ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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ビスマルクとハロウィンのご飯

 鎮守府10周年の秋。

 

 9度目となった鎮守府の米作りは、猛暑に悩まされながらも、何とか無事に収穫を迎えた。

 田んぼでは、稲架(はさ)に掛けられた稲穂が静かに揺れている。

 

 近所で飼われているヤギが、草を()みながら「メェ~」と鳴くので、ジャージ姿の提督も「メェ~」と返事をしておいた。

 

 数年ぶりに甲種勲章を得た提督だが、威厳はやっぱりない。

 首にタオルを巻き、家庭菜園をいじる日曜のパパのような風貌で、駆逐艦や海防艦にじゃれつかれている。

 

「提督、南瓜(カボチャ)は積んだわよ。そろそろ帰りましょう?」

 

 今日の秘書艦、ビスマルクに声をかけられて振り返る。

 ビスマルクの横には、ドゥンケルゲルプ(ダークイエロー)の地色に、ロートブラウン(レッドブラウン)と、オリーフグリュン(オリーブグリーン)の迷彩塗装が入ったアルミ製のリアカー。

 

 南瓜を満載しているその車体に、誇らしげに白く描かれた数字は「007」。

 

 ドイツの誇る戦車エース、前人未到の敵戦車138両撃破の英雄、ミヒャエル・ヴィットマンが最期に搭乗したティーガーⅠの車体番号だ。

 図書館で借りた『タイガー重戦車塗装マニュアル』(月刊モデルアート発行、絶版)を手に、夕張とあーでもないこーでもないと言い合いながら、3日がかりで塗装したのだ。

 

 そうそう、東部戦線仕様の冬季迷彩した「S04」号車や、伝説のヴィレル・ボカージュの戦いでの「222」号車(諸説あり)の塗装もいつか……。

 

「もう~! この私を放置するなんて、貴方も相当偉くなったものね!」

 

 と、ついリアカーに見惚れてうっとりしていたら、ビスマルクの声が荒くなってしまった。

 

「ごめんごめん。わあ、いっぱい南瓜を持ってきてくれたねぇ」

「そう? もっと誉めてもいいのよ?」

「うん、すごいすごい」

「ふふん♪」

 

 頭を撫でてあげると、"大きなレディ"の機嫌はすぐに直った。

 今日はプリンツが南西諸島離島防衛作戦の遠征で留守。

 フォロー役がいないから大変だ。

 

「じゃあ、南瓜を持って帰ろうか」

 

 艦娘らが丹精込めて作った、美味しい"南瓜"。

 食べるとなぜか"運"が上がるという都市伝説もあり、この鎮守府では昨年は長門と陸奥、今年は最上と夕張にもりもりと食べさせている。

 

 大淀の記録によると、今年の長門と陸奥の特殊砲撃の発動率は70%を超えているというので、効果があったと信じたい。

 

「ドイツ語でパンプキンスープは何て言うの?」

「キュゥァービスズッペよ」

「ドイツには、ホッカイドーっていう南瓜もあるみたいだね」

「そうなの? 私は食べたことないわ(※戦後に日本から伝わった品種です)」

 

 などとビスマルクと他愛のない話をしながら、リアカーを引いて鎮守府へと帰る。

 周囲の木々は色づいており、どこかの家の庭からは金木犀(きんもくせい)が香った。

 

 

 お風呂に入ってから、間宮食堂での夕食。

 

 湯上りにはなぜか、榛名が百貨店遠征で買ってきた、鹿の子の長袖ポロシャツを着せられた。

 

 肌触りはいいし、エンジ色の上品な色合いは艦娘たちの評判も上々だ。

 だが、こんな2万円もするような上等な新品を、わざわざ食事前に着なくても……と思わなくもない。

 

「提督の今日の席はここでーす!」

「私が秘書艦なんだから、隣は私の席よ! どきなさい、ネルソン」

「むぅ……」

 

 なぜか座席も指定され、戦艦娘たちの真ん中に座らされる。

 戦艦娘たちも全員、いつものような浴衣やジャージ姿でなく、きちんと艦娘の衣装を身にまとっている。

 

「今日、何かあるのかい?」

「それは後のお楽しみでーす!」

「提督。さあ、私のエスシュテープヒェン(お は し)を用意してきても良いのよ?」

 

 今日の夕飯は……。

 

 焼きほぐしたサバの身を、オリーブオイルとニンニク醤油、鷹の爪で、ペペロンチーノ風に炒め合えたもの。

 

 しめじ、えのき、舞茸、タマネギを、コンソメを隠し味に、バターとポン酢でさっぱりと炒めたもの。

 

 (いわし)のチーズフライ。

 (かぶ)の酢漬け。

 

 そして、鶏ひき肉の旨味をたっぷり吸った、ホクホクの南瓜のそぼろ煮。

 

「南瓜って、意外にも肉と合うよね~。豚バラと豆板醤で炒めたやつも美味しかったな」

「提督、食べながら他の料理の話でヨダレを垂らすなんて、大和や赤城みたいよ」

「ちょっと、誰が赤城さんみたいなんですか!?」

 

 ワイワイと賑やかな、家族の食卓。

 

「ところで提督、一式徹甲弾改への改修、進捗はいかがですか?」

 

 突然、霧島がそんな話題を出してきた。

 みるみる、提督の顔色がドヨーンと暗くなる。

 

 久しぶりに甲難易度で最終海域に挑み、欲しくなった一式徹甲弾改だが……。

 一式徹甲弾改を作るには、一式徹甲弾☆10が素材として必要になる。

 

 今、鎮守府にある一式徹甲弾は、☆6が2本と、☆4が1本。

 そして、一式徹甲弾を☆7以降にするには、いわゆる共食い、一式徹甲弾を素材にする必要がある。

 

 その一式徹甲弾は、九一式徹甲弾☆10が素材として必要に(以下略)。

 

 とにかく、完成までにとんでもない労力とネジを要するのだ。

 

「そんな提督に、私たち戦艦組からHalloweenのPresentsネー!」

「ヘソクリのネジを集めて、気合!入れて!作りました!」

 

 金剛と比叡の言葉に目を丸くしていると、榛名が三方(さんぽう)(瑞穂がいつも手に持っているアレ)を持ってきた。

 その上には赤い徹甲弾が……そして清霜に似た妖精さん!

 

「提督、喜んでいただけましたか?」

「最高でーす!」

「ほら、この企画を考えた私にも感謝するといいわ!」

「最高でーーす!!」

 

 霧島やビスマルクの言葉に、もちろんノリノリでそう答える。

 今が"最高"であることを表すのに、これ以外の言葉があるだろうか、いやない。

 

「ども、青葉です。今のお気持ち、教えてください」

「サイコーでぇーす!!」

「ほな改めて、前回の夏イベント振り返ってくれへんか?」

「サイコーでえ~す!!!」

「艦隊の状況、司令はんから見てどんなもんや?」

「最高でーーーーす!!!」

 

 さすがは青葉や龍驤、黒潮。

 お約束を分かって、嬉々として質問を投げてくれる。

 

 が、それを聞いていた比較的最近の駆逐艦娘たち(具体的には、早潮と梅)の間から「ん、何? 何かのマネ?」「この前やっていたWBCで……」などというヒソヒソ話が聞こえてきた。

 

 おじさんの背中に冷や汗が流れた。

 鈴木誠也のヒーローインタビュー……もう7年前……だと!?

 

 そうか、最近の子って、WBCでの岡本和真の淡々とした「最高です」しか知らないんだ。

 

 てことは、元ネタを知らない子たちの目には、とち狂ったテンションで似てない岡本のモノマネをし始めた、痛いおっさんとして……。

 

 う、急に胃が痛くなってきた。

 

 しかも、すかさず次の質問をして「超!サイコォーウ!!!」と叫ばせてくれる、と勝手に思い込んでた心の友、日進だが……。

 

 うん、日進もいまいち分かってない感じで、苦笑いしてる。

 当然で、冷静に考えると日進の着任って2018年12月じゃないか。

 

 いつの間にかおじさん、あの2016年6月18日、日進と一緒にマツダスタジアムで赤いメガホン振ってる記憶まで捏造してたよ……。

 

「ふぅ、仕方ないわね……最後に提督、みんなへのメッセージは?」

「え、あ……さ……最高でぇーす! あ、ありゃじゃしたー!!」

 

 〆の質問をしてくれたビスマルクのおかげで、尻すぼみながらもオチをつけることができました。

 

 

 その夜、提督は嬉しさと恥ずかしさの感情がゴチャマゼになったまま、"大きなレディ"に背中を撫でられながら、静かに酒を飲んだのだった……。

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