お詫びと言っては何ですが、今話は約2話分の内容です。文字数2倍です。
それでは、本編をどうぞ。
日の光が程よくあたる小さな森。そこには先ほどから風を切る音が絶え間なく聞こえてきていた。その音の発生源は黒髪の少年―ヨシュア。
ヨシュアは木と木を飛び移りながら気にくくり付けられた赤い紐を切っていた。ただ、切っているわけではない。長い紐の先の1㎝だけを切るようにしていた。紐の先だけを切るには相当なテクニックが必要となる。現に、ヨシュアも切れないときの方が多い。
そしてこの赤い紐。これは高さもランダムに、場所もあたり一帯にまんべんなくつけられている。つまりは激しい上下運動と四方八方に動く訓練も兼ねているのだ。
ヨシュアがこれをやり始めてから1時間が経過しようとしていたが赤い紐の長さは一向に減る様子を見せない。減っているのはヨシュアの体力のみ。もうすでにヨシュアの息は上がっていた。
途端、ヨシュアがやることを変えた。急に赤い紐をくくり付けてあるところを切って赤い紐を落とし、それを拾う作業に変えたのだ。赤い紐は100m四方に計25本。ヨシュアはそれをたったの5秒で取り終えた。
地面にきれいに着地したヨシュアは両手に双剣と赤い紐を持ちながら荷物の置いてある木のそばにより、座り込む。そして鞄から水を取り出し一気に飲み干した。いまだに息が上がっており、疲れた様子で木に背を預けながらヨシュアは全く納得していない顔で休んでいた。
今やってる修業はヨシュアの弱点ともいえる体力のなさを克服するための修行。しかし、これがなかなかうまくいかない。半ばいらだちすら感じる。もちろん、体力ぐらいならば人並みにある。しかし、それだけ。
基本、ヨシュアの請け負う任務では体力は関係ない。基本小手先だけでいける。でも、もし失敗してしまったら、と考えれば、絶対に体力がいる。もしもの時に生き残れるように。それは、家光が教えたことだ。
ヨシュアは家光に言われるまで任務に失敗するなんて微塵も考えもしなかったし、失敗してもそれは自業自得。別に死んでもいいとすら考えていた。でも、それを言ったとき、家光にしては珍しいほどにひどく怒られたのだ。お前が死んだら悲しむやつがいる、と。
だからヨシュアはこの修行をする。こんな自分のために悲しんでくれる人がいるのならば、と。だから、どれだけやってもなかなか伸びない自分に腹が立つのだ。
少し休んで息が整ったヨシュアは汗をぬぐって赤い紐を鞄に入れ、トレーニング用の服から制服に着替えた。これで通常通りだ。
時計を見たヨシュアはちょうどだと思い、いつもとは違う方向―ツナの家へ向かう。
昨日、ヨシュアが日本に来てそうそう作り上げた情報網に気になる情報が引っ掛かったのだ。奴がここ―日本に来ている、と。
そろそろツナの家につくかというときにヨシュアは馴染んだ気配を感じた。どうやら彼もツナの家に行くようだ、と感じたヨシュアはわざと歩調を緩めた。そして、予想通りの人物がいつもの調子で声をかけてきた。
「よぉ、ヨシュア!こんなところで会うだなんて珍しいのな!!」
後ろから半ば突進されたヨシュアはよろめくと同時に驚いた風な表情を作り、後ろを振り向いて山本を確認したところで笑顔を作る。
「おはよう、山本。今日は朝早く起きたから散歩してたんだ」
元々そこまで身長が高くないヨシュアは自然と山本を見上げる形になる。しかも、突進してきた直後ということもあってそれは余計だ。
まぁ周りは基本大人だったため特に何も感じないのだが、これ以上は首が痛くなると判断したヨシュアは不自然にならないように距離をとった。
「朝の散歩って気持ちがいいよな!おれの場合はランニングだけどな。そうだ、今度一緒に走らねぇか?」
また唐突な思い付きで…と半ばあきれていたがもう2週間近く学校生活を共にしているのだ。対処には慣れたもの。
「いや、遠慮しておくよ。さすがに山本のペースについていく自信がないから」
苦笑しながらやんわりと断れば彼は納得してくれる。
それにこの発言はある意味嘘ではない。そう、山本は確かに走るのは速い。でも、ヨシュアには到底及ばない。違う意味で、ついていく自信がないのだ。残念ながら他人の速さに合わせて走るという心の広さは持ち合わせがない。
「そっか、でもヨシュアも意外に運動神経いいよな。ほら、体育のバレーの時にスパイク入れまくってたじゃねーか」
「あれくらいは普通だよ」
これに関しては完ぺきにヨシュアのミスだった。まともに学校に通っていなかったせいか、中学1年生の平均的な運動能力を知らなかったのだ。普通だと思ってスパイクを打ってたら、普通ではなかったらしい。
いや、ただスパイクを打てる人間は普通にいる。ただ、そのレベルが違うだけ。速い、強い、正確と3拍子が見事にそろっているのだ。そして苦し紛れの言い訳は「昔バレーをやっていたことがあったから」だ。一言でいえば、嘘も嘘の大嘘だ。実を言えばバレーボールを持ったこと自体あれが初めてだった。
けどまぁ、運動神経皆無と思われるよりは良いと思われといたほうが後々都合がいいと思い、それに関してはヨシュアの中で解決している。
「そういやー、ヨシュアって部活入ってねーけどバレー部に入んのか?」
心の底からご遠慮申し上げる、と本気で言おうとしてしまった。正直、あんなくだらないものに何時間も縛られるのは御免である。ただ、思ったことを正直に言うのはさすがにだめだと思い、困った時の苦笑いでごまかすことにした。
「いや……両親ともに帰りが遅くてね。家事全般、僕の仕事だから部活はできないかな」
まぁ、あながち間違ってもいないだろう。何せ“一人暮らしのため”家事全般は自分の仕事……というか自分以外にやる人がいないのだから。
「へー、大変なのな。バレー部に行かねぇんなら野球部に勧誘しようとしてたんだけどな」
笑って言う山本にこれ以上面倒事を増やすなと言いたくなるヨシュア。
と、その時。ヨシュアはツナの家の前に数人の、だたものではない気配を感じた。情報は正しかったか、と一瞬で確認したヨシュアは即座に山本のほうへ意識を戻した。
「あはは、さすがにあれは的が小さいから、無理かな。見る専門ということで」
「バットなんか適当にふっときゃ当たるぜ。こう~グッとやってバンッて感じでさ!」
訳が分かんないから、とさすがに語学に堪能なヨシュアも山本の言葉は理解できなかった。それがいかにジェスチャー付のものだったとしても。
「普通は当たらないと思うけど……」
「あ!あれツナじゃねぇ?」
まるでヨシュアの言葉は聞いていない山本に心の底からあきれながら山本が指をさしたほうを見る。そこにはヨシュアが予想した通りの光景があった。
「そうみたいだね。近くにいるのは……山本、知ってる?」
知っているくせにとぼけて聞くヨシュア。山本が初対面かどうかを探るためだ。
「いんや、初めて見るぜ。おっ、獄寺もいる。あの人、ツナのオジさんかな?」
「うーん、それは……どうだろう……?」
どっからどう見ても似てない。というか、片や日本人で片やイタリア人。どうしたらそんな親戚設定ができるんだろうか、と首をかしげてしまう。
と山本は自分と会った時のように2人に突進していった。
「よぉ、ツナ、獄寺」
「山本っ!!」
獄寺が完ぺきに嫌がっているなぁ、とヨシュアは半分他人事で見ている。正直、気持ちは少しわかる。
「何やってんだおめーら、遅刻するぜ!!」
ぐいぐい2人の肩を押す山本に少し置いてけぼりだなと思ったヨシュアは走って行って声をかける。もちろん、嫌がっている獄寺を助ける気はさらさらない。
「おはよう、ツナ、獄寺。朝から相変わらずにぎやかだね」
「ヨシュアまでいたの!?」
ツナは驚いた声でヨシュアのほうを振り向いた。しかも、まるで幽霊を見たかのような驚きの顔で。
まぁ、ヨシュアとはいつも朝教室で会うため仕方がないといえば仕方がないだろう。
「ども!」
獄寺の文句のBGMの中、つい先ほどまでツナとしゃべっていたキラキラ輝く金髪青年に山本が軽く挨拶しながら2人を押してどんどん先に進む。
ヨシュアも山本に続いて「おはようございます」と丁寧にお辞儀してから少し先で騒いでいる3人のもとに黒い集団をかき分けながら走っていき、追いついたところで口を開いた。
「そんなところでじゃれあうのはいいけど、このままだと遅刻するよ?たしか遅刻すると最悪最恐の風紀委員長様に咬み殺されるって聞いたけど、大丈夫?」
ヨシュアの言葉を聞いた瞬間だった。見る見るうちにツナの顔は青ざめていく。それはもう、アジサイのごとき見事な青だ。
「ぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁ!!そうだった!!!獄寺君、山本、急ごう!!」
「おいこら野球バカ、いい加減離しやが……え!?あ、はい!十代目!!こいつらのことなんかほっといてとっとと行きましょう!!」
「ははは、朝からランニングなのな!」
「ランニングとは少し違うと思うけど……」
さすがに無口ではいられない、ぼろを出さない程度にはツッコミをしよう、じゃなきゃストレスがたまる一方だと思ったヨシュアはもうすでにあきれ気味にツッコんでいた。こんな個性的な集団の中に自分を突っ込んだ家光を恨みながら。
数分後、それなりに、ヨシュア的には軽~く走った時にはツナが限界値に達していた。ぜーはーぜーはー言ってかなり苦しそうだ。
「つ、疲れた~」
「大丈夫スか?十代目」
ツナと比べて不良兼裏の人間である獄寺や野球部の山本、対外的にはバレー経験者のヨシュアは寸分たりとも疲れた様子はない。余裕そうな顔でツナのほうを見ている。
「まぁ、走ったおかげで時間にもゆとりができたから、歩いても十分間に合うと思うよ」
これ以上走らせても酷だと判断したヨシュアは一応の救いの手を差し伸べる。正直、これ以上走らせても学校につく時間は変わらない……それどころか遅くなると判断したのだ。
「そういえば獄寺君……ディーノさんのこと知ってるみたいだったけど……有名なの?」
「あぁ、跳ね馬っスか。先代が傾けたファミリーの財政を立て直したってもっぱらの評判っスね。それにマフィア・キャバッローネファミリーつったら今じゃ同盟の中でも第3勢力ですしね」
ディーノ―その名を知らないものはただのモグリと言われるほど有名なキャバッローネファミリーのボスの名前。そして、ツナと話していたあの金髪の青年こそがディーノなのである。
ヨシュアの情報網によると、昨日からツナの家に泊まっているとのことだった。
忙しい身のディーノがわざわざ日本くんだりまで来たからには何かしらあるのだろうと思い、ヨシュアは今日こうしてわざわざツナの家までやってきたのだった。
ツナはへえぇ、と言ってさっきまでの辛そうな顔はどこへやら、うれしそうな顔をした。しかし、不用心だとヨシュアは思っていた。
ここ数週間観察してきて分かったことだが、山本はマフィアという存在を完全には理解していない。自分がやっている、参加しているのは只のごっこ、遊びだと思っている。
しかも誘われてすらいない自分は彼らの認識上では完ぺきに裏の人間ではないはずだ。そんな人間たちを前にしてする会話ではないだろう。
もしこういう会話が本当に無関係の人間を巻き込むことになったらどうするつもりだと言いたくなる。しかし、その役目はリボーンだ。自分が口出しすべきことではない。
「なぁツナ、さっきマフィアって言ってたけど……」
瞬間、ツナは後悔したかのような顔になる。自業自得、という言葉を思い浮かべると同時に山本に対しては後悔する必要はないだろうと思った。何せ彼は……
「お前のおじさんの会社って変な名前だな」
重度の天然なのだから。しかし、まだおじさん設定を引きずっていたのかと少し呆れてしまう。とりあえず、ツナには悪いが、いや、悪いとも思ってもいないが山本に乗せてもらう。
「そうだね、誰がつけたの?その名前」
えーと、そのぉ……とおろおろしているツナを見ながら勝手に自滅して学習することだね、とだけ思っていた。同情の余地なし、である。
と、その時、車のエンジン音が聞こえてきた。不快な、統一感のないリズム。耳に残る低い、汚いガスの音。
ヨシュアだけでなく他の3人も一緒に後ろを振り向けばそこにはいかにも高級車ですと主張する車がいた。そして、急に耳障りなブレーキ音を出して真隣に止まった。
え?と呆然としている3人に倣ってヨシュアも呆然としているふりをしているとドアがガタッと開き、中からロープが飛び出し、見事なロープさばきでツナに巻き付かせて捕えたかと思えば車に引きずり込んで不快音を出しながら急発進して走り去っていった。
「ツ、ツナ!?」「十代目!!」
やっと我に返った2人は驚きの声を上げた瞬間に車を追いかけようとした。しかし、ヨシュアがそれを制する。
「待った、2人とも」
肩をつかんで走るのを止めさせた瞬間、獄寺が叫んできた。
「てめー、邪魔すんな!!」
また追いかけようとする獄寺にヨシュアは真剣な顔をして、強い声で問う。
「走って、車に追いつくつもりかい?」
グッと答えに詰まる獄寺。正論だった。特にあの手の車はかなりの速度が出せると、獄寺も気が付いたのだろう。
「んじゃあ、どうすんだよ。ツナが攫われちまったんだぜ!?」
焦りすぎて普段ならば出さないほどの大声を上げる山本。
二人のあまりの焦慮のしようになるほど、絆はあるのかと思ったヨシュアは茶番に付き合ってやるか、と思った。少しだけ、興味がわいたのだ。
最初は警察に任せておけ、と言おうとしたがそれを消去し新しい言葉をゆっくりと、冷静に、2人の気を落ち着かせるように紡ぎだす。
「人を攫うときには必ず目的がある。ではなぜツナが攫われたのか、だけど……正直な話、ツナは人身売買とかには不向きだよね。力はないし、体力はないし、こういう言い方は悪いけど、女子でもない。そして特に美形というわけでもない。つまりは売れない。
まぁ、残る理由としては身代金要求だね。ということは、誘拐犯から直々にお電話をいただけるわけだ。闇雲に走るよりはそのお電話を待ったほうが話は早いよ」
誘拐について詳しくはないヨシュアはそれとなくあってそうなことを言って納得させた。2人はとりあえず冷静さを取り戻し、がむしゃらに走ることはやめた。
闇雲に走り回るのは御免だったヨシュアはひとまず安堵し思考を開始する。まず、誘拐犯は分かっている。一度覚えた気配は忘れないヨシュアにとって犯人は一度会ってさえいればすぐに特定できる。
車に乗っていて、ロープを使ってツナを誘拐した人物の気配はついさっき会ったディーノだった。
ディーノにとってツナは弟弟子にあたり、かつディーノのファミリーを大切にする人柄という情報から、ツナは無事だということもすでに分かりきっている。
わからないのはただ一つ、その目的だった。一体自分たちに何をさせようというのだろうか、と次なる異変に備えて警戒していると一つの気配がした。それは今まで自分の前に姿を現したことはないが、何度も会っている気配だ。そしてそれは近づいてくるなり声をかけてきた。
「確かに、相手が分かってねー場合はそうだな。でも、相手が分かっているとしたら、どうするんだ?」
声をかけてきたのは黄色いおしゃぶりを首にかけた赤ん坊。妙に大人びた雰囲気を醸し出している。
「勿論、分かっているのならば話は早い。相手の虚をついて襲撃するよ。僕もそこまで気長な性格してないからね。」
にこりと笑って答えるヨシュア。そしてしゃがんで赤ん坊と同じ目線の高さに合わせる。
「ところで、君はどこの子かな?」
小さな子供の相手をするように、笑って聞く。ここで変に怪しまれないようにしなくてはいけない。あくまで、一般的な対応をしなくてはいけない。
ヨシュアの問いににやりと笑って赤ん坊は答えた。
「オレの名前はリボーン。ツナのかてきょー兼、世界最強のヒットマンなんだぞ」
「そうなんだ。よろしくね、ヒットマンさん」
あくまで子供の遊びに付き合うといった雰囲気で笑って相手をしていた。するといきなりヨシュアの肩をつかんで体重をかけてくる不届きものがいた。
「ところで坊主。さっき、犯人が分かってるとかどーとか言ってたけど、もしかして知ってんのか?」
不届きものは、山本だった。おそらく自分に体重をかけてきてリボーンのほうに身を乗り出しているのだろう。目線を低くしてしゃべりたいんならば自分でしゃがめ、と思う。まったくもっていい迷惑だ。
しかし、リボーンが話し始めたのでヨシュアは悪態をつくのをやめる。
「まぁな。さっきの車はここら一帯を締めてるヤクザ、桃巨会の車だな。ヤクザといえばジャパニーズマフィアだ。中学生じゃ手に負えねー。警察にでも任しておくのがいいと思うぞ」
警察にでも任しておけ、それはヨシュアが言おうした言葉。手を引かせるときに役立つ常套句。
なるほど、ここで手を引くかどうかを見極めたいのか、と理解したヨシュアは後ろを向いて走り出した。そして、それはほかの2人も同じ。
「サツなんかに任せられません!!」
「警察のほうは任せたぜ、小僧!」
「今いかなきゃ不意を打つことはできないからね。ま、先行団ということで」
すぐさま姿が見えなくなる3人を見てリボーンがにやりと笑ったことは、だれにも分からなかった。
どうでしたか?ではあとがき恒例の裏話。
これはこの後のディーノがツナを車から降ろした後の会話。一部抜粋です。
えぇ、会話だけです。地の文はないですよ。それではどうぞ。
(補足のために…ディーノ→ディ リボーン→リ ツナ→ツ です)
ディ「ンなことよりリボーン,ヨシュア…だっけか?あいつもファミリーに入れていいんじゃないのか?なかなか骨もありそうだぜ。冷静に場を把握する能力……気に入ったぜ」
リ「そうだな。でも、ファミリーに入れるかどうかはこの後を見てからだぞ」
ツ(何ヨシュアまで巻き込もうとしてんだよ~~~~!!?)
ディ「この後ってどういうことなんだ?」
リ「言い忘れてたけどな。桃巨会ってのは……」
まぁ、こんな感じです。その他の会話は全部原作通りなので大幅カットということで。
ああぁぁぁ、次回はついに戦闘シーンですねぇ、いやですねぇ、はぁ。期待はしないでください。
それではまた。