ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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惰眠提督と豚みぞれうどん

お正月気分も吹き飛ばす寒気が日本列島を襲い、いよいよ冬本番となってきた頃。

 

北の辺境の自堕落提督はホカホカの布団にくるまり、惰眠をむさぼっていた。

 

一応6時には、駆逐艦娘たちが起こしにきたのだが、この時期の早朝に布団から出るなんて、まるで銃弾飛び交うオマハビーチで遮蔽物から飛び出して駆け出すような気概が、ここの提督にあるわけがない。

提督は布団から出てこないばかりばかりか、夕雲型の五女・巻波を捕まえて抱き枕にして籠城の構えをとってしまった。

 

「仕方ないわね。もう少し寝かせておいてあげましょう」

「お、おう、夕雲姉がそう言うなら……」

「ちょっと、長波姉、沖波、助けてよっ!」

「巻波姉さん、がんばって耐えてくださいね」

「こりゃ薄い本が捗るわ~」

 

提督を甘やかすためなら妹も平然と生贄にしていくスタイルの夕雲の一言で、哀れな巻波は被害担当艦として見捨てられた。

 

 

さて、そんなダメ提督がいても(いなくても)回っていくのが、ここの鎮守府。

当番表に従って、遠征や買い出し、畑仕事やF作業、厨房のお手伝い、掃除、洗濯に精を出す艦娘たち。

 

それでも、出撃だけは提督がいないと成り立たない。

羅針盤を回すという、妖精さんとの神聖な共同作業は、提督にしか行えないのだ(しかし羅針盤は回すものじゃないと何度・・・)。

 

そして今日の出撃目標は、イヤーリー任務の『精鋭「十九駆」、躍り出る!』の達成。

 

綾波と敷波を含む艦隊で広範な海域を戦い抜く必要があるが、報酬で家具職人さんが特注家具を作ってくれたりするので見逃せない。

 

「アンタ、いつまで寝てんのよっ! 初雪でさえ、もう東京急行に行ってるわよ!?」

「はぁ!? 寒いから布団から出たくない? だらしないったら!」

「しゃんとしなさいよっ! このクソ提督!」

「ほら提督、布団の外は寒いから。靴下を履かせてあげるわね」

「うわぁ……巻波姉、汚宅部屋で長年愛用された抱き枕のようにグッショリベタベタに……提督、いい覚悟だほら! 壁に手ぇつきなよ!」

 

10時4分、ついに叢雲たち「提督叱り隊+α」が踏み込んで提督から布団を引っぺがした。

 

 

 

とりあえず顔を洗って歯を磨き、ひどい寝ぐせはそのままに、雷ちゃんの着せてくれたモコモコのベンチコート姿で埠頭に立つ提督。

 

羅針盤を回すのと同様、出撃艦隊の見送りは提督の大切な仕事だ。

 

「加賀、龍驤、十九駆のみんなをよろしくね」

「鎧袖一触よ。心配いらないわ」

「おぉう、任せといてや。ウチと加賀の先制爆撃でパーッと道を切り拓いたるわ」

「彩雲の偵察隊もいるよね?」

「ちょっと、格納庫を触らんといてや! 載せとる、載せとるからっ!」

 

「夕張、ちゃんとタービンは積んだ?」

「もちろん! もう遅いなんて言わせないんだからね」

 

制空や索敵が足らなかったり、艦隊の高速運動ができず、敗退や針路制限で何度も泣かされてきた経験から、艦娘たちに声をかけながら装備を指さし確認するのが常になった。

 

「綾波、敵の中枢は戦艦部隊だから、昼戦は空母に任せて、夜戦までは決して無理をせずに防御に徹して。それに、たまにヲ級が里帰りしてるみたいだから、対空見張りも油断なくね」

「はい、司令官。分かりました~」

 

ほわわんと答える綾波だが、これが実戦になると一番に突っ込んで行きそうだからなあ……。

 

「浦波、敷波、しっかり綾波を抑えておいて」

「はい、司令官」

「ん、分かってるって」

 

 

そうやって艦隊を送り出してから、食堂へと向かう提督。

 

もちろん、こんな時間に朝食は残っていない。

間宮に頼んで、少し早めだが昼食のメニューを出してもらう。

 

提督が頼んだのは、大根おろしをたっぷりのせた、千歳の豚みぞれうどん。

【博多の名店の冬限定メニューを再現】という、千歳が書いたらしい売り文句にひかれたのだ。

 

千歳が作る福岡系メニューは、牛もつ鍋やモツのすき焼き、アラ鍋、水炊き、うなぎのせいろ蒸しなど、主に鳳翔さんの居酒屋で出されることが多い。

 

しかし、昼の食堂を手伝っているときの、うどんメニューもなかなかだ。

 

ゴボウ天うどん、とり天うどん、肉うどん、極厚しいたけうどん、今まで出されたどれも美味しかった。

かしわめし、高菜ごはん、明太子おにぎり、山菜いなり、といった気の利いたご飯ものの一品が付いてくるのも嬉しい。

 

 

「提督、お待たせしました。こちら、豚みぞれうどんに、かしわめしです」

 

割烹着(かっぽうぎ)姿の千歳が、料理を運んできてくれた。

 

うどんの丼鉢は、白くみぞれのような大量の大根おろしに覆われ、その上を刻みネギの緑と、おろし生姜の黄色が彩っている。

 

その下には、茹でた豚バラ肉と、コシの強い讃岐うどんとは違った、フワフワでモチモチの博多うどんが、みっしりと詰まっていることだろう。

 

スープは、昆布にカツオ節、サバ節、ウルメ節、焼アゴ(トビウオ)と、魚介のダシをガツンと効かせた、パンチのあるもので、やや甘い九州醤油をふんだんに使っていることもあって、関東人の提督にも馴染みやすい。

 

そして、九州地方では鶏肉のことを「かしわ」と呼び、鶏肉、椎茸、ゴボウ、ニンジンなどを、酒、醤油、みりんで甘辛く米と炊き込んだ「かしわめし」が、うどん屋のサイドメニューとして定番になっている。

 

うん、遅めの朝食として申し分なしの布陣。

 

「いただきます」

 

午後はちょっとマジメに仕事しましょうか。

 

提督の遅い一日が動き出そうとしているのだった。




ここ一年、コロナからくる仕事の影響で執筆時間がとれずに、何かのネタで書き出したはいいけれど季節が移り変わってしまい、途中で間に合わなくなる射程ズレで、なかなか投稿できずにいました(今回も二週間は季節遅れです)。
しばらくは遅ペースだとおもいますが、まだまだ艦これある限りは書き続けたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
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