とりあえず、どーぞ。
「それにしてもすげぇよな、ツナ。個室だってよ!!」
病院の3階廊下、ここもやはり壁一面真っ白で、鼻をつんざく薬品のにおいが蔓延していた。さらに廊下全体は静寂に包まれていて、病院ならではの妖しい雰囲気を醸し出している。しかし、日曜日の午前中という時間もあってか、よく耳をすませば病室から人の話声や笑い声が聞こえてきていた。家族の団欒の時、あるいは友人とのバカ騒ぎ、といったところだろう。
「確かにね。個室って言ったら室料がかかるから基本は大部屋だからね。相当なけがだったのかな」
またしても予想は外れたのだろうか、とヨシュアはツナのけがの重さより自分の予想が外れそうなことに落胆する。もし本当に大怪我だとすれば本日3回目の予測失敗。さすがのヨシュアも一日に3回も予想外なことが起きたことはない。奇想天外な山本がらみのことにはもう金輪際関わりたくないと思ったが、それはヨシュアの任務上無理な話なわけであり……ヨシュアは自分にこれは試練、訓練、鍛錬、我慢だ、と言い聞かせる。
そう、たとえ小さな、例えば携帯の出た人間が予想と違うとか、重要じゃないと思った用事が実は重要だったとか、そこまで酷くないと思っていたけが人が実は大怪我だったとしても、予想を外すということはヨシュアにとってはプライドを傷つけられたに等しいのだ。大怪我ではないように、とツナの体ではなく自分のプライドのために願うヨシュア。
そんなヨシュアの内心を知ってか知らずか、山本が一つの扉を指さした。
「おっ、着いたみたいだぜ」
「本当だ、プレートも沢田って書いてあるし、間違いはなさそうだね」
そう言ってヨシュアはプレート確認するふりをしながら中の気配を確認する。気配は2つ、ただし一つは窓の外だ。おそらく、これはストーカーまがいのことをしてくれる赤ん坊らしくない赤ん坊のもの。これは無視をしてもかまわない。重要なのは部屋の中の方、つまりツナだ。この気配の感じはいたって元気なものである。つまりはそこまでのけがは負っていない、ということだ。本日3度目は回避、と内心安堵していると、隣からガチャッ、という扉を開ける音と部屋に入る足音が聞こえてきた。
……特に問題はない、入るべき部屋が目の前にあり扉が閉まっているのならば、扉を開けるという行為は正しい。しかし、だ。扉を開ける前にやることを忘れてはいないだろうか、とヨシュアは思う。そう、入るべき部屋が他人の部屋ならば常識的に考えてノックをしてから開けるべきなのである。親しき中にも礼儀あり、という言葉をヨシュアは山本に言いたかったが、とっとと用事を済ませて修行をしたいという気持ちが勝り、結果的に
「お邪魔するね、デーチモ」
とノック代わりに挨拶して入るのだった。そのとき、日本人は礼儀正しい(by本)という知識を偽りとするか否かで悩んだことは些細なことである。
「山本にヨシュア!! 来てくれたんだ!!」
つい最近まで入院してもお見舞いに来てくれるような友がいなかったツナはノックの事など全く気にせず素直に喜ぶ。ヨシュアはその様子を見て家光同様、ツナも礼儀はまったく気にしない性格である、という情報を頭の片隅に書き入れる。この親にしてこの子あり、といったところだろうか。
「親父からこれ、見舞品だぜ!!」
肩に担いでいたかなりの大きさのある船盛りをツナの方に差し出しながらいつも通り、能天気そうな笑みを浮かべる山本。日本人なだけあってヨシュアと違い船盛りが結構なお値段がすることを知っているツナはかなり驚いた顔をしながら嬉しそうに笑う。
「うわっすごいね!! 本当にありがとう、山本!!」
「いーってことよ」
「それじゃ、僕からはこれね」
山本に便乗する形でツナに包装された本を渡すヨシュア。山本のに比べたら安いものだが歴としたハードカバー本。一人暮らしで苦学生ほどではないがお金を少しは節約しなくてはいけないヨシュアにとっては大枚をはたいた気分だ。それに見舞いの値段などツナは全く気にはしないだろう。たとえその本の内容がマフィアに関するものだとしても。今はまだ包装紙のおかげで本の内容はおろか題名、さらにお土産が本かどうかすらもわかっていなさそうなツナはうれしそうな顔でお礼を言った。
「ヨシュアもありがとう!!」
どういたしまして、とやわらかい、優しそうな笑みを浮かべるヨシュア。しかし、心の中では心底嬉しそうなツナの様子を理解出来ずにいた。2年前のあの日、大怪我を負った自分がCEDEFに引き取られたとき、ヨシュアのところに飽きもせず毎日見舞いに来た同い年の男の子がいたが、正直うっとおしいとしか思わなかった。まぁ、その男の子はどんなに邪険に扱っても諦めずに構ってくるので最終的にはヨシュアが折れ、今では言葉通りの唯一無二の友達になったのだが。
閑話休題、ヨシュアが昔のことを思い出しているうちにツナの病室に新しいお客がやってきた。
「若きボンゴレ、お気の毒にお怪我だそうですね」
「大人ランボ!?」
大人ランボ……そう聞いた瞬間にヨシュアは反射的にそれに関連する情報を引っ張り出す。ランボ、というのは最近沢田家に引き取られた5歳児の名前のはずだ。ボヴィーノファミリー所属の殺し屋。大人、ということはつまりボヴィーノファミリー秘伝の10年バズーカによる影響を受けた、ということだろう。つまり今自分の目の前にいるのは今から10年後の姿というわけである。
ここまでわかったところで、10年後のランボの殺し屋としてのレベルを計るべく、一挙一動を不自然に思わせない程度に凝視する。
動きは……無駄が多い、がしかし一挙一動は武術に精通している者のものだ。実力的には山本達とほぼ同じぐらいか少し上、といったところか。報告によれば気弱かつ臆病で軟弱者と3拍子のそろった泣き虫だそうだが、それはそれで分かりやすい性格をしていて駒としては使いやすい。それこそ、獄寺と同じくらいには。伸びしろ有、かつ使いやすくファミリーに入れる有用性あり、裏切る可能性も(臆病なため)低い、と脳内情報に付け加える。帰ったら家光への報告書にも書いておこうと予定もついでに立てておく。
因みに、頭でこんな複雑なことをしながらも、ヨシュアは無意識のうちに周りの動きに対して的確に反応していっていた。例えば……
「トイレ掃除頑張った賞を若きボンゴレに差し上げましょう」
と言って、ランボが便器をかたどった金ぴかのトロフィーをツナに渡した時には苦笑いをして穏やかにツッコミを入れたり、
「大丈夫スか、十代目~~~~~~!!」
と叫びながらやってくる血まみれの獄寺を見た時には顔を青ざめさせて体の調子を心配したり、と言った具合だ。
すべての行動を無意識下で行っていたためか、ヨシュアが意識をこっちに戻してきたときには顔には出さずとも獄寺の大怪我に少しだけ驚いてしまう。獄寺も何かに巻き込まれたのかと一瞬心配し、無意識中の記憶を素早く、かつ正確に整理する。そして獄寺の大怪我の原因、それがツナの入院の知らせに慌ててしまい、車に引かれまくった事が原因だと判明した瞬間、ヨシュアは打って変わってボスが入院した、という情報で慌てるのはともかくそれが原因でけがを負うのは右腕失格、という厳しい評価を獄寺に与えていた。
勿論、その間も、獄寺がふらふらしながらもツナに見舞いの言葉やここに来るまでの苦労話を武勇伝の如くに延々と話し、それに対しツナはいつも通りに苦笑いをし、そして山本は能天気に的外れなことを言っては獄寺を怒らせ、そしてそのたびにツナは冷や冷やし、ヨシュアに助けを求めるが気づかないふりをされ、ヨシュアが笑って見守る、という日常的な会話が行われていた。
そんな、いつも通りの光景が繰り広げられていた最中、急にドアがミシ、ミシ、と悲鳴を上げ始めた。外に9人の気配あり、ドアの耐久力弱につきもうすぐ決壊、とヨシュアが悠長に分析していると予想通り、というべきか、ドシーン、という大音量の騒音を立ててドアが倒れてしまった。そしてそのドアの上には8人の女性。
「あなたたち、何をしているのです!?」
ドアに倒れこまなかった、部屋から少し離れたところにいるもう一人の気配で婦長さんと思わしき女性がそう注意すると女性たちが異口同音に声を上げる。
『だって婦長ばっかり近くで見れるだなんてずるいですよ!! 私たちも間近で目の保養がしたいんです!!』
近くで、というのもたまたま婦長がこの患者(ツナ)の担当に当たっているため、医療行為、あるいは患者の具合を見に行く度にお見舞いに来るイケメンを間近で見れる、ということなのだが、それが彼女達にとってはうらやましい事らしい。だからと言って自分の仕事を放り投げて来ていい、というわけではないのだが……。現場放棄、職務怠慢、読書亡羊等々、いろいろな言葉を並べつつあきれるヨシュア。
日本人って、こんな人たちばかりなのだろうか、ふとそんな疑問を持ってしまったヨシュアは自分の知っている日本人を思い浮かべてみる。真っ先に思い浮かぶのはやはり自分の上司で基本適当な家光、次に普段はまるっきりダメなツナ、そして能天気な山本に話を長引かせて人をイライラさせる担任、そして目の前のこの人たち。こんな人たち、ばかりであった。少なくとも自分の周りは。
悪い例えしか思い浮かばない自分のコネクションに少し問題を感じ悩んでしまったが、間違っても顔には出さない。目の前の様子をみて微苦笑を浮かべ、呆れている感をだす。こんなくだらない事をするくらいならばそろそろ帰って修行がしたい、という本心を必死で隠していたのは言うまでもないことかもしれない。
「また部屋を移ったみたいだね」
やっとのことであの蟻地獄から抜け出したヨシュアは心の底から解放感にあふれていた。この解放感は神経をすり減らす長期の隠密任務が終わった時と同じと言っても過言ではない。にじみ出そうな喜びの笑みを穏やかないつもの笑みに変えて、あたかもツナが無事でよかった感を醸し出す。しかし、やっと修行に行ける!!と思った矢先にやはりというべきか、付き物の如くに問題は起こった。
「じゅ…………十……代目…………は……」
「獄寺? おい、大丈夫か!?」
何かをしゃべろうとした獄寺は言い終えることなく廊下にばたりと倒れこむ。当然と言えば当然だ。なにせ、ツナ以上の大怪我だったのだから。
「完全に気を失ってるね、これは。少し待ってて、すぐに医者を呼んでくるから」
顔を青くし、ぐったりと横たえながら血を流し続ける獄寺を見ながらも、いつも血の気が多いから血が抜けてちょうどいい、などとかなり薄情なことを思うヨシュア。言うまでもなく、只今絶賛超不機嫌である。理由は言わずもがな。自分に害を与えるものには基本容赦をしないヨシュアにしては心で思うにとどめ、さらに医者を呼びに行くあたり普段よりは随分寛大な反応、とだけ言っておこう。
次の日の学校終わり、ツナと獄寺がいないせいか比較的穏やかな学校生活を過ごせたヨシュアは山本に誘われて一緒にまた病院を訪れていた。何がうれしくてまたあんな騒がしく、喧しく、騒々しい人間達にわざわざ会いに行かなくてはならないのか、と思ったが友人関係のためだ、と言い聞かせていつも通りの笑顔を張り付けOKを出したのだった。
そして、病院にお見舞いに行くと、ツナは昨日よりも大怪我を負いながら(主に打撲)摩訶不思議な実験室風の病室(?)のベットの上にいた。こんな光景を見た瞬間、咄嗟に扉を閉めようとした自分は正常だ、隣で能天気に笑っている人間がおかしい、と内心で再び葛藤することになるのだが、それはまた別の話だろう。
というわけで、かなり遅いですがあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。不定期で遅々更新ですが、逃げたりは致しません、多分。ご安心ください……。
誤字脱字報告、感想なども重ねてお願いしたりします。どんなに過去のものでもOKですよ。
ではでは裏話。
ヨシュアのお見舞品を開けてみたツナの反応。場所はすでに摩訶不思議な実験室。登場人物はツナ&リボーンです。こんなことあんまり気にしなくても大丈夫なんですけどね。
それではどーぞ。
「そういえばヨシュアのお土産をまだ開いてなかったっけ……」
(そんな暇なかったし……)
「えーっと、あ、これ本だったんだ。ヨシュアらしいな。
題名は…………マフィアの一生? ……って、えええぇぇぇぇ!!」
「うるせーぞ、つな!」
「いたっ、蹴るなよ、リボーン」
「うるせーダメツナががわりぃぞ」
「なんだよそれ……ってあ! こらリボーン!! 勝手に奪うな!!」
「へー、ヨシュアのやつ、いいセンスしてんじゃねーか。
ちょうど今度はこの本を読ませようと思ってたところだったし……」
「な、何考えてるんだよ、リボーン。変にニヤついて……」
「かてきょーとしてお前に入院中の宿題を出すぞ。
退院までにこれを読み終えて感想文10枚提出な」
「な!?」
「出来なかったら……」
「分かった、分かったってば!やるからこっちに銃向けんな!」
「言質はとったからな。んじゃあオレは仕事があるから行くぞ。チャオ」
「……ヨシュア…………。なんでこんな本を……」
こんな感じです。
次回はたぶんオリジナルになるので(未定なので分かりませんが)かなり、かなり幅が開きます。重要なので2回言い(書き)ましたよ?それでは、さようなら。