ある鎮守府のエンゲル係数   作:ねこまんま提督

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現在(2017.08)進行中のイベントのE-3攻略中のお話です。
ネタバレや攻略法を見たくない方は回避して下さい。


時雨とゴーヤチャンプルー

小雨が煙る中、艦娘寮の大広間では宴会の準備が進められていた。

 

「卓毎に、取り皿12枚と刺身皿6枚、乾杯用のビールコップ6個をあらかじめ用意します。最初から出すお料理は、お通し三種盛に、サラダと肉じゃがの大皿……この黒板の図のように置いてください」

 

お手伝いの駆逐艦娘たちに、軽巡洋艦娘の名取がテーブルセッティングを説明する。

普段、出撃や遠征で駆逐艦娘たちを指揮する時とは違って、自信のある堂々とした話し方をしている。

 

階下の大食堂の厨房では、同じように軽巡艦娘たちが駆逐艦娘たちに、下ごしらえの手順を説明していた。

 

「畑からミョウガが届いたら、表皮だけ軽く洗い流して。こすらず、水につけ過ぎず。すぐに乾かしたら、この味噌を塗ってトースターの板に並べてください」

 

「これワンタンの皮ね。ここにスティック状に切ったチーズを入れて、この調味料をひとつまみふったら、こうやって巻いちゃって。揚げるのは鬼怒たちがやるから、こっちも気合い入れて1000本巻いてくよ!」

 

神通と長良が、手本を見せながら手順を説明する。

 

「おい、羽黒。天龍が追加で買ってきたビールはどうした?」

「あ、はい、食堂の冷蔵庫に5ケース……地下に10ケース運んでおきました」

「あのぉ、ポーラの頼んだワインは……」

 

各所で、それぞれ宴会の準備を進める艦娘たち。

 

 

鎮守府の艦隊は、深海領域のステビア海に進出していた。

現実世界でいう旧イギリス領オマーンのサラーラ港付近に橋頭堡を築き、反復輸送により紅海方面への進撃用物資を大量に揚陸した。

 

この橋頭堡撃破のために南方より迫ってきた、重巡夏姫の率いる迎撃集団に決戦を挑み、ステビア海の制海権を完全なものとするのが、本日の出撃の目的だ。

 

基幹となるのは、天城、葛城、龍驤の空母機動部隊。

高速戦艦の比叡を筆頭に、鈴谷、三隈、足柄からなる打撃部隊。

阿武隈に率いられた、霞、島風、時雨の水雷戦隊。

遊撃要員として、重雷装巡洋艦の木曾が随伴している。

 

今回の大規模作戦海域の門には、深海棲艦たちによる呪いが数多くかけられている。

ある海域の門を通過した艦娘は、離れた別海域の門を通過することが困難となるのだ。

 

つまりは今作戦中、一度作戦に使用した艦娘は、別の海域の作戦には使用できなくなる。

その制約の中で、提督としては現状で出し得る、最大限の手札を思いきって切ったつもりだ。

 

すでに軽空母としての改二艤装を手にしている鈴谷は、育成中である新たな航空巡洋艦の艤装を、阿武隈も練度が低い予備の改二艤装を使用している。

 

深海棲艦の門への呪いは、どうも艤装に対してかかるらしいので、艤装を切り替えれば別海域への出撃も可能となる。

 

そういうやりくりをしつつも、代替の効かないかなりの戦力をこの戦場に投入した。

 

輸送作戦に参加していた皐月に替えて、夜戦での一撃必殺の成績に定評がある時雨を切り札としてメンバーに加えたのも、重巡夏姫を危険視してのことだ。

 

「撃ち漏らしは避けたいな……」

「誰かが思い切り重巡夏姫にキラ付けをしたから大変ですけどね」

 

執務室の机に向かい、某特務機関のグラサン司令官風に渋くキメてつぶやく提督に、横に立つ大淀が嫌味を言う。

 

「足柄さん、ビーチでの決着をつけてやるって張り切っていました。期待しましょう」

 

そう言って提督の机にお茶の入った湯呑みを置く、正妻の鳳翔さん。

 

提督の額を冷や汗がこぼれ落ちる。

ほがらかに笑いながらも鳳翔さんが出してきたのは、滋養強壮にはいいが、とてつもなく苦い蜂の巣茶だった……。

 

 

那珂は雨が降る中、朝から畑に出ていた。

長ネギの様子を見つつ、今晩の宴会に使う食材を調達するためだ。

 

長ネギ畑には、マルチというシートが敷いてある。

表面は白色で、日光を反射することで地熱の上昇を抑えつつ、葉に下からも反射光を当てて日照不足をおぎない、白色を嫌う害虫の接近を抑制する。

裏面は黒色で、その遮光効果によって他の雑草の発芽を妨害する。

 

「いやぁ、これ考えた人ってすごいよねぇ」

 

この白黒マルチの助けを借りて、那珂たち第四水雷戦隊の長ネギは冷夏の中でも何とか順調に育っている。

 

病気や害虫が発生していないことを丹念にチェックする。

 

葉の表面にサビのような赤褐色の斑点ができる、さび病。

葉に淡黄色の紋ができる、べと病。

ネギを齧って倒してしまう、ネキリムシ。

放っておくと株ごと枯死するまでネギを食べ、ウィルスも媒介する、ネギアブラムシ。

 

安全を確認したら、食材調達へ。

 

みょうがは、開花前のまだ締まっている蕾を収穫するのが理想だが、なかなか見つけるのが難しい。

薄黄色の花が開き出しているのを見つけ、その周りのまだ開いていない蕾を、地下茎を痛めないよう注意しながら手でねじり採る。

 

ゴーヤは、収穫時期の判断が難しい。

形も大きさも不ぞろいのため、どれが食べ頃なのか……。

 

「こことここの列のやつから、これぐらいの大きさでイボが丸くなってるのを。もう黄色くなり始めたのは、後は味が落ちるだけだから大きさに構わず全部採るでち」

「はい、ろーちゃん、がんばりますって」

 

潜水艦娘の方のゴーヤが、収穫するゴーヤをろーちゃんに指示している。

那珂は周りの駆逐艦娘たちに聞こえないよう、小さな声でゴーヤに話しかけた。

 

「今日、勝てるかなぁ? 宴会の準備、無駄にならないといいけど……」

「さぁ……。ゴーヤたちの仕事は、資源や食べ物を集めて準備をすること。無駄になったとしても、また集めるだけでち」

「そうだよね。よーし、那珂ちゃんもでっちを見習ってがんばろーっと!! キャハッ♪」

「キンキンと声がうるせーでち。あと、でっちって呼ぶなでち!」

 

 

「いきなり鈴谷が大破したときは負けるかと思いましたわ」

「前の艤装だったら、あんなの絶対避けられてたんだよ!? 提督、大規模作戦が終わったら鈴谷の訓練もお願いね!」

 

「天城姉ぇ、駆逐古姫への雷撃、お見事だったね」

「いいえ、龍譲さんが庇ってくださったおかげです」

「ウチは攻撃用の艦載機はほとんど積んどらんかったし、貧乳軽空母の被弾で巨乳正規空母を守れたんなら安いもんやろ、アハハ」

「「………………」」

「自虐ネタふっとんやから、フォローせいや!」

 

「比叡お姉様、素晴らしい弾着観測射撃でした!」

「さすが比叡ネ! 私も鼻が高いネー!」

「気合い、入れて、撃ちました!」

 

「足柄、後でお話があります」

「妙高姉さん、お説教は勘弁してよ?」

「まったく、夜戦前に大破して置物状態とは情けない」

「でっ、でも……足柄姉さんもツ級と新型の敵駆逐艦を撃沈しましたから……」

 

「予備隈ぁ、何で木曽っちと同じ敵に開幕雷撃するかなぁ?」

「北上さん、前髪触らないでぇ! それと変なアダ前つけるのやめてよっ!」

「大井の姉貴、抱きついてくんな! 球磨と多摩の姉貴、頭を撫でんなっ!」

 

「本当に僕が……MVPを貰っちゃっていいのかな……?」

「いいんじゃない。重巡夏姫を沈めたのは、あんたなんだし」

「昼は島風が対空射撃で守り、夜は霞が探照灯で敵の攻撃を引き寄せてくれたから、僕もあそこまで接近できたんだ。あの雷撃は、みんなのおかげだよ」

「そうだよ、連装砲ちゃんもがんばったんだから!」

 

重巡夏姫を撃破し、ステビア海の制海権を完全確保した連合艦隊。

次はスエズ運河を目指して、紅海へと突入する。

 

その前に、今は一時、みんなで楽しく祝勝会。

 

「時雨、MVPすごいっぽい!」

「やっぱり白露型がイッチバーン!」

「時雨姉さん、おめでとうございます!」

 

時雨の周りに、料理を持った姉妹艦たちが集まってくる。

 

「はいはーい! 那珂ちゃんと採ってきたゴーヤで作った、村雨のちょっといいゴーヤチャンプルーよ。食べてみて?」

 

炒り卵の甘みとゴーヤの苦味がマッチした、ゴーヤチャンプルー。

スパムの塩気が全体にほどよい味付けをしており、ゴマ油の香味が食欲を増す

間宮謹製の木綿豆腐も食感がよく、濃縮された大豆本来の味にカツオダシの風味を含んだ絶品のもの。

 

「うん、美味しいね」

「それじゃあ、白露型姉妹でもう一度乾杯だよー!」

「はーい、かんぱーい!」

 

ゴーヤの後味を楽しみながら、時雨は姉妹達と乾杯のビールを飲み干した。

 

強力な敵にも、みんなで支えあい立ち向かって、ここの鎮守府は何とか進撃を続けております。

 

 

 

【おまけ】

 

「恐縮です、青葉タイムズです! MVPのインタビューお願いします。時雨さんは重巡夏姫の撃破の瞬間、何を考えましたか?」

「え……」

 

青葉の取材を受け、返答に困る時雨。

 

「近づいたら、あの女からね……提督の匂いがしたんだ……」

「はい?」

 

「それで、ついカッとなって……気付いたら魚雷が全部命中してて……」

「……青葉、聞かなかったことにします」


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