最近めっきり寒くなった。
ユ〇クロのフリースジャケットを着た提督は、所在なさげに埠頭をブラついていた。
鎮守府の執務室は、鎮守府Halloween秋祭りへの改装真っ最中で、しばらく入ることができない。
カボチャを大量に積んだピックアップトラックや、業務用の砂糖袋をリアキャリアに満載したスーパーカブなどが走り抜けていくので、猫の手より役に立たないと評判の提督は、みんなの作業の邪魔にならないように端に寄る。
艦娘寮の方も、冬物の衣類や布団を出したり、もう仕舞ってしまう夏物の一斉洗濯の衣替えで忙しいというので、鳳翔さんから夕方まで戻らないように宣告されている。
なので、ぼんやりとレストア漁船『ぷかぷか丸』の掃除を眺めているだけ。
蛍光イエローの
手入れの行き届いた『ぷかぷか丸』は、いつも綺麗で清潔、気持ち良く釣りができる。
それに『ぷかぷか丸』が深海門を使った航行能力を得たおかげで、提督が遠方の釣りに行く際、艦娘たちが提督をドラム缶に詰める……という不穏当な絵面もなくなった。
今朝は房総沖で戻りガツオを釣ってきたそうで、Halloween秋祭りには藁焼きの屋台が出るという。
「よっ! 提督、暇そうだねー!」
「第十七駆逐隊、浜風。F作業に出撃します!」
「うちがいっぱいイカを釣ってくるけんね」
「この磯風に戦闘以外の事を期待されても。努力はするが」
谷風、浜風、浦風、磯風の第十七駆逐隊。
これから、北海道・苫小牧沖まで防空射撃演習の名目で、秋祭りの焼きイカにするためのスルメイカを釣りに行くのだという。
プラヅノという光の反射効果や蓄光性が高い棒状のプラスチックに、イカを掛ける逆さ針のカンナが付いた疑似餌を複数本並べ、主にイカの視覚効果に訴える仕掛けで釣るのが一般的だが、鉛製のスッテという疑似餌でボトム層のイカを動きで誘って釣るイカメタルと呼ばれる釣り方も流行している。
そしてイカ釣りといえば欠かせないのが、連装ロケット砲を思わせる投入機。
複数のプラヅノやスッテを、絡まないように順次海に投入するための器具を艤装に取り付け、クーラーボックスを担いで出撃していく浦風たち。
「よし。リールも問題なし、リーダーもOK、っと。餌木も……大丈夫、これなら!」
「親潮姉、豚バラなんかて本当に釣れるの?」
「ほな、提督はん、行ってくるで~」
「由良、初めてデビルパラシュートを使ってみるんです」
たこ焼きの具にするマダコを求めて、海上護衛任務の名目で宮城県の牡鹿半島沖に向かうのは、親潮、早潮、黒潮の第十五駆逐隊と由良。
普通、オモリに餌木というエビの形をした擬似餌を2~3個つけて海底のマダコを狙うのだが、餌木にサンマの切り身や豚バラ肉などの生エサを糸で巻きつけておくと食いが良くなる(ような気がする)。
一方、由良が使おうとしているのは関西方面で人気が出たデビルパラシュートという仕掛け。
形状としては畳みかけの折り畳み傘を逆さにしたようなもの。
傘でいう先端、つまり一番下にはパラシュート・フローターという浮力のあるボールが付いていて、柄の部分にザリガニなどの形をしたゴム製のワームをつける。
すると、パラシュート・フローターの浮力で仕掛けはユラユラと落下傘のように海底に落ちていき……このユラユラした動きが、どうやらタコの食欲をすごく刺激するらしい。
うん、そりゃあ由良由良していたら抱きつかずにいられない。
ニコニコと出港する由良たちに手を振り見送っている提督の背後では、あきつ丸、神州丸、山汐丸が、リヤカーやハンドフォークで、秋祭りに使う機械類を輸送中。
綿菓子機にポン菓子機、焼き栗機。
その後ろにはバナナチョコのリヤカー屋台を牽いた、秋津洲が続いている。
パソコンやハイテク機器は一台も無いけれど、こういう機材だけは充実しているのが、ここの鎮守府。
「北ぁの~漁場はヨ~ おぉとこぉの~仕事場さぁ~♪」
妙にコブシを利かせて歌いながら近づいてきたのは、ホッポちゃんや港湾棲姫たちにハロウィン招待状を届けるための艦隊編成を依頼していた瑞鶴。
「提督、これでどう?」
「うーん……」
北方AL海域 翔鶴、瑞鶴、ホーネット、最上、北上、時雨
リランカ島沖 リベッチオ、加賀、雲鷹、矢矧、霞、朝潮
サーモン海域 大和、武蔵、利根、阿武隈、夕立、ジョンストン
グアノ環礁沖 由良、ジェーナス、浜風、磯風、雪風、コマンダン・テスト
ピーコック島沖 扶桑、山城、タシュケント、大潮、満潮、秋津洲
KW環礁沖 伊勢、日向、熊野、アトランタ、フレッチャー、綾波
戦力的にはどれも十分だが、資源とバケツの消費量がすごく心配になる。
それでも、楽しみに待っているだろうホッポちゃんたちのためなら仕方ないと了承することにした。
「執務室の改装が終わったら出撃しようか」
それまでに、戦意高揚のための戦闘糧食を作ることにした提督。
県民のソウルフード「福○パン」をリスペクトし、ふんわり、しっとり、もちもち、その最高の食感バランスの再現を目指して試行錯誤した、鎮守府特製コッペパン。
中に入れる具は……。
この料理はタレが肝心。
味付けの基本はケチャップとウスターソース(ちゃんとした洋食店ではデミグラスソースを使うところも多いが、ご家庭ならこれでいいのです)。
比率は2:1というのが、何回か作ってみてたどり着いた結論だ。
玉ネギ、ニンニク、リンゴをすりおろして加え、日本酒でのばす。
顆粒ブイヨンと砂糖、塩こしょうで味を整えたら、豚のこま切れ肉を投入して漬け込む。
あとはフライパンで炒めれば、濃厚なケチャップ風味が美味しい、ポークチャップの完成だ。
似た名前の料理に「ポークチョップ」があるが、あれは豚の骨付きロース肉を焼いたアメリカ料理で、チョップは骨付き肉を叩き切る動作からきている。
対してこちらのチャップは、ケチャップからきたダジャレ。
もちろん日本で生まれた、由緒正しい庶民のための洋食メニューだ。
コッペパンにグリーンリーフレタスを挟み、ポークチャップをのせてアルミホイルでくるんでいく。
30個ほどくるんだところで、大淀が執務室の改装完了を告げにきてくれた。
大淀にもポークチャップパンをあげて、順次出撃艦隊を呼び出してくれるように頼む。
さあ、B級グルメで小腹を満たし、ホッポちゃんたちを呼びに行きましょう!