ネタバレや新艦娘の話を見たくない方は回避して下さい。
「敵潜水艦隊を捜索、同捕捉撃滅に成功せり!」
五十鈴の率いる第三一戦隊は、南沙諸島沖の敵戦艦ル級を危なげなく撃破した。
さらに、比島に橋頭堡を築きつつあった集積地棲姫とキャンプファイアーし、比島沖に出没する潜水棲姫と爆雷で戯れてきた。
「鎮守府被害者の会」
そんな言葉が提督の脳裏を一瞬よぎるが、気のせいだろう、多分、絶対。
「はーい! ここからは、航空巡洋艦と軽空母のお姉さんが案内してくれますよ♪」
「鎮守府案内中」と書かれた、バスツアーのコンダクターのような三角旗を持った練習巡洋艦の鹿島の後に続く、幼い感じの桃色の髪の艦娘が一人。
「ここを登った先が果樹園で、もう少しするとサクランボ、ブルーベリーがいっぱい採れるし、秋からはリンゴ、ブドウ、柿、栗……もうっ、好きなだけ食べ放題だよ! 樹を育てるのって楽しいんだよ!」
「あっちは養蜂場になってて、近いうちに採蜜があるのよ。春の花の蜜が楽しめるから楽しみにしててね? それから、炭焼き場と陶芸小屋も案内しなきゃ……あっ、
その艦娘に、食い気味で色々と説明&勧誘をしようとする、最上と祥鳳。
もう恒例になった、新人艦娘への鎮守府案内の一コマだ。
案内されているのは、丁型駆逐艦・松型の四番艦である、桃ちゃん。
事前に用意してあったエンジ色に白線が入った名札付きのジャージを着せられ、長靴と軍手着用で、漁港からここまで連れまわされている。
途中まで同じ新人のフーミィこと伊203も一緒だったが、そちらはイムヤたちに海の中の案内に連れていかれている。
ワカメ、コンブ、ヒジキ、ホタテ、カキ、ウニ、アワビ。
鎮守府の養殖産業は拡大の一途をたどっており、潜水艦娘は海中の貴重な労働力として期待されているから仕方ないね。
ソロモン海レンネル島沖でフーミィに邂逅できると分かった瞬間、我らが潜水艦隊は獲物に群がるピラニアのごとく、対潜攻撃なんて出来るはずもない空母棲姫相手に、大人げなく魚雷を山盛りぶつけてきてくれた。
うちの子たちがご迷惑をおかけして本当にすみません……。
「おーい! そっちの案内が終わったら、今度の田植えの説明したいから、田んぼに来てくれっ!」
「わっ!? あ、あれって武蔵さん…?」
メガホンを使ったかのような大声で呼びかけてくる超々々弩級戦艦の迫力にビビる桃。
鎮守府の田んぼも、力を持て余した戦艦組が棚田を次々に切り拓いているので、当初の3倍ほどの面積になっている。
山の斜面に作られた棚田は、日当たりや風通しが良くて美味しいお米が育つ一方、きつい斜面であれば当然コンバインなどの機械は入れられないし、区画が小さくて形が揃っていないために作業効率も悪くなるので、全国的に減少傾向にある。
それでも、棚田の広がる美しい里山は、東京育ちの提督であっても郷愁を誘われる、日本人の心の原風景。
「田植えまでに、戦を片付けなきゃねえ」
すでに水が張られた田んぼを見ながら、戦国武将のようなことをつぶやく提督であった。
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さて、桃ちゃんといえば、艦隊に合流するなり『アイドル』を名乗り、あろうことか『私がセンター』なんて発言をして、とある艦娘から目をつけられている。
「あっ、那珂ちゃん先輩っ! 夜だけど、おはようございます! うん、はい! 桃はちゃんと言いつけ守って……丁型のアイドル、してます!」
廊下で元気のいい挨拶をする桃ちゃん。
かつての上司であった五十鈴や、戦艦である伊勢や日向さえ「パイセン」呼ばわりする怖いもの知らずの桃ちゃんだが、「那珂ちゃん」にはきちんと「先輩」をつけて礼儀正しく接している(芸能界って厳しいね)。
「ちょうどいい所で会ったね♪ さっき遠征でスケトウダラをたくさん獲ってきたから、寒干しタラの作り方を教えてあげるよ!」
「えっ……かんぼ…し? 棒タラ?」
「棒タラは
うん、この地方でアイドルやるなら、寒干しタラぐらい作れないとね。
ちなみに、明太魚は朝鮮半島から伝わった、スケトウダラの江戸時代までの呼び名。
だから、その卵巣を唐辛子で調味したものが、明太(めんたい)子。
スケトウダラと呼ばれるようになった由来は諸説あるが、漁獲するのに人手が必要だという事で、
一方で、スケトウダラを漢字で書くと助惣鱈であるし、スケ"ソウ"ダラという名で覚えている人も多いが、このスケソウダラというのは戦後にNHKラジオの誤読(あるいは、そのアナウンサーの出身地方の訛り)で全国的に間違ったまま広まってしまったものだという……が、信じるか信じないかは、あなた次第です!
で、その
寒干しという名から冬だけの品と誤解されがちだが、スケトウダラは北海道遠征のついでに、極寒の津軽海峡でまだまだ獲れる。
「雪は解けて~も~花さえ咲かぬ~♪ 津軽~ホニャララ~遠いーはーるー♪」
著作権に配慮した那珂ちゃんの歌声とともに、桃ちゃんがドナドナされていく。
「オラッ、提督! ボサっとしてんじゃねーよ!」
「いいですか? ラバウル方面には【遊撃部隊】【第二艦隊】【第三艦隊】【輸送部隊】の編成が必要なんです」
「第二艦隊……長波たちは使える?」
「それはルンガ沖に出した【二水戦】です! いいですか、もう一度作戦計画を説明しますよ!?」
摩耶と鳥海に両腕を掴まれ、提督も会議室へとドナドナされていく。
「あ、ちょっと……干しタラで一杯とかして休まない?」
「そんな暇あっかよ!」
「ソロモン諸島ガダルカナルにはリコリス棲姫の敵航空基地があり、ニューギニア島ラエの揚陸予定地には重巡ネ級の水雷戦隊が防衛線を張っています。これらを早急に除去しなければ、東方から迫る深海海月姫が率いる大規模な機動部隊、さらに姫級の新型戦艦が率いる主力部隊と、敵の制空権下で戦うことになってしまいます」
早口で言った後、提督の低容量な脳みそがオーバーフローでプスプスと音を立てているのを感じた鳥海。
「安心してください。武蔵さんと霧島さん、私と大淀ですでに完璧な作戦案を立てています。順番にこっちから乗り込んで全てブッ潰します!」
「そうか……うん、安心したよ……」
「大丈夫。ファミ〇の攻略本だよ。」という帯を見たときと同じぐらい安心した提督。
素直にズルズルと引きずられていくのだった。
前段は甲甲甲、堀り完了。
後段はRTA勢の戦いを見て乙乙と決定しました。