秋を通り越して一気に冬の寒さがやってきたようだ。
鎮守府の埠頭では、ワー〇マンの防寒レインウェアを着た提督が震えている。
「まだ十分に水温が下がってないのね」
バシャっと水面に顔を出した
「試しに1本、持ってきたでち」
続けて、ホタテを耳吊りしたロープを手に水面に上がってきたのは
身を包むのは、もちろん提督指定の水着。
艦娘たちにとっては、この程度の寒さは何でもないらしい。
そして、イクが言ったように、提督たちは今年の猛暑による海水温の上昇に悩まされていた。
栄養豊富な湾の水を利用してホタテの養殖もやっている、この農林水産鎮守府。
ホタテガイが普通に生活できる水温は5℃~23℃、18℃前後が最適水温と言われている。
水温が25℃を超えると衰弱し、27℃以上では生存できない。
夏には養殖施設を深場に沈めて、高い水温を避けたりと工夫をしてきたが……。
それでも、ゴーヤが持ってきたホタテ貝の、半分ほどには身が入っていなかった。
夏の間に死んでしまったのだ。
海中を浮遊する幼生をロープや海藻類に付着させ、
1cm程まで育った稚貝は自然に採苗器から離れ、ネットの中で外敵に守られながら、プランクトンを捕食してさらに育つ。
ネットが貝でいっぱいにならないよう、適正個体数を調整して間引きながら、大きなネットに入れ替え……。
ある程度の大きさになったら貝殻に穴をあけてロープに吊るし、たまに水揚げして貝殻を掃除して、餌を横取りする付着生物を取ってやり……。
立派なホタテ貝を育てるまでは2年の歳月がかかる。
それだけに、その努力の結晶がこうして半分も失われたのは、かなりのショックだ。
「でも去年よりはマシかあ」
去年は黒潮(艦娘ではない)の、異常な北上(艦娘ではない)によって水温が急上昇し、ホタテの大量死が発生した。
湾内のあちこちから、絶えずため息が聞こえてきたものだ。
「ロープを短くして、急いで深場に移しやすくしたのが良かったでち」
「うん、苦労した甲斐はあったねえ」
そして今年の猛暑に苦労させられたのは、なにもホタテの養殖だけに限られない。
鎮守府の田んぼや畑の農作物を、異常な暑さから守るのに右往左往。
おかげで、夏恒例の欧州バカンスも延期になってしまった。
「みんなー、ご飯が炊けましたよー」
鎮守府の台所の方から、長鯨の呼ぶ声がする。
ほのかに、味噌汁の匂いも漂ってくる。
艤装の力で、このぐらいの寒さは平気と分かっていても、海から上がったら温かいものを食べてもらいたくて、迅鯨と長鯨にご飯の支度をお願いしておいたのだ。
ふっくらとピカピカに炊きあがった、鎮守府の新米。
もっちりと甘みの強い米に、甘じょっばい「鯛みそ」をチョッとのせて。
ペースト状になった鯛そぼろの旨みが、味噌の優しい甘みと溶け合って口に広がる。
味噌汁の具は、透き通るような大根と、鎮守府で養殖しているワカメ。
水面近くで養殖するワカメも気温の影響を大きく受けるので、猛暑で発芽が遅れて水揚げ量が減っているが……。
県の水産技術センターで、高水温に強い改良品種を研究中だというので、先日は天龍と龍田を勉強会に派遣した。
分けてもらった株で、試験養殖も始めている。
おかずは、ケンサキイカの煮つけ。
剣の先のように尖っているのが名前の由来で、甘味が強いのが特徴の高級イカだ。
これも猛暑の影響か、夏場にだけ回遊してくるケンサキイカが、最近まで湾内に居残ってバカスカ釣れ続けていた。
イカは冷凍保存できるので、まだまだ大量のストックがある。
ケンサキイカのねっとり濃厚な食感と、強い甘さはご飯によく合う。
「水温が下がってくれば、今度はヤリイカも回ってくるのね」
「イカメタルならMeに任せとけ! ゼロテンフォールだって、もう慣れたぜ!」
「ヤリイカはボトムの釣りだから、フォールさせないでち」
「ヤリイカはあたい、得意なんだよね~!こう見えてさっ!」
お天気操作が下手な令和ちゃんに振り回されつつ、ここの鎮守府は今日も元気です。