ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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寒春の二航戦サンド

北風がビュービューと吹きつける朝。

 

ワー〇マンの防寒ウェアで完全武装した提督が、埠頭で出撃艦隊のお見送りをしている。

 

通称「着るコタツ」と呼ばれる電熱式ヒートベストの上に、耐久撥水ウォームジャケット。

雪に強いスノー防水防寒パンツに、防寒ノルディックブーツ。

 

三寒四温とはよく言ったもので、ちょっと春のおとずれを感じさせる暖かい日があったかと思えば、すぐに身を切るような寒い日が戻ってくる。

 

「対潜掃討に出撃致します。……み、みなさん、どうぞよろしくお願い致します」

「神鷹の姉ちゃん! 今日もよろしくな! いひひっ!」

「日振型、今日もめいっぱい、頑張りますっ!」

「今日もよろしくな! さ、いってみよー!」

 

神鷹に引率される海防艦たちは寒さに負けず元気にハシャギ回っている。

 

「それじゃこれ、休憩の時に食べなさい」

「ダンケ! ありがとう、ございます」

 

提督が神鷹に渡すクーラーボックスに入っているのは、バターでジューシーに焼いたサバの切り身と、食パン、チーズ、レタス、それに自家製のピリ辛マヨネーズソース。

 

これをホットサンドにして食べると、もうバカウマなのだ。

 

佐渡様にホットサンドメーカー、日振にシングルバーナーと燃料缶、大東に白菜のクリームスープが入ったスープジャーを預け、艦隊を送り出す。

 

そんな提督の横を、大井の乗ったスーパーカブが走っていく。

走り去るカブのキャリアに積載された、ダンボーのコンテナキャリアと目が合う。

 

釣られたようにダンボーと同じ呆けた顔であくびをしながら、執務室へと戻る提督だった。

 

 

 

 ●     ●

    ▲

 

 

 

執務室に戻ると、コタツで秘書艦の飛龍と蒼龍が何やら言い争いをしている。

 

防寒装備を脱ぎ、ユニクロのルームウェアに着替えながら内容を聞くと、釣ったカサゴを晩酌でどう食べるのかで揉めているらしい。

 

たっぷりの濃い目のだしで、白ネギや春を感じさせるフキと一緒に甘辛に煮つけ、芋焼酎で一杯というのが飛龍の案。

ネギとフキにはカサゴから出るうま味がたっぷり染みるだろうし、どっしりとした濃い味を芋焼酎で洗い流すのは確かにたまらないだろう。

 

一方、三枚におろして身は刺身や握り、炙りにし、パンパンの肝は湯がいてワサビ醤油で和え、日本酒に合わせようというのが蒼龍の案。

 

カサゴの刺身は淡泊だがコリコリとした食感が楽しめるし、酢飯と握れば米の力で微妙な風味も強調されて楽しめ、さらに炙れば香ばしく、肝和えにいたっては日本酒に合わないはずがない絶好の珍味。

 

どちらも甲乙つけがたい、と思った提督だが、蒼龍の主張には続きがあった。

さらに残った頭と中骨で、大根、人参、ネギ、シメジ、お野菜たっぷりのアラ汁を作り、〆としてどんぶり飯を食らうという。

 

普段から「多聞丸、多聞丸」と言っている飛龍の陰に隠れているが、蒼龍も真珠湾攻撃時の二航戦旗艦。

山口多聞のDNAを受け継ぐ、酒豪にして食いしん坊万歳なのだ。

 

「うっ……」

 

うめき声とともに飛龍のお腹がグゥと鳴ったので、勝負ありだろう。

 

飛龍と蒼龍の間にムニュムニュと潜りこんで二航戦サンドになりながら、提督は昼寝のまどろみに落ちるのだった。




ご時世で外食もままならずネタと意欲が枯渇していましたが、鬱々としていても仕方ないので活動再開!
とりあえず3月に書きかけてた分を季節が完全に変わっちゃう前に(汗)

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