ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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告訴状

告訴人
住所  〇〇〇鎮守府
氏名  ねこまんま
職業  提督

被告訴人
住所  住所不詳
氏名  ヌ級改elite
職業  軽空母

第1 告訴の趣旨
被告訴人は下記犯罪(罰条,無敵空母罪)を犯し,犯状悪質であり再犯のおそれもあるので,厳重に処罰されたく,ここに告訴する。

第2 告訴事実
被告訴人は,令和5年3月16日午後13時30分ころ,三宅島―八丈島航路上を告訴人の艦隊が航行しているのを見つけると,告訴人の艦娘を大破撤退に追い込まんと企図し,告訴人の艦隊に対して先制航空攻撃を仕掛け・・・
《中略》
自身は戦闘圏外の後方より無敵状態で一方的な航空攻撃を執拗(しつよう)に繰り返したことは極めて悪質であり・・・


二航戦のポテトチップス

 濡れた紫陽花(あじさい)の葉を、蝸牛(かたつむり)が這っていたのは、ちょっと前。

 

 もう夏だと言わんばかりに、太陽がギラギラと燃えている。

 艦娘寮のあちこちにあった、てるてる坊主も片付けられた。

 

 昔は温泉旅館だった艦娘寮の立派な玄関から館内に上がると、大正ロマンを感じさせる和洋折衷のロビーがゆったり広がる。

 左手横には、江戸の裏店に見立てた遊び心ある帳場(ちょうば)と土産物売り場がある。

 

 艦娘寮となった現在では、ここは酒保として活用されていた。

 

 趣のある小間物屋という風情の空間だったが、今では、うまい棒シリーズやカットよっちゃん、ハートチップル、すもも漬、きなこ餅、ココアシガレットなど、ケバケバしい箱やケースが並び、完全に昭和の駄菓子屋のようになっている。

 

 マ〇カワのフーセンガムを嚙みながら店番をしているのは、重巡洋艦娘の摩耶。

 最近は新人のタスカルーサと最上の予備艤装で重巡の出撃枠は埋まっているが、日常の仕事はけっこう多い。

 

 庭園の手入れに館内の掃除、お風呂のボイラー管理なども含め、300人もが暮らす艦娘寮の維持にはかなりの労力がいる。

 

 ほうきにはたき、ちり取りを持った曙たち第七駆逐隊も、忙し気に駆けていく。

 

 ロビーでは提督が、無駄な法学部出身の知識を活かして、ヌ級への告訴状を書いている。

 

「・・・来たる夏の戦いでの再犯防止を望み,告訴するものである。以上」

 

 書き上げた告訴状は、通りががった海防艦娘たちに、すもも漬の酢液や、きなこ餅の粉のついた手でベタベタ触られていて、あちこち汚れている。

 

 提督はその告訴状を握りしめ、お目当ての人物が温泉から戻ってロビーを通るのを待つ。

 やがて、浴衣姿のその人物がやってきて、酒保でコーヒー牛乳を買い求めた。

 

 提督はおもむろに立ち上がると、その人物に近づいた。

 

 その相手とは、休戦中で温泉旅行に来ている、深海棲艦たちのボス、中枢棲姫。

 浴衣の腰に手を当てた伝統的なスタイルでコーヒー牛乳を飲んでいる。

 

 後ろには同じく湯上り姿の南方棲戦鬼と南太平洋空母棲姫、そしてフルーツ牛乳を飲むほっぽちゃん。

 

 そこに、殿様に直訴する農民のように、告訴状を突き出す提督。

 

「お願いします中枢ちゃん、夏の大規模作戦には、あのヌ級は出さないって約束してください!」

「………………」

 

 中枢棲姫は渡された告訴状を読み終え、ゆっくりとコーヒー牛乳を飲み干すと、無言のまま告訴状をビリビリと破ってしまった。

 

「あうう……」

 

 せっかく書いた告訴状を破られ、泣き崩れる提督。

 ほっぽちゃんだけが、ポムポムと提督の頭に手をのせて慰めてくれる。

 

「今日ノ間宮ノAランチハ何ダッタ?」

「ゴーヤチャンプルー定食ノハズダ」

「ホッポ、行クゾ。提督ハ放ッテオケ」

 

 中枢棲姫たちが立ち去ると、提督はクレヨンし〇ちゃんのような「ニヤッ」という笑みを浮かべた。

 

 さすが中枢棲姫は眉一つ動かさなかったが、後ろの南方棲戦鬼と南太平洋空母棲姫は違った。

 告訴状をのぞき見して、2人で視線を合わせた後、そんなことを言われても困るといった様子で中枢棲姫の顔色をうかがったのだ。

 

「こりゃあ、やっぱり夏は欧州バカンスみたいだねえ」

 

 次の大規模作戦の舞台はノルマンディーという噂がある。

 彼女たちの態度からしても、次の大規模作戦の舞台は、中枢棲姫が管轄する太平洋ではないようだ。

 

 まんまと情報を手に入れ、夏に向けた備蓄のための遠征案を練り始める提督。

 

「おっやつのじっかんー♪」

 

 そこに飛龍と蒼龍が、ポテトチップスを山盛りにしたバケツを持ってやってきた。

 

 鎮守府の畑でとれたジャガイモで作った、二航戦のポテトチップスは大人気だ。

 提督の周りに、艦娘たちが寄ってくる。

 

「あっ、この遠征、うちらの新編二駆に任せてよ!」

「明日の七駆は防空演習? ほいさっさ~♪」

「対馬海峡の警備には……つ・し・ま。…うっふふ」

 

 パリポリとポテチをかじりながら、艦娘たちがあれこれと遠征案に口を出してくる。

 そのたびにポテチ油のついた手で触られ、遠征計画表は汚れていくのはご愛敬。

 

 夏本番がすぐそこまで近づいています。

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