ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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【番外編】鎮守府の祝勝会(2017春)

夕刻になり、そろそろ仕事を終えようとした時に、執務室の電話機が鳴った。

 

ダイヤル式の古い黒電話。

 

提督は受話器を取り、端的にこの鎮守府がある地名だけを伝える。

 

「はーい、天草だよっ♪」

幼女風のアニメ声で、相手の鎮守府がある地名が告げられる。

 

「さつき」

「ズバリ節約だよ、お兄ちゃん!」

 

保安手順に則った、今月の花言葉による合言葉の確認なのだが……。

 

「お早う! どう、毎日元気に嫁とヤッてる?」

 

無駄なテンションの高さと、ハスキーな地声に戻ったとたんの躊躇いのない下ネタ。

確かめるまでもなく、天草の腐女子提督(元声優志望)だ。

 

彼女の外見を伝えるには一言で済む。

集積地棲姫とそっくり。

 

「進○の巨人」ではないが、集積地棲姫が登場した時、彼女が深海棲艦に変化したのではないかと、軍令部がパニックに陥ったほどだ。

 

面倒な性格はしているが、大洗や酒田、横須賀の提督と並んで、非社交的なここの提督と仲良くしてくれる提督の一人だ(木更津は腐れ縁過ぎて除外)。

 

「燻製、うまかったよ~! 北方水姫、倒せたらしいねぇ。おめっと~!」

 

大規模作戦の攻略情報をくれたお礼に、燻製を送ったことへの返礼と、作戦終了のお祝いの電話らしい。

 

「うん、ありがとう」

「うちの間宮が色々詰め合わせた戦勝祝い、そっち送っといたからさ。着いたら、みんなで食べてよ、お兄ちゃん」

 

天草提督の正確な年齢は知らないが(各提督の個人情報や過去の詳しい経歴は、海軍によって厳重に保護、隠ぺいされている)、ここの提督よりは少しだけ年下らしい。

それを強調するためか、ことあるごとに「お兄ちゃん」と呼んでくる。

 

「いつもすまないねぇ」

「それは言わない約束だよ、お父っつぁん」

 

天草提督の冗談めかした会話はいつも、ちょっとした息抜きになる。

 

天草は九州の熊本県にある、青い海に囲まれ、緑豊かな山々を擁する美しい島だ。

 

春はムラサキウニやカレイ、初夏にはイサキやアジ、イシダイ。

夏にはアカウニやハモ、イワシ、マダコ。

秋は伊勢エビやアオリイカ、冬にはブリやカンパチ。

 

魚介類の他にも、四季折々の火の国・熊本が誇る、豊かな大地と水の恵みに育まれた素晴らしい食材や酒を送って来てくれる。

頼もしい友好鎮守府だ。

 

もちろん、こちらからも北の海で採れた珍しい魚介類や、寒い地方ならではの食材を定期的に送っているし、互いの地元の業者を紹介し合うことで仕入れ先の充実にもつながっている。

 

「こっちは雨すごかったよ。もう夏が来ちゃうの!?って思わせといてさ、いきなりドバーッと!」

 

会話のキャッチボールが得意ではないここの提督だが、天草提督のリードで、しばらくは楽しい会話を続けたのだが……。

 

「でさぁ、お兄ちゃ~ん。ちょっと言ってみて欲しいセリフがあるんだ♪」

 

突然、幼女声に切り替わる天草提督。

天真爛漫な幼女声なのに、その裏に隠しきれない邪悪さが満ち溢れている。

 

「一言『ねえ、僕の“ピーー”が欲しいんでしょ?』ってネチ攻めのノリで言って! その後は『○○(呉の熱血イケメン提督)君の“ピーー”の中は熱いね……』って」

 

ガチャン!

 

提督は叩きつけるように電話を切った。

 

セクハラ、ダメ絶対。

 

 

天草提督の電話で精神的にドッと疲れさせられたが、提督は風呂に入って(汚された)魂の洗濯をしてから、艦娘寮別館の宴会場に向かった。

 

今日は、大規模作戦の勝利と新人の歓迎を祝うための、大宴会の日だ。

 

関東では夏日が記録されたらしいが、こちらの方では気温はまだそれほど上がっていない。

さすがに真冬に活躍した毛布一枚は外され、電気のスイッチを入れることは少なくなったが、コタツ自体はそのまま置いてある。

 

温泉上がりの艦娘たちの浴衣や袢纏 (はんてん)にも、まだ秋冬物が混じっている。

完全に衣替えが行われるのは、田植えが一段落した6月になるだろう。

 

宴会場には、艦娘たちがギッシリ。

200人収容のこの宴会場も、今回新たに6人の艦娘たちが加わったことで、とうとう満員になってしまった(提督も加えると定員オーバーだ)。

 

各コタツ席の上に出ているのは、藻塩とゴマ油で味付けしたじゃこ豆腐、大根おろしとポン酢ベースのタレをかけて大葉をふったナスの素揚げ、新ジャガのひき肉あんかけ。

 

お手伝いの駆逐艦娘たちが忙しげに運んでいる大皿には、カツオ、タイ、アイナメ、シマアジ、ホタテの刺身。

 

奥の厨房では、鳳翔が細切りにした山芋の束を海苔でくるんで、パリッとした磯辺揚げを揚げている。

 

一階の食堂では、間宮と伊良湖がメインの鶏鍋の最終準備。

青森シャモロ○クの胸肉ともも肉、つくねに、ニンジン、ネギ、ゴボウ、シャキシャキの水菜、えのき、しいたけ、春雨、そしてコクを加える油揚げ。

 

大規模作戦のおかげで鎮守府の資源はスッカラカンになったが、代わりに作戦中に北海道と青森で仕入れた食材のストックは大量にある。

 

日本最北端の酒蔵が作った北海道 留萌(るもい) 国稀(くにまれ)の大吟醸や、青森の地酒の魅力が詰まった 田酒(でんしゅ)の山廃など、深海棲艦のおかげで運送料が高騰している昨今、手を出しにくい価格になっていた酒も現地価格で色々と集めてきた。

 

 

「みっなさーん、乾杯用のグラスは行き渡ってますかー? きゃはっ、準備オッケーですね♪ そっれじゃあ開会の挨拶はぁ、新しく鎮守府の仲間に加わった戦艦ガングートさんにお願いしたいと思いまーす! みなさーん、たっくさんの拍手をお願いしまーす!!」

 

キレの良い那珂の司会と、一瞬にして部屋を暗くする川内の照明操作、その瞬間にガングートを照らし出す絶妙な神通のスポットライトさばき。

 

今日の宴会も楽しくなりそうです。




みなさん、おつかれさまでした。
E-2まるゆ掘りを続けたかったですが、母港枠の関係で私の春イベは完全終了です。
次の夏は地獄になるかもという予想もありますし、低燃費錬成と備蓄、そしてこの話の執筆の日々に戻ります。

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