漆黒の牙の辿る道は…   作:Pie

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 予想よりは早く更新できました!!ぴったり一か月後です。
 そしてなぜだか今回の話が長い……。2話に分けようかと思ったんですけどね。どこで切ろうか迷った挙句にまぁいいかで終了しました。
 それではどうぞ。


第11話 教授

 秋と冬の境目の今の季節。日が傾くにつれ段々と肌寒くなってきた。冷たい風が容赦なく肌を突き刺してくる。さらにそれだけでは飽き足らないと言わんばかりに木から葉を大量に落とし視覚的にも寒さを感じさせようとする。しかし、そんな寒い季節にも熱気を感じさせる場所とは存在するものであった。

 並盛商店街。そこには学校を終えた学生たちと買い物の主婦でいっぱいになっていた。彼らは寒さなどものともせず商品の値引き交渉にいそしんだり、ゲームで熱い戦いを繰り広げたり、一部の勇者は食べ歩きのお供にアイスをチョイスする者までいる。そして、今の時間帯はまだいないが、夜にでもなれば不良と呼ばれる者たちの集団が現れいろんな意味で活気づくことだろう。

 そしてそんな、人混みでうるさく、暑苦しいというヨシュアのきらいな条件がばっちりそろっている、そしてもう二度と来てやるかと決意した場所にヨシュアは再び足を踏み入れていた。もちろん、つれ同伴で。

 

「相変わらず活気であふれてるね」

 

「うん、そうだね! まずはどこに行こうかな」

 

「ランボさんはあのアイスを食べるんだもんね!!」

 

「こらランボ! 勝手に一人で歩き回るなよ!!」

 

「ランボ、ダメ!!」

 

「今日の並盛商店街に集まった人のランキングは……」

 

「ストップ!!ここでランキングなんかしたら大変なことに……」

 

「ははは、相変わらず元気だな!!」

 

「っち、うぜーだけだろ」

 

「うおおおおおおお!!!」

 

「てめーはうっせえんだよ、この芝生頭!!」

 

「なにお~~!?」

 

 つれ同伴、しかし、ヨシュアはこのことを喜ばしくは思っていない。友好を深め任務をより確実に遂行するという大義がなければ絶対に断っていたところだ。何せその連れの人達に一番の問題があるのだから。つれの一人目はやはりツナ、そして彼が行くならば金魚の糞の如くついていく獄寺に能天気な発言・言動により目下一番の悩みの種である山本の定番3名に加えこの前病院で会ったランボにその友達(?)のイーピン、フゥ太、そして子供たちの面倒見がいい笹川京子になぜかその兄、了平まで参戦している。

 正直、商店街より自分の周りの方が騒がしいと思い離れたくなるがぐっとこらえ我慢をするヨシュア。わずか12行の会話だけでこの先の雲行きが怪しいのは気のせいだと思うしかない。たとえ何があろうとも傍観を決め込もうと心に誓いつつ彼らを温かく見守るふりをしていた。

 しかし、今日はどうやら(ヨシュアにとっては)相当な厄日だったようで、さらに一段と騒がしい人までやってきてしまった。

 

「はひ!! ツナさんたちじゃないですか!?」

 

「ハル!?」

 

「あっハルちゃん!」

 

 また増えた、しかも絶対に騒がしい人種だ、とヨシュアは只でさえも低かった気分をさらに低くする。獄寺と笹川兄が言い争っているのも、それを笑ってみている山本も、そこらじゅうの店に押しかけている牛柄の子も、それを止めようとして事態を悪化させる中華の子も、ランキングの子も、ツナにべっとりくっつく増えた女子も、その女子に嬉しそうに話しかける笹川妹もすべて幻覚、悪い夢と思いたいがそうはいかない。

 傍観を決め込みたいヨシュアの存在にツナにまとわり付いていた女子が気づいてしまったのだ。まぁ、気配を消していなかったため当然と言えば当然である。致し方ない、友好という名の情報網を広げるためだ、と覚悟を決めヨシュアは穏やかな笑顔を浮かべ女子の自己紹介を聞く体制に入る。

 

「あ!! そちらの方にお会いするのは初めてですね!! ハルは三浦ハルと言います!! その……ツナさんの恋人で将来のお嫁さんです」

 

 最後は顔を赤らめ恥ずかしがりながらツナに抱き付くハル。ツナは「な!?」といって違うだろ!と言わんばかりにハルを離そうとするがまるでびくともしない。

 

「こちらこそ初めまして。ヨシュア・アストレイと言います。以後お見知りおきを」

 

 何事にも動じない、と事前に心の壁を厚くしていたヨシュアはハルの言動を一切気にせず先ほどよりも少し嬉しそうな、明るい笑みを浮かべて自己紹介をする。ツナからのhelpはこの際無視だ。

 その後、女子二人は子供×3の面倒を見に行ったため、うるささから一時は解放されたものの、ツナからはあれは違ってだかどうたらこうたらと言われたため結局静かに過ごせず、やっぱりhelpを無視しなければよかったとひとり後悔しながらツナの言葉を右から左に聞き流していた。

 

 

 

 

「よし!! 極限に勝負だ!!」

 

 ゲームセンター。そこは機械の音に支配された空間。そして、この暗い空間に光をもたらすのはゲームのあかりだけという異質な空間。現実とはかけ離れた世界だ。そして、そんな世界で叫び声を上げる約一名の男。機械のうるさい音にも負けず、ゲームの光にも負けないくらいに光り輝いていた。勿論、これは何の意味もない、無意味な行動である。ヨシュアはここにきてようやく、山本以外にも予測不能な行動をとる人間を発見してしまったのだった。

 それはともかく、ここのゲーセンには今男達5人で来ていた。理由は簡単、こんな夕方に5歳児達を連れてくるわけにはいかないから。そして5歳児達だけでいさせるわけにもいかないため世話を見る人員として京子とハルもいない。そしてフゥ太も「僕もランボたちといるよ」と言って付いて行ったためここにはいない。人が減ってほっとした、という気持ちがヨシュアの中で起きてしまったが、しかたがない事だろう。

 

「じゃあヨシュアはまず何がしたい?」

 

 ヨシュアに聞く、というのもそもそもこの遊びはヨシュアの転校祝いと日本案内を兼ねて行われていた。ゲームをするのは、というより触ったことすらないヨシュアはほんの少しだけ興味があった。ただし、ゲームの内容ではなくゲーム機の仕組みの方に、だが。その為、何がしたいかと問われてもゲームの内容自体には興味がないという答えしか持ち合わせがなかった。だからとりあえず、何もわからない感を出して相手に選ばせるのが得策、と考えたヨシュアは苦笑いを作る。

 

「う~ん。実はゲームセンターとかって来たことないから分からないんだよね。初心者でもわかる物を適当に選んで構わないよ」

 

「え!? 来たことないの!!?」

 

 ありえない!!という副音声とともに大声を上げるツナ。ヨシュアとしては珍しく嘘をつかなかったに失礼な……と思いつつ普通の健全な男子中学生はゲーセンくらいいくものか、と思い直す。理由を、と思ったがさすがに今回は正直に言うわけにもいかず今度は適当に嘘でごまかすか、と口から出まかせを吐く。

 

「両親共働きのおかげで基本学校終わりも家に直行して家事してたし、休日の空いた時間は基本勉強か図書館で本読むとかだったからね」

 

「さすが優等生……」

 

 この前の中間テストでは獄寺と並んでオール満点の1位だったっけ、と思い出して遠い目をする。本当に自分とは真逆な人間だ。そして、ヨシュアの思惑通り納得してくれたらしく、少し考えた山本が指をさしながら言った。

 

「じゃあ、あれなんてどうだ?」

 

 山本がさした方向にはたくさん穴が開いている機械があった。ゲームを全く知らないヨシュアはクエスチョンマークを浮かべならツナたちとそのゲーム機に近寄って行く。

 

「このゲームは叩くだけだぜ!」

 

 とりあえずやってみせるといいコインを入れてハンマーを構える山本。気合十分の山本が穴を真剣に見つめる。ゲームが始まった瞬間、穴からモグラが出てきた。最初の一匹は完全に出る前に山本のハンマーの餌食になる。2匹、3匹、4匹……と倒していくにつれゲーム機の方も意地になったのか、どんどんモグラの出てくるスピードが上がってくる。速くなるにつれだんだん対応しきれなくなってくる山本は何匹か取り損なってゲーム終了。

 すると、上のモニターに点数が表示された。

 

「おっ、意外といい点なのな」

 

「すごいね、山本!!」

 

 最初に見た点が山本だったため基準値が分からずどれだけすごいのか不明だが、山本とツナの反応からかなりいい点数だと理解できた。

 

「よし! 極限に次はオレだ――――!!」

 

 そう気合の入った宣言をしハンマーを構える笹川。それに対し「じゃあコイン入れるっすね」と山本が反応し獄寺が「こいつにできんのかよ」とバカにする。ヨシュアは目が燃えるとはこういうことを言うのか、と観察しているとゲームが開始した。笹川は「うおおおおぉぉぉぉ!!!」と雄たけびを上げてハンマーを振り下ろす、が……。結果からいえば、惨敗。笹川はどうやらルールを“より多くモグラをたたく”ではなく“モグラをより強くたたく”と勘違いしたようだった。その証拠に、壊れてこそいないがモグラは叩かれるたびに大きな悲鳴を上げていた。

 

「まぁまぁ、こういうときもあるっスよ」

 

「あはははは……」

 

「意外と日本のゲーム機って強い……」

 

 山本に励まされ、ツナに苦笑いされ、ヨシュアは違うところに感心している最中、笹川は柄にもなく落ち込んでいた。地に倒れ伏している、とでもいうべきか。しかし、ある一言により再び火を取り戻す。

 

「けっ、やっぱりバカだった」

 

「なにお~~~~!!」

 

 本日何回目になるかわからないケンカ発生。また始まった、ともうヨシュアはあきれることなくただの現象、あるいは化学反応として受け止める。水素に火を入れたら爆発する、と同じ感覚だ。そして2人は幼稚園児か、と突っ込みたくなるような喧嘩を長々と続け最終的に

 

「そこまで言うならタコヘッドもやってみろ!!」

 

 というありがちな展開を見せたのだった。そして結果は大衆の予想通りルールを理解している獄寺の圧勝。それにより笹川はさらにへこんだのだが、獄寺は憎きライバル、山本に点数で勝てなかったのが悔しかったらしく、笹川には目もくれず山本に向かって「もう一回だ!!」と叫ぶ始末だった。

 

「次はヨシュアがやってみたら?」

 

 いまだに今回の主役であるヨシュアが不参加なのはだめだ、と思ったツナがそう提案する。

 

「うん、そうだね。今までのでルールは理解できたし」

 

 何より瞬発力を鍛える修行になる、と言いはしなかったが心の中でつぶやく。因みに、修行と思わなくてはやっていられない、というのがさらに奥にある本音である。

 

「極限にファイトだ!!」

 

 笹川の熱い声援を受け開始されるゲーム。ゲーム盤全体を視野にいれ、素早く行動していく。もう一本、ハンマーがあれば完ぺきなのに、と日本に来てからいまだに修行以外で活躍の場のない自分の得物、双剣を思い浮かべる。ヨシュアにとっては慣れ親しんだ獲物だが、銃刀法違反によりそう易々と持ち運べないという難点があるのだ。

 ゲーム終了後、パンパカパーン!!という音と共にモニターに映し出される史上最高得点。ツナたちの驚く顔を横目にまたやってしまった、と後悔するがすでに後の祭り。これはバレー、誘拐事件に続き3回目。以後、気を付けようと決心する。

 と、その瞬間。

 

「どうしたのヨシュア!?」

 

 急に気持ち悪くなり地面に膝をつけてしまう。普段から体調管理に人一倍気を使っているだけあって自分自身でも驚いてしまう。今までのストレスに加えて慣れない場所で馴染のない行動をしたことで体調を崩したのだろうか、とヨシュアは思いつつ一瞬乱れた感情を制御する。しかし、すればするほど感じるのは眩暈や頭痛、気持ちの悪さ。

 

「とりあえず、外に出るか?」

 

 山本の問いかけに頷き返して、支えられながらヨシュアは出口へと向かう。一人で歩くことも、しゃべることも、今は苦しい。

 外に出て一番に目についたのは血のような赤に染まった空。血になれたヨシュアはなぜか、それを異様に気持ち悪く感じた。そして、日が傾いたせいなのかどうなのか、先程以上に冷たい風がヒュウと吹き、ヨシュアにまとわりついてきて、どんどん体温を奪ってゆく。今、自分に入ってくる情報すべてが、気持ち悪い。

 

「極限に顔が青いぞ?」

 

「とりあえずあそこに座るか」

 

「じゃあオレ、自販機で何か買ってくるね!」

 

 そう言って走っていくツナの後ろ姿を見ながら、慣れないことはするものじゃない、と後悔しつつベンチに座る。気持ちの悪さをごまかすために、深呼吸をしながら目をつぶったのだった。

 

 

 

 

 

「えーっと、確かこの辺に……」

 

 ツナはそうつぶやきながら右に左に首を振る。しかし、目に入るのは人、人、人のゴミ。おかげで自販機をなかなか見つけることが出来ない。挙句の果て、自販機を発見するどころか、別の物を発見してしまった。物……というよりは者、だろうか。

 

「ここ、どこでしょうか?」

 

 いわゆる、迷子と言う者だった。ここにはあまり似つかわしくない、学者風の格好をし、眼鏡をかけた外国の男。彼もまた、ツナと同じように右に左に首を振っていた。ツナより激しく首を振っている分、相当困っているようである。次期ボス候補という言葉に似あわず、10人が10人認めるようなお人よしのツナは困っている人を見かけたらまず助けてしまう性格をしている。ヨシュアに飲み物を届けなくちゃという思いの反面、困っている人は助けなくちゃ、という気持ちもあり、あーだこーだ迷っているうちにいつの間にか話しかけていた。

 

「あの~、大丈夫ですか?」

 

 ツナが後ろから声をかけた、瞬間だった。男はまるで救世主を発見したと言わんばかりに目を輝かせ、ツナの手を握りこむ。

 

「大丈夫じゃないんですよ~。知らない異国の地で目的の場所を見失った挙句あれよあれよという間にこのようなところに連れてこられてしまったんです!! はぁ~、助かりました。日本というのは迷っている人を助けないくらい冷たい人の国かと思いました~」

 

 矢継ぎ早に言って、もう助けてもらう気満々の男は疲れた、という顔をしながらもツナを期待した瞳で見るという器用なことをやってみせる。逃げられない、そう悟ったツナは何から逃げるのかも不明なまま苦笑いを浮かべる。

 

「えっと……とりあえず、オレも用事があるのでそれが終わった後なら案内できますけど……」

 

「それでかまいませんとも!! よろしければお手伝いいたしますよ」

 

 そう言って嬉しそうな笑みを浮かべる男の勢いに押され、「よろしくおねがいします……」というツナ。さあ、行きましょう!!という雰囲気を全身から出した男はちょうど隣を歩いていた人と同じ方向に歩き始めた。そっちは逆!!と思ったツナが叫ぼうとした瞬間、男は今思い出しましたとばかりに急に足を止める。

 

「そういえば、どこに行くんでしたっけ?」

 

 ツナは今までにないくらいの苦笑いを浮かべて呆れつつ、「反対です」と言うしか出来なかった。周りに流されるから、迷子になるんだろうなぁ、と思いながら。

 

「そういえば名乗り忘れていましたね。私はアルバと言います。気軽にアルバ教授とお呼びください」

 

「あ、沢田綱吉です」

 

「綱吉さんですね。それで、どのような用事なんですか?」

 

「あ、友達が具合が悪そうだったので飲み物を買いに、自販機を捜していたんです」

 

「なるほど、それは大変ですね。すぐに探すとしましょう」

 

 ふむふむ、とうなずいたアルバ教授はあたりを見渡す。外国人ということもあってか、周りより背が高く、ほんの少しキョロキョロしただけで見つけてしまった。

 

「コレですね。それで、何を買うんですか?」

 

「えっと、とりあえず温かいお茶を……」

 

 そう言った瞬間、アルバ教授は自販機にお金を入れてhotのお茶のボタンを押した。

 

「はい、どうぞ」

 

「え!? そんな、お金ぐらい払いますよ!!」

 

「いえいえ、お気になさらず。助けていただいている身ですからこれくらいの事当然です」

 

 えっへん、という副音声が聞こえてきそうな感じに言う教授に「ありがとうございます」というお礼を言う。その後、アルバ教授が頓珍漢な方向に行く前にヨシュアのいる方向を指差してから、人混みをかき分けヨシュアの方へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

「極限に遅いな。何かあったのか?」

 

「くっ、オレとしたことが十代目にお飲み物を買いに行かせてしまうだなんて……」

 

「まぁまぁ、獄寺。オレが様子を見てくっからよ」

 

「誰がてめーなんかに任せられるか!!」

 

 うるさい、ヨシュアはその言葉を口に出る直前、それこそ、口から1ミリぐらいしかないところに頑張って押さえ込んでいた。せっかくこの気持ち悪さになれて気にしなくなってきたというのに、またこんな変な努力をしてストレスをためて悪化したらどうするんだと思ってしまう。

 はやく帰ってきてくれ、とツナに念じながらツナの居場所を探す。しかし、慣れてきたとはいえ、まだ少し体調が悪いのかツナの居場所を気配でつかむことが出来ない。普段できるはずのことが出来ないというイライラを感じてしまい、ならばと目で探そうとしても人が多すぎて途中で気が失せてしまう。

 はぁ~、と深いため息をつきながら目の前で行われる3人の喧嘩を冷めた目で見る。すると山本はどこをどう間違ったのか、

 

「大丈夫かヨシュア? さっきより顔色わりーぜ」

 

 などとのたまってくる。気分はさっきよりかなり良くなったし、もしそう見えるのならば100%君らのせいだ、と言いたくなったがそれも寸でのところで止める。そして、そんな内心の様子を体調不良により隠し切れなかったのか、さらに山本と笹川が心配してくる。もう嫌だ、と任務放棄をしたくなったヨシュアに救いの声が聞こえた。

 

「ヨシュア! 待たせてごめん!!」

 

 はい、と言って手渡された温かいお茶。手に持てば、その温かさが冷え切った手に染みわたり、飲めば、体が温まって今まで溜まりに溜まったストレスが洗い流される気がした。と、落ち着いたところで、ツナの半歩後ろに眼鏡をかけた学者風の男がいることに気が付いた。

 

「てめぇ、何もんだ」

 

 獄寺はきつく睨みながら問い詰める。警戒心丸出しだ。しかし、男は全く気にした様子がない、というより睨まれていることに全く気が付かない。

 

「あ、申し遅れました。私、教授をしているアルバと言います。先程道に迷ったところを助けていただいたんですよ。それよりそちらの方、大丈夫ですか? 少し顔が青いですね」

 

 そう言って心配そうな様子でヨシュアの額に手を置く。

 

「熱はないみたいですね」

 

「もう治りかけていますし、ただ気分が優れなかっただけですよ。ご心配おかけしました」

 

 教授に敵意がない、と即座に判断したヨシュアはいつもより少し硬めの笑顔を作り軽くお礼を言う。それと同時に、時間がたつにつれて人が多くなる商店街から出るには格好のいい獲物だと思い、策をめぐらす。

 

「本当に大丈夫なのか? 極限にさっきよりは顔色は良くなったが……」

 

「無理は禁物だぜ」

 

 心配そうな2人に笑顔を向けて立ち上がる。

 

「大丈夫だよ。それより教授、迷われていたということはどこか行く場所があったんですよね?」

 

「えぇ、並盛にある歴史博物館というところに行くところだったんです。私は古代遺跡の研究をやっているものですから」

 

 並盛にある歴史博物館と言えば商店街からかなり離れた静かな場所に建てられている。訪れる人も少なく、少し興味のあった場所だ。確か、この辺りの歴史だけでなく外国の有名な遺跡のことも取り上げている博物館だったはずだ。

 

「では、ここから少し距離がありますし、行きましょうか」

 

「しかし……体調は…………」

 

「もう平気ですよ」

 

 確実に快方に向かっていたヨシュアの体調はすでに、万全とまではいかないがかなり良くなっていた。それが本当に治ってきているのか、ただ単に慣れただけなのかは当のヨシュアにも分かりかねる事ではあったが。

 それはともかく、これ以上変に疑われたり心配されるのは御免のため博物館のある方面へ歩き出す。

 

「あ! そういえば京子ちゃんたちは?」

 

「笹川たちには今連絡したぜ。博物館に向かうバス停で待ち合わせといたぜ」

 

「ありがとう山本!」

 

「ちっ。うぜー奴らも一緒かよ」

 

 さすがにうざい、とまでは言わないがうるさいため一緒にいたくないヨシュアは内心、獄寺に同意する。体調不良を理由にさっさと帰ってしまおうか、と思ったがもう大丈夫といった手前、そんなことは言えないと思い、なんとか我慢しようと決意した。

 

 

 その後、山本が伝えていたのか、京子たちにも体調不良の件が伝わっており、過剰なまでに心配され辟易し、さらにアルバ教授が人混みに入るたびに行方不明になりかけまた辟易し、周りが喧嘩をしだし辟易し……と言うようなことがあり、目的地に着くころにはヨシュアは精神的に疲れ切ってしまっていた。最終的に、古典風に言えば「ひねもす厄日なりけり」か、と普段あまりしない現実逃避をしてしまう始末。

 しかし、現実逃避をしたせいなのか、はたまた周りがうるさすぎて気が紛れたせいなのか、アルバ教授と別れるころには体調はすっかり元通りになっていた。

 

「それじゃあ僕はこっちだから」

 

「一人で大丈夫か?」

 

「おかげ様で体調は元通りだよ。それじゃあまた明日」

 

 軽く手を振って別れを告げれば向こうも別れの言葉を返してくる。

 そこから少し歩けばもう自分の周りには誰もいない、静かな空間が広がった。それはついさっきまでヨシュアが心の底から願った平穏な時間だ。しかし、それを一瞬むなしいと感じてしまう自分に驚く。

 もしかしたら、彼らの影響を受けているのかもしれない。2年前、わずかながらにも自分を変えた彼のように。




 お疲れ様でした。
 題名を裏切らず、しっかりアルバ教授にご登場いただきました。いや~、本当にいい性格してますよね、彼。とりあえず、これからもちょくちょくご登場するのでお見知りおきをな人物です。ちなみに空の軌跡キャラですよ。
 彼の口調ってよく分からないのでもしここが違うと思ったら言ってください。変更します。
 それでは、今回は長かったので裏話もなくこの辺で。さようなら。
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