ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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現在(2021.06)進行中のイベント後段のお話です。
ネタバレや(ガバガバな)攻略法を見たくない方は回避して下さい。


ガダルカナルと砂鍋魚頭

現在、鎮守府の艦娘たちはガダルカナル島を巡って、深海棲艦たちと激しい戦いを繰り広げている。

 

では、史実におけるガダルカナル戦とは、何だったのか。

 

提督が思うに、全ての発端は1942年5月のMO作戦の失敗、つまり史上初の空母海戦である珊瑚海海戦で、祥鳳沈没と翔鶴大破という損害を被り、ポート・モレスビー攻略を断念してしまったことにある。

 

その結果、ソロモン諸島は日本の制空権の及ばない海域として取り残されてしまった。

連合艦隊は一部の航空兵力をブーゲンビル島のブインや、ショートランドに進出させたが、この海域における本格的な航空根拠地はニューブリテン島ラバウルにしかなく、そのラバウル自身もポート・モレスビーと対峙し続ける最前線基地であり、ここに配属された台南空の超人的技量を持つ零戦パイロットたちも、日々無駄に損耗していった。

 

ミッドウェーで勝利した米軍が、次の戦場としてソロモン諸島を選んだのは、あまりにも当然だった。

 

米軍は日本が飛行場を建設しようとしていたガダルカナル島に、新設されたばかりの第1海兵師団を上陸させて占領し、突貫工事でヘンダーソン飛行場(日本名:ルンガ飛行場)を完成させた。

 

後はご存じの通り、この島を奪い返すために日本の陸海軍は多大な戦力を、この制空権なきソロモン諸島に突っ込ませて泥沼の死闘を繰り広げ、そしてついに成すことなく撤退した。

 

ガダルカナル戦というのは、太平洋戦争における最も激しい戦いであると同時に、日本にとってみれば最も無為な戦いであったといえる。

 

日本が失ったのは兵器や人命だけではなく、1942年後半から1943年前半という、日米の戦力が拮抗していた日本にとって最も貴重だった時間を、一つの島をめぐる局地的な戦いに浪費したのだから……。

 

 

「朝潮、司令官の歴史的洞察に感服いたしました。それはそうと、司令官! ご命令を!」

「ちょっとぉ! この大事な時に艦隊を待機させるって、どういう事なの? ねえってば!」

「出るんなら出る、出ないんなら出ない、はっきりしなさいよ!ったく……」

「まだ編成決まんねえのか~。おせぇなぁ、ちゃっちゃとやれよ~」

「長考しすぎなので提督に20発、撃っていいですか?」

 

歴史考察なんかして現実逃避していたが、艦娘たちの抗議で現実に引き戻された提督。

 

大規模作戦特有の、一つの特別海域の門を通った艦娘の艤装では、別の特別海域の門が通れなくなる現象、通称「お札」の配分に悩んでいて、なかなか編成が決められないでいるのだ。

 

学校の教室風に模様替えされた執務室の黒板には、【第三十一戦隊】【第六艦隊】【第三艦隊】【二水戦】【第八艦隊】【連合艦隊】【遊撃部隊】【第二艦隊】【輸送部隊】と、9枚ものお札の名が書かれ、その横にそれぞれが向かうべき海域と敵旗艦が記され、下には艦娘の名前が書かれたネームプレートが貼り付けられている。

 

【第八艦隊】各所お手伝い

葛城、アクィラ、ポーラ、デロイテル、ガリバルディ

水無月、初雪、深雪、若葉、子日、シロッコ

 

【遊撃部隊】ガダルカナル島 リコリス棲姫

大淀、加古、摩耶、白露、朝潮、荒潮、藤波 (予備 ジェーナス)

 

【輸送部隊】ニューギニア島ラエ 重巡ネ級改

由良、文月、有明、大潮、満潮、千歳

天龍、龍田、ジャーヴィス、綾波、霞、タシュケント (予備 ゴトランド)

 

【第三艦隊】ソロモン諸島沖 深海海月姫

瑞鶴、サラトガ、瑞鳳(乙)、鳥海、最上、鈴谷

比叡、アトランタ、谷風、浦風、早波、大井

 

【第二艦隊】ガダルカナル島沖 南方戦艦新棲姫

霧島、ワシントン、サウスダコタ、瑞鳳、利根、筑摩

夕張、妙高、北上、時雨、沖波、フレッチャー

 

(第二艦隊予備)

長門、陸奥、伊勢、榛名、龍驤、隼鷹、羽黒、熊野、パース、シェフィールド、秋月、グレカーレ、秋津洲

 

【二水戦】

長波、高波、海風、江風、山風、陽炎 (予備 神通、矢矧、天霧、黒潮、雪風)

 

 

この状態のまま、黒板はさっきから1時間、ずーっと動いていない。

ガバガバで穴がある編成なのは分かっているが、いざそれを修正しようとしても動かせる艦娘が少なくて、なかなか修正案など出てこない。

 

だから提督は、ただ冷や汗をかきながら黙考したり、先ほどのような毒にも薬にもならない話を垂れ流すばかりだ。

 

最初は部屋いっぱいに集まっていた艦娘たちも、大部分は食事やお風呂に行ってしまった。

 

「そんな攻撃、二式大艇ちゃんには当たらないかも!」

「お、せ、ん、べ、お、せ、ん、べ、や、け、た、か、な♪」

「むっちゃん、このスカートよくな~い?」

 

残った者も、一部が提督を囲んでいる他は、えんぴつ倒し戦争(飛行機を模した「士」と砲台を模した「凸」を書いた紙の上で立てた鉛筆を滑らせ、その筆跡の線が相手に当たったら撃破という、とても昭和の香りがするゲーム)や、おせんべやけたかな(手のひらを煎餅に見立てた昭和ど真ん中な歌遊び)に興じたり、ファッションセンターしま〇らのチラシを眺めながらお菓子を食べたり……。

 

大して広くもない執務室には、提督の煩悶などお構いなしに、艦娘たちの華やかな笑い声や話し声が響いている。

 

そんな執務室にズカズカと足音高く入ってきたのは、泥がついたままの長靴にツナギ姿の武蔵。

首には地元の農協でもらったタオルを巻いていた。

 

鎮守府最強の戦艦であるがゆえに、戦力温存策の中で出番がなかなか巡ってこない武蔵。

最近は最終局面になってお呼びがかかるまで、作戦会議にも参加しなくなっていた。

 

「田植えは3日後にする!」

 

有無を言わさず決定事項だけを大声で告げる武蔵。

 

うむ、と鷹揚(おうよう)に頷いたつもりなのだろうが、提督は壊れたからくり仕掛けの人形のように、ただコクコクと首を振るのだけで精一杯だ。

 

そんな提督の呆けた表情に一瞥(いちべつ)をくれると、武蔵は来た時と同様ズカズカと部屋を出て行った。

 

田植えは鎮守府の最優先事項。

例え、ラストダンスの最中だろうと資源が枯渇していようと、全ての人手はそちらに取られる。

 

その掟の前には提督の指揮権など、道端の雑草よりも存在価値がない。

 

「大淀、遊撃部隊すぐに……」

 

提督がそう言った時にはもう、大淀以外の遊撃部隊編成メンバーはすでに、摩耶を先頭に室外に駆け出していたのだった。

 

 

出撃が始まり、艦娘の減った執務室。

 

そこには、懐かしい昭和タイプの学校机に向かい合ってお弁当を広げる女学生のような風情で、食事をしている一航戦の赤城と加賀の姿がある。

 

ただ奇怪なのは、机の上に置かれているのがイワタニ産業さんの誇る、木目調パネルを施した和モダンな空間にも合うコンロ『カセットフー かぐら』であり、その上には、やわらかい石灰色の九寸(約27cm)の土鍋が温められていること。

 

こいつら、ガチで食事を満喫してやがる!

しかも、出撃編成にまったく呼ばれていない、この場で堂々と!

 

「支援艦隊に空母が必要なら、いつでも出撃しまふよ?」

 

提督の内心を察知したのか、赤城がキラキラとした健康的な笑顔で、鍋の具と山盛りご飯をいっぺんに頬張りながら笑って言う。

 

ガダルカナル戦に先立つ、ミッドウェー海戦で前世を終えた彼女らにとって、この戦いにおける自分たちの役割が脇役でしかないことは十分に自覚しているのだろう(そして、それでも堂々と席を陣取って土鍋で飯を喰らい始められるのが、さすが世界最強を自負していた一航戦のプライドなんだろうなあ……)。

 

「珊瑚海海戦に加賀も出撃してたら、どうなってたかなあ?」

 

実は当初の計画では、MO作戦を担当する予定の空母は加賀であった。

 

諸般の事情により、五航戦の翔鶴、瑞鶴と交代することになったのだが、もし加賀が五航戦に加えて珊瑚海海戦に参加していれば……というのは、ずっと言われているif戦記の一つだ。

 

もし日本が1942年5月にポート・モレスビー攻略に成功していたなら、同年6月のミッドウェー海戦など起こらず、戦略的劣勢に立たされたアメリカは、史実とは逆に日本の制空権下にあるソロモン諸島に当時はまだ乏しかった戦力を逐次投入しなければなくなり……。

 

「一緒に食べたいなら、早くしないとなくなるわよ」

 

奥飛騨のさわら材を使った扶桑謹製の五合お櫃(おひつ)から、自分の大きな丼にドカドカと飯を盛り付ける赤城に微笑みながら、加賀が答えたのはそれだけだった。

 

 

イシモチ。

 

名前の由来は、ひときわ大きな耳石(じせき)(平衡感覚を保つのに役立っているカルシウム結晶)を頭の中に持っているから。

釣り上げると「グゥグゥ」と浮袋から音を出すことから、グチ(愚痴)とも呼ばれている魚。

 

顔つきや魚体がぽっちゃりしていて端正でなく、歯もギザギザしていて怪獣っぽく、釣りでも特別に面白い駆け引きが楽しめるわけでないし、数釣りにも向かないのでターゲットにされづらい、マイナー魚ではあるけれど……。

 

「うん、美味しい!」

 

砂鍋魚頭(サークオユイトー)

 

砂鍋(土鍋)に、豆板醤スープと白菜、椎茸、春雨、豆腐、その他の旬の野菜やキノコなどと、別の鉄鍋で油で揚げた尾頭付きの開き魚を入れて、煮込むという中華の鍋料理。

 

油で揚げて魚の旨味をギュッと身肉に閉じ込めつつ、それでも骨から染み出す濃厚なエキスと野菜の風味が絡まって凝縮された、絶品のスープの味。

 

中国の沿岸部でもイシモチを使った砂鍋魚頭は人気だし、横浜の中華街でも有名店のものを食べられるが、無礼を承知で断言すると、春夏のアジ釣りの外道として釣れたイシモチを船上で絞めて持ち帰り作った砂鍋魚頭は、それよりも絶対に美味い!

 

イシモチの不人気の理由の一つが傷みやすさだが、釣ったイシモチを即座に血抜きをしたものは別格だ。

 

特に第四駆逐隊(野分、嵐、舞風、萩風)が遠征に行った今朝の東京湾では、アジの回遊の前にイシモチがバクバク入れ食い状態になったらしい。

即座にターゲットをイシモチに絞り、舞風が締めと血抜き役に専念して、鮮度抜群のイシモチを大量に持ち帰ってきてくれた。

 

「何事も、時機が大事なのよ」

「大淀より入電! "我、ガダルカナルに艦砲射撃を敢行中。上陸部隊はルンガ川東岸を占領しつつあり"」

「続報! "リコリス棲姫、加古の三式弾を受けて沈黙"」

 

おかわりの椀をよそいながら加賀がぼそっと呟いた言葉は、相次ぐ勝利の入電と艦娘たちの歓声にかき消されて、提督の耳だけに届いたのだった。




今回のイベントは甲甲甲乙乙で終了し、掘りも完了しました。
涼波掘りは攻略含めE5Zマス、26S、5A、8撤退でしたが、撤退は過半数がラスダン中で、全体的な難易度は低かった感じです(面倒でないとは言っていない)。

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