中でだけ鬼怒のようなダジャレをつぶやき、提督は工廠から執務室に戻り、今日の秘書艦である吹雪を連れて食堂へ向かった。

 

 執務室で床掃除をしてくれていた吹雪の白いパンツが丸見えだったのだが……。

 提督は“何もなかった”ようにスルーしておいた。

 

 

 提督の対面に座る吹雪。

 またもやスカートがめくれて、白いものが見え隠れしている。

 

「さて、今日のメニューは何かな?」

 

 またも“何もなかった”ことにして、提督は「本日のお品書き」に目をやる。

 一番目立つところには、「大和特製オムライスセット」と書かれていた。

 

 昼のメニューは、その日の食堂の手伝いに入っている艦娘や、仕入れの具合により毎日変化する。

 戦艦大和で士官のみに供されたというオムライス、このレアメニューを避ける理由はないだろう。

 

「わあっ、今日は大和さんが食堂担当なんですか?」

 

 吹雪も大和のオムライスにする気満々のようだ。

 

 提督が資源節約を気にして大和をほとんど出撃させずにいたら、吹雪は気の毒がって大和を勝手に遠征に連れ出したことがある。

 

 結局……その遠征で得られた燃料と、大和一人が遠征に消費した燃料が同程度だったが……。

 

 

「お待たせしました」

 

 やがて、手伝いの矢矧がオムライスを運んできてくれた。

 

 大和特製のオムライスセット。

 ドミグラスソースがたっぷりかかった、大和の名に相応しいどでかく美しいオムライス。

 

 そして、コンソメスープとサラダ、小さなコロッケ、フルーツの盛り合わせがついてくる。

 まさに王道の洋食だ。

 

「いただきます」

 

 まずは、コンソメスープを一口。

 刻んだベーコンとタマネギ、具材たっぷりで熱々のスープが身体を温めてくれる。

 

 サラダも色鮮やかで新鮮シャキシャキ、定番のフレンチドレッシングは手作りで、素朴だがまろやかに野菜の味を引き立てている。

 

 そして本命のオムライスにとりかかる。

スプーンでプリプリの黄色い衣を割れば、中から色鮮やかで匂い立つチキンライスが飛び出してくる。

 

 茶褐色のドミグラスソースのキャンパスと合わせ、まるで絵画のような光景に見とれつつ、スプーンを口に運ぶ。

 

 卵の甘味とバターの風味が絶妙に調和した衣の味が口いっぱいに広がり、続けてドミグラスソースの濃厚なコク、チキンライスのさわやかな酸味と塩気、そして旨味が追いかけてくる。

 

 チキンライスはケチャップが前面に出しゃばらず、鶏肉とタマネギ、人参、キノコ、そして主旋律たる米の旨味を優しくまとめ上げて、上手に衣とソースの音色との橋渡しをしている。

 

 まさに味覚の交響楽団、ケチャップは控えめな名指揮者だ。

 

 そしてコロッケに手をつけてみれば、サクサクの衣の中身は、嬉しいことにカニクリーム。

 

 提督と吹雪は目を合わせ、ちょっと笑った。

 これだけ美味しいものを前に、言葉はいらない。

 

 提督たちは一心不乱にスプーンを動かし、大和のオムライスを削っていった。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 食事を終え食堂を出た後、提督は吹雪に尋ねてみた。

 

「来週、リランカ島沖に大和を出撃させるんだけど、随伴艦やるかい?」

 

返ってきた答えはもちろん……。

 

「さて、お腹いっぱい食べたし、午後は元気な吹雪を見習ってがんばりますか」

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