「それでなぁ、聞いてるやつは聞いてると思うがなぁ。うちのクラスに転校生が来ることになった」
この言葉の直後に、「おぉ~~~~!!」と言う歓声が上がった。転校生の一人や二人で何でこうも盛り上がるのか、と疑問に思いつつとっとと入れろと心の中で担任に文句を言うヨシュア。
今、ヨシュアは教室に入る扉の前で待たされていた……5分ほど。ずっと焦らしに焦らしまくっているのだ、この担任は。顔には出していないが、かなりうんざりしている。
「そんじゃあ、入ってくれぇ」
やっと願い(悪態)が通じたのか、教室に入れるようになった。すぐさま“優等生”で“おだやか”な転校生用の笑顔を作り出し、ドアをゆっくり、静かにあけて中に入る。
そして入った瞬間、女子たちの大歓声が響き渡る。うるさい、と思ったが間違っても顔に出さない。
「よし、自己紹介してくれぇ」
「初めまして。イタリアから転校してきたヨシュア・アストレイと言います。これからよろしくお願いします」
右手を胸に当て、軽くお辞儀をする。日本語も流暢でイケメン、しかも礼儀正しいともなればクラスの大半は好印象を持つ。ファーストコンタクトは大成功と言っていいだろう。ただし、一部を除いて。
(ねぇ、あの人って昨日会った……?)
(えぇ、そうでしょうね。ちっ、ふざけやがって……)
(まぁまぁ、いーじゃねーか。楽しくなりそうだぜ!)
一部、と言うのもこの3人組のことである。昨日会っているにもかかわらず、転校するのての字も言っていないヨシュアに対して普通抱く感情は不信感である。
もっとも、お人よしのツナや能天気の山本は特に気にしてはいないようで、不機嫌になったのは獄寺だけだった。
「転校生の質問は休み時間中にやれよ~。くれぐれも授業中にやらないようになぁ」
のんびりとした担任はそう言って教室を離れていった。席はどこだよ、と聞きたくなったヨシュアだが、窓側の一番後ろの席が空白になっているのを発見したため言うのはやめておく。めんどくさい、が一番の理由だ。
ゆっくりと、静かに、席に近寄っていったヨシュアは机にカバンを置くときも、丁寧に置く。その間、クラスの視線が一気にヨシュアに集まっていた。普段は注目を浴びない、否、浴びてはいけないヨシュアにとっては新鮮そのもの。しかし、対処法ぐらいは心得ている。おだやかな顔をして次の授業の準備をする事によって視線を意識の外に追いやったのだった。
“つまらない”ヨシュアはそう思った。なぜなら、一時間目は英語だったから。任務上、様々な言語を必要とするヨシュアにとって英語なんてものはすでに習得済みの学問だ。分かっていることを説明されたって退屈なだけ。しかし、絶対に顔には出さない。
教科書を片付け、次の授業の準備をしたヨシュアは速攻でツナ達の元に向かった。話しかけようとタイミングを狙っている視線に気付かないふりをして。
「こんにちは、沢田さん、獄寺さん、山本さん」
周りから痛々しいほどの視線を(主にツナが)浴びたがそんな事、ヨシュアにとってはどうでもいいことだ。それより今は、目的達成の方が重要だ。
「よぉ、ヨシュア。まさか転校してくるとは思わなかったのな!」
「ホントだよ!昨日言ってくれればよかったのに」
こう言って出迎えてくれたツナと山本。笑いと驚きが入り混じった表情をしている。そして、そんな歓迎している2人と正反対な対応をするのはもちろん獄寺だ。バンッと机を勢いよく叩いてヨシュアのほうにつかみかかるような姿勢になった。
「十代目の言う通りだ!テメェなめてんのか!!」
「まぁまぁ、獄寺君落ち着いて……」
必死に獄寺を抑えているツナを見ながら、自分の情報をそう易々渡すわけがない、と思っていた。しかし、さすがにこれを言うわけにもいかず、少し申し訳なさそうに、でも少し笑って口を開いた。
「すみません。ちょっとした悪戯心で……。驚かせたいなと」
こんなとこ、微塵も思っていない。こんな遊び心はヨシュアには持ち合わせがない。ただの、咄嗟に思い付いただけの嘘。しかしあまり疑うことを知らない彼らはあっさりと信じたようだ。満面の笑みで応対する。
「っはは!十分驚いたぜ!それよりもタメでいいのな!同い年だしよ。なぁ、ツナ」
「うん!オレのことはツナって呼んで!みんなそうやって呼んでるからさ」
「なっ十代目!どこの馬の骨だかも分かんねえような奴を……」
「大丈夫だよ、獄寺君。それにイタリアから来たばっかりで日本のことよく分かんないだろうし……」
「じゅっ十代目がそうおっしゃるのなら……。おいてめー、十代目のお心の広さに感謝するんだな!」
ツナに言われてはどうしても逆らえない獄寺に忠犬、という言葉をつい脳裏に浮かべてしまったヨシュア。これが悪い方に向かなければヨシュア的にはどうでもいいことに他ならない。逆に利用しやすいぐらいだ。
とりあえず、一般的な反応として顔に苦笑を形作る。
「それじゃあ、遠慮なく。これからよろしく、ツナ、獄寺、山本」
これで、今日のヨシュアの目的は終了した。目的――それはつまり沢田 綱吉と友達となること。友達、という名目だけで様々なことが出来るようになる。
それは、家に行けること。一緒に行動できること。そして一番大切な、近くで観察し、動向を把握できること。メリットは山ほどある。
「こんにちは、ヨシュア君」
急に穏やかな声が後ろから掛けられた。ヨシュアは後ろに人がいることを気配で気が付いていたのにも関わらず、あたかも今気づきましたと言わんばかりに少し驚いた風な表情を作って振り向いた。
そして、目の前に映し出されたのはタンポポがよく似合う女の子だった。笑った姿はさしずめひまわり、と言ったところだろかとヨシュアが思っていると急に上ずった声が耳に入ってきた。
「きょっ京子ちゃん!!」
急に赤くなってたじたじになるツナ。こういう子が好み、とヨシュアは情報をすかさず付け足した。同時に、後日に持ち込むつもりだった第2の計画を実行する事を決定した。まずは……と考えながらヨシュアは行動に移す。
「ツナの友達……かな?初めまして」
彼女にならってニコニコと微笑みながら挨拶をした。ツナは未だにあわあわしていたが、そんなもの今は無視だ。それに、何かあっても視界の端には入っているから大丈夫のはずだ。
「うん、初めまして!!笹川 京子っていうの。よろしくね!」
第2計画終了、と心の中でつぶやいた。第2計画とは、ツナ達以外の一般人でのつながりを持つこと。
人間関係が広いと広いほど情報は集めやすく、そして噂を広められやすい。自分のテリトリーを広げる為の第一歩だ。その点では優等生役もその目的の一環に過ぎない。そして、やはり一般人というべきだろうか、いとも簡単にヨシュアの思惑通りになってしまっていた。
休み時間はたった10分しかなかったため、とりあえずここまでで終わったが、予想以上の収穫にヨシュアは満足しながら席に着いた。
さて、ヨシュアは知っての通り、裏社会の人間だ。計画を着々と、スムーズに進めている最中にもいつもの癖で周りの警戒を怠ることはない。だからこそ、気が付くことが出来た。
ヨシュアはそれを何と理解するより早く、反射で発生源をミリ単位で突き止めた。ヨシュアがそれを視線だと理解したのはそのほんの少しあとのことだ。
性格上、自分がやる分にはいいが、他人にやられるのは嫌いなヨシュアのこと。自分の一挙一動、表情の細かいところまでじろじろと注視され、ヨシュアは顔には出さなかったものの心の底から不快になった。発生源に向かって殺気を向けなかったのは最後の理性が止めた、といったところだろうか。
しかしその分、ばれない様に発生源に意識を向け、様子に注意し始めた。
場所は変わって反対側校舎の屋上。そこには黒いスーツが自分の一部かのごとくに着こなしている小さな赤ん坊がいた。そしてその赤ん坊はその体のサイズに不釣り合いなぐらいに大きい双眼鏡をのぞき込んでいる。
赤ん坊のとっている行動は一見すればおかしなことに他ならない。しかし、この赤ん坊の行動は何の不自然も与えはしない。何の不思議も抱かせない。
そんな一風変わった赤ん坊がにやりと笑って口を開いた。
「まさかツナたちが転校生と知り合いとはな。ツナのファミリーに入れるかどうか……観察だな」
まるで面白い悪戯でも思いつた子供のように笑う赤ん坊。この表情もまた、ありえないほどによく似合う。そして、この赤ん坊の目に映し出されているのはひどく真面目に授業を受けている、黒髪の少年だった。
寒気がする、と感じた。おそらく自分を隅から隅まで、くまなく観察している不届きものがヨシュアにとって不愉快極まりないことでも考えたのだろうと予測する。
けど、まあいい、とヨシュアは考える。どうせこの視線の送り主はリボーンだろうから。ならば、逆に自分の任務に利用することもできるだろう。
ヨシュアは真剣に授業を受けつつも、これからの行動予定を立てていくのだった。
ではネタがあったのでボツ話を載せます。前投稿したときにはあった部分なんですけどね(笑)
最初のほうのツナたちがこそこそ話をしているシーンです。ではどうぞ。
余談ではあるが、分かる通り彼らは内緒話が出来るぐらいには席が近い。なぜかと言えば、獄寺が担任を脅したから、だ。しかし、いくら獄寺が脅したとはいえ山本を近くにする道理はない。むしろ遠ざけるぐらいだろう。にもかかわらず、なぜ山本の席も近いのかは今なお不明な事であり、獄寺が面白くなさそうな顔で舌打ちしたのは火を見るより明らかな事だろう。
山本最強説を少し出してみたかったりとか……(笑)
それと、連絡?です。来週と再来週はテスト等の事情によりお休みします。ごめんなさい。それではまた。