では、第2話をどうぞ!!
大きな窓から見える森。そこには少し早めの秋が到来していた。
ほんのり黄と赤に色づいている木々。肌寒くなってきた空気。夜には秋虫たちの大合唱。猛獣たちは冬眠の準備を始めているころだろう。
そしてそんな中、情緒あふれる秋を見る間もなく机と、正確にはその上の書類と、格闘している少年がいる。黒髪に琥珀色の瞳をした、端正な顔立ちの少年だ。
この部屋ではかれこれ3時間ほど、ペンと紙の音しかしていない。一応ここはパブリックルームの為他の人も使うのだが,今は人が出払っている。
だだっ広い部屋にこの少年一人である。
そんな中、急に外の部屋でヒールの音が聞こえてきた。カンッカンッという軽快なリズム。その音にわずかな乱れも存在しない。そしてキィィィィ、という扉を開ける音がする。
「ヨシュア、親方様が呼んでたわよ。別に急ぎってわけではなさそうだけれど」
出てきたのはオレガノだった。何やら疲れているような顔をしている。おそらくずっと徹夜続きだったのだろう。よくあることなので少年―ヨシュアは特に気にせずにうなずいた。
「分かった。ここの書類の整理が終わったらいくよ。わざわざ知らせてくれてありがとう、オレガノ」
オレガノの方を向いて礼を言いながらも手の動きを全く止めようとしないヨシュア。しかし、書類に書かれているのは先ほどと変わらぬ整っている綺麗な文字。器用、としか言いようがない。
「どういたしまして」
オレガノはニコリと笑ってすぐ、身をひるがえしてまた早歩きで去って行った。
まだまだ仕事がたまっているのだろう。さすがは家光が信を置く部下、と言ったところだろうか。おそらく、オレガノの仕事量は今ヨシュアの目の前にある書類の山とは比べ物にならないほどのはずだ。オレガノには悪いとは思うが、こういう時は他人の方が大変だと思った方が仕事ははかどるものである。たとえ気持ち的に、だけだとしても。
数時間後、机の上を覆っていた書類たちはいなくなっていた。
さすがに何時間も机に向かっていれば肩も凝る。肩をまわしながら本日最後の仕事に向かおうと席を立った。言われた内容によって今日の寝られる時間も決まる。厄介事でなければな、そう思いながら早歩きで家光の執務室に向かった。
他の部屋よりも一回り大きく、少し豪華になっているドアをヨシュアはノックする。
家光はそんなことを気にするような人間ではない。しかし、ヨシュアは立場上目上の者には礼儀をわきまえること、これが常識として、日常の行動として当然の事として身についている為、家光がいくらやらなくてもいいと言ってもやり続けている。
「ヨシュアです」
「おう、入れ」
「失礼します、なんのご用事ですか?」
家光は内心笑っていた。この少年がここに来てからもう2年経つ。来たばかりのころこそ本当に生意気な態度をとってくれていたが今となっては自分のことを“家光さん”と呼び、さらにこの丁寧口調である。
まぁ、昔から丁寧口調ではあったが、刺々しかったのだ。聞いているこっちは丁寧語なのに貶められているような気分だ。
「にやついて、どうしたんですか」
ヨシュアの顔はとてつもなく不機嫌そうだ。家光は顔に出ていたか、と思いながらどこ吹く風を通している。何か下手なことを言えばおそらく、自分が負けてしまう。辛辣なこの少年に口げんかで勝てたことなど一度もないのだ。
「いや、なんでもない。しかし、この時間とその顔を見ると書類を終わらせてきたみたいだな」
「えぇまぁ、どこぞの誰かさんのおかげで手と目が疲れ果て、顔がやつれてしまいました……」
そう言ってわざとらしく目をこすった後、額に手を置いて疲れた感じを演出してみせるヨシュア。しかも、大げさにだ。
「……それは俺に対する嫌味か?それに俺が言いたかったのは解放された感が顔に出ていたからで……」
「ところで、そろそろ僕を呼んだ件についての話をしてください」
「……お前というやつは…………」
相も変わらず、丁寧口調で礼儀正しいくせに自分で遊んでいる。ヨシュアは今、いけしゃあしゃあと疲れた演出を解いて家光の方を見ている。
何か言い返したかったが、このままではヨシュアの言うとおり本題からそれてしまうことは確かであった。
「まあいい。呼んだのはほかでもない。お前に日本に行ってもらいたい」
「日本?あそこは比較的治安が良く、別段目立った組織もなかったはずですが…」
その通り、平和ボケした国で,唯一あるとすればヤクザだが、ヨシュア達からすればいきがった雑魚たちの集団である。さほど問題視する必要はない。
ヨシュアの言いたいことが分かったのか、家光は詳しく説明する。
「あぁ~隠密、スパイの仕事ではない。まぁ、ある意味ではスパイだが……。俺の息子、つまり次期ボンゴレ十代目候補沢田 綱吉の動向っつうか様子?を逐一報告してほしいんだ。……ついでに緊急時のツナの手助け」
家光はそう言いながら資料を手渡す。そこには飛行機のチケットから地図、拠点にするであろう家の鍵もある。こんなことをしていればオレガノの仕事も増えるだろう。
「なるほど、分かりました。それにしても、手助けに関してはほんとについでになりそうですね。なにせリボーンがいますから。ちなみに調査方法は?」
「とりあえず、並盛中学校に入ってもらう。なにせ同い年だからな。これを利用しない手はない。その他は好きにしていいぞ」
次期ボンゴレ十代目候補沢田 綱吉は中学1年生でヨシュアもちょうど中学一年生である。実は家光、この事実をすっかり忘れ去っていた。なにせ当本人は中1らしい行動を全くしないのだ。オレガノに言われてやっと思い出した、というような状態だ。
「……とりあえず一般人を装いますよ。リボーンは僕のこと知らないでしょうし」
多分こう言うだろうと予想していた家光は苦笑する。ヨシュアは情報収集は得意だが、自分のことを知られるのは大嫌いだと2年も付き合っている家光は十分以上に理解している。
「そうか……、しっかし日本はいい所だぞ~。和食はうまいし、治安は良いし、侍はいるし、奈々はいるし、奈々の手料理に、奈々の膝枕に……ああぁぁぁ日本は本当~に良い所だ!」
急にテンションを上げ、椅子に仰け反り、妄想をし始める自分の上司にヨシュアはついため息をつく。冗談抜きで頭が痛い。そして、いつも通りの対処を決行する。
「……どこから突っ込んでほしいんですか?」
第一段階、とりあえず何か言う。これで意識を取り戻す確率は1%もない。つまり、成功はしない。ヨシュアの声が聞こえていないかのように「奈々~」と言っている家光に対し、わざとだ、と確信しつつ次なる対処をする。
「まず最初の二つは問題ありませんが、今の日本には侍はいません。部下…特にバジルに対してそういう嘘をつくのはやめて下さい。
それと奈々さんというのは確かあなたの奥様でしたよね。正直僕には全くと言っていいほど関係ありません。というよりそんな姿ばかり見せていてはいつか部下に幻滅されますよ」
第二段階、それはすなわち至極冷静に、そして的確に、とっとと家光が夢の世界から帰ってくるよう平坦な冷たい声で淡々と突っ込むこと。さすがにそれをされればさすがの家光も妄想をやめる。
「ちぇっ。もう少し奈々の妄想に浸らせてくれてもいいものを」
半目でにらんで愚痴を言う家光に“そういうことは一人の時にやれ”と思いつつ、いつものことなので止めの第三段階を実行する。
「やっぱりわざとでしたか」
「……………………」
第三段階は、黙らせる。
ちなみにコツはヨシュア曰く、きつめに、間髪入れず、相手を睨みながら言う事らしい。そしてその効き目は抜群。
ぐっとおし黙った家光を見てヨシュアはきれいに回れ右をする。
「きりがないのでそろそろ失礼します」
後ろで早々に立ち直った家光が「早く休めよー」と言っているのを聞きながらヨシュアは思う。誰のせいで疲れたと思っているのか、と。
最後のやり取りで本当に疲れ果ててしまったヨシュアは部屋を退出して早々、自分の部屋に直行し、着替えもせずに寝てしまった。
次の日に服にアイロンをかける羽目になり、家光にほんの少しの八つ当たりをしたのは言うまでもないことだろう。
3日後。
ここに流れているのはスーツ姿の男たちのいそいそと歩く音。せわしなく鳴る様々な言語のアナウンス。キャリーバックのガタガタッという音。飛行機の離着陸の轟音。
こんな空間の中、何よりもたくさん流れてくるのは、日本語。
空港の時間は周りよりもひときわ早く流れていく。そんな中、周りに流されず、ゆったりと歩いている人がいる。周りを歩いている者たちはまるでその存在に気が付かないかのごとく人影を抜けていく。
人影は大きな窓の前で立ち止まり、外を眺める。目に映るのはたくさんの人並。道路を行く車。それらは信号に支配され動き、止まり、また動く。
琥珀色の瞳からは何の感情もうかがえない。今はただ、目に映るものを情報として取り入れているだけ。そして、ぽつりとつぶやく。
「これが、日本……」
どうでしたでしょうか。そろそろ気が抜けて誤字脱字が発生する頃なので、見つけ次第連絡をお願いします。