ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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浜茶屋間宮の棒棒鶏

青く透き通る海に、どこまでも続く白い海岸線。

波打ち際で遊ぶ、水着姿の大勢の艦娘たち。

 

もとは漁協の事務所だった、無味乾燥な鉄筋コンクリート2階建ての鎮守府庁舎。

その庁舎の狭い提督執務室に、匠の職人の卓越した技術によって、波打ち際の砂浜がダイナミックに再現されていた。

 

砂浜に砂のお城を作っている第六駆逐隊の面々と離島棲姫。

天龍のジェットスキーに曳かれる駆逐イ級型フロートに乗って遊ぶリベッチオとほっぽちゃん。

駆逐艦娘たちとともに魚雷棒で西瓜割りをする、最上と三隈。

 

ビーチバレーで接戦を演じる、長門・大鳳と南方棲戦姫・装甲空母姫。

神通と軽巡棲姫は、他の軽巡洋艦や軽巡棲鬼を巻き込んで、真剣勝負のビーチフラッグ大会を繰り広げている。

 

みんなの喧騒からちょっと離れたパラソル。

 

「集積ちゃん、望月ちゃん、パラソルの下にばっかりいないで遊びに行くっぴょん!」

「ヤメロヨォ……ワタシハ、イイヨォ」

「まぁーいいんだよ、動くとしんどいから。ぼーっとしてよ?」

「ダメダメ、この夕張特製のジェット推力付き浮き輪もあるから、試してみて」

「ゼッタイ……バクハツスルダロ、ソレ……ヤメロッテェ」

 

卯月と夕張に引っ張り出され、海へと連れて行かれる望月と集積地棲姫。

リゾートチェアに身を横たえてフローズンカクテルを飲む五十鈴と龍田と潜水夏姫が、それを笑顔で見送る。

 

今日は馴染みの深海棲艦たちも招いて、鎮守府総出で夏休み。

夜はバーベキューに盆踊り、花火と予定も盛りだくさんだ。

 

 

「ヘーイ、提督ぅー! 深海棲艦と遊ぶのもいいけどさぁ、時期と相手はわきまえなよぉ!」

 

金剛から抗議を受ける提督も、リゾート感満載の夏季特別仕様のハンモックにごろんと寝そべり、夏を満喫している。

 

金剛の怒りの原因は、その横で提督に抱きついて身をくねらせる、ヒップラインを丸出しにした扇情的な紐ビキニの2人の黒髪の女性……。

 

「大規模作戦の前だってのに、戦艦夏姫にキラづけしてんじゃないわよ、このクズ司令官!」

 

ただでさえ普段より高い耐久力を誇る夏モードの戦艦棲姫が、キラキラ状態になった艦娘のように、フラッグシップの黄色いオーラを纏っている。

さっき提督にサンオイルを塗ってもらって、戦意高揚(キラキラ)したのだ。

 

怒る金剛と霞を、提督に抱きついたまま振り返り、フフンと挑発的に笑う戦艦夏姫たち。

 

「Oh、Shit!!」

「○ねば良いのに!」

 

「提督、榛名にもサンオイルお願いします!」

「私にも塗りなさい! レーベとマックスにも塗ってあげたんでしょ!?」

「テイトク……コレ、ワタシニモ」

 

どさくさ紛れに、自分達もサンオイルを塗ってもらおうとする榛名とビスマルク、港湾夏姫。

 

「ブスイナ……ヤツラ……メ……ッ! カエレ…ッ!」

「何ですって!? 帰んのは、あんた達でしょうがっ!」

 

その横で額を突き合わせ、サンオイルを手に睨み合う重巡夏姫と足柄。

 

「みんな、今日は休戦なんだから仲良くしなさい」

 

などと、のん気なことを言って、港湾夏姫の差し出すサンオイルを受け取ろうとする提督だが……。

ガシッとその腕を水着姿の大和と武蔵につかまれた。

 

「提督、あちらまでご一緒しましょうか」

いつも通りの美しい笑顔だが、大和の目が笑っていない……

 

大和が腕を引っ張り、提督をハンモックから下ろそうとするが、港湾夏姫が提督を取られまいと反対側の腕を引っ張り返す。

 

「ちょっと、痛いから……そんな力で引っ張ら……武蔵まで!?」

「あっちでは防空棲姫がキラキラしていたぞ? 提督よ、2年前の夏の地獄を忘れたのか?」

「でも、今日は彼女たちはお客さんなんだから……痛っ、本当に痛い!」

「不公平ですっ! 私たちにもちゃんとキラづけしてください!」

 

全力で提督の腕を引っ張り合う大和・武蔵と港湾夏姫、そこに他の艦娘や深海棲艦も加わり……。

やがてビーチに提督の悲鳴が轟いた。

 

「バカね、天罰よ」

「こうして悪の提督は滅び、海に平和が戻りましたとさ……うふふふふっ」

 

リゾートチェアに横たわったまま、五十鈴と龍田が笑うのだった。

 

※提督はこの後、艦娘&深海棲艦(スタッフ)が美味しくいただきました。

 

 

一方、提督争奪戦には興味を示さず、ひたすら浜茶屋で飲食を繰り返す、赤城と加賀と空母棲姫。

 

間宮と伊良湖も水着モードだが、艤装も装着していて料理提供力にぬかりはない。

定番のカレーライス、ラーメン、焼きそばの他にも、様々なメニューが並んでいる。

 

契約農家から送られた味が濃い地鶏に、鎮守府の畑で採れた夏野菜、キュウリ、トマト、ショウガ、ニンニクをたっぷり使い、ゴマダレをかけた特製棒棒鶏(バンバンジー)

 

棒で叩き、やわらかくして丹念に蒸しあげた鶏肉と新鮮野菜に、絶品ダレがからむ。

 

「さすが間宮さんですね、素晴らしい味です」

「気分が高揚します」

「ウマイ……ウマイゾ」

 

「次はローマさん作の鰻のトマト煮込みを頼んでみましょう」

「良い案です、赤城さん」

「ヨシ……マカセタ」

 

こっちはこっちで勝手にキラキラしている。

 

余った鶏皮は、ピーマンとともにカレースパイスで炒め、飲兵衛組のおつまみに。

 

「いや~海でのビールは格別だねえ。かっははー!」

「ポーラは、お酒に使っちゃったから、今年は新しい水着はパスですぅ。だから全部脱ぎま~す」

「コレ、オイシイノレ」

「今日は休戦だ、遠慮なく飲んで食え。私も今日ばかりは飲ませてもらおう」

「ヤァダ、カライジャナイ! ……コワレチャウ…ウフフッ!」

 

浜茶屋の周りでは、夜のバーベキューの準備を進めるアイオワたち。

盆踊りのために瑞雲櫓(謎)を組み上げている日向たち。

花火の準備をする陸奥たち(危険が危ない)。

 

たくさん遊んで、たくさん食べて、敵も味方も夏期大規模作戦に向けて英気を養っております。


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