ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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【注意】
今回は題名から推測できるように、薄い本ネタ、腐女子ネタが満載です。
また、「秋雲」の文字がゲシュタルト崩壊するかもしれません。


秋雲とスパゲッティナポリタン

この鎮守府に協力してくれている妖精さんたちには、悪癖がある。

妖精さんたちの近くにある最新の機器類はすぐ壊れるという法則(グレムリン現象)だ。

 

そのため、この鎮守府には、パソコンがない。

 

陽だまりでうたた寝している猫のような顔をした、のん気な提督は「パソコンぐらいなくても、別に困らないよね」と、本部の管理部門に多大な迷惑をかけながら平然と言い切るが……。

 

この世には、パソコンがないと死ねる人種がいる(そう、特にオタクだ)。

 

国際的なインターネット網は深海棲艦の出現により、海底ケーブルの寸断や通信衛星との交信不能などで壊滅したが、それでもネット上に溢れる情報は多大だ(特にオタク界の)。

 

だからオタク的嗜好を持つ一部の艦娘たちは、非番になるとネット通信ができる環境を求めて、この鎮守府から外出する。

 

 

しかし、この辺境の鎮守府の周辺には、ネットカフェなど存在しない。

 

東京の新宿駅周辺でネットカフェを探せば、この鎮守府のある県内のネットカフェの総数と同じぐらいの数がすぐに見つかる、と言えば分かりやすいだろうか?

 

…………。

 

はい、真実をオブラートに包もうと、裏返った余計に分かりにくい言い方をして申し訳ありませんでした。

 

正直に言えば、このド田舎の県にある全てのネットカフェを足しても、新宿駅1Km圏内のネットカフェ総数に全然及びません!(逆ギレ)

 

ちなみに、この鎮守府がある県は、全国の都道府県でも有数の面積をもつことを自慢の一つにしているのだが……。

 

 

鎮守府のある駅から一番近いネットカフェがある駅までは、電車で片道1時間以上かかる。

鎮守府から最寄駅までの徒歩20分と、1時間に1本さえ来ないこの路線の電車の待ち時間を考えれば壮大な遠征だ。

 

だが、そんな辺境鎮守府に救いの神が!

 

鎮守府最寄の駅前にある喫茶店「アリス」。

駅前というか、朽ちかけた木造の駅舎を改装した喫茶店で、駅の切符発売も委託されている。

 

深海棲艦の発生で傾いた商社を脱サラして都会からUターンしてきたコーヒー通のマスターが奥さんとともに経営しており、水出しコーヒーとアップルパイが看板メニューだが、農家と漁師ばかりに囲まれた立地柄、朝6時から開店して始めるモーニングセットと、昼ランチのスパゲッティセットが稼ぎ頭である、そんな店だ。

 

鎮守府ではコーヒー豆の買い付けをこの店にお願いしており、そのお礼に艦娘がこの店に来ると、パソコンを自由に使わせてくれるのだ。

 

 

秋雲は、いつもの奥の席についてノートパソコンを持ってきてもらうと、マスターに水出しコーヒーを注文した。

 

長居する者の礼儀として、せめてマスターご自慢のメニューを頼んでおこうという心配りだが、そのまま飲んだ方が美味しいというマスターの意見は断固拒絶し、ガムシロップをたっぷりと入れる。

 

ネットにつなぎ、暗記しているサイトのアドレスを手動で入力する。

認証画面にIDとパスワードを打ち込むと出てくるのは……。

 

『秋雲による秋雲のための秋雲の会議』

 

ログイン:ようこそ Akigumo-11 さん

 

全国の鎮守府に棲息する同志が書き込む秘密の画像投稿型掲示板だった。

 

 

まずは新着を巡回。

「お、01さんの新作漫画がきてる」

 

この掲示板のハンドルネームは全員が「Akigumo-01」や、ここの秋雲のように「Akigumo-11」なので、入会順の数字のみが識別のカギになる。

 

「Akigumo-01」は最古参の漫画描きで、躍動感ある動きの表現と大胆なアングルを得意とする、横須……おっと、どの鎮守府の秋雲なのかは追及しないのがここでのマナー。

 

この掲示板に参加している秋雲の総数は、全鎮守府数にわずかに1人足りない(ことになっている)。

 

どこかの鎮守府には同志がネット上で「なりそこない」と呼ぶ、オタク趣味を発現しなかった秋雲がいるからだ(という設定で、04が2人いるのは公然の秘密だが……)。

 

一切個人は特定せず(特定できてもスルーして)、演習や遠征先で秋雲同士で顔を合わせても、互いに「なりそこない」として振る舞い、この掲示板の話題には一切触れないのが、淑女のたしなみとなっている。

 

「ふぅ……。01さん、あいかわらずオニチクだわ」

 

内容は、巻雲が提督にダイナミックに凌辱されるR-18漫画だった。

ここでは巻雲のラテン語学術名から「シーラス本」と呼ばれ、秋雲間で一定の需要がある。

 

秋雲もUSBメモリーに保存しておいた。

 

「14は……エンジンかかってんなぁ」

 

「Akigumo-14」は繊細で美麗な塗りのカラー絵を得意とするイラスト描きだ。

 

美しい幻想的な桜の下で、着物をはだけた秋雲自身が「くぱぁ」して提督を誘っているイラストだ。

自分を題材にしつつも、手加減やためらいが一切感じられない。

ここでしか公開するつもりがないからなのだろうが「消し」がないし……。

 

「けしからん、もっとやれ」

これも保存。

 

「02さん……相変わらずブレないなぁ」

 

「Akigumo-02」は、リアルタッチのデッサン画に定評があるが……。

大量に投稿されているのは、見る人が見れば○提督と断定できるほどリアルに描き込まれた男性提督の半裸~全裸のイラスト。

 

中には、こちらもどこの提督か特定できる、他の男性提督に組み敷かれている○提督のイラストもある。

 

個人を特定するのは野暮だが、○提督は02の提督である。

自分のとこの提督を「うちの提督は絶対に総受け」と身バレも気にせず声を大にして主張し続ける02は、秋雲間でもかなり突き抜けた存在だ。

 

「そこにシビれるが、ちっともあこがれねぇ」

そんなこと言いつつ保存。

 

筋肉美にこだわる04A、歴史上の人物を絡ませたがるマニアックな09、お姉ショタのパイオニア13……。

 

厳選して全部保存。

 

そして秋雲は、自分が描いてきたイラストを、USBメモリーからアップする。

 

秋雲が描くのは、主に自分のところの提督の逆レ○プもの。

今回は、大和と武蔵の超々弩級姉妹に襲われ、手籠めにされる提督を描いてきた。

 

パソコンを使ってペンタブで描ける他の秋雲と違い、紙原稿をコンビニのスキャナーで取り込んだものなので修正が効かず、秋雲としてはクオリティに自信がないのだが、他の秋雲たちからは「味がある」として好評だ。

 

画像のアップ直後に、「Akigumo-10」から賞賛のコメントが寄せられる。

ああ、描いて良かった、と全ての苦労が報われる瞬間だ。

 

 

追加注文した、スパゲッティナポリタンを食べつつ、チャットルームに同志が数人いるのを見つけて移動。

 

提督間のカップリング論争や、互いの鎮守府にいる準同志であるメロンやリプル(夕張や漣)について同時並行で語り合う。

 

ナポリタンの味は……良い意味で普通の昔懐かしい喫茶店のナポリタン。

 

ここの提督が作る妙に完成度の高いホテル風のナポリタンや、鳳翔がたまに作っては毎回なぜかベチャッとした仕上がりになってしまう、おかん風のナポリタンとも違う。

 

ケチャップの旨味を残しつつ、まろやかに丸められたマイルドな出来上がり。

 

最初から甲など狙っていないが、乙な味。

 

「こういうのでいいんだよ、こういうので」

 

秋雲はスパゲッティナポリタンにセットでついてきたクリームソーダを飲みつつ、チャットでの新たな話題「秋雲合同・鹿島オンリー本」の製作計画にのめり込んでいった。


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