えっちゃんといっしょ   作:雷月皆無

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ガチャは出るか出ないの2択のみ。
つまり50%の確率で出ると言えるのではないだろうか……。

5分くらい遅刻しましたが、バレンタイン後半です。


えっちゃんと2月14日の夜

 仕事帰り、俺の足取りは軽かった。

 

 朝のことをまだ引きずってはいるが、それでも朝よりは格段にマシになっている。

 

 にしても、今日はチョコレート業界の陰謀ことバレンタインデーだったかぁ。カレンダーなんて、日付と曜日の確認にしか使ってなかったからすっかり忘れてたなぁ。

 

仕事上での付き合いのものだったとしても、チョコを貰えるとなんだか嬉しい。もちろん義理だけどね。義理だけどね。

 大人になってまで本命チョコとか上げる人はいないだろうしね。貰えるだけありがたいってことだよ。

 

 来月のお返しに何を送るかで頭を悩ませるのは確定してる訳で、それはそれで悲しいけど。

 けど今はこの思ってもない幸運を素直に喜んでおこう。

 

 紙袋の中を覗き込んでは忍び笑う俺は周囲から見ればとても不審者染みているだろう。

 

 だがそれも今は気にならない。

 

 さぁて、もう一回チョコの数を数えようかなぁ?

 ひふみの……。

 

「ハ。ハハハ。クハハハハハハハハハハハハ……おえっげほっごほっ!」

 

「ママーあのひとなにしてるのー?」

「しっ!見ちゃいけません」

 

 わ、笑いすぎた。……浮かれてるからって、酒飲みながら帰るもんじゃないな。思考がいつにもましてぶっ飛んでる気がする。

 

 だけど、チョコが三個。三個なんだぞ!笑わずにいられるか。酒を飲まずにいられるか。

 

 そうとも、そのうちの一個は黙っていれば美人な藤村先生から頂き物もあるのだよ。……十円チョコの詰め合わせだけどね!是非もないよね!

 期待してるから、なんて言われたから、やっぱりこれはきっとホワイトデーに三倍返ししなくちゃいけないパターンだろうね。わかるとも!

 

 ……うん、そろそろ現実逃避はやめよう。

 陽が沈んでるからって周りの目に気にしなさ過ぎた。

 

 視線が突き刺さってる気がする。それも犯罪者予備軍を見るような目で。

 俺自身にそんなつもりはないけど、居室に少女を連れ込んでいるってだけで婦女暴行とか拉致監禁とかその他諸々の全く謂れのない罪を被せられるような世の中だから……。

 

 それはともかく。

 

 早く帰ろう、うちへ……。

 

 

 借りている部屋の前で大きく深呼吸。

 鍵を開けようか開けまいか、鍵穴付近で手が惑う。

 

 彼女がいなくなってたらどうしよう。

 そうしたらまた、以前までの一人暮らしに戻るだけ。

 ああ……だけどそれはなんだか物寂しい。

 

 なんでこんなにも彼女に執着を見せるのか、自分のことなのによく分からない。

 

 けど入ってみないことには何も進展しない。

 いるかいないか分からない。たしかシュレディンガーの猫って言うんだっけ、こういうの。昔少し聞きかじっただけだからすごく間違ってる気もするけど。

 

 まぁ、入れば分かることだし……。

 

「ただいまー……」

 

 思ってたよりも小さな声が出てびっくり。

 

 ってか、電気ついてないし。

 まさかまさかの本当に出て行った?

 

 靴を脱ぐ。キッチンを素通りしていつも寝起きしてる生活空間へやや足早に歩く。

 数メートルもない距離はあっという間に終わり、内心恐々としながら部屋の電気をつける。

 

「……ほっ」

 

 思わず安堵の溜息を漏らしていた。

 

 うちの居候は、おこたに突っ伏して寝てた。

 

 あー、なんだろこのやるせない感じ。 

 

 カーテンは開けっ放しだし、彼女は毛布をかぶってもいないし……。

 

「風邪ひくぞー」

 

 肩を軽く揺する。

 

「んぅ……」

 

 ……かわいい。って、違う違う違う。

 何が違うのかも不明なままに湧き上がってきた気持ちを否定する。

 

「だから、そんな恰好で寝てたら風邪ひくぞ?」

 

「あと……ごふん」

 

「いや朝じゃないし。今は夜だから」

 

「おなかが……へりました」

 

 ……仕方ないなぁこの娘は。

 

 毛布を彼女の背中にかけて、俺は夕食を作るためキッチンに足を運んだ。

 

 

 今日の夕食は可もなく不可もなく、といったところ。

 ペーストの中華調味料は使い勝手がいいけど、どうしても味が似たり寄ったりになるのが難点だなぁ。

 

 食後のお茶を啜ってる彼女がなにやら機嫌が良さそう。

 やっぱり朝のめんどくさい発言は俺の勘違いだったのかなぁ。

 

「あの……その紙袋、なんです?」

 

「これ?いやぁ、お返しをしなくちゃいけないただの貰い物だよ」

 

 貰ったチョコを紙袋から取り出して天板に置く。

 

 包装された小さな箱が二つに、十円チョコの詰め合わせが一つ……。

 藤村先生ぇ……。

 なんで俺もこんなので大喜びしてたんだよ、本当に。

 美人ってのも得だよなぁ。黙ってたら、って注釈が頭に付くけど。

 

「む……」

 

 あれ、なんだかさっきまでとは打って変わって不機嫌そうに見えるんだけど。なんでだ。

 俺、なにかした覚えなんて欠片もないんだけど。

 

「えぇと……俺、なにかした?」

 

「いえ全然全くこれっぽっちもあなたは何もしてません」

 

「……チョコ、食べる?」

 

「はいチョコに罪はないのでいただきます」

 

 彼女の手がチョコを全て掠め取っていく。

 

 まさか全部だなんて誰が予想できるだろうか。

 

 雑に包装を破り、甘くてほろ苦い茶色の塊を次々と口に運んでいく彼女。

 

「美味しい?」

 

「義理でもお徳用でもチョコは美味しいのです」

 

「そうなんだ……」

 

「もしかしてチョコ、欲しいんですか?」

 

 最後の十円チョコを口に入れながら言われても、その……。

 ……なんて答えたらいいんだよ。何が正解なんだこれは。

 

「あーその、うん。…………欲しい、かな?」

 

「なら早く言ってくれればいい、のに」

 

 おもむろに立ち上がった彼女はクローゼットに向かって歩いていく。……ん?クローゼット?

 クローゼットを開けて何かを持ったかと思うと、それを背中に隠したまますぐに戻ってくる。

 

「ハッピーバレンタイン。これを、あなたに」

 

 差し出された彼女の両手に乗っているのは、白いリボンでラッピングされた青い袋だった。

 

「開けても?」

 

「うん」

 

 リボンを解き、袋の口を開ける。

 中には、当然とでもいえばいいのだろうか。チョコだ、それもハート形の。

 

 でもハート形なんてどんな顔すればいいんだろう。

 

「溶かして固めただけ、だから。型もこれが一番安かったから、だよ?」

 

「それでも、ありがとう」

 

 彼女が作ってくれたチョコを口にする。

 

 うん。甘くてほろ苦い、紛うことなきチョコレートだ。

 

 

 

「食べたんだから。お返し……しなくちゃ、だよ?」

 

「え!?」

 

 このタイミングで!?

 少しは余韻に浸らせてくれてもいいんじゃないかと思うんだけど。

 

「なんでもは無理だけど、俺にできる事なら」

 

「それなら――」

 

 

 

「添い寝して、ほしい」

 

「……まぁそれくらいなら」

 

 よかったー!予約殺到でなかなか買えない高級和菓子のお取り寄せとかじゃなくて本当によかったー!

 

 …………あれ?

 

 

「……不束者ですが」

 

「冗談でもやめて!?」

 

 このあと滅茶苦茶添い寝した。

 

 

 

 あったかい。やわらかい。いいにおい。

 左腕で彼女を感じながら考える。

 

 彼女に対するこの気持ちはなんだろうかと。

 

 いくつか候補を上げ連ねるうちに、すとんと胸に落ち着くものがあった。

 俺は多分、彼女のことを、えっちゃんのことを……。

 

 妹みたいに感じているんだ。

 間違いない。俺は一人っ子だけど間違いない。

 

 こんな年下の少女に恋愛感情を抱くなんて教師としてどうかしてるから。

 彼女の仕草に時折ドキリとさせられるのもきっと何かの錯覚だ。

 だから、これがきっと正解なんだと思う。

 

 いつか彼女が、記憶を取り戻してうちを出て行くその日まで……。




今後こそ続かない!!
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