ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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現在(2021.08)進行中のイベントのお話です。
ネタバレを見たくない方は回避して下さい。


アレキサンドリアのターメイヤサンド

今年の夏は暑かった。

 

冷涼な気候帯に属するはずの、この北の辺境鎮守府でさえ連日のように真夏日に見舞われ、さらには35℃を超える猛暑日も地域の過去最多記録を塗り替えた。

 

今日も今日とて太陽はやる気満々だ。

つい昨日にはバケツをひっくり返したような大雨が降ったのだが、その水分を全て蒸発させてやるとばかりに、まばゆい陽光がたっぷりの熱量とともに降り注いでる。

 

さらには、そこに湿った高気圧の南風が流れ込み、ベトついた不快な熱気が肌にまとわりついてくる。

 

「艦隊、水着で浜辺に集合だ!」

 

そんな長門の掛け声とともに、アリに運ばれるアリノスコブエンマムシのようにズルズルと、炎天下に遊びに引っぱり出された提督。

 

暑さをものともせず、ビーチボールを追っかけて元気にはしゃぎまわる艦娘たちに振り回され、すっかり汗だくになった。

 

少しは涼しい木陰に隠れてお昼寝しようと寝そべっても、ハダカデバネズミの「布団係」のように、海防艦娘たちにギュウギュウに押しつぶされて余計に汗をかくだけだった。

 

ハダカデバネズミは、アフリカ大陸の地下にトンネルを掘り、女王を頂点とした高度な階層社会を作って生活しており、働きネズミの仕事の一つ「布団係」は、文字通り肉布団になって子供たちを温める役割なのだが、間違っても真夏の日本に必要なものではない。

 

「おまえ、どこに目をつけてる! 今のはアウトに決まってるだろ!」

「テメエ、なんだコラ! やんのか! 上等だ!!」

 

突然の大声に何事かと思えば、ビーチバレーの判定をめぐって、ワシントンとサウス・ダコタが激しく言い争っている。

 

ハダカデバネズミの「王様」は、女王と子作りするのだけが仕事という、大変うらやましいヒモ人生を送れるのだが、女王の座をめぐるメス同士の抗争に巻き込まれてよく死ぬというので、賢明な提督はさっさと戦艦娘たちから目をそらして見なかったふりをする。

 

何にしても、とにかく蒸し暑い。

 

「そうだ、バカンス行こう」

 

提督は亜熱帯化したような日本からの逃避行を決意したのだった。

 

 

カタールのドーハ国際空港に隣接する、ハマド国際空港で旅客機を乗り継ぎ、エジプト北部のボルグ・エル・アラブ空港に降り立った提督。

 

その間に艦娘たちは深海領域を経由してスエズ運河を越え、大本営に承認させた(そうして旅行費用を経費扱いにさせた)地中海への増援作戦を展開中だ。

 

さっさと作戦を終わらせ、後はのんびり深海棲艦たちと合流してバカンスを楽しむ腹積もりだ。

 

ティレニア海ストロンボリ島の火山を背景に、ジェラートを食べているほっぽちゃんのフォトレターに「クルナ!」と書いてあったから、芸人解釈すれば「来て!」というお誘いだろう。

 

クレタ島にいた重巡棲姫、もとい重巡夏姫にも「カエレッ!」と怒鳴られたそうたが、同様に歓迎されていると解釈しておく。

 

「テイトク、コッチ!」

 

ほら、こうして空港まで地中海棲姫がタクシーでお出迎えに来てくれてるし。

 

まあ、文月ちゃんが「ねえ、こいつら()っちゃっていい?」という暴言とともに集積地棲姫を盛大に爆破したという件については、謝らなければいけないと思うが……。

現実世界のトルコでも地震計が揺れた程だというから、それはそれは見事な大爆発だったらしい。

 

そんなことを思いながらタクシーへと向かい、地中海棲姫の隣に座っている小さな深海棲艦の存在に気がついた。

髪の毛と首をヒジャーブと呼ばれるスカーフで覆っている、イスラム教スタイルのため最初誰だか分からなかったが……。

 

彼女が誰か分かり、マジック:ザ・ギャザリングで多色デッキを使っている時に《血染めの月》を出されたような気分になる。

《血染めの月》を出されると、基本でない土地カードは全て赤属性の基本土地カード《山》の扱いになり、他の色のマナが枯渇して……要するに……軽く吐きそうです。

 

"陰惨な光が見渡すかぎりにあふれ、すべてを深紅に染め上げた。"という《血染めの月》のフレーバーテキストが脳内でリフレインしていた。

 

 

さわやかな風が頬をなでる、アレクサンドリアの港町。

 

アレクサンドロス大王が紀元前332年にエジプトを征服した際に建設し、ギリシャ文明と東方のオリエント文明が融合したヘレニズム文化を支えた世界初の百万都市、ローマ帝国のアフリカ大陸における重要拠点、イスラム世界の学問都市、中世香辛料貿易の中継港、大航海時代の綿花の積み出し港、と時代によって様々な表情を見せてきた巨都で、今でも北アフリカ随一の国際貿易都市として繁栄している。

 

「ガンバリマクリ、カラマリマクリ」

 

見事な口ひげと分厚い胸板の、まるで海賊の親分のような風貌の屋台の主に向かって提督が口にした言葉は、別に変な日本語の呪文ではない。

 

ガンバリはエビ、カラマリはイカ、そしてマクリは揚げ物を意味する立派なアラビア語であって、ちゃんとした注文だ。

 

揚げてもらったエビフライとイカリングを受け取り、地中海棲姫の待つベンチへと戻る。

 

「コレ、カッテキタ」

 

地中海棲姫が差し出してくれたのは、ターメイヤのサンドイッチ。

 

ペースト状にひき潰したそら豆に、玉ねぎのみじん切り、パセリを混ぜ、クミン、コリアンダー、ニンニク、塩こしょうを加えて揚げた、衣なしのコロッケのような食べ物。

 

サンドイッチといっても食パンで挟むのではなく、ピラミッドが作られた時代から主食として食べられてきた「アエーシ」という円形の空洞パンを半月状に切り、そこにトマト、レタス、キュウリなどのサラダとともに包んで食べるのがエジプト流だ。

 

「これ、好きなんだよねぇ」

 

皮自体は薄いのに濃厚に小麦粉そのものの味を感じさせるアエーシの中に、表面はカリカリっと香ばしく揚がり、中身は豆のホクホク感、そこにスパイシーな風味がたまらないターメイヤ。

 

シーザー風ドレッシングがかかったサラダも手伝い、軽くさっぱりと食べられ、この風土に合った味なのが実感できる。

 

「ウムッ、ハフッ」

 

隣には羊肉のシャワルマ(トルコ料理でいうケバブ)をたっぷりと詰め込み、こんもり膨らんだアエーシをヒジャーブの中に入れて、豪快にかぶりついているレ級がいる。

 

誰だよ!

レ級ちゃんを地中海に連れてきちゃった大バカは!

 

自分自身、地中海旅行にレ級を同行させた過去の戦犯行為を忘れて、運命の営み(運営)に心の底からの恨みをぶつける提督。

 

しかもレ級ちゃん、夜戦部隊を率いているという。

ヤバイよヤバイよ!

 

「ソレナニ?」

 

レ級がキラキラした瞳で手元のフライがのった紙皿をのぞき込んでくる。

 

「絡まりまくったカラマリマクリ」

 

つながったイカリングをつまんでオヤジギャグを飛ばし、そのままヒジャーブを少しまくって(イスラム圏では絶対NG)レ級の口に入れてあげる。

 

サクサクとイカリングを噛みしめるレ級を微笑ましく見ながら、提督は丙作戦への移行を考え始めたのだった。




イベントは甲、丙で完了、長鯨ちゃんの捕鯨にも成功しました。
え、まだ後段がある? お腹いっぱいです……
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