間宮食堂と鳳翔さんの居酒屋には、ちょっと違うところがある。
例えば、卓上に置いてある、香辛料の小瓶。
七味唐辛子。
間宮食堂はS〇Bの赤い「七味唐からし」。
鳳翔さんの居酒屋はハ〇スのオレンジの「七味唐がらし」。
ハ〇スは辛み控えめで、香りを重視している。
一味唐辛子。
間宮食堂はS〇Bの赤い「一味唐からし」。
鳳翔さんの居酒屋はハ〇スの赤い「一味唐がらし」。
七味と一味が見分けやすいのは断然ハ〇スだ。
胡椒。
間宮食堂はS〇Bの「テーブルコショー」と「あらびきコショー」。
鳳翔さんの居酒屋は銀色の渋い「G〇BAN」の缶。
なお、提督と清霜は「G〇BAN」と聞くと、宇宙刑事を思い出して心が躍るが、昭和版と令和版という違いがある。
調味料にも違いがある。
醤油。
間宮食堂はキッ〇ーマンの売り上げ日本一「いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ」。
鳳翔さんの居酒屋は同じキッ〇ーマンでも「特選丸大豆しょうゆ」。
ソース。
間宮食堂はブル〇ックのド定番「中濃ソース」。
鳳翔さんの居酒屋はカ〇メの銘品「中濃ソース醸熟」。
塩。
間宮食堂は味の〇のベストセラー「瀬戸のほんじお 焼き塩」。
鳳翔さんの居酒屋はCMでおなじみ伯〇塩業の「伯方の塩」。
塩といえば、提督の中年化が深刻になるにつれ、朝潮の塩分量チェックが年々厳しくなってきた。
そのうち本格的な減塩生活を意見具申されるかもしれない。
そうしたら、鳳翔さんの居酒屋の醤油が「いつでも新鮮 味わいリッチ減塩しょうゆ」になるかもしれない。
まあ、それぞれ違って、みんな良い。
そんな八方美人な提督だが、どうしても選ばなくてはならずに悩む時がある。
それが清霜と朝潮の、改二艤装の形態。
火力に優れた改二と、対地・輸送作戦に便利な改二丁。
コンバートできるものの、その都度に資材・資源を消費する。
メインの運用形態は、どちらかに決めておかないといけない。
現在は汎用性重視で2人とも改二丁にしているが、霞、満潮、天津風、初霜の予備艤装が増えて、対地・輸送作戦の戦力には余裕が出てきている。
だったら改二運用でいいんじゃないか?
そちらはそちらで、時雨、雪風、綾波、夕波の予備艤装がそろって、打撃戦力を増やす必要性は……。
優柔不断な提督は2人を呼び出して、本人たちの意向も聞いていたのだが、いまいち結論が出ない。
「これはあれだねぇ、豚のしょうが焼きだなぁ」
突然変なことを言い出した提督に、清霜と朝潮が顔を見合わせた。
間宮食堂と鳳翔さんの居酒屋では、豚のしょうが焼きにも違いがある。
間宮食堂の生姜焼きは、いわゆる「定食屋のしょうが焼き」によくある薄切り肉ではない。
厚切りのロース肉を、包丁の背で丁寧に叩き、筋を切ってから焼き上げる。
ジュウジュウと鉄板の上で踊る豚肉に、生姜を効かせた甘辛いタレを回しかけた瞬間、食堂中に匂いが広がるようなやつ。
焼き上がった肉は、こんがりとした焼き目をまといながらも驚くほど柔らかい。
箸を入れると、繊維がほろりとほどけ、じわりと脂が滲む。
付け合わせのナポリタンは、王道の洋食屋の味。
濃いめのタレなのに、不思議と重たさはなく、次の一切れをすぐ欲しくなる。
どんどんと白飯をかき込ませる「主砲火力型」。
対する鳳翔の居酒屋の生姜焼きは、間宮食堂とはまるで別物だった。
使うのは豚の小間肉。
赤身と脂身の混ざった薄切り肉を、注文が入ってから中華鍋で一気に炒める。
強火にかけた鍋から、バチバチと景気のいい音が響く。
玉ねぎがしんなりする直前で火を止めるのが、鳳翔流。
だからシャキッとした歯触りと、甘みがちゃんと残っている。
すりおろした生姜は、間宮食堂よりずっと多い。
醤油ダレの香りの奥から、ツンと鼻に抜ける鮮烈な風味。
小間肉は薄いぶん、タレの絡み方が深い。
どこを食べても、生姜と脂と醤油の旨味が舌へ広がる。
白飯を全力でかき込ませる間宮食堂の生姜焼きに対し、鳳翔さんのそれは、酒を飲みながら箸を往復させるための生姜焼きだ。
しかも、横にたっぷりのマカロニサラダまで添えてくる。
マヨネーズのまろやかさが、生姜の刺激をやさしく受け止める。
合間にタレの染みた千切りキャベツをかじり、また肉をつまみ、酒を流し込む。
玉ねぎを多めに入れ、酒に合うよう生姜を強めに効かせた「汎用型」。
「それなら断然ロース! 早く戦艦になるにはご飯をモリモリ食べないと!」
「鳳翔さんのしょうが焼きだってご飯に合いますし、玉ねぎで栄養も取れます! 生姜が効いて味は濃いですが、意外と塩分も控えめです」
2人の言い分を聞いて、提督は余計に悩む。
ロースの、噛んだ瞬間に肉汁が広がる破壊力。
小間肉の、タレがよく絡み、どこを食べても安定して旨い安心感。
さらに困るのが、“白飯か酒”でも価値が変わる所。
「ご飯ならロースだって!」
「晩酌なら小間をチビチビの方が食べ過ぎません」
清霜と朝潮の論争がヒートアップする。
「ボスとの殴り合いなら改二!」
「輸送護衛なら改二丁の器用さがお役に立ちます」
提督は堂々巡りで延々悩んだ末……グゥとお腹を鳴らした。
「……つまり、生姜焼きは両方食べれば解決か」
「艤装はそんな気軽に増やせません」
と朝潮が真顔でツッコむが……。
「でも提督、みんなの予備の艤装もたくさん用意してるよね?」
と清霜が期待したような顔で聞いてくる。
提督は優しくほほ笑んだ。
「うん、清霜と朝潮のサブも作ろう。そうと決まれば、ご飯だ、ご飯」
頭の中は、豚のしょうが焼きでいっぱいだ。
「今日は昼も夜も、豚のしょうが焼きを食べちゃうぞお」
「武蔵さんみたいにモリモリ食べようっと!」
「朝潮、お供します!」