ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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題名のとおり、新艦娘やそのセリフが登場します。
ネタバレを見たくない方は避けてください。


梅雨明け間近の新人歓迎会

艦娘寮の本館1階。

大きく突き出した堂々たる玄関口は、高野山金剛峯寺の大玄関を模した、本格的な寺社建築様式。

 

特に、匠の職人妖精さんたちが手を加えてからは、破風飾りの迫力ある龍に、麒麟、玄武、鶴、虎、唐獅子といった宮彫りも凝りに凝って精緻に施され、荘厳さに磨きがかかっている。

 

しかし、そんな有難みもどこ吹く風。

 

収穫した枝豆のコンテナやビール瓶のケースを抱えたまま、今日も足で玄関の戸を開ける艦娘たち。

おかげで左側の戸には一か所、ちょうど靴のつま先がはまる窪みが出来てしまっている。

 

いつもはお行儀のよい名取も、一瞬の逡巡の後、足で玄関の戸を開けていく。

両手で抱えているのは、埠頭から運んできた、段々重ねにした大きな発泡スチロール箱。

遠征組が伊豆大島沖で釣り上げてきたイサキがどっさり詰まっている。

 

今日は新人歓迎の大宴会です。

 

 

厨房の中を、手慣れた様子で宴会の準備に走り回る日本の艦娘たちを見て、アトランタはため息をつく。

 

彼女が艦隊に合流して、まだ8ヶ月足らず。

 

その間に、アトランタたちの新人歓迎会、クリスマス、忘年会、大晦日の大宴会、新年会、節分のお祭り、桃の節句の雛祭り、春のお彼岸、昭和の日のお祝い、端午の節句のお祭り、田植えの打ち上げ、大規模作戦前の壮行会、七夕祭りと、すでに13の全員参加の大宴会があった。

 

その他にも、梅の花見、桜の花見、つつじの花見、バーベキュー、窯焼きピザ会、山開きのピクニックと、野外イベントも多数あったし、中宴会、小宴会は数えきれない。

 

「あれ、どうかした?」

「ううん。ま、いいけどね……」

 

あきらめたように呟き、手慣れた様子でスケトウダラをさばくゴトランドから渡される身を、すりこぎですり潰していくアトランタだった。

 

 

ついに250人を超えた鎮守府の家族を余裕で収容できる、改装工事によって拡張された大宴会場。

 

各所のテーブルには大皿に盛られた、枝豆の塩茹で、ごぼうの唐揚げ、甘エビの唐揚げ、焼き立てのちくわ(近海で大漁のスケトウダラをすり下ろした自家製)、白瓜の塩もみとナスの漬け物が山盛りに。

 

各自の席には、ワカメとキュウリの酢の物に蟹肉を散らした小鉢。

そして、キンキンに冷えた犯罪的なおビール様。

 

「えー、みんなお疲れさまでした。今日は新しい仲間を迎えられたことを祝って、楽しくやりましょう。それじゃグラスを持って……カンパーイ」

 

提督のまったく威厳のない挨拶で宴会のスタート。

 

畑から野菜を収穫してきて茹でたり揚げたり漬けたり。

暑い中を一日、一生懸命立ち働いて渇いた喉に、冷たいビールが染みわたる。

 

そして、枝豆の濃い大地の味と香りがビールとまたよく合う。

 

どうでもいいけど、さやを捨てるために鳳翔さんが作ってくれた、不要になったカレンダーやチラシを折った紙のゴミ箱、昔よくお祖母ちゃんも折ってたなぁ……。

 

「これって、フライドポテトとはまた違った美味しさよね」

「このほのかな甘み、クセになる~」

 

ごぼうの唐揚げに夢中になっているのは、アイオワとイタリア。

今作戦では、比叡、霧島とともに鉄底海峡に突入させてみたが、高速戦艦3だとルートが逸れるため(高速戦艦2+高速"化"戦艦でないとダメ)、結局はタービンを積んだ武蔵にバトンタッチすることになった。

 

「寿司ネタだと甘エビは甘ったるくて苦手だが、唐揚げは別だな」

「うむ、サクサクして美味だ」

 

その武蔵や、ネルソンの特殊砲撃をもってしても容易に倒せなかった、南方戦艦新棲姫(特に甲の-壊-)。

 

「Admiral、ビールついであげるわ」

「うん、ありがとうコロラド」

 

噂のコロちゃんタッチも、乗るしかないこのビッグウェーブ!と思って何回か試してみたけど……やっぱアカンね。

試行回数で撃破できる気もしたが、猛烈な対空砲火で毎回基地航空隊が壊滅するのに耐えきれず、提督はそそくさと乙作戦に切り替えた。

 

「チクワ? これをアトランタが作ったのか? どんな味なんだ?」

「えぇと……食べれば分かる」

 

青髪に赤白の星条旗カラーの染め分けが入ったド派手なルックスのサウスダコタ。

この立派な胸部装甲と素敵なおヘソに出会えただけで良しとしましょう。

 

 

「提督ぅ! 刺し盛デース!」

 

テンション高く金剛が運んできてくれたのは、萬古焼の大皿に美しく盛られたカツオ、イサキ、イワシ、マダコ、アオリイカの刺身、生ウニとネギトロも添えられているのが嬉しい。

 

「うん、梅雨時期にたっぷりと脂が乗ったイサキは絶品だね」

「提督、そろそろ焼酎になさいますか?」

 

霧島に勧められて、白霧島の水割りに。

ふくよかや芋の味わいと、ほのかな甘みのバランスが良く、様々な食べ物にマッチして飲み飽きない。

 

「あぁ、もう、リベたち! 今からそんなにイワシでご飯ばっかり食べないでよ!」

「だって、美味しいんだもん。ねーっ?」

「ウン、オイシイ……」

「んん~美味し♪」

 

ニューブリテン島東沖でバカンスしてたところを、リベッチオにバンバン爆雷をぶつけられ、かなりオコだった潜水新棲姫。

続くソロモン諸島の戦いでは、仕返しとばかりにグレカーレばかりを狙っては、何度も大破撤退させてくれた。

 

が、作戦が終って(ここの鎮守府が勝手に)休戦した今は元の仲良し。

境港鎮守府との演習の際に仕入れてきたカタクチイワシの刺身で、ご飯をバクバク食べている。

この時期の境港の、新鮮な獲れたてイワシは本当に美味しいのだ。

 

 

「妙高姉さん、このカツオ、ニンニク醤油と『亀泉』でやると最高よっ!」

「生ウニの磯の香りに『男山』の組み合わせもなかなかだぞ」

「私は……イサキのさわやかさに『醸し人九平次』が合うかなって……」

「ちょっと、あなたたち! 少しはセーブしなさい!」

 

今回の作戦で大忙しだった重巡たち。

すでに日本酒を何本も開けて飲み比べを始めている。

 

「ポーラはぁ、タコさんに『鳳凰美田』が好みですね~」

「ポーラ! それ何本目なのっ!」

 

そんな喧騒の中、小皿を取り分けたり、醤油をまわしたりと、小まめに働いているのは……。

鎮守府の居候、重巡ネ級。

 

君、今回は重巡棲姫の代打でツルブ急襲部隊の旗艦やってたけど、「改II 夏mode」は滅茶苦茶強かったね……。

頑張り屋さんで気が利くのは良いけど、あちこちでホイホイ随伴艦を務めたり、あまつさえ分身しちゃうのは、提督どうかと思うなー。

 

「集積さん、ネギトロ美味しいですよ」

「ほら、三浦沖で釣ってきたイカ。甘くて美味しいんだから」

「イイヨ、カマウナヨ!」

 

朝潮と満潮に世話を焼かれて困っている集積地棲姫みたいに、あちこち出てくるたびに「ごっつぁん」と思えるならいいんだけどねぇ(今回もよく朝潮隊に燃やされてくれました)。

 

 

「ツユの焼いてくれた、このしらす入りの卵焼きうめぇなぁ!」

「これ有明、食べながらしゃべるでない。白露、時雨、妹が迷惑をかけてすまんのぉ」

 

想像以上にフリーダムな性格だった、初春型五番艦の有明。

素晴らしい順応力を見せて、鎮守府の生活に馴染んでくれている。

 

「あら、あなたたちは……? アキグモ、マキグモ、だったかしら? モデルを? うぅん……考えておくわ」

「ねえ、パース、デ・ロイテル……明日はあなた達とコメリ遠征だって言われたんだけど、コメリってどこの島かしら? え……ハウス資材? ボーチューネット? 分かる分かる……って、全然分からないわ」

 

アメリカ艦娘のホーネットとヘレナは、まだ戸惑いがあるようだが……。

まあ、すぐに馴れるだろう。

 

「お次は、豚しゃぶおろしポン酢やでー」

「ほら、五航戦。南太平洋作戦では空母夏姫と戦うのを避けて軽母ヌ級相手に楽(丁作戦)したんだから、あなた達が運びなさい」

「そう言う自分も五島列島じゃ大した航空戦してないくせに!」

「でも甲作戦よ。その差は大きいわ」

「むきーっ!」

 

「はい、いーっぱい食べてね」

「清霜さん、ありがとうございます!」

「たっくさん食べて、いっしょに戦艦になろうね」

「え……戦艦……ですか? 駆逐……いえ、丁型駆逐艦には難しいかなー……」

「なれるよ絶対!」

 

新しい家族を迎えて、鎮守府暮らしはますます賑やかです。

 

 

鎮守府の埠頭では、沖縄土産のアロハシャツに短パン姿の提督が新入りの第四号海防艦(よつ)の手を引きながら、友軍援護のための艦隊出撃を見送っていた。

 

「我が心の友、木更津提督が小笠原諸島で駆逐林棲姫を撃破できず、大変面白……もとい、心苦しい状況になっている。千葉名物「ピーナッツ最中」の菓子折りをもらったことだし、みんなの力でどうか助けてやって欲しい」

 

しらじらしい訓令を発する提督だが、あそこの難敵である戦艦棲姫改2人を宴会に招待してうなぎをおごり、キラ付けしたのはこの男だ。

 

「はい提督、私、いけます。潜水母艦迅鯨、出港です」

「第十五潜水隊、伊47。出撃。戻って、くるからね」

「これ、木更津提督が憤死する編成(やつ)でち」

「ならなら、よーつと、松のあねごぉも…出撃しちゃいますかぁ?」(←最大素火力28)

 

ゴーヤの言葉から逃れるように視線を外した先、提督の目に入るのは19本のドラム缶。

サンタ・クルーズ諸島沖で南太平洋空母棲姫を撃破できずにいる天草提督からの贈り物、天草諸島の海の幸の詰め合わせだ。

 

(こっちには全力の艦隊を送ってあげなきゃなあ……)

 

迅鯨たちを見送ると、提督は二航戦の他に誰を送り込むか、編成を思案するのだった。

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