ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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現在(2023.03)進行中のイベントの話です。
編成等のネタバレを見たくない方は回避して下さい。


誤出撃と矢矧とどて煮

 提督が見事な土下座を披露している。

 

 那珂ちゃんの活躍により、潜水棲姫改IIを退治して大成功したS21作戦(E1)。

 

 続けて沖縄南西諸島方面に襲来した敵侵攻部隊の兵站を分断するため、矢矧の率いる精鋭第二水雷戦隊が、海上遊撃戦を展開した。

 

 とはいっても、ここの提督に超難関と噂される第二海域に甲で挑む気概はなく、選択したのは乙作戦。

 

 囮役のイ13と打撃支援の金剛を加えた編成で、戦艦棲姫改が護衛する敵兵站補給部隊を難なく撃滅(E2-1)。

 

 次にイ13を戦車隊満載の神州丸に交代させ、いつの間にか沖縄に上陸していた集積地棲姫IIIを大爆発させた(E2-2)。

 

 そして、なぜか日本近海に出張ってきていた欧州装甲空母棲姫の機動部隊を、大和と武蔵が超遠距離艦砲射撃で捕捉。

 北上、雪風、初霜が必殺の夜戦を仕掛けてトドメを刺した(E2-3)。

 

「圧倒的じゃないか、我が軍は!」

 

 思えば、このあたりで提督の慢心が始まっていた……。

 

 前段最終海域は甲を選択。

 

 佐世保から再出撃した第二水雷戦隊が、九州沖の敵機動部隊Ⅳ群を撃退(E3-1)。

 

 さらに、呉から出撃した天城、葛城を主力とする連合艦隊が、四国沖の空母機動部隊I群と戦闘を開始した(E3-2)。

 

 最終局面こそ壊モードになった空母棲姫IIに粘られるかと思ったが、潮が雪風ばりの見事なカットインを発動して一発で仕留めてくれた。

 

 後はもうウィニングラン(お慢心MAX)。

 

 長門、陸奥、翔鶴、瑞鶴、隼鷹、コマンダン・テスト。

 

 必勝を確信しつつ、提督は第一艦隊を出撃させた!

 

 ……そう。

 第一艦隊を……。

 

 母港には、利根、長良、大井、木曾、冬月、竹ら第二艦隊の面々が取り残されていた。

 

 はい、連合艦隊を編成するのを忘れていたのでち。

 

 長門たちには見事に「第二水雷戦隊」の札がつき、作戦難易度を丙に落とすしかなくなった提督は、今こうして全力で艦娘たちに土下座謝罪している。

 

 今日もここの提督はへっぽこです。

 

 

 日本が世界に誇る発酵食品である味噌。

 その中でも、最も歴史が古いと言われる豆味噌。

 

 この鎮守府でもよく、大豆と塩と米麹を水で練って丸めた味噌玉を、艦娘寮の潮風が当たる軒下に吊るして発酵させ、自家製の豆味噌を造っている。

 

 愛知県岡崎の八丁味噌も、この豆味噌の一種。

 夏の暑さが厳しく、矢作(矢矧)川をはじめとした多くの川に挟まれた高温多湿な八丁村で、腐敗せずに安定した麹造りができるようにと考案された、大豆だけで大きな味噌玉を作って、大豆に直接麹菌を付けた後、塩水を加えて大樽で長期熟成させるという独特の製法が特徴だ。

 

 1942年6月のミッドウェー海戦の大敗を受けて、大量の航空機搭乗員の養成のために矢作川のほとりに建設された「海軍岡崎航空基地」。

 戦後、その格納庫や兵舎の払い下げを受けて味噌蔵として利用し、天然醸造の味噌を守り続けている老舗の味噌蔵元がある。

 

 第三十一駆逐隊、岸波、沖波、長波、浜波をおつかいに出し、そこの八丁味噌を買ってきてもらった提督。

 

「矢矧、どて煮を作ったから食べる?」

 

 今回、最もくたびれ損をさせられたのが、第二水雷戦隊旗艦・矢矧。

 第三海域でも「ギミック」と呼ばれる呪術解除のために、あちこちを甲難易度で転戦したのに……。

 

 むくれている矢矧に謝ろうと、提督は矢矧の好物の名古屋メシを作ってみた。

 

 しっかり下茹でして臭みをとった牛スジと豚モツを、大根、こんにゃく、ネギ、生姜とともにひたひたの水を張った鍋に入れ、一気に強火で沸騰させて、ブクブクと出てくるアクを必死にすくいとる。

 

 アクが一段落したら中火に落とし、そこに八丁味噌とみりん、たっぷりの黒糖を入れて、さらに出てくるアクを丁寧にとり続けながら、途中でゆで卵も投入して煮込んでいくこと2時間。

 八丁味噌は煮立てても風味が飛ばず、むしろコクが増す。

 

 火を止めたらしばらく冷まして味を染み込ませた後、さらにもう一度煮て熱々にする。

 

 もとは漁協の事務所だった無味乾燥な鉄筋コンクリート建ての鎮守府庁舎1階、下町の大衆食堂にありそうな安っぽいベニヤ板の4人がけテーブルが2つ置かれただけの、夜食用キッチン。

 

 そこから艦隊に指揮を出しながら、匂いに釣られてつまみ食いに来た雪風と朝霜から鍋を守り、ようやく完成させた名古屋風どて煮。

 

「ふふっ、いい気配りね。嫌いじゃないわ」

 

 提督に呼ばれた矢矧はビニール張りの丸椅子に座り、目の前で湯気を立てるどて煮に挑み始めた。

 

 ほろほろと柔らかく崩れながらも、はっきりと牛肉を主張する牛スジに、ふわふわと美味しい脂の旨味を振りまく豚モツ。

 そして肉から出た味をたっぷり吸い込んだ大根を、八丁味噌の濃厚な甘辛さが包み込む。

 

「ご飯! もちろん炊いてるんでしょ?」

 

 そう、これはお酒や、熱々のご飯とともに食べるべきもの。

 提督はすぐに丼飯を矢矧に渡してあげる。

 

 矢矧はお礼も忘れ、白いご飯にどて煮をドバッとかけて、一気にかき込み始めた。

 

 味噌を吸い込んで茶褐色になった茹で卵を割れば、白と黄色の美しい断面が現れる。

 それすらも味噌の汁にたっぷり浸して、米とともに食べる至福。

 

「ほら、もうこっち来て食べてもいいよ」

 

 矢矧の機嫌が直ったのを確認して、廊下から様子を窺っていた雪風と朝霜を呼んであげる。

 

 こんな丙提督だけど、とりあえず前段クリアいたしました。

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