四葉家の死神   作:The sleeper

10 / 76
9話 シュウゲキ(リメイク)

 9話 シュウゲキ

 

 

 

 

 

「Twotterトレンド一位オメデトー!」

 

「あぁ、はいはい」

 

 

  その日の夜、真由美たちを家に送り届けた董夜が家に帰ると、嬉々とした表情の雛子が駆け寄ってきた。

 

 

「いやー、暇つぶしにTwotter見てたら董夜が出てきたからビックリしたよ!」

 

「それにネットニュースでもすごい取り上げられてるよ!」

 

「動画サイトに動画も回ってるし!」

 

「さっきテレビのニュースでもやってたよ!」

 

「……それより、夕飯をたのむ」

 

 

  怒涛の勢いで詰め寄ってきて、先程のファッションビルでのことが取り上げられている端末の画面を執拗に見せてくる雛子の話しを、董夜は何とか妨げた。

 

 

「あ、あと真夜様から電話来てたよ」

 

「うるさ………りょうかい」

 

 

  雛子はどうでもいい話題の後に本題を話すことがある。その事に董夜は疲れたのかため息をついた。

  その後、特段急いだ様子はなく董夜は洗面所で手を洗い、自室で部屋着に着替えてから真夜に電話を掛けた。

 

 

「それで、今日の件ですよね」

 

『えぇ、魔法師のイメージ向上に助力したとして魔法協会から感謝状が来ました』

 

「そうですか、魔法師のイメージが良くなったのは嬉しいことですね」

 

『フフフ、貴方は魔法師のイメージ向上なんて、なんとも思っていないでしょう』

 

「さぁなんのことでしょうか」

 

 

  真夜の言葉に董夜は愛想のいい笑みを崩さずに答える。確かに真夜の言う通り、董夜にとって『魔法師全体のイメージ向上』などどうでもいい。

  全ては自分が当主になった時のためのお膳立てである。

 

 

「それを言うためにわざわざ連絡を下さったのですか?」

 

『もう、無愛想なんだから。まぁいいわ、実は一校にブランシュの下部組織【エガリテ】が紛れているのが分かったの』

 

「あぁ、そのことでしたか」

 

『え、知ってたの?』

 

 

  十師族の当主らしく、余裕のある笑みを称えていた真夜の顔が、董夜の言葉を聞いて唖然となる。

 

 

「はい、少し前に雛子から」

 

『………そう』

 

 

  董夜の言葉に、真夜の両頬が少しずつ膨らむ。四十を過ぎている女性がやってもイタイだけなのだが、見た目の若い真夜だからこそできることだろう。

 

 

『雛子さんがいるなら、今後私から何か情報を伝えなくても大丈夫そうねっ…!』

 

「いえ、雛子が調べた情報が全てではありませんから、それは困ります」

 

 

  キチンと丁寧に対応している董夜だが内心は面倒臭がっていた。そんな董夜の心境にも気付かず、真夜は頬を膨らませたまま明後日の方向を向く。

 

 

『いーえ、もう教えてあげませんっ。後、当分帰ってこなくても大丈夫です、貴方がいなくても一緒に紅茶を飲む相手ぐらいいるんですから』

 

 

  口調も四十代とは思えないものへと変わっていき、心なしか拗ねた時の深雪のようになった。

 

 

『(フフフ、こうすれば董夜さんも必死になって謝ってくるはず!雛子さんにばかり頼って、私を袖にした事を後悔しなさい董夜さん!)』

 

「分かりました」

 

『えっ…?(えっ…?)』

 

 

  頰を膨らませながら器用に喋る真夜の思惑を知ってか知らずか董夜が慌てることはなく、悲しそうな表情と視線をディスプレイ越しの真夜へと送った。

 

 

「お互いのために当分顔を合わせるのは控えましょう。そうですね次回の慶春会までは連絡を取ることも同様に」

 

『えっ、えっ…?』

 

 

  悲しそうに俯く董夜に、真夜は軽くパニックになりうまく言葉が出てきていない。

 

 

「僕としては来年の正月まで会えないのは寂しいですが、母さんは僕の代わりがいるから大丈夫なんですよね」

 

『えっ、ちょ、と、とう』

 

「それでは来年まで御機嫌よう、体にはお気をつけて」

 

 

  完全にパニックに陥った真夜を置いて董夜は電話を切る。ふぅ、と息を吐いて背もたれに体を預けた後、彼はすぐに風呂場へと向かった。

 

 

  その後風呂場を上がった董夜に、何故かやつれた雛子が『真夜様から数百件の着信がきてる』という事を聞いて、結局董夜の方から先ほどの言葉を撤回したのだった。

 

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 

「そんな訳なんだけど、達也も聞いた?」

 

 

  翌日、一校に向かうコミュターの中で董夜は昨夜真夜に聞いたことを達也に話していた。

  正直言ってブランシュの話より、真夜の話の方が達也は気になったが、何とかスルーした。

 

 

「ああ、俺も昨日風間大尉に聞いた」

 

「矮小組織だけど、一応気にかけておこう」

 

「何があるかわからないからな」

 

 

  そして昼休み、董夜が達也たちと昼食を摂り終わり、深雪たちと共にクラスに戻ると放送スピーカーからけたましい音が鳴り響いた。

  どうやら『2科生の待遇改善を求める有志連合』を名乗る学生が放送室に立てこもっているようだ。

 

 

「面倒くさい、深雪、任せた」

 

「ほら、行きますよ董夜さん!」

 

 

  せっかく食堂からクラスに戻って椅子に座ったばかりなのに、面倒ごとを起こされた董夜は睡眠に入ろうとしたが、難なく深雪に引きずられて行った。

 

 

「摩利さん克人さん、状況は?」

 

「どうやら鍵を無断で持ち出したようだ」

 

「と、いうことは」

 

「未だに立てこもったままだ」

 

「なるほど」

 

「何をするつもりだ四葉」

 

 

  現場に到着し、状況を聞いた董夜は一切躊躇することなく放送室の方を見て想子(サイオン)を活性化させる。そして、克人が止める暇もなく魔法は発動された。

 

 

「よし、達也鍵を開けて。責任は俺が持つから」

 

 

  董夜の言葉に無言で頷いた達也は携帯端末をいじり始める。

  そして数秒後ドアから鍵の空いた音がした。

 

 

「な、なに、なにが起きたの?」

 

 

  ゆっくりとドアが開き、中の様子が明らかになる。そこには、倒れ伏す数人の男女と、唯一意識のある壬生が状況を飲み込めないでいた。

 

 

「………四葉」

 

「放送室を占領する、という暴挙に出た時点で説得は困難、もしくは時間がかかると判断しました」

 

「それでも性急だと思うが」

 

「遅いよりはマシでしょう」

 

 

  克人と摩利の鋭い視線に一切臆する事なく、むしろ高圧的に返す董夜。

  生徒会の一員に過ぎない董夜と、部活連と風紀委員会のトップである克人と摩利と睨み合い、場の空気が極限まで張り詰めていく。

 

 

「はい、ストーップ」

 

「………真由美」

 

「………七草」

 

「……………」

 

 

  その後有志連合の生徒たちは真由美が引き取り、明日討論会が開かれることになった。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 《四葉董夜君、四葉董夜君、校長室まで至急来てください》

 

 

  董夜たちが放課後生徒会室で仕事をしていると、恐らく教頭であろう声がスピーカーから聞こえてきた。当然、仕事をしていた全員の視線が董夜に向かう。

 

 

「まぁ、昨日の魔法使用の件と今日のハッキングの件でしょうね」

 

「頑張ってねー」

 

 

  真由美の気の抜けた応援に、小さく笑みを返した董夜はそのまま部屋を出て行った。

 

 

「…董夜さん、大丈夫でしょうか」

 

「気になるから、のぞいちゃいましょうか」

 

 

  心配そうに胸の前で手を置き、董夜の出て行ったドアを見つめる深雪に、真由美が黒い笑みを向ける。

  そして、真由美は学校の管理システムに侵入して校長室の監視カメラの映像を生徒会室のモニターに表示した。

 

 

「「「……はぁ」」」

 

 

  真由美が学校にハッキングを仕掛けるのは初めてじゃないのか、側にいた鈴音とあずさと服部が同時にため息をついた。

 

 

「ハッキングで叱られている生徒の様子をハッキングして見るんですか?」

 

「それじゃあ深雪さんは見ない?」

 

「うっ……………………見ます」

 

 

  真由美に用事があったのか、克人と摩利が生徒会室のドアを開けて入ってきた時、ちょうどモニターの中で董夜が校長室のドアを開けて入ってきた。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 

「失礼します 四葉董夜です」

 

「入れ」

 

 

  特に緊張した様子もなく、いつも通りの調子の董夜を迎えたのは、校長の百山と教頭の八百坂だった。

 

 

「四葉、なぜ呼ばれたか分かるか」

 

「はい、昨日の魔法師のイメージ向上に貢献した件と今日の立てこもり犯を取りおさえるのに貢献した件ですね」

 

 

  過剰に自身の行動を評価した董夜に、百山は董夜を睨みつけ、隣の八百坂は部屋の空気がピリついた事に落ち着かない様子だ。

 

 

「あれ、違いましたか。それでは何故自分は呼び出されたのでしょうか」

 

「わからんか、昨日の魔法使用の件と今回のハッキングの件だ」

 

「そのことに関しては反省しています、しかし昨日も今回もそれが最善の手でした」

 

「最善、だと?」

 

「はい、昨日の実行犯は魔法師でした。そして人質の女の子も野次馬も全員が非魔法師。あのままでは魔法師のイメージが下がるのは目に見えていました」

 

 

  一切悪びれる様子のない董夜に、百山の眉間のシワが深くなる。

 

 

「それに昨日の件では魔法協会から非難ではなく感謝状が贈られて来てます、文句なら僕ではなく魔法協会にどうぞ」

 

「はぁ、もういい。それで今回の件に関して申しひらきはあるかね?」

 

「それこそ文句を言われる筋合いはありませんね、学校側の尻拭いをしただけですので」

 

「なん……だと……っ!」

 

「ひっ……!」

 

 

  昨日の件には一応納得した百山が董夜の言葉に激昂し、拳を机に叩きつけた。

  拳の木の机がぶつかる大きな音が校長室に響き、八百坂が怯えてしまった。

 

 

「今回の有志同盟を名乗る生徒は、放送室の鍵を無断で持ち出して立て籠もっていた。これは立派な占領行為です」

 

「………」

 

 

  淡々と話す董夜を依然として百山が睨みつける。

  余談だが、その頃生徒会室では校長室の様子を見て、あずさが怯え、服部が冷や汗を流し、鈴音と克人が無表情で見つめ、深雪と真由美が心配そうに見入っていた。

 

 

「本来ならこれは学校側が対処すべき事態、それを生徒に任せた時点で何かを言われる筋合いはありません」

 

「我々が対処すべき事態?…ふっ、生徒の悪戯だろう」

 

「何かを啓発するような勧誘活動もあったようですが?」

 

「貴様…!減らず口を「ちょ、ちょっと!」

 

 

  董夜の言葉が段々と強くなっていき、校長の眉間のシワが限界まで達した時。八百坂が慌てて間に入った。

 

 

「と、とにかく、今回は不問にしますが、次回からは何か一声かけてください」

 

「八百坂………何を勝手に」

 

「了解しました。では」

 

 

  百山が八百坂を睨みつけたが、董夜は気にした様子もなく八百坂に一礼し、部屋にあった防犯カメラに一瞥してから部屋を出た。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

「ば、バレてたみたいね。私たちが見てるの」

 

「そ、そうみたいですね」

 

「俺はそろそろ戻る」

 

「わたしもそうしようかね」

 

 

  生徒会室では真由美たちが気まずそうにしていた。

  そして、いまの映像は服部やあずさ、鈴音にとって董夜がただの『好青年』ではないという事を知らしめるものだった。

  一連の映像を無表情で見ていた克人と摩利がその場から出て行った数分後、生徒会室のドアが開いた。

 

 

「ただいま戻りましたー」

 

 

  開いたドアから意気揚々と董夜が入ってくる。生徒会メンバーは急いで書類をかたずけてる風を装った。

 

 

「お、おかえりなさーい」

 

「あれ、まぁまぁの時間席を外していたのに、書類が一文字も進んでませんね」

 

「と、董夜くん?」

 

 

  帰ってきた董夜の言葉に、生徒会の全員が苦笑いを浮かべる。そして、董夜はおもむろに真由美に近づき机の上にあったパソコンをいじり始めた。

 

 

「えと………その」

 

 

  最初は董夜と自分との距離の近さに赤面していた真由美だが、パソコンで董夜が何をしているのか覗くと、その顔が赤から青に変わった。

 

 

「ハッキングしたら証拠は消すべきでしょう。ねぇ、真由美さん?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

  その後、董夜は食堂で買ってきた差し入れを真由美以外に振る舞い。仕事を再開した。

 

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 

  次の日の放課後

 

  討論会では有志連合の主張を真由美は完璧に論破し自分が引退するまでに2科生と1科生の隔壁改善に尽力するという、もはや演説が始まっていた。

 

 

「あー、きたきた」

 

 

 そして真由美が演説を終えた瞬間。窓ガラスが割れ、中に催眠弾が入って来た。

  しかし、事前に『何かが起こるかもしれない』と、忠告を董夜から受けていた服部がそれを処理した。

  その後、ハイパワーライフルを携えた兵士が入ってくるが達也が軽く対処する。

 

 

「真由美さんとはんぞーくんとあーちゃんとリンちゃんと摩利さんはここで生徒達を纏めてください。それと風紀委員を何人か実技連に向かわせてください。生徒達が対処しているようだけど少し押されてるみたいなので。んで達也と深雪はついて来て」

 

 

  董夜は【観察者の眼】で瞬時に学校中の戦況を把握、得た情報の最適解を編み出して全員に指示を出した。

 

  一瞬服部が『誰がはんぞーくんだっ!』と言いそうになったが、何とか空気を読んで堪えた。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

  敵の本命が図書室だと看破した董夜が、途中でエリカを拾い、四人で図書室へと向かっていた。

 

 

「階段の下に一人、階段を昇った所に一人」

 

「後、特別閲覧室に四人だな」

 

 

  【精霊の眼(エレメンタル・サイト)】と【観察者の眼(オブザーバー・サイト)】で敵影を確認した董夜と達也がエリカと深雪に情報を共有する。

 

 

「スゴイ、董夜君と達也君には待ち伏せなんて意味ないね!」

 

 

  そう言うとエリカは飛び出し、階段の下から出て来た兵士と対峙する。

 

 

「ここは任せて、三人は上に行って」

 

「サンキューエリカ」

 

 

  エリカに礼を言うと董夜たちは階段を使わず二階へ向かった。

 

 

「止まれェ貴様らァ」

 

 

  急に現れた董夜たちに驚いた兵士が声を荒げるが、董夜はそれを見ることすらせずに魔法を使った。

 

 

「ぐああああああああ」

 

 

  重力が下ではなく、横に働いているかのように、兵士は奥の部屋の扉めがけてとんでいった。

 

 

「な、なんだ⁉︎」

 

 

  電子キー式の扉が突破されるレベルの勢いで衝突した兵士が血反吐を吐いて倒れ、中からは驚愕の声が漏れた。

 

 

「はいはい襲撃者、神妙にお縄につけ」

 

「壬生先輩、これが現実です、差別のない世界など存在しません」

 

「し、司波君」

 

 

  驚く三人の兵士の後ろで縮まっていた壬生が達也がいることに目を見開いた。

 

 

「壬生逃げろぉ!」

 

 

  兵士の一人が地面に何かを投げ、辺り一面に煙幕を敷いた。壬生が深雪達の隣を走り抜けていくのを達也と董夜はワザと見逃す。

  そして達也が煙幕の中襲ってくる敵を平然と無力化した。

 

 

「お兄様良かったのですか?」

 

 

  壬生が走り去って行った方向を見て、深雪が達也に問いかける。

 

 

「ああ、あの人にはエリカの方がいいだろう」

 

「ですが董夜さんがいません」

 

「……………」

 

 

  そのことを聞いて達也が周囲を見渡し、董夜がいないことを確認すると眼で建物内を探った。

 

 

「はあ、エリカと壬生先輩の様子を見に行ったのか」

 

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

「はっ…!」

 

「くっ…」

 

 

  達也が制圧を終えたのと同じ頃、一階では壬生とエリカが対峙しており、その様子を二階の手すりに腰かけた董夜が見つめていた。

 

 

「(さーて、千葉の娘相手に壬生先輩はどこまで耐えられるかな?)」

 

 

  気配を消し、足を投げ出してリラックスした態勢で観戦している董夜の心底楽しそうな視線にエリカたちは気付かず、二人の戦いはエリカの勝利に終わった。

 

 

「先輩は誇っていいよ、千葉の娘に本気を出させたんだから」

 

「おぉ、決め台詞も決まったなエリカ」

 

「うひゃあああ!!?と、董夜君、見てたの?!」

 

「あぁ『こんにちは先輩、1ーEの千葉エリカでーす』から」

 

「一番最初じゃん!」

 

 

  口に出してはいないが、エリカが驚いたのは董夜が急に出てきたことではない。剣客として自信のあった自分が、董夜の気配に気づかなかったことだった。

 

 

「そんじゃあ怪我してる壬生先輩を運ぶのは任せようかな」

 

「誰に?」

 

 

  董夜の言葉に首を傾げたエリカだが、董夜の目線の先を追って行くと、柱の陰から達也が出てきた。

 

 

「気付いていたなら早く言え」

 

 

  そうして達也は軽々と壬生を抱え、董夜たちもそのあとを追って保健室に向かった。

 

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 

「私の勘違い…………っ」

 

 

  数十分後、克人と摩利、エリカとレオと達也を含む生徒会役員は意識を取り戻した壬生から事情聴取をしていた。

  どうやら壬生の凶行は摩利との行き違いが原因だったようだ。

 

 

「それじゃあブランシュの本拠地を叩きにいきますか」

 

 

  壬生が悔しそうに拳を握りしめ、保健室の中に重たい空気が充満する中、董夜がその場の空気に似合わない声とともに立ち上がった。

 

 

「しかし、場所は分かるのか?」

 

「ええ、ここですよ」

 

 

  董夜は克人の言葉に笑みを向けたあと、懐の携帯端末に第一高校周辺の地図を表示し、とある場所を指で指した。

 

 

「意外と近くにあったんだな」

 

「舐められたものね」

 

「それじゃあ、レオ、エリカ、深雪、達也、克人さん………それに、扉の外にいる先輩にも助力願いましょう」

 

「き、桐原君!?」

 

 

  董夜の言葉に首を傾げた一同だが、ガタッと揺れ、開いたドアから入ってきた桐原に壬生が驚いた声をあげた。

 

 

「桐原先輩もブランシュのリーダーに思うところがあるでしょうし」

 

「ああ、助かる」

 

 

  こちらを驚いた顔で見つめる壬生に、桐原は何か決意を固めたように拳を握りしめた。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

  ブランシュの掃討に向かうため、克人が用意した車に乗った一行の間に緊張のような空気が流れる。そんな中、無言を最初に破ったのは克人だった。

 

 

「アジトの情報は四葉がもたらしたものか?」

 

「いえ、僕の私的な部下に調べさせたものですよ。ですから今度ケーキでも奢ってもらえればチャラで構いません」

 

「そうか」

 

 

  やはり緊張感の感じられない董夜の言葉に克人は驚いたように眉をあげた。達也と深雪は、彼が驚いた理由が『董夜に私的な部下がいたこと』だと察したが、どうやら違ったようだ。

 

 

「甘党なのだな」

 

 

  その言葉に全員が「そっちかよ!!」と突っ込みたくなったが何とか堪えた。

 

 

「はい!!大好きです!」

 

 

 まるで子供のように微笑む董夜に、これから犯罪組織の殲滅に行く車の中を柔らかい、和やかな雰囲気が包んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『Twotter』の読み方はお任せします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。