一夏(ホモ)に襲われた   作:ユリスキー

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題名を少し変えました。

評価、感想、お気に入り登録をしてくださった読者の皆様方、ありがとうございました。
処女作ですので、なにかと拙いところのある小説ですが、細々と続けていければと思います。


ドイツ語で「あなたはホモの仲間ですか?」

 IS。インフィニット・ストラトス。

 超機能の宇宙服というコンセプトをもとにこれを作成した開発者、篠ノ之束(しのののたばね)は明言した。

 ――ISの起動は女性のみが可能とする。

 これに最初は懐疑的であった各国も、用意した男性パイロットをISが受け付けなかったことで、そういうもの、として扱っていた。スマートフォン。自家用車。冷蔵庫。多くの人間が原理をほとんど理解できぬまま、されど日常で扱っている物品と同じものとして浸透した。

 そのため現在は適性調査をほとんどの女性が済ませており、新規調査は新生児にしか運用されていないのが現実である。

 

 しかし数週間前、その慣習を打ち砕いた存在が現れることになる。

 ホモ野郎こと織斑一夏であった。

 彼の登場により、調べていなかっただけで他の男性でも起動できる可能性が浮上したのだ。このことに篠ノ之束はノーコメントを貫いている。そのため各国……もとい女尊男卑社会の煽りを受けまくる男性政治家たちが、国の垣根を越えて実施した政策がおこなわれていた。

 

 男性適性一斉調査。

 

 男の夢と希望と未来のための足掛かり。

 これは簡単に言うとパッチテストである。かの篠ノ之束がISでもっとも重要なコア製造を中止しており、世界で467機という絶対数ができあがってしまった。それを各国でパイのようにわけてしまえば、一国あたり十機もない計算だろう。

 一夏のようにいちいちISに触れさせるには国内保有数が少なすぎる。

 そのためのパッチテストの対象には当然虎丸(とらまる)も含まれていた。

 

 

 ◆

 

 

「あー、役員さんがこんな一中学生になにか?」

 

「え? ISの適性が……はぁ。マジですか」

 

「…………IS学園に入学するように、と。拒否権の行使は……トラップカード『政治家の権力』で無効? いま受けようとしてる高校も取り消し? なるほどー」

 

「クソが……ッ! え? やだなぁ、くしゃみですよ、くしゃみ。昨日まで病院の精神科にいたから風邪でも移ったんですよ。……ファック」

 

「あ、緊張してきたんで、その黒塗りの車に乗る前にトイレ行っていいですか?」

 

「待っててください――逃げやしませんから」

 

 

 ◆

 

 

 織斑千冬にとって、虎丸はもう一人の弟といっても過言ではない存在だった。血の繋がりはなくとも付き合った年数は五年でも足りないだろう。関わりの深い相手を挙げるなら、後輩である山田真耶よりも先に思い浮かぶほどだ。

 虎丸は気立てのいい少年だった。なにかと直情的な一夏の尻拭いなんて日常茶飯事だし、コイツがいれば安心だと、一夏をそばで支える役目を任せてもいた。

 実の弟のように可愛がり、実の弟のように厳しくして、実の弟のように信頼していた。

 

 そんな彼が先日、実の弟である一夏に襲われた。

 その後、男性警官との接触で失禁しながら気絶してしまい、病院に緊急搬送されたのが数日前。保護者名義ですぐさま駆けつけた千冬(付いて来ようとした一夏は筋肉バスターで撃退済み)が見たのは、ベッドの上で抜け殻のようになった虎丸の姿だった。

 

『男がすべてオレの尻を狙ってるんですよ。勘違いじゃなくて、さっきまでいた医者がオレを組み倒そうとしてきたんです。なのにナースさんは誰も信じてくれなくて。千冬さん、本当なんですよぉ……!』

 

 勘違いである。男性医師と密室にいるという事実に耐えられず、発狂した虎丸を落ち着かせようとしただけだ。

 しかしモロに男性恐怖症になった虎丸にとって、男はすべてホモに見えるらしい。

 あれだけ精悍(せいかん)だった弟分の変わりようを千冬は嘆いた。

 

『廊下に出てもホモ、ホモ、ホモ! もうこんな病院こりごりだ!』

『だろうな。ホモが溢れかえる病院は私も勘弁願いたい。だが、道行く方々はノーマルだ。お前が心配するような事態にはならない』

『嘘だ! 人間の男なんてホモ付くじゃないですか!』

『ホモサピエンスだからな』

 

 これでは高校に進学しても普通には過ごせまい。

 弟分の負ってしまった傷のあまりの深さに、リンゴを剥くナイフの手を止めた。

 

『せめてお前が女なら良かったんだが……。女子制の高校には入れないからな』

『ハハッ、もう千冬さんのうっかりさんめ。知ってます? 性・転・換・手術』

『…………すまない。本当にすまなかった、虎丸。なにが社会人だ。弟分の心ひとつ守れずして、これじゃあ道化そのもじゃないか。すまない、すまない、不甲斐ない姉貴分で……!』

『や、やめてくださいよ。もう、ははっ、冗談ですよ、マジで申し訳なさそうに謝られると――こっちが辛いんですよ!』

 

 病室に嫌な沈黙が満ちる。

 それを打ち払うように、切り分けたリンゴを皿に並べた千冬が言った。

 

『一夏は……先日の件のことを猛省している。さすがに親友という関係を壊してまで無理やり迫るべきではなかったと。今度はもっと時間をかけてからにしようともな』

『え、あいつホントに反省してんの? オレまだ尻狙われてんじゃん』

『お前のガタつき具合を見て、私は決めたぞ。一夏をお前と今後一切接触させるつもりはない。これから三年間、あいつをIS学園に閉じ込める。それまでは経過観察だ』

『……いいんですか? あいつ、女嫌いですよ』

『それも解消させる。なんといっても私の弟はハーレム作成のスキルレベルがEXだからな。幸い、IS学園は容姿の優れた女どもで溢れている。恋人の一人でも作って性癖がノーマルになれば万々歳だろう』

 

 もっとも鈍感気質からそれは高望みだろうが、とも付け加えた。

 爪楊枝を刺したリンゴを天下のブリュンヒルデに「あーん」されても、虎丸の顔は微塵も晴れない。

 

『…………』

『浮かない顔だな』

『オレ、まだ信じられないんですよ。親友がホモで、襲われたなんて』

『なら会って真実をたしかめてみるか?』

『一夏の封印お願いします。金輪際あいつをオレに近づけないでください、ハリーハリー!』

 

 病院での会話を思い出しながら、千冬はIS学園の自室で酒をグイと煽った。

 

「……虎丸のやつ、この数日で5キロ瘦せたんだったな。だが安心だぞ。一夏のことはIS学園から一歩も出させないからなぁ」

 

 うわごとを呟いている時だった。忙しなく扉が叩かれ、居留守をしようと思ったが、あまりに五月蠅いためのっそりと扉を開ける。

 

「なんだ……真耶君か。どうした胸を物理的に弾ませて」

「ずっと探してたんですよ織斑先生! 携帯も通じなくてどこにいるのかと……おしゃけくしゃい!?」

「なにかの緊急事態か?」

 

 濃密なアルコール臭を漂わせながら携帯の電源をつけると、この数時間で着信やメールが溜まりまくっているのがわかった。

 

「男性です! 男性搭乗者です!」

「あぁ、私の弟がどうした? そういえば君はずっと男性と結婚したいって言ってたな。弟を貰ってくれる都合でもついたのか? いまなら結婚費用は私が立て替えるぞ」

「えっ、いいんですか!? ……じゃなくて、違うんです! 一夏くん以外にも日本国内で見つかったんですよ、男性搭乗者が!」

「――なんだと!?」

 

 流石ブリュンヒルデと呼ばれた女性というべきか、千冬はすぐさま意識を覚醒させる。

 

「どんな人間だ?」

「そ、それが……逃亡中みたいなんです。ついさっき、国のIS部隊が保護のために出動しました」

「馬鹿な、なぜ逃げる必要がある。よっぽどの事情がないかぎり納得できんぞ」

「それが不明なんです。ただ彼は先日まで病院の精神科に入院していて、メンタル面が非常に不安定だとか。――適性が見られたのは中学三年生の虎丸流(とらまるながれ)くん。たしか織斑先生のお知り合いでしたよね?」

「」

 

 納得してしまった千冬だった。

 

 

 ◆

 

 

 職員室までたどり着くと、教師の半分はひっきりなしの電話の対応に追われており、残り半分は備え付けのスクリーンで某テレビ局の中継を見ていた。

 

『現在、虎丸流くんは自然公園に逃げ込んでおり、パトカーなどの車では侵入できない細道に身を隠しているようです。……あっ、いました虎丸くんです! 木の上で枝をブンブン振りながらなにかを叫んでいます!』

『――カエレ! 人間、カエレ! 男、クルナ!』

『野生化しています! なぜか虎丸くんが野生化しながらヘリを追い払おうとしてます!』

 

 千冬は天を仰いだ。虎丸の精神は退院したばかりでかなり危うく、ストレスで壊れかけているのがわかったからだ。まだ人語を話せるだけ安心してしまった。

 

「と、虎丸君は大丈夫でしょうか?」

「あれが大丈夫だと言える人間こそ、大丈夫じゃないと思わないか?」

 

 ふと画面のなかで黒ニットの少年がなにかに気づく。そこでカメラも視点を変えると、広場まで侵入したトラックから、二機のISが重々しく現れようとする場面を捉えた。

 

『ISです! どうやら保護のためにISが導入されたようです!』

 

 打鉄(うちがね)。安定した性能をした武者鎧のISを纏うのは、どちらも千冬のよく知る熟練の女性たちだった。

 その時、テレビから響いたアナウンサーの悲鳴に、電話をしていた職員までもが顔を上げる。

 まるで跳ねるように虎丸が飛び降りたのは、ビルの四階建てほどもある木の頂上から。あわや放送事故かと身構えるが、惚れ惚れするような五点着地を披露して、固まる周囲を意にも返さず住宅街へ逃亡しようとする。

 

「す、すごいですね」

「ああいったものは私が仕込んだからな。しかし私の予想だと……」

 

 そうはさせじと、虎丸の進行方向に一機、背後に一機のISが降り立った。

 正面の女性がかなり必死な顔で叫んでいる。

 

『お願いします、止まってください! 私たちはあなたに危害を加えません! どうか保護を受け入れてください!』

『Sie sind ein warm-Mate?』

『え? 英語しか分んないのに……。――Yes?』

『やっぱホモじゃねーか!!』

『なんで!?』

 

 虎丸は逃げることを選択したようだ。

 獣のように駆ける姿を見て、女性もまた顔色を変える。その動きは超機能の宇宙服にしては鈍い。メディアの手前、傷つけることは極力回避したいらしい。

 それでもなお、ただの一般人を捕まえるには十分な威力と迫力があった。

 ――ただの一般人であれば、だが。

 

『捕まるかァ!!』

 

 パルクールのような動きで腕を支柱にしながら跳ね、背後からの手腕も見ることなく潜り抜ける。

 それを都度五回も繰り返すや、狐が化かしたかのようにスルリと包囲を抜けて、ものの見事に住宅街まで逃亡してみせた。

 

『ヒャッハハハハハ! 知ってるんだぜオレ、どうせホモにオレの尻を使わせるんだろうが!』

 

 幸いというべきかこの発言はヘリの駆動音に消されて、マイクを通って全国に広がることはなかった。

 

「……パルクールでしょうか? 警察署のパトカーや人員も、距離を詰めてもああやって身のこなしか障害物を使って逃げおおせたんです。犯罪者じゃないから手荒な真似もできなくて」

「だがそろそろ捕まるぞ。いくら平和ボケしていると言われるIS部隊も無能ではない。あのIS部隊は、三機一チーム(・・・・・・)だ」

『――なん……だと!?』

 

 ちょうど画面内でも動きがあった。

 もうすぐ住宅街というところで、不自然な体勢で虎丸の動きが停止したのである。

 彼のそばに現れたのは市街迷彩を施したもう一機のISだった。

 

「最近開発されたとかいう特殊ナノマシンによる対人無力化トラップか。あらかじめ虎丸がどこに逃げるか予想して手を打っていたな。――山田先生(・・・・)。彼の身柄を保護する責任者に話を通しておいてくれ。彼との交渉の場には私の席をつくっておくようにとな」

「は、はいっ」

 

 教師としての顔になった千冬の指示で、すぐさま真耶が電話に飛んでいく。

 

「……とんでもない厄年だな、虎丸」

 

 画面ではISに担がれながら、哀愁を誘うほど取り乱している虎丸が映っていた。

 

『いっ、嫌だぁ!! 嫌だ嫌だ嫌だぁ! あのクリーチャーのいるIS学園なんか入りたくないィ! 俺は宇宙飛行士になりたいんだぁ!』

『あのっ、IS学園もいいところだよ? 設備もいいし、先生たちもまともだし。問題っていっても出会いがないくらいだから。あ、ほら! 今年はきみと同じ男性パイロット候補も入るんでしょ?』

『頼む、頼みます、靴でも舐めるから逃がしてくださいよぉ』

『うーん、私の一存じゃ無理だよ』

『あんたの処女より先にオレの処女が散らされるんだよぉ……!』

『うわ、凄いパワーワード……』

 

 午後四時過ぎ。虎丸流、確保。




苦難は続くよどこまでも。

ドイツ語の部分は無理に訳してしまったので、他にもっともらしい文章があるかもです。

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