ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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年末鎮守府と、お餅の白菜ロール

鎮守府のある海辺よりも、もう少し山側に行った地域には、昔から餅文化が根付いている。

季節の折目や祝い事など、ことあるごとに餅を食べる(「もち暦」とまで呼ばれる)風習があるのだ。

 

例えば、元旦に鏡餅を食べるのは当然、1月7日の七草粥には餅を入れるし、農始めの1月11日には神棚からさげたお供えの餅を「ふくとり餅(きなこ餅)」にして食べる。

桃の節句や八十八夜にはよもぎ餅、春の彼岸には牡丹餅、丹後の節句には柏餅、お盆には先祖に供える土産餅、仲秋の名月に月見団子、菊の節句に九日餅、秋の彼岸にずんだ餅、稲刈りも終わった10月1日には新殻を天地神に供えてお刈上餅、年末の大掃除には煤掃き(すすはき)餅……。

 

より細かいものになると、2月1日に家の門柱や神棚に蔦を飾る「蔦この正月」には歳の数だけ小さな餅を食べ、4月8日のお釈迦様の誕生日には小豆ご飯と餅を供え、田植えが終ったときには植え上がり餅を食べ、11月24日には弘法大師に果報餅を供える……などなど。

より狭い地域単位のローカルな風習も含めると、その日数は年に60以上に達するほど。

 

というわけで……。

 

「ぱんぱかぱーん! コ〇リに良い感じのケヤキの臼が売ってたから、衝動買いしちゃったわ♪」

 

この辺りでは、国道沿いのホームセンターの軒先に、立派な餅つき道具が当たり前のような顔して売られています。

 

「そこの新しいちっこいの、餅つきをやってみるか?」

「なに~? アタシがやるのぉ~? うん~!」

「よーし、筑摩ぁ! 餅米を持ってくるのじゃ!」

「あら、それなら大根をおろさなくちゃ」

 

自宅での餅つきはステイタスであり、大切な家族の儀式。

おかげで、ちっこいのからでっかいのまで、ここの鎮守府はみんなお餅好きになってしまった。

 

 

さて、師も忙しく走り回るという12月だが、ここの提督はコタツで丸まっている。

 

ハロウィンには野分(のわっち)に大冒険をさせて楽しみ、ついに来た雪風の更なる改装に大喜びした。

 

そして、欧州での船団輸送作戦に挑み、地中海はマルタ島を通り、バレンツ海からノルウェー北岬沖へと船団護衛を繰り返し、新たにシロッコ、シェフィールド、ワシントンを仲間にし……。

 

なぜか欧州から一転して「台湾方面への輸送船団護衛を完遂後、比島方面の防衛強化のため多号作戦を実施、機を捉え、反撃作戦を実施せよ!」という、大本営の突然の命令にも従い、ルソン島沖やオルモック沖でも勇戦を続けたのだが……。

 

「もう空襲イヤ。おんなじこと何回もしなきゃいけないギミックもイヤ。ナ級の先制雷撃キライ」

 

提督は相次ぐ大破撤退のストレスで、すっかり拗ねきっていた。

 

「あっ、司令官! 後で龍鳳さんと速吸さんが、新しいクリスマスの服を見せに来てくれるそうですよ?」

 

吹雪が何とか提督の機嫌を回復させようとするが、ピクッと反応するだけで、あまり効果はないようだ。

 

「よし、駅を建てるわね。これでサイコロを2個振れるようになるわ」

「大淀が税務署を建てたのが怖いな……」

「納税は市民の義務ですよ、マグロ漁船で荒稼ぎを狙ってる長門さん」

 

グダった提督がとる行動はもう大体読めているので、叢雲、大淀、長門の首脳陣は提督を放置し、コタツの上で『街コロ』をプレイ中。

「麦畑」と「パン屋」しかない小さな街を、段々と発展させていく日本産ボードゲームで、2015年の「ドイツ年間ゲーム大賞」にもノミネートされた名作だ。

 

真剣な駆け引きが楽しめる割に、(割と)のんびりムードで進行し、(比較的)ギスギスしないのが『街コロ』の良いところ。

 

「うーん……」

 

提督の方は手元に置いたA4のコピー用紙に何度も目を落としては、アホ犬のように唸っている。

 

パソコンを自由に使わせてくれる、鎮守府最寄の駅前にある喫茶店「アリス」で印刷させてもらった、陸上攻撃機「深山」のwiki情報。

 

この日本海軍最大の四発機とその改良機が、今回の最終海域の作戦報酬。

外見的には凄そうなのだが……史実の評価を見る限りは……エンジンを強化した「深山改」も含めて……。

 

「見てくれよ、この大玉の白菜。エンドウさんとこの無人販売所で100円で売ってたぜ」

 

提督の耳に、近くの農家で買ってきた見事な白菜をまるゆに見せる木曾の声が届いた。

 

ポキっ、と提督の心が折れる音を、確かに吹雪は聞いた気がした。

 

ここの鎮守府の畑で育てている白菜もなかなか立派に実っているが、苗を1株110円で買ったものだったりする。

今年は長梅雨と猛暑のせいで、種からうまく育たなかったのだ……。

 

「提督、そろそろ腹は決まったか?」

 

サイコロを2個振り合計10の目を出し(港カードの効果で出目に+2して12達成)、マグロ漁船カードの効果でさらにサイコロを2個振った出目と同じ7コインを獲得しながら、長門が訊ねてくる。

(マグロ漁船は拡張セット『街コロプラス』のカードだけど強過ぎるので、何かハウスルールで縛らないと漁船祭りになるので注意)

 

「うん……やっぱり、深山いらないや」

「あっ、大淀……9!?」

「ギャーー!」

 

提督の言葉と、大淀の振ったサイコロが税務署の効果を引き起こし、10コイン以上を持つ叢雲と長門の資産の半分を没収したのは同時だった。

 

「納税ありがとうございます。このまま何も建設をせずに終了して、空港の効果でさらに10コイン追加。次のターンに電波塔を建てたら大都市達成で勝利です」

 

税務署には逆らえないから仕方ないね。

 

 

物欲を捨て、難易度を丁に落とした提督。

 

「ねぇ、お腹すいたー」

 

サラトガ、ホーネット、イントレピッドを基幹とした空母機動部隊を送り出し、すでに勝っ風呂モードである。

 

「お餅の白菜ロールが残ってますよ」

 

吹雪が出してくれたのは、お餅を白菜とベーコンでくるみ、おでんのスープでコトコト煮たもの。

 

シャクっと白菜を嚙み切ると、中からトロ~リもっちりの搗き立ての熱々お餅が顔を出す。

ほっこり優しい味の、寒い季節に嬉しい料理だ。

 

「大淀、お前がアサシンじゃないのか?」

「まさか。長門さんこそ裏切り者の匂いがしますよ?」

「あんた達、どっちも怪しいのよねぇ……」

「大丈夫です、友情パワーで乗り切りましょう!」

 

長門たちのゲームは松を加えて「ニャーメンズ」に変わっている。

 

ネコのマスク「ニャー面」をかぶった仲良しグループ「ニャーメンズ」。

北極へと冒険に向かうが、通信機とスノーモービルが壊れてしまい、まさかの遭難。

無事生還するため、全員協力して修理しなければならないのだが、メンバーにはアサシン(殺し屋)が紛れ込んでいるかもしれない……、という「裏切りの協力ゲーム」だ。

 

シンプルながらも、適切なジレンマが働く絶妙なゲームバランスに、人狼ゲームの要素が上手く編み込まれた、2019年発売の新鋭国産ゲームだ。

 

窓の外では4姉妹がそろったマエストラーレたちが雪だるま作りに興じ、シェフィールドがアーク・ロイヤルからソードフィッシュを押し付けられ、ワシントンがサウス・ダコタと何やら言い争っている。

 

「平和だねぇ」

 

今年は色々あったけど、何とか年を越せそうです。

 

来年は良い年になりますように。




【オマケ】

お正月です。

提督の執務室の窓枠は、ミニ門松と干支の(うし)をモチーフにした置き物、華やかな飾り立てられている。
壁にも丑年の鎮守府新春飾り、そして部屋の隅にはどでかい門松。

今年も書き初めをしていた海防艦ズの、筆が勢い余った畳を雑巾がけする空母ヲ級。
肝心の海防艦ズはお片付けもそこそこに、北上とガンビア・ベイの手を引いて羽根つきと凧あげに行ってしまっている。

「あけましておめでとうございます!」
「Happy New Year! Admiral、オトシダマーは?」

提督はちゃぶ台で磯部餅を頬張りながら、着飾った艦娘や深海棲艦から新年の挨拶を受けている。

鎮守府に集うものにとって大事な家具、それが鎮守府ちゃぶ台。
四季折々の食べ物、そして蜜柑も配備済み!の特注家具だ。

火鉢の炭火でパリパリに焼いた磯部餅は、こんがりと香ばしい。
砂糖醤油の甘じょっばさに、新鮮な海苔の風味に包まれて、凝縮された米の味がもっちりと広がる。

「提督、デザートに甘いお餅はいかがですか?」

瑞穂とコマンダン・テストが作ってきてくれたのは、お餅のバターフレンチトースト。

卵液をたっぷりつけてバターで焼いた薄切り餅に、小倉あんとホイップクリーム、イチゴをのせ、粉砂糖をふりかけてある。

これ絶対に美味しいやつでしょう。

ちょっとカロリーが気になるけど、お正月なんだしいいよね。

「いただきまーす!」
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