ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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第七駆逐隊としろくまアイス

 暦の上では残暑の候だというのに、気温20℃を下回る肌寒い日々。

 空は鈍色に曇り、鎮守府の埠頭には小雨までパラついている。

 

 だが、出撃に向かう艦娘たちの士気は高く、その熱気は夏の太陽の輝きのように熱い。

 

「航空戦艦日向、推参!」

 

 瑞雲魂と書かれた緑の法被を羽織り、瑞雲を満載して出撃していく日向。

 

「五十鈴、出撃します!」

 

 対潜装備をフル装備して出撃していく五十鈴。

 

「綾波型駆逐艦、朧、行きます!」

「曙、出撃します!」

「駆逐艦漣、出るっ!」

「潮、参ります!」

 

 主砲と対潜装備、対PT小鬼用の機銃をバランスよく装備して出撃していく、第七駆逐隊の面々。

 

 彼女たちが出撃していく先は、作戦目標方面とは別のリンガ泊地東方。

 特Ⅱ型(綾波型)駆逐艦の、狭霧をサルベージするための、いわゆるドロップ狙いだ。

 

 艦娘をこの世界に顕現させるためには、あの戦争の特別な「想いのカケラ」を感じる何らかの素材、建造資材と呼ばれる触媒が必要になる。

 

 建造資材は日々の本部からの補給や、出撃先の海域でも簡単に得ることができるが、特定の「想い」と強く結びついた建造資材からは、特定の艦娘を顕現させやすい。

 

 現実世界の狭霧が沈没した場所に対応する、深海棲艦が支配する異世界の海。

 その海域に出現する、PT小鬼に守られた駆逐艦の残骸から、狭霧を顕現させることに成功したという報告が、他鎮守府から多数寄せられている。

 

 カレー洋の要衝リランカを強襲して敵拠点を無力化し、緊急展開してきた敵主力艦隊を撃滅して、さらなる西方ステビア海への進撃を可能とした鎮守府だが……。

 

 とある“大人の事情”によって提督が赤疲労状態に陥り、作戦指揮が困難になった。

 

 そこで今日は、日向が比較的安全なこの海域での現場指揮を一任され、徹底的な狭霧掘りを行っている。

 

「いや~、安い女の集まりですなぁ」

「しっ、聞こえちゃうわよ」

 

 漣のボヤキに、曙が注意する。

 

「艦載機を放って突撃。そうか……やはりこれからは航空火力艦の時代だな」

 

 時代の最先端を往くマルチロールファイターたる瑞雲を大量に大空へ放ち、敵水雷戦隊を爆撃した後に、強力な試製41cm三連装砲の砲撃を叩き込んで撃破していく、航空戦艦娘の日向。

 

「それで隠れたつもり? 五十鈴にはお見通しよ!」

 

 待ち伏せする敵潜水艦隊に先制爆雷を投下し、圧倒的な制圧力で潜水艦を狩っていく五十鈴。

 

 思う存分に自分の得意技を披露してMVPを連発する2人は、朝からの連続出撃でも、ずっと戦意高揚のキラキラを保ったままだ。

 

 そして、漣たち第七駆逐隊も疲労状態に陥ることなく、メンバー交代なしで出撃を重ねている。

 

「ご主人様? 駆逐艦にもキラ付けを受ける権利があると思うのですが? えっへへへっ♪」

 

 さすがに午前の連続出撃で疲れを感じ始めた昼食の際。

 食堂の奥から疲労艦の気配を察知して様子を見ている、間宮の視線(通称、間宮点灯)を感じ、漣が提督におねだりをしてみたところ……。

 

「アイス(゜∀゜)キタコレ!」

 

 間宮が作ってくれた、かき氷に練乳をのせ、イチゴやパイン、みかん、さくらんぼなどの果実と小豆をトッピングした、九州は鹿児島の伝統的氷菓子「しろくま」。

 

 シャキシャキしたかき氷の食感に、濃厚な練乳と小豆の甘み。

 そして宝石のように目と舌を楽しませる、凍らせたたくさんの自家製果実。

 

 銀の器の表面に白く浮かぶ霜。

 冷たい甘味が、連続出撃で火照った身体にじんわり染み込んでいく。

 

「えへへっ。美味しかったよね、間宮さんのしろくま」

「元気百倍になったかも」

「……はぁ~、やっすいわぁ。ボノなんか、一口でキラッてるし」

「そういう漣もでしょ! あと、ボノって呼ぶな!」

 

 結局、みんなキラキラしてしまった。

 

 その様子を少し離れた席で見ていた日向が、湯呑みを片手に満足そうにうなずく。

 

「ふむ。士気維持のための甘味補給……実に理にかなっているな」

「アンタの場合、瑞雲見てるだけでもキラキラしてるじゃない」

 

 曙のツッコミにも、日向はどこ吹く風だ。

 

「違うな、曙。私は瑞雲と心で繋がっているのだ」

「うわぁ……」

「漣、その顔はちょっと引いてるかもです」

 

 食堂に小さな笑い声が広がる。

 張り詰めた出撃の合間の、ほんの短い休息。

 

 そして……。

 

「来たわよっ! 右舷前方、PT小鬼群接近!」

「ほいさっさ~♪」

 

 第七駆逐隊は姉の狭霧を探すため、再び戦いへと突入していくのだった。

 

 ・

 ・

 ・

 

【おまけ】

 

 艦娘寮の夜。

 休憩室の片隅に海外艦たちが集まり、欧州救援作戦について話をしていたが、ふとしたことから気候の話題となった。

 

「Japanの夏は、かなり暑いと聞いていたけど……寒いわ」

 

 えんじ色の芋ジャージを着たイギリス戦艦娘のウォースパイトが、身を震わせながら言う。

 この冷夏に夏物の浴衣では寒いので、ジャージを寝巻き代わりにしているのだ。

 

「ふっ、無様ね。兵站をおろそかにするからよ」

 

 こちらは綿入りの袢纏(はんてん)を引っ張り出して着ている、ドイツ戦艦娘のビスマルク。

 

「気になっていたのだけれど、どうして!? 袢纏は衣替えのときに、ムラクーモに没収されたはずじゃ?」

「ふふふ、これは自腹で買った私物よ。ドイツ(うち)の部屋には、自前のコタツーもあるわ」

 

「自腹……そんなものもあるの?」

「それでは、365日コタツーを出しっ放しにできるのか? 恐ろしい……もし、貴様のような奴がドイツ陸軍にいたら、我々はスターリングラードで負けていたかもしれない……」

 

 ビスマルクの言葉に、無駄な衝撃を受けるウォースパイトと、同様に芋ジャージを着ているロシア戦艦のガングート。

 

 特にガングートは、着任直後に衣替えがあったため、コタツと出会ってすぐに引き離されることになり、未練たっぷりだった。

 

「皆さん、お茶を淹れましたよ」

 

 ユ○クロのスウェットの部屋着を着たフランス水上機母艦娘のコマンダン・テストが、木のお盆に湯呑み茶碗をいくつも載せて台所から戻ってくる。

 

「Oh、コンブチャ! Niceね!」

 

 畳に寝そべって漫画を読んでいたアイオワが起き上がり、ノーブラの胸元が浴衣の中でブルンと揺れる。

 

 欧米では以前、「Kombu-cha」の名前で発酵茶(紅茶キノコ)が流行したことがあったが、もちろんここで出されているのはそんな流行の品ではなく、戦前からの伝統ある赤い缶に入った玉○園の粉末昆布茶だ。

 

「ふはぁ~」

 

 深い旨味の昆布茶を飲んで温まる海外艦娘たち。

 ここの鎮守府では、海外艦娘たちの干物化が深刻です。

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