ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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磯風と秋刀魚祭り2022

 はためく大漁旗の上を、ウミネコたちが舞っている。

 

「ハーイ、お疲れ様デース! Wow! 大漁ネー!」

 

 漁から帰還した速吸が牽引していたドラム缶を陸揚げし、ドラム缶の中の海水氷から網で豪快に秋刀魚をすくい上げ、トロ箱に入れていく金剛。

 地面にこぼれ落ちた秋刀魚には、すかさずウミネコたちが群がってくるが、見張りの多摩に睨まれているのでトロ箱に手(嘴?)を出してくることはない。

 

 長靴にゴム前掛け姿の榛名と霧島が、秋刀魚が入ったトロ箱に素早く手鈎を引っかけて引き寄せ、ハンドフォークに積み上げていく。

 

 工廠の前にはいくつもの炭火七輪が並び、五升炊きの羽釜でご飯が運び込まれる。

 埠頭のあちこちで、ござを敷いて宴会の準備をすすめている艦娘たち。

 

「艦隊が帰投です。おつかれさま」

「矢矧、日進、ご苦労だったな。まあ瑞雲を飲め」

「ありがとう、いただくわ」

「おお、ありがたいのう」

 

 法被姿の伊勢と日向が、葦簀(よしず)を張った漁師小屋で、瑞雲(ずいうん)ラベルの自家製四斗樽(しとだる)から桝酒を出撃艦娘たちに振る舞っている。

 

 ラベルはオリジナルだが、樽の中身はどこかの酒造メーカーから買ってきたものですよ、多分(税金を搾り取ることしか考えず、我が国の酒文化を一切顧みない酒税法という大悪法により、日本酒製造の免許取得には、年間6万リットル以上の製造が必要という、非常に高い参入障壁がある)。

 

「提督、そろそろ焼き始めるか」

 

 セーラー服型の制服の上に割烹着、右手には「単縦陣」と書かれた団扇を握り、やる気のみなぎっている磯風に、うなずいて返事。

 

 毎年のように秋刀魚を炭化させ続けて、とうとう間宮に怒られた磯風。

 みっちりと特訓を積んできたという腕前を見せてもらおう。

 

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「秋刀魚……この大井、秋刀魚を三枚におろすくらい、造作も無いこと。どんどん持ってきなさい! ええ、やってやるわ!」

「うるせぇクマ! 口より手を動かせクマ!」

 

 一三式自走炊具(2トントラックを改造した炊飯車)の周りに机を出し、秋刀魚を一心不乱に捌いているのは、球磨、大井、長良、川内、能代ら軽巡洋艦娘たち。

 

 名取と由良は、刺身を皿に盛り付け、生姜やネギの薬味、殺菌作用のある菊を添えている。

 

 北上と木曾は、切り身を受け取ったら、さっと酢で締め巻き()で巻き固めて棒寿司作り。

 阿賀野が棒寿司に、刻んだしその葉と、白ごまをふりかける。

 

 那珂とゴトランドが小鉢に用意しているのは、秋刀魚のぬた。

 切り身を青ネギとともに甘い酢味噌で和えたもので、独特のコクが楽しめる。

 

 五十鈴と鬼怒はさらにバーナーで炙りを作っており、これはぽん酢でいただく。

 刺身とは一味ちがった香ばしさと、皮から染み出た脂が旨い。

 

 天龍と龍田、酒匂が、天ぷら鍋でジャージャーと音を立てさせているのは、生姜醤油味の竜田揚げと、梅しそ揚げ。

 梅しそ揚げのさわやかな酸味には、抹茶塩を添えて。

 

 海外の軽巡艦娘たちが作っているのは、秋刀魚とキノコ三種のキッシュに、秋刀魚とトマトのアヒージョ。

 秋刀魚は洋風の味付けもなかなか美味しい。

 

「ねえ誰か、もっと大根おろし持って行ってよ!」

 

 夕張は……木製の垂直軸風車を設置して、その動力で大根おろし器を前後運動させるという壮大に無駄な労力をはらって大根おろしを量産していたが……。

 すぐにバケツ数杯分の大根おろしが出来てしまい、途方に暮れている。

 

 そして大淀と神通の指揮の下、出来上がった料理はジャージにエプロン姿の駆逐艦娘たちが次々に運んで配膳していく。

 

「料理とビールが届いたら、どんどん始めちゃって」

 

 法被姿の提督(居酒屋の呼び込みバイトみたいだと評判)は、木桶の氷水で冷やしておいたビール瓶の栓を次々と抜いていた。

 

 トンカチ並みにガッチリした木製の柄がついた、業務用の栓抜きは抜き心地抜群、ポンポンポンポン、リズミカルに栓を抜いていく。

 

 妙高姉妹セレクトの日本酒は、北海道の北の(かつ)、青森の陸奥八仙、岩手の赤武(あかぶ)、宮城の萩の鶴、福島の大七(だいしち)と、秋刀魚漁の盛んな地域から。

 

 

 でも、やっぱり秋刀魚祭りの主役は、焼き秋刀魚。

 

 今年の秋刀魚を焼く主役は、提督がノックダウンされた世界一の焼き魚を食べさせる店、気仙沼の「福よし」さんの名物の大囲炉裏の構造にヒントを得た『試製二二式秋刀魚焼成器』。

 

 長角型の七輪には、大量の炭が縦に高く積み上げられ、真っ赤な火が熾っている。

その手前側、幅10cmほどの通称"お濠"という水を張ったプールと、串を保持する筒状の穴が並んでいるのが特徴。

 

 串刺しにした秋刀魚を手前からプールに向けて斜めに立てて焼くことで、理想的な強火の遠火を実現しつつ、秋刀魚からポタポタ落ちる脂は全てこの水が受け止め、脂が炭火に落ちて煙が上がることもない。

 

 常に一尾一尾の焼き加減から目を離さず、じっくりと熱を入れていく磯風。

 目指すは「福よし」さん並みの芸術的な焼き加減。

 

「出来たぞ、司令。食べてみてくれ」

 

 栓抜きを終え、一息ついた提督のもとに、磯風が秋刀魚を持ってきた。

 葉生姜にカボス、大根おろしが添えられ、良い感じにこんがりとした焼き秋刀魚。

 

 パリッと焼けた皮を噛めば、ほろほろの身が舌に躍り出す。

 秋刀魚のワタと小骨は遠赤外線の輻射熱で溶け、腹の中で脂とともに豊麗なシチューのようになっている。

 

 ワタ=苦味という既成概念を打ち砕く、秋刀魚に惚れ直すような価千両の味。

 

「んぅっ、んまい!」

 

 これには断然ビールだ。

 日本酒の冷やをクイッとやるのもいいが……、いや、ご飯もかっこみたい。

 

「うっまそうだな、Meにもくれよな! んぐ……ん、うまいよ!ガチで!」

 

 さすがは超短期間で綿入り袢纏(はんてん)とコタツミカンが似合うようになってきた、有望新人のラングレー、この味の良さを一発で分かってくれる。

 

「うん、美味しいにゃ。磯風は第五艦隊に来るといいにゃ。神通は工廠裏に呼び出して話つけとくにゃ」

 

 この焼き秋刀魚には、多摩先生も絶賛だ。

 でも喧嘩になるから引き抜きはやめなさい。

 

「提督っ、秋刀魚祭りって楽しいですね! レンジャー!」

 

 新しい家族も増えて、鎮守府の秋刀魚祭りは今年も大盛り上がりでした。

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