漆黒の牙の辿る道は…   作:Pie

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 長らくお待たせいたしました。その割に短いです。ごめんなさい……。


第12話 遭難 上

 碧。ここにはそんな言葉が似合うだろう。町では見られない珍しい木々の数々、そして、山からゆったりと流れる光輝く川。ここら一帯は幻想的な色で埋め尽くされていた。美しいのは色だけではない。ひとたび落ちればそのまま地獄へ落ちてしまいそうな、恐ろしいが故に美しい深い谷。悠然とそびえる高い山。その間、あるいは上を自由自在に飛び回る鳥たち。普通ならば目を奪われて感動してしまうような光景だ。しかし、残念ながらこのきれいな光景を目に焼き付ける余裕はなかった。

 自然界へ足を踏み入れることへの洗礼なのか、あるいは来た時期が悪かったのか、この場所には、ただそこにいるというだけで誰彼構わず肌に突き刺す冷たい風が吹き荒れ、止んでも冷たい空気の置き土産が用意されていた。そして、行く手を阻む上り坂。あまり人が通らないせいか足場も悪く、到底周りの景色を見る余裕などない。

 しかし、無駄口をたたく余裕は人間、どんな時でも持ち合わせている物であった。

 

「ったく、なんでこんなさみー時に山奥なんかに来なきゃなんねーんだよ」

 

 暴力と悪口がお友達の獄寺はここ十数分間、ずっと文句を垂れ流していた。その間、青筋も立てっぱなしだったのは言うまでもないことで。対する山本はというと……

 

「まぁまぁ、いい訓練になるからいいじゃねーか!!」

 

 元気いっぱいに笑って、それでいて大変そうに上っていた。

 ここまでがヨシュアがいつも見る光景かつ、ツナを除いたメンバーだ。そして+αで

 

「訓練しに来たわけじゃねーんだけどな……」

 

 跳ね馬ことディーノ。苦笑いを浮かべつつ、まだまだ余裕のある足取りで上っていく。唯一の心配事はこの場に部下がいないことだが、今のところ転ぶだけで特に周りに害を及ぼしてはいない。

 そして、この場にいるのはあと一人、ヨシュアだが……残念ながら体力が人並みしかない所為ですでに疲れ切っていた。もちろん、いつも通りの速度、歩き方で行けばこのぐらいで疲れることはないのだが、慣れない動きとストレスのせいで肉体的にも精神的にも疲労がどんどん溜まっていく。

 

「大丈夫か、ヨシュア?そろそろ少し休むか?」

 

「……いや、デーチモ達と早く合流したいし、まぁこの程度なら大丈夫だよ」

 

 先日、ぶっ倒れた時以来随分と体調を気にしてくる山本に不思議な感覚を抱きつつも、薄く笑いを浮かべ、首を振って拒否の意を表す。

 この場にいないツナのことを真に心配しているわけでは決してなく、ヨシュアがほんの少し考えてでた納得させるのに一番最適な理由これだったため言っただけだ。本当の理由は早く済ませて早く帰りたい、である。

 

「ま、無理しねーよーにな」

 

 ヨシュアの言葉に納得し、殊勝なやつだと思ったディーノが余裕そうに笑って肩をたたいてきたときには本気で殴ってやろうかと思ったが、理性で抑える。100%お前のせいだと思いながら。

 そもそも、ヨシュアがこんなところにいるのはディーノが誘ってきたからだ。普通だったら丁重にお断りをするのだが、ファミリーの絆を高めるための親睦会を行うと言われ、そして極め付けにツナは先に行っているなどと言われてしまえばもう断れない。

 任務のため任務のためと何百回と頭の中で念じ、自分を納得させ、それ相応の覚悟を決め、ディーノがへましたときに使う道具類をそろえて隠し持ち、その他あらゆる気苦労をした上で登山をし、そして今に至るのだった。

 

「ここらで待ち合わせなんだけどな……」

 

 そう言ってディーノが足を緩めて首を左右に振るのに倣い獄寺と山本もあたりを見渡しはじめた。残念ながら気配察知するだけの余裕がないヨシュアはツナ捜索を3人に任せ、歩みが遅くなったのをいいことにヨシュアが俯きながら呼吸を整える。今この状態で文句を言う人など誰もいないだろうと思って。

 少し歩いて、だんだん楽になってきたとき、急に3人が叫び声をあげ、驚いた様子で走りだした。

 

「……まだそんな体力あったんだ」

 

 いくら楽になったとはいえ、つい口に出してしまうぐらい疲労困憊のヨシュアは3人を呆れた目で見つつ、その先をよく見てみれば岩に縛られ滝に打たれているツナの姿が見えた。

 この気温で勢いの強い冷水を浴びさせられている光景を見れば駆け寄りたくもなるものだろう。そう納得しつつもヨシュアは駆け寄る、ではなく目をそらして(見なかったことにして)再び体力回復に努めることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「え~っと、ヨシュアも辛そうだね」

 

 こんな欠点があったんだ、と半分驚いた様子のツナに失礼な、と思いつつ首を横に振る。

 

「別に大丈夫だよ。滝に打たれるよりはましだからね」

 

 いまだに震えているツナに同情の目を向けながらそう答えれば苦笑いを返される。そんな、はたから見れば情けない2人に対し容赦ない言葉かけてくる人がいた。

 

「だらしねーな。ヨシュアにしてもこんなに体力がねーなんてな。これからみっちり鍛えてやるから覚悟しろ」

 

 銃を片手に赤ん坊とは思えない迫力で脅してくるリボーンに、ここに呼ばれなければすでにみっちり鍛えてる最中です、とはさすがに言えるわけもなく、代わりにうなだれてため息を吐く。隣で悲鳴を上げている人間もいるが、そんないつもの光景などは気にしない。

 

「おい、リボーン。今日ここに来たのは修行じゃねーんだぞ」

 

 さすがに哀れに思ったのか、そう言って助け舟を出すディーノ。それに対し、当事者2人の反応は正反対だった。片やまるで神様を見るような目で感謝し、片や親の仇と言わんばかりの憎しみをすべて冷ややかな視線に変えて見ていた。

 前者はあまり物事を深く考えない人間の行うことであり、後者の方は、そもそもの原因が誰であるのかをよく記憶していて、さらにディーノとリボーンの力関係を知っているが故にこれから起こるであろうことを予測できる人間の反応だ。

 

「分かってるぞ。だからこれからこれで遊ぶぞ」

 

 そう言って手に持っているのは、いつの間に奪ったのか、ディーノの愛亀、エンツィオだった。

 そしてそれをそこらへんに、それこそゴミをポイ捨てするかのように放り投げる。ご丁寧に、「ポーイ」という効果音を口に出して。そして、エンツィオはきれいな放物線を描きながら飛んでいき青く光るきれいな場所に落下した。

 簡単に言えばエンツィオはついさっきまでツナが滝行をしていた場所、川に落ちたのだった。

 その瞬間、ディーノとツナがあからさまに慌てはじめた。リボーンは面白そうに、にやりと笑っている。何か嫌なことが起こるな、と予想するや否や、ツナたちの青ざめた理由が分かってしまった。

 

「質量保存の法則って……なんなんだろうね」

 

 この世の神秘に驚き呆れながら周りに倣ってとりあえず来た道を引き返すヨシュア。その後ろには、川の水を吸ったにしてもでかすぎるカメが二足歩行で追いかけてきていた。

 トップスピードだったら何の問題もないが、ツナの足に合わせている今じゃ遠くない未来に追いつかれるだろうな、という予想を立て、どうしようかと思案し始める。

 頭の中の地図を広げこの先約100m地点に吊り橋があることを思い出したヨシュアは即座に頭で考えを張り巡らす。吊り橋さえ渡れればカメは追ってはこれないし、もしわたってきたとしてもその重さによって吊り橋は壊れて谷底へと落下する。谷の深さからしておそらく落ちたら二度と登っては来れないだろうし、もしできたとしても最高の足止めになる。

 しかし、この計画はカメが吊り橋に到着するまでに自分たちが吊り橋を渡り終えなくてはいけない、という大前提がある。もし渡り中にカメが橋に突進してくれば、自分たちも一緒に谷底に落ちてしまう。果たして可能かどうか、瞬時に計算してみたヨシュアは周りに悟らせない程度に落ち込んだ。結果は残念ながら、橋のど真ん中あたりで吊り橋でエンツィオに追いつかれる、だったからだ。

 こうなったらできることはただ一つ。

 

「ツナ、吊り橋を渡り終えるまで全速力で走って。そこまでいけば何とかなるから」

 

 そう言って無理やり手を引っ張って連れて行く。この速度だったらギリギリで間に合う。しかし、そう簡単にいかないものだった。

 カメの地響きのせいで吊り橋が揺れまくっていたのだ。勿論、その程度ヨシュアはもろともしないのだが、この場にはツナがいる。

 

「ゆ~~れ~~る~~~~!!」

 

 橋から落ちてしまわないようにロープをもって少しずつ進むツナ。この状態ではさすがに引っ張っていくこともできず、歩くよりも遅いスピードになってしまった。そんなことをしていればすぐに追いつかれてしまうと言うもの。

 振り返ってみてみればすでに吊り橋の前にカメは立っていた。

 

「ちっ、ここはオレが時間稼ぎをする。お前たちは先に行け!!」

 

 はたから見れば感動して感謝をするような場面。しかしながらついこの間のヤクザつぶし事件の際に痛い目にあったばかりのヨシュアたちにそんなことできるはずもない。

 

「やめろ!! てめーのへなちょこ鞭じゃ無理だ!!」

 

 案の定、獄寺が止めにかかるがディーノは言うことを聞かず、カメの方に走りながら鞭を振り回した。その瞬間、ヨシュアは自分が何をすべきか悟り、次いでツナの近くに移動した。

 鞭はきれいな弧を描き、そして、皮でできているはずのそれは無駄なところだけ本来の力を残すなよと言いたくなるほど切れ味がよく、結論を言ってしまえば、橋を保つためのロープすべてを断ち切ってしまったのだった。

 

「跳ね馬! てめ――――!!」

 

「わりぃ!」

 

 恨み言と謝り言を聞きながらそして崩れゆく吊り橋を見ながら、ヨシュアは自分が無傷に、かつツナを死なせない程度に受け身をとる体制を整える。幸い今は落ち葉の多い冬、ほかの人達も間違いがなければ大けがにはならないだろう。ディーノはともかく、獄寺にしても山本にしても運動神経は抜群なのだから。

 そんなことを思い落ちながらリボーンの方を見る。するとかれはニヤリと含み笑いをヨシュアの方に向けてきた。それに対してヨシュアもまた口もとに笑みを浮かべるのだった。




 うぅ、短いですね……3か月ぐらいほったらかしにしたくせにね。
 本当にごめんなさい。
 そして裏話も特にない。だってディーノと山登りしてカメから逃げて落ちたところまでしか話が進んでいないんですもの。しょうがないですよねー。
 というのはいいわけです。
 次話……いつになることやら。期待せずにお待ちいただければ幸いです。
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