ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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現在(2023.03)進行中のイベントの話です。
編成等のネタバレを見たくない方は回避して下さい。


ワカメ収穫とガンボスープ

 東南アジアに生息するジャコウネズミ。

 ネズミといいつつ正確にはモグラの一種なのだが、奇妙な習性を持っている。

 

 子供が親のお尻をくわえ、その子のお尻をまた別の子がくわえ……と家族が一列になってヘビのようにウネウネと行進するキャラバン行動。

 

 提督の水産合羽のすそを倉橋がつまみ、倉橋のレインウェアのすそを鵜来がつまみ、その鵜来のレインウェアのすそを第三〇号海防艦(み と)がつまんで……ジャコウネズミのように埠頭を歩いていく提督たち。

 

 鎮守府の目の前の湾では、ワカメの収穫シーズンを迎えている。

 ミネラル豊富な山の雪解け水で肉厚に育った立派なワカメが、次から次へと引き揚げられてくる。

 

 この時期はどこの家も、家族・親戚総出でワカメ加工にかかりっきりになる。

 

 養殖ロープの引き揚げ、ワカメの刈り取り、メカブの切り落とし、湯通し、水切り、塩まぶし、漬け込み、脱水、芯抜き、脱塩……ワカメの塩蔵加工というのは、とても短期労働集約的な家内制手工業なのだ。

 

 もちろん、自前の養殖場を持っているここの鎮守府も例外ではない。

 

「提督、お電話はもう済んだんですか?」

 

 フォークにたくさんのワカメをぶら下げたフォークリフトを運転しながら、ツナギ姿の香取が声をかけてきた。

 

「うん、大した用じゃなかった」

 

 この猫の手も借りたいほどの忙しい時に、欧州装甲空母棲姫との戦いに友軍艦隊を送ってくれ、などという木更津提督の要請に応えている暇はない。

 

 しっかり受話器も外したままにしておいた。

 

「睦月、皆を連れてきたから、海峡警備は任せたよ」

「はりきって、まいりましょー!」

「はい、了解です。倉橋にお任せを」

「はい! 頑張ります!」

「皆さんをお守りします」

 

 遠征前のお昼寝から起こしてキャラバン行動で引率してきた海防艦娘たちを、旗艦の睦月に託してお見送り。

 

 そして、とりあえずジャージ姿になっているものの、何を手伝っていいのか分からずに戸惑っている新人艦娘たちの面倒を見ることにする。

 

 八丈島沖の戦い(E3-3)で編成ミスを犯し、長門と陸奥に第二水雷戦隊のお札がついてしまい、丙作戦への変更を余儀なくされた、ここの鎮守府。

 唯一の救いは、戦標船改装棲姫-壊を撃破したと同時に、駆逐艦娘のヘイウッド・L・エドワーズと邂逅できたことだ。

 

 続く小笠原方面及び硫黄島の防備を固めるための伊号輸送作戦(E4)は、乙作戦以下しか選べないので乙で難なくクリア。

 

 硫黄島の防衛戦も、深海重巡水姫との決戦(E5-3)に長門と陸奥が出せないので乙作戦を選択。

 

 赤城、加賀、イントレピッド、サラトガ、多摩、浦風という空母4隻の第一艦隊に、アイオワ、長良、ジョンストン、皐月、時雨、竹という第二艦隊の日米合同機動部隊で攻略し、重巡洋艦娘のタスカルーサをお迎えした。

 

「2人ともアメリカの艦娘だから、ワカメの養殖なんて言われても馴染みがない食材だから面食らうよね。少し前まではカキの水揚げをしてたんだけどねえ」

「It's unbelievable……どうして鎮守府で……」

「ほら、あれがカキの養殖棚で、その向こうがホタテ、あっちがアワビだよ!」

 

 ちなみに別の新人、陸軍の揚陸艦娘である熊野丸は、あきつ丸たちと山菜採りの手伝いに。

 

 潜水艦娘たちには、この時期の岩場でしか獲れない天然のマツモ(アカモク)、フノリの収穫に行ってもらっている

 

 うん、適材適所。

 

 

 さて、こういう時に食べるのは、パパッと一気にかっ込める漁師めし。

 

 例えば、江戸前の漁師たちがアサリとネギを、醤油や味噌で煮込んでご飯にぶっかけた、深川めし。

 あるいはスペインの、貝、海老、イカなどの魚介類をふんだんに入れ、色と風味をつけるサフランとともに、生米から煮込んで炊き上げるパエリア。

 

 そして今日用意したのは、アメリカ合衆国南東部からメキシコの沿岸部で食べられている、ガンボスープの丼飯(どんぶりめし)

 

 ガンボ(ゴンボ)とは、フランス語やイタリア語でのオクラのこと。

 ちなみに、オクラはよく日本語だと勘違いされやすいですが、れっきとした外来語であって、アフリカ原産の植物です。

 

 最初に鍋にバターを溶かし、そこに小麦粉を入れて、焦がさないように木ベラでかき混ぜながら、時間をかけてブラウンルーを作るのが、深みのある味を出すコツ。

 

 食べるのは手早くでも、料理自体にはたっぷり手をかけるのが、ここの鎮守府の流儀。

 ノーザンプトンとヒューストンが、根気強く大鍋を木ベラでかき混ぜ続け、トローリきつね色のブラウンルーを作ってくれた。

 

 そして、オクラと、セロリ、ピーマン、玉ねぎ、ニンニクを細かく刻んで炒め、先ほどのブラウンルーと海老、イカ、ホタテ(鎮守府の養殖場で間引きされたベビーホタテ)とともに、トマト缶を加えた鶏ガラスープでじっくりと煮込む。

 

 最後に塩、黒胡椒、赤唐辛子、チリパウダー、クミン、オレガノ、タイムなどの各種スパイスとハーブで味を整えたら完成。

 それを炊き立てのご飯にぶっかけてみました。

 

 オクラのトロッとした優しいとろみと、スパイシーなピリ辛と野菜の甘みのコントラストが深い味に、どんどんご飯がすすむ。

 

「今年はウズマキゴカイが発生したから焦ったよね」

「由良さん、芯抜きのコツ教えてください」

「ワカメの炊き込みご飯に、シラスを入れてみるのも美味しいんじゃないかしら」

 

 ワカメの話題でワイワイ盛り上がる艦娘たちに囲まれ、提督もニコニコ顔でご飯を食べつつ、大規模作戦のことにもちょっとだけ思考を傾ける。

 

 硫黄島逆上陸作戦(E6)は乙難易度でチャチャッと攻略をすすめて……。

 

 なかなか撃破が難しいという噂の、深海擱座揚陸姫に手こずるようなら、天草か直江津の鎮守府に友軍派遣を要請すればいいや。

 

「困ったときはお互いさまって言うしね」

 

 さっき木更津からの要請を断った自分を棚に上げる提督であった。

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