お気に召すまま   作:コルン

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「んあ…」

ベルの音で目が覚める。

俺の腕を掴んだままぐずる琴里を無理矢理引っぺがすと、俺は一人階段を降りた。

急いで朝ごはんを作ると、俺のベッドで未だに眠る琴里を起こし食べさせ、弁当を持たせ学校へ送り出した。

そして…

俺は学校をサボって、良く利用する喫茶店に来ていた。

別に俺がサボり常習犯というわけではない。というか、サボったのは今回が初めてだ。

どうして俺がサボったかというと…

「……すまんね、学校があるのに。緊急な要件なんだ」

お洒落な木製のテーブルを挟んで座った女性が頭を下げる。

いえいえ、問題ないです。と返事を返す。

開店と同時に飛び込んできた、高校生の男子とうら若き女性のペアは、店員さんからどう見えただろうか…

この喫茶店、少し来にくくなってしまったな、と埒外な事を考える。

…そう、昨日自分を診断した女性に今すぐ話したい事が有る、と言われたからだ。

――もしかして、余命半年とか言われるのか…

どれだけ恐ろしい事を告知されるのだろうかと想像してしまいと、知らず体を固くさせてしまう。

しかしてそれは、想像を遥かに越えるほど荒唐無稽な物だった。

「……精霊、ですか?」

「……そうだ。精霊は本来この世界には存在しないモノであり――この世界に出現するだけで、己の意思とは関係なくあたり一帯を吹き飛ばす」

――精霊

ゲームで出てくる幽霊のような姿を思い浮かべる。

「……空間震は、精霊がこの世界に現れるときの余波と言われている」

彼女は俺に話をしながら、次々とコーヒーに砂糖スティックを空けていく。

「……空間震は地震や津波と違い、未然に防ぐ事が出来ると言われている。」

カウンターから持ってきた砂糖スティックを全て空け…追加で持ってこようか逡巡する仕草をする。

「……未然に防ぐ行動の1つ…、精霊を殺すために組織されたのがASTと呼ばれる精霊専門の自衛隊だ」

結局追加で持ってくるのは止めたようだ。女性はそのままコーヒーに口をつけた。

「……少し苦いな…」

――いや、もうどんだけ砂糖つっこんでだよ!!

机の上に散乱した白い紙袋の成れの果てを前にして、俺はツッコミを押さえるのに全精力を注ぎ込む必要があった。

「そして、君はそれに対し…」

「ちょ、ちょっと待ってください」

説明を続ける女性に対して、俺は左手を突き出した。

次々と空けられる白い紙袋に気を取られていたせいで、全然話が整理出来ていなかった。

女性の話を何度か頭の中で反芻する。

「えっと…精霊、っていうのは、何なんですか?」

俺が考え込んでいる間に砂糖を取りに行っていたのか、また砂糖スティックを空ける作業を再開している女性に声をかける。

「……難しい、質問だな。それはまだ我々も測りかねている」

俺の質問に首を傾げる女性。

――なんだそりゃ。やっぱり幽霊みたいな物っていう設定なのかな。

「あー、じゃあ、精霊の写真とかって有りますか?」

心霊写真のようもな物が有るかもしれない、と思いダメ元で聞いてみる。

「……ちょっと待ってくれ」

そう言って、白い紙袋を更にまき散らした女性は、手元のバックをゴソゴソと探ると

「……これが昨日に現界した精霊の写真だ」

そう言って、俺に差し出した。

――!?

それは、昨日、崩壊した街の中心に居た少女だった。

「…これ、人、ですよね?」

ずずっと白い何かを飲んでいる女性に恐る恐る声をかける。

「……それが精霊だ。確かに、外見は人間と見分けがつかないが」

俺はその返答に、再び写真を見る。

あの少女が、人間ではなく、精霊だって…?

そして、彼女が現れる度に、巨大な爆発が発生する…?

その彼女を殺すために、特別な軍隊が組織されている…?

――なんて馬鹿馬鹿しい話なんだ。

乱れた長髪と深い隈をした女性を改めて見て、俺はふうっと大きく息を吐いた。

 

「……それで、どうして俺にこの話を?」

「……君が、精霊を救う事が出来る、唯一の人間だからだ」

――俺が、精霊を、救う事が出来る…だって?

「はあ…俺に、他の誰にも無い特別な力が有るってことですか?」

「……そうだ」

首を振って、俺は席を立つ。

「学校に行きます」

そう言って喫茶店の出口に向かおうとすると

「…待ってくれ」

柔らかい手が俺の左腕に触れた。

「……仮に、万々が一、俺が特別な人間だったとします。それで、どうやったら精霊を助けられるんです?」

女性は顔を俯かせてこう言った。

「……話をして、精霊に、恋をさせるんだ」

っ!

「あのですね。そんな馬鹿馬鹿しい話に騙される人間は…」

カランカラン!

「おにーちゃん!」

その瞬間、喫茶店の扉を開けて、琴里が飛び込んできた。

「こ、琴里?お前、どうして…」

俺が言い終える前に、琴里は駆け寄ってきて…

「令音!おにーちゃんはダメだって言ったでしょう!」

俺の左手に触れていた女性の手を強引に離して叫ぶ。

「……すまん、琴里」

深く項垂れる女性を、琴里は一瞥すると

「おにーちゃん、いくよ!」

「お、おい!」

そう言って、俺の腕を強引に引っ張っていった。

 

 

すっかり大通りから離れ、周りは閑静な住宅街になっていた。

まだ早朝と言って良い時間であり、人影は殆ど無い。

しぶとく残った寒さが吹き抜けていき、少し痛む右手で自分の首元をきゅっと締めた。

「もう良いだろ、琴里。十分離れた」

俺の腕を掴み、ぐいぐいと引っ張りながら歩く琴梨に声を投げる。

「…ん」

漸く止まった琴里は、しかし、今度は俺の左腕をぎゅっと両腕で抱え込んだ。

「一体どうしたっていうんだよ。何か変だぞお前」

「おにーちゃんは、絶対ダメ」

…はあ?

「…琴里、何がダメなんだよ」

「とにかく、絶対ダメなの!ダメなんだから!」

ひたすらダメを連呼する琴里。

…意味わからん。

「あー、分かった分かった。それより琴里、学校はどうした?」

俺の台詞にぴくっと固まる琴里。

「まーさーかー、サボりじゃないよなー?」

「ち、ちがうよ!そう、今日はお休みなの!創立記念日!」

そう言って、琴里は首を思いっきり振った。

「一昨年まで同じ中学校に通ってた人間に、そんな嘘が通用すると思ってるのかー!」

「ギャーーーー、ごめんーー、おにーちゃんー!」

両手を振り上げる俺を見て、琴里は凄まじい悲鳴を上げて逃げていった。

「琴里、ちゃんと学校行くんだぞー!」

その背中に向けて声を掛けてから

…まあ、今回に関しては俺も同罪なんだよな。変な人から助けてくれた事もあるし、後で琴里に謝っておこう。

頭を掻いてから、俺は自分の学校へ歩を進めた。

 

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