可愛いは正義。
つまりえっちゃんは
何もおかしくないですね。
二人連れ立って、街中を歩く。
「まだ……です、か?」
腕にしがみ付いている彼女がそう問いかけてくる。
なんでも自己申告によると、人ごみに酔ったらしい。
ふと違和感。人ごみ?
出かけるときも顔が少し赤かったようだし、本調子じゃないかもしれない。
仕方ないなぁ、と思いつつも腕を貸す俺は一体なんなのだろう。これはきっと保護者的な感情に違いない、きっとそうだろう。
否応なしに感じられる柔らかな感触と石鹸の香りが鼻をくすぐる。
顔を俯かせたままの彼女は特に意識してはいないかもしれないけど、これは色々とクるものがある。あと、二重の意味でドギマギが止まらない。
……だから。動物がマーキングでもするように、時折体をこすり付けてくるのをやめて頂きたい。
「あー……まだもう少しかかる、かな?」
「和菓子食べに行くと言って、ましたけど。どこに行くん、ですか?」
「昔からある和菓子屋らしくて、最近はめっきり住民の数も減って……あれ?」
強い違和感があった。
「頭を抱えて立ち止まって。どうか、しましたか?」
首を傾げるえっちゃん可愛い。じゃない!
「いくつか質問してもいいかな?」
「藪から棒、ですね。どうぞ」
『はい』か『いいえ』で答えてほしいと前置きしてから彼女にいくつか質問した。
俺の名前や彼女の名前。住んでいる国、県、市の名称など。
それらが間違っていないことを確認する。
大きく深呼吸。やけに鼓動が激しい心臓を落ち着かせる。
「この街は、冬木市の深山町は……住民が多い」
「いいえ。決して多くはありません。ゴーストタウンに近いです」
……カチリ、カチリ、と回り続ける歯車がずれた気がした。
聞こえるざわめきが酷く耳に障る。
今になってようやく違和感の正体に気付いた。
そうだよ、こんなに人がいるのはおかしい。ちゃんと開いてる店が多いのはどう考えたっておかしい。
急に静かになったと思い周りを見れば、歩く人の数が目に見えて少なくなっていた。
やっぱりこれは……。
「質問は終わりですか?さあ早く行きましょう。和菓子が待ってます」
腕を引っ張り、早く行こうと急かす彼女。
だけど俺は足を動かさない。
聞きたいことが、一つだけ。どうしても聞く必要のあることが一つだけ残っている。
「最後に一つだけ、どうしても聞かなくちゃいけないことがあるんだ」
「はあ……どうぞ」
「これは、この出来事は、今までの出来事は……『夢』だね」
俺の、突拍子もないだろう質問に戸惑うこともなく。
彼女は長く息を吐き出し、俺の面前に移動する。
「はい。いいえ。
今のこの状況は紛れもなく夢です」
人間はこれが夢だと自覚してしまうと目が覚めてしまうらしい。
らしい、というのは俺自身にそんな経験が今まで一度もなかったから。
「そっかー。やっぱ夢だったかー」
世界が白く、どこまでも真っ白に染まっていく。
夢の世界が終わっていく。
残念だっていう気持ちも、ないことはない。
これが夢だっていうのなら、どこまでも甘く生きていけて。
辛い思いをしなくてもいいのだろう。
しかしながら俺は現実世界に生きる人間で。
彼女は、俺のなんやかんやな欲求とかが生み出したイマジナリーフレンド的存在なのだろう。そうとしか考えられない。
だけど、楽しかった。
それこそ夢の中の出来事だったとは思えないくらいに現実味があった。
「楽しい夢をありがとう、『謎のヒロインXオルタ』ちゃん。じゃなくて…………ありがとう『えっちゃん』!」
「いつもはXオルタ、なのに。このタイミングでの愛称は、卑怯……です」
「いやぁ……こんな機会じゃないと恥ずかしい、みたいな」
……いや、本当に俺どんな夢見てんだよと。
目覚めて夢の内容覚えてたら、甘酸っぱすぎて恥ずか死ぬんじゃないだろうか。
そもそも青春とか何年前の話だよ。
「そういうことにしておきます。
では、さようなら
全てが消える寸前、最後に彼女がくすりと笑った気がした。
◇
「だから俺は
Entracte~胡蝶の夢~ 了
かくて幕は閉じる、謎を謎にしたままに。
されど終幕は遠い、物語はまだ序章故に。
少女は戦い傷つく、守りたい存在が為に。
少年は戦い傷つく、守りたい少女が為に。
紡がれる絆と悲劇、少年少女は何を想う。
次章 Faker~妹の味方~ 続かない!ないったらない!!
感想と評価に舞い上がり調子に乗る作者の鑑です。
仕事が忙しくて1ヶ月放置してましたがとりあえず完結。
稚拙な文章にお付き合いいただきありがとうございました。