弱い雨がシトシトと降り、まだ梅雨の明けないこの地方。
提督の執務室には、そんな梅雨の季節を彩る家具職人入魂の紫陽花の壁紙が貼られている。
梅雨の季節を楽しく過ごすため、家具職人が腕によりをかけて作った梅雨の緑カーテン窓には、睦月と如月のてるてる坊主が揺れる。
心も安らぐ香りが爽やかな、い草の畳に風流な職人和飾棚。
掛け軸には「申し訳ありません。反省致します。」と、提督の胸中が語られている。
実は提督は昨日、横須賀鎮守府の見学に行き、すでに梅雨が明けた関東の蒸し暑さにやられて夏バテになっていた。
気合いの入り過ぎた横鎮の熱気を目の当たりにしたのも悪かった。
深海棲艦の発生により撤退した、在日米軍横須賀基地を丸々流用した広大な敷地。
莫大な物資がオートメーション化された配送レールに乗り、仕分けされながら近代的な倉庫や工廠の間を行き来する。
うちでは、管理係の愛宕姉妹が大学ノートに手書きで管理してるのだが……。
沖合いで遠征の艦娘たちを回収したホバークラフトが帰還すると同時に、新たな遠征組のホバークラフトが埠頭から発進していく。
出撃艦隊も同様、1秒たりと無駄にしない山手線のダイヤのように精密で効率的な艦隊運用。
艦娘たちは鎮守府内を定期巡回する無人カート車を乗り継いで迅速に移動する。
コンピュータが配送レールの経路網を操り、艤装や装備が生き物のように物資の波をかき分けて出撃艦隊の元へと届けられていく。
F1のピット作業のような無駄の無い動きで艤装や装備を換装していく、艦娘と妖精さんたち。
うちのダラッとした妖精さんたちと、何か違う……。
「資源や資材、装備は全てバーコードにより、1個単位でコンピュータ管理されています。提督からの指示は全てイントラネットを通じてリアルタイムで……」
鎮守府設備について説明してくれる、スーツ姿の横須賀の青葉。
自分たちの鎮守府の青葉に比べて、何というか……プロの広報官のようなキャリアウーマンっぽい大人びた艦娘だった。
震電改、試製南山、F6F-5、熟練聴音員+後期型艦首魚雷(6門)などという、噂にしか聞いたことのないレア装備。
16inch三連装砲Mk.7+GFCS(☆Max)、32号対水上電探改(☆Max)などという、改修に狂気じみたネジを消費する贅沢装備。
戦艦レ級を圧殺し、ストレートで(それでも2回はE風に流されていたが)サーモン海域北方を容易に攻略する化け物じみた一軍の機動部隊。
二軍でさえ、全艦娘がケッコンカッコカリと増設補強済みで、ローテーションを組みながら1時間に5回以上も高難度海域に出撃していく。
「今月は大規模作戦前ですし、出撃は少し控えめです。最大時は1時間に10出撃、過去の時間最大戦果は30を……」
あまりにも次元の違う、意識が高い系の鎮守府運営に圧倒されてクラクラしていたら……。
「気にすることナイデース! 提督だって、もう100人とケッコンしてマスネー! 横須賀に次ぐ、ケッコン数では第2位の鎮守府デース!」
「増設補強の数は負けてても、提督だってほとんどの子に穴開けてますしね。性的な意味で……」
と、同行していた金剛と北上が励まして(?)くれた。
「北上さん、下品よ。けれど提督、それは私も同意見。私たちは戦果やレア装備はともかく、錬度でも提督との絆でも、決してここの子たちに引けをとりません。ケッコンも、その絆の証……信じて欲しいものね」
そう、加賀が言ってくれ、提督も気を取り直した。
ちなみに、うちの鎮守府では提督が「ケッコン」の後に「カッコカリ」をつけたら、魚雷40発の刑だと公示されている(「今さら逃げたら○しますよ?」by某雷巡)。
気を取り直し、夕方は羽田空港への乗り換え途中に、京急蒲田で楽しく飲み食いしたつもりだったのだが……。
暑さにイチコロでやられてしまったらしく、帰りのUS-2の機内で吐いて、微熱を出してしまった。
やはり、横須賀の凄さに圧倒されて、心が少し凹んでいたのかもしれない。
だって、艦娘たちの質はともかく、提督の質ではどうしても負けるし……。
しっかり猛反省して、夏は態勢を建て直します。
という思いを込めて反省の掛け軸をかけているが、赤城の膝枕に寝そべる提督の顔に深刻な色は無い。
「また私を置いてきぼりにして、加賀さんと美味しいものを食べに行くからバチがあたったんですよ?」
提督の耳かきをしながら、赤城が頬を膨らませる。
本当は今回の随行、赤城が行く予定だったのだが、急遽加賀に変更した。
「おみやげは買ってきただろ? それに……小破でもないのに、出発直前に入渠4時間超えになった赤城のせいじゃないか」
「修復材を使ってくださればいいのに」
「大規模作戦の前に、そんな無駄遣いはできません」
「それで……本当のところ、横須賀は……うらやましかったんですか?」
赤城が、提督自身で何度も自問自答したことを尋ねてくる。
「そうだなぁ……戦果首位になるより、こうして艦娘と触れ合ってた方がいい」
「もう、どこを触ってるんですか! はい、耳掃除終わりです」
提督は赤城の膝から頭を起こすと、ちゃぶ台の前の座布団に座った。
ちょうど執務室のドアがノックもなく開けられ、霞が大皿にいっぱいのポテトサラダを持ってきてくれた。
「ほら、た……食べたいかな……と思って。な、何よ!?」
ガツンと、ちゃぶ台に置かれる大皿。
「うっふふ♪ 提督、こちらもどうぞ」
続けて、夕雲が
涼やかで艶やかな一品。
「提督、甘えてくれても、いいんですよ?」
鉢をちゃぶ台に置きつつ、にじり寄って太ももを当ててくる夕雲。
「ふふっ……提督といい、巻雲さんといい、スキンシップ大好きで……」
「ほらほら、どいたどいた! 司令官、夏バテなんかに負けちゃダメよ!」
提督に太ももを触らせる夕雲を蹴散らし、雷が料理を持ってくる。
「豚肉と茄子とピーマンを、味噌で炒めたわ! スタミナつけなきゃ!」
「茄子とピーマンは、さっき畑から採ってきたのです」
「ハラショー。夏バテに効くかと思って、六駆のみんなで作ったんだ」
「ああ、これは美味しそうだね」
「ほら、食べさせてくれてもいいのよ?」
提督の膝の上には暁が乗り、ちゃぶ台には艦娘たちが作ってくれた料理が並んでいく。
「提督が、貴方がいるから、今の私は安心してます。ほんとです」
大鳳が持ってきてくれた小アジの南蛮漬けは、アジの旨味が濃く、タマネギ、ピーマン、ニンジンと野菜たっぷりで、さっぱりした酢の風味に、ピリッとした唐辛子の辛みが絶妙。
その後も、次々と艦娘たちがやって来る。
「はい、これも美味しいですよ」
赤城が、スパイシーなスペアリブを口に運んでくれる。
誰が作ってきてくれたのだろう……。
タレだけでも美味しいのに、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出して、無限スパイラル。
「鳳翔さんから浮気者の旦那様へ、寛大な差し入れですよ」
耳元に唇を寄せ、赤城がそっとスペアリブの作者を教えてくれた。
うん、日本首位の鎮守府も、別に羨ましくはない。
うちはうちで最高に幸せですから。
投稿が空きましてすみません。
実は今、今回の話の真逆で、久しぶりにランカー挑戦しております……。
ですが、前にやった時よりもっときつく感じる……毎日5-4回ってちょっと良い装備もらうより、色々と妄想してここの話書いてる方が絶対に楽しい……
のは確かなんですが、今さら止めるわけにもいかないので、月末までちょっとご無沙汰かもで失礼します