艦隊作戦第三法。その作戦の詳細は幌筵泊地では戒厳令が敷かれ、一言たりとも話すことすらままならない。しかし、艦娘達はそれについて異議を唱えることはできない。知っているからだ。この作戦で瞳琥珀提督がどれだけ苦難し、誇りと経験をズタズタに踏みにじられたのか。
彼の秘書艦である吹雪改二もその一人だった。
吹雪改二「もうそろそろですね…。光作戦…。」
瞳琥珀「ああ…。光作戦とか明るい名前で抜かしてるが、鬼畜な作戦に間違いないだろう。」
吹雪改二「で、でも、今回はランカーと並走しながらも余裕のありそうな資源を確保しました。ボーキは少々心もとないですが…。」
瞳琥珀「…。(ギロッ)」
秋月改「あ、あの、司令…。はじまる前からそんなピリピリしてたら疲れちゃいますよ?もう少し肩の力を抜いたらいかがですか?今回も新たな娘の報告がされてるそうですし、そのことを考えて…。」
瞳琥珀「…ああ、松風とかいう奴か。正直どうでもいい。」
秋月改「え…?」
瞳琥珀「俺が欲しいのは甲種勲章だけだ。他は更々いらん。そもそも大規模作戦は甲種勲章取りに行くもんだろうが。何をぬかすんだか。」
秋月改「で、でも、そもそも司令が甲種勲章取ったのは2016夏が最初で…。」
瞳琥珀「…(ギロッ)」
秋月改「…!」
彼の眼光に秋月の身体がこわばる。それは普段嫁艦の一人である彼女を愛でてくれる司令官のものではなかった。まるで大切なものを踏みにじられ、恨みに燃える復讐者の…。
瞳琥珀「分かったら下がれ。今回甲種勲章取れなかったときは今度こそ全艦娘を解体して、泊地と人生の辞表を出すからな。」
秋月改「え…。そ、それはどういう…。」
吹雪改二「…了解しました、司令官。秋月さん、行きましょう。」
話はまだ終わっていないという様子の秋月をドアの外へ押し出すようにしてから、吹雪改二は提督室のドアを閉めた。
秋月改「ふ、吹雪先輩!いいんですか!?全艦娘解体なんて宣言を司令にさせて!しかもあの口ぶりだと…。」
吹雪改二「秋月さんのいいたいことも分かります。でもどうしようもないんです。誰も司令官を癒せないんですから。私でさえも…。」
秋月改「吹雪先輩…。」
吹雪改二「光の巨人の力も…司令官の心の傷は癒せないんですね…。」
事の発端は艦隊作戦第三法にさかのぼる。最終海域のMS諸島北部 B環礁沖でのこと。幌筵泊地の面々は二つ目の甲種勲章を得るべく、海域攻略を進めていた。しかし潜水艦達に大破撤退を余儀なくされ、瞳琥珀提督は甲作戦の放棄を決意。最深部にも行けないようじゃどうしようもないということだった。乙作戦に切り換えてからは作戦はスムーズに進み、同海域で活躍することになるプリンツ・オイゲンも迎え、順風満帆だった。
しかし、最終段階に入った途端、道中の難易度が跳ね上がり、道中撤退の頻度が多発した。これは彼がトラウマの一つとするFS作戦海域の時とあまりにも似通っていた。そして最深部に辿り着いても深海海月姫を倒せない事態が頻発。彼の精神は急激に摩耗していき、異常発言さえ飛び出すほどだった。
それでも幌筵泊地の面々は力を合わせ、最後には深海海月姫を撃破した。サラトガも浄化し、迎え入れた。そこまではよかった。
だが、仲間である他の提督と話をしたことが彼の運命を変えてしまった。彼が知る提督の殆どが甲種勲章を手にしていたのだ。中には初甲種勲章ということで自慢げに振りかざす者もいた。そしてニコニコ大百科等の後世への資料の記述から、甲種勲章を取ることは難くなかったという記述を見つけた時、彼の中で何かが壊れた。誰も言わずとも
「お前、今回甲種勲章皆取ってるのに取れなかったのwwwご愁傷さまwww」
などと嘲け笑われているように聞こえ、更に強力な自己嫌悪に陥った。大規模作戦直後の彼は目も当てられない様子だった。目に入るものは全て睨み返し、仲間の提督にも言葉での攻撃を何度か行った。それによる自己嫌悪で彼の心はますます傷が深くなっていった。
一時期は精神病院行った方がいいのではと言うところまでいったが、何とか回復し、通常の艦隊運営は出来るようになった。だが、第5海域のことを思い出すといつも発作的に自己嫌悪に陥り、攻撃的になるので、同泊地では第5海域のこと、ひいては艦隊作戦第三法について発言が著しく制限されることとなった。だが、今日から大規模作戦が開始される。前作戦のことは必然的に思い出させられることが想像でき、彼の精神が不安定になるのは明らかだった。
吹雪改二「…ともかく、みんなを集めて作戦会議しましょう。今回の戦いで、司令官に甲種勲章送ってあげられるように…!」
秋月改「…はい!」
二人はそのまま廊下の奥へと消えていった。
ちょっと暗い話になってしまいましたね。リアル事情より仕方がないのです。
もうそろそろ冬イベント開始ですね。皆さん、ともに頑張りましょう!