声がした。何者かの声。悲痛、恨み、悦び、殺意、そのどれともとれる声。誰なのだろうか?この声の主は私に何を伝えようとしているのだろうか?何を求めているのだろうか?疑問は尽きない。ただこの状況でわかることが一つあった。
私はもう……助からない
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嫌な予感がした。霊夢達の向かった方向から強力で邪悪な気配を感知した瞬間俺は向かわなければならない、向かえと俺の頭がそう告げた。だから飛んだ。手遅れになる前に、誰も傷つかないように。
皐月「まぁ俺は傷ついたけどね。いてぇよ。」
俺の右頬には真っ赤な紅葉が貼り付いていた。何を隠そう急いで向かうために妖夢を抱き上げたら飛んでる最中にきついビンタを食らったのだ。パァーン!っていったからな。
妖夢「ご、ごめんなさい………。でもあなたが……!って言い争ってる場合じゃないですよね。」
その通り。俺とて気にしてる場合じゃねぇからな。この借りは異変解決後の宴会で返してもらうとして、見えてきたな。
俺の視界には横たわっている魔理沙とただ呆然と座って向かってくる弾幕を受けようとしている霊夢がいた。そして弾幕の隙間からちらりと見えた桃色の髪をした女の子、そして大樹。
妖夢「あ、あれは一体………。……え?」
俺は妖夢の横を離れ、全速力で霊夢の下へと馳せ参じた。なぜ急いだのか分からなかった。でも一つだけ言えることは聞こえてきたのだ。
俺の名を叫ぶ彼女の声を。
皐月「[武御雷 散]!」
俺は青白い雷を落とし、弾幕を全て相殺し、霊夢の前に降り立った。
皐月「ふぃ〜。間に合ってよかったぜ………。スパークモード切ってなくてほんとよかったわ。お陰で護れたよ、霊夢も魔理沙も。」
俺の言葉に応じるかのように霊夢は声を出した。
霊夢「……さ、さつ……き……。本当に……来てくれた……の?」
その声は弱々しく、いつも強気な霊夢の面影の欠片も見られなかった。そしてその声で全てを理解した。霊夢の霊力は底をついていた事、魔理沙が死にかかっている事、絶望の縁に立たされていたこと、自分の命を……失うことを悟った事を。だから俺は……。
皐月「もう……泣くなよ。」
霊夢の頭を撫で、励まし、そして霊夢を魔理沙のもとへと連れて行った。
霊夢「あ……うん………ありがと……皐月。」//////
いや照れないでくれます?泣き顔で上目遣い、この状況じゃなけりゃ押し倒してたかもしれん。俺は右手を霊夢、左手を魔理沙に当て体力を回復させた。
魔理沙「わ、悪ぃ皐月……。私達に力がなかったばっかりに………。」
こりゃまた随分と弱々しいセリフだな。それにしても妙だ。霊夢の場合は霊力の底がついたからってのもあったのに魔理沙の場合魔力がまだ余っていた。マスパ一発は撃てるくらいに。
妖夢「………幽々子様の能力ですね……。生気を奪われたといったところだと思いますよ。」
なるほどね。コイツの主は人の命さえも奪えるのか。もしかしたら俺も死ぬかもな……。んでその本人はどこよ。
皐月「んでその張本人はどこだよ。殺してないだろうな?」
霊夢「あれよ……。あの大樹に上半身だけ出てるアレ。アレがその張本人よ。」
霊夢の指差す先には先程の大樹があった。あの桃色の女性がそうか。でもなんで突き刺さってるの?霊夢の払い棒でトントンされちゃった?
妖夢「え!?なんで幽々子様があの大樹に?!」
霊夢「あの大樹から黒いツタが出てきて取り込んだのよ。しかもアンタの主の能力を継いでる上に威力も上がってるみたいだから相当厄介よ……。」
[死を操る程度の能力]。即死はしないけど緩やかに命を奪う能力らしい。多分今の状態は人一人を簡単に殺せる。一つでも当たったら致命傷なのは確かだな。
皐月「あれ、何つー名前なんだ?能力持ちってことは妖怪かなんか何だろ?」
妖夢「確か……[西行妖]って……。」
なるほどこれで合点がいったわ。[西行妖]って言ったら死を運ぶ大妖怪。桜の木と言う話は聞いた事あるけどまさかこんなとこにいたとはね。
皐月「確かこいつって封印されなかったか?なのに何で花が半開きしてんだ?」
三人が目を見開き、俺を見た。なぜ知っていると言いたげな顔だな。ならば答えてやろう。
妖夢「なぜあなたがそれを!?この情報は白玉楼内にあった書物に書かれてあったものですよ!?」
皐月「そりゃあ外の世界にも妖怪に関する記述はあるからな。大まかにだけど書いてあんだよ。」
昔俺を殺せる存在を探るために妖怪について調べたことがあった。その中で記憶に残ったのが[西行妖]だ。その妖怪は木であり、生気を奪うかのように次々と人がその樹の下で死を遂げたと書いてあったからな。俺も死ねるのかなぁなんて思ってた時期がありました、はい。
皐月「コイツがそれなら……俺すら殺せるかもな………。少なくとも俺一人なら足止め出来る……。でもコイツらがいたら一瞬で………なら。」ボソッ
霊夢「え?あんた……何言って……。」
俺は一度大きく深呼吸をした。覚悟を……決めなきゃな。唯一俺を殺せるかもしれない存在と対峙するのだ。死ぬ事に恐怖は無い、でも後悔はある。こいつ等と一緒に居られない……ただそれだけ。その思いすら絶ち切らなければ勝てない相手。ここからが俺の本当の戦い、覚悟を決める場所だ。
皐月「お前ら………何も言わずにここから逃げろ。こいつは俺が食い止める……。だから……行け。」
振り返らず、相手を見据え、本気の戦いを挑む覚悟を決めた。
霊夢「な!アンタ何言ってんのよ!ここまで来て俺一人に任せろなんて……。」
魔理沙「………!!」
皐月「何も言わずと言ったはずだ。今のお前じゃ足手まといだから逃げろよ。霊力のないお前はただの人なんだ。だから………行け。」
霊夢「!?」
ショック……だろうな。でも俺にはこういう言い方しかない。こうでも言わないとお前は行かねぇからな。
魔理沙「行くぞ霊夢!ここは皐月に任せて私達は[一時離脱]だ!」
霊夢の腕を無理やり引っ張り、空へ飛んでいく魔理沙。そしてその後を追う妖夢。よかった……魔理沙の察しが良くて。それに[一時離脱]ってのはここに戻ると思わせる為だけの口実。霊夢を連れ出せる口実だ。こういう時の魔理沙は本当に頼れる……。でも悪役になっちまうな……すまん。
霊夢「ちょっと!魔理沙!離してよ!皐月が……!」
霊夢の言葉を無視して飛び続ける魔理沙。それを逃がすまいと黒いツタが大樹から飛び出てきた。俺は咄嗟に砂鉄を上に突き出し、ツタを両断した。
皐月「やらせねぇよ………。例え……俺の命に変えても!!」バチバチバチ
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霊夢「ちょっと魔理沙!聞いてるの!離してよ!」
後ろが騒がしい。霊夢が騒いでいる。離せと、置いて行けと、皐月のもとへと行けと。半人半霊のこいつも私も困り顔。霊夢は分かってないらしいな、皐月がどんな思いであの場に残ったのかを。
魔理沙「お前は何も理解してねぇよ霊夢。」
自分でも驚くくらいドスの効いた声を出していた。そのせいか霊夢が牙を向いた。
霊夢「何を理解してないっていうのよ!皐月は……あそこで行ってほしいなんて思ってないわよ!一緒に戦うって言って欲しかったに……。」
魔理沙「だから分かってねぇって言ったんだよ霊夢!お前あいつがどんな覚悟であそこに残ったと思ってんだ!」
声を荒げてしまった。でももう止められない。あまりにも分からず屋で、鈍感だったから。
魔理沙「今の私達が残った所で死んだだけだ!皐月はそれをさせない為に私達に逃げろといったんだ!今の私たちは足手まといだ!邪魔でしかない!霊力切れのお前と回復したばかりの私、そして主を敵にできない従者!私達三人じゃ邪魔しか出来ないんだよ!それにあいつは自分一人で食い止めるって言った!それはつまり自分の死を覚悟して、漢の覚悟をして残ったんだ!ならそれを汲んでやるのが女の私達の役目だろ!」
霊夢「…………魔理沙。私………何も出来ないのかな………。皐月……死ななよね……。」ウルウル
ここまで弱りきってるのは初めてだ。でもこうでも言わないと霊夢は折れない。私だって出来ることなら一緒に戦いたい。でも私達じゃ勝てない。黙って皐月の帰りを待つしかない、それしか出来ないんだ……。
魔理沙「大丈夫だぜ……。皐月は異変に二度立ち会ってその二度とも皐月のお陰で解決出来たんだ……。皐月の強さは知ってるだろ?だから……生きて帰ってくるさ……。」
私達はそう言葉を残して冥界を後にし、紅魔館へと向かった。少なくともあいつらには言っておかないとな………。
そしてその日から一週間経った今でも皐月は………帰ってこなかった。
作者「ちょっと時間を飛ばします。」
霊夢「その利点は?」
作者「んなものはない。ただの焦らしだよ。」
次回 : 第三十話 春雪異変第十話 : 足りない者
作者「果たして皐月はどうなるんだろうね。」
妖夢「皐月さん……幽々子様………。」