四葉家の死神   作:The sleeper

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12話 ゲキコウ(リメイク)

 12話 ゲキコウ

 

 

 

 

 

 

 

 

  深雪side

 

 

  私は今、とても憂鬱な気分で部屋にいる。部屋着からカクテルドレスに着替えている最中も憂鬱で仕方がない。

  理由は簡単、お母様が招待されていた黒羽家主催のパーティーに、私が代役として参加する事になったから。

  お母様は今体調を崩していて、大事をとって部屋で安静にしている。

 

 

「あの人と一緒じゃないといけないなんて」

 

 

  そう、憂鬱な理由はもう一つある。今回招待されているのはお母様だけではなく、四葉家の次期当主筆頭候補のあの人も当然招待されている。

  でもっ!その代わりにお兄様がいます!!深雪はお兄様がいらっしゃるだけで幸せです!

 

 

「深雪、車来たけど準備できた?」

 

 

  せっかくお兄様のことを考えて幸せに浸っていたのに、あの人の声で水を差されてしまった。

 

 

「今準備しています!女の子の準備を急かすだなんて不愉快です!」

 

 

  つい大きな声を出してしまいまった。

  やはり昼間に砂浜でお兄様とこの人が親密そうに話していたのが未だに気に入らない私だった。

 

 

「すまん、悪かったよ」

 

 

  わざわざ呼びに来たのに怒鳴られるなんて、怒ってもいいのにあの人は少し寂しそうな声で去って行った。その事に少し罪悪感を覚えた私は早めに準備を済ませて後を追いかけた。

 

 

「そんな不機嫌そうな顔をされては折角のお召し物が台無しですよ」

 

「分かりますか?」

 

 

  玄関に行くと穂波さんがお見送りに来ていた。どうやらあの人とお兄様は既に車に乗っているようだ。

 

 

「良いですか深雪さん。どんなに上手に隠したつもりでも、気持ちというものは目の色や表情の端々にあらわれてしまうものですからね。必要なのは自分の気持ちを上手く騙せるようになる事、でしょうか。建前というものは、まず自分自身を納得させる為のものなんですよ」

 

「建前……………。」

 

 

  穂波さんの助言を心の中で思い返しながら、私はあの人とお兄様が乗っているコミュターに乗り込んだ。

  ちなみに叔父様………………黒羽貢叔父様は早くに奥様を亡くした事が原因なのか、超が付くほどの親バカです。

  それでも、私と同じ年の子供の自慢を私にするのは如何いうつもりなのだろうか。

  多分あの人は何も考えていないんだろうな。ただ単純に子供の自慢をしたいだけなのだろう。そういう事は大人同士でやってもらいたいのに。

 

 

「お、着いたな」

 

 

  会場の敷地内に入り、無駄に派手なエントランスが見えてきた。あの人の言葉を無視して私は気持ちを切り替える。

 

 

「はぁ」

 

「どうした董夜、ため息なんかついて」

 

 

  コミュターを降り、目の前に広がる屋敷を見てあの人が深いため息をついた。それを見たお兄さまがあの人の顔を覗き込む。

  無視してしまえばいいのに。

 

 

「いや、あの人に会ったら絶対亜矢子と文弥の自慢してくるんだろうなーと思って」

 

「まぁそう言うな」

 

 

  それに俺のこと目の敵にしてくるし、とボヤくあの人を私は小さく鼻で笑ってから正面扉へと向かった。

 

 

  深雪side end

 

 

 

  黒羽 貢

 

  四葉家の分家である黒羽家の現当主。

  早くに妻を亡くしていて、子供である亜矢子と文弥に愛情を注いで育てた結果親バカになった。

  黒羽家から四葉家当主を出したいらしく、亜矢子か文弥を次期当主としたい。その為、次期当主筆頭候補である董夜を目の敵にしているが外には出していない……つもりらしい。

 

 

 

 

  董夜side

 

 

  憂鬱だ憂鬱だ憂鬱だ憂鬱だ。

  ついに、あのあの人(親バカ)の主催しているパーティー会場に着いてしまった。

  行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない。

 絶対あの人はまず子供自慢をしてくるはずだ、それに俺のことを目の敵にしてくる。

 

  その事を達也と深雪に言うと

 

 

「まぁそう言うな」

 

 

  と、達也は返事をしてくれたが深雪はこちらを見て笑みを浮かべた後、無視してとっとと会場に向かってしまった。

 

  なんだか鼻で笑われた気がする。いや、そんな事はないはずだ。

  そんなこんなで深雪の代わりにドアを開けると。

 

 

「やぁ深雪ちゃん、よく来たね……………あぁ董夜くんもよく来たね」

 

 

  はい、叔父様(親バカ)の登場である。明らかに深雪に対する態度と俺に対する態度が違う。

 

 

「ご、ご無沙汰しております叔父様。今日はお招きありがとうございます」

 

「良く来てくれたね、深雪ちゃん。深夜様の調子は大丈夫かい?」

 

「お気遣い畏れ入ります。少し疲れが出てるだけだと思いますが、本日は大事を取らせていただきました」

 

 

  よし、深雪の挨拶もあらかた終わったな。メンドクサイが便宜上、挨拶だけはしなくては。

 

 

「貢叔父様、本日はお招きありがとうごz、ゴブァァァ!!」

 

 

  深雪の後に続いて俺も内心で舌打ちをしながら挨拶をする。

  いや、しようとした。叔父様に向かって軽く頭を下げようとした途端、叔父様の後ろから黒い物体が俺めがけて飛んできたのだ。

  俺の鳩尾に食い込み、何故か引っ付いて離れない黒い物体を撫でるとそれはモゾモゾと動き出した。

 

 

  董夜side end

 

 

 

  黒羽亜夜子

  四葉分家の黒羽家の当主黒葉貢の娘。弟の文弥とは双子である。

  董夜に気があり、超が付くほど大好きである。それに対して貢はいい顔をしていない。

  深雪に敵対意識を向けているが、それは深雪が次期当主候補の一人だから、というわけではないようだ。

 

  黒羽文弥

  黒羽亜矢子の双子の弟。

  董夜や深雪と同じく四葉家次期当主候補の一人。

  董夜の事を尊敬しており、実の兄のように慕っている。

 

 

 

  深雪side

 

 

「やぁ深雪ちゃんよく来たね………………あぁ董夜くんもよく来たね」

 

  明らかにこの人のことを疎遠している叔父様。そのことに特に反応することなく、私は頭を下げた。

 

 

「ご、ご無沙汰しております叔父様。今日はお招き頂き、ありがとうございます」

 

「良く来てくれたね、深雪ちゃん。お母様の調子は大丈夫かい?」

 

「お気遣い畏れ入ります。少し疲れが出ているだけかと思いますが、本日は大事を取らせていただきました」

 

 

  緊張して少しだけ噛んでしまったけれど、お手本通りのことはできたはずだ。

  そして、私に続いてこの人が頭を下げようとした時、叔父様の後ろから弾丸のように女の子が走ってきた。

 

 

「貢叔父様、本日はお招きありがとうごz、ゴブァァァ!!」

 

 

  女の子がこの人の鳩尾に突撃し、苦しそうなこの人を気にせずお腹に頬ずりをしている。

 

 

「董夜兄様!!お待ちしておりましたわ!!」

 

 

  真っ黒な服に身を包んだ女の子の正体は、あの人を睨みつけている叔父様の娘である黒羽亜夜子ちゃんだった。

 

 

「おねぇちゃん!こんな所で抱きつくなんて勘弁してよ!!董夜兄様も迷惑して………る………ょ」

 

 

  亜夜子ちゃんの後ろから文弥君が走って来た。社交的な場でも遠慮しない自分の姉に文句を言うが亜夜子ちゃんの一睨みで封殺されてしまった。

 

 

「亜夜子ちゃんに文弥君、お久しぶり」

 

「深雪姉さまお久しぶりです」

 

「お姉さまもお元気そうで何よりですわ」

 

 

 私が声をかけると、文弥君も亜夜子ちゃんも何時もの笑顔で迎えてくれた。

 亜夜子ちゃんと文弥君は私より一学年下の小学六年生。私と兄とは違い本物の双子なのだ。一学年下と言っても私が三月生まれで二人は六月生まれなので歳は同じ。

  それも原因の一つなのか、昔から亜夜子ちゃんは私に対してライバル心を抱いているようだ。

 

 

「あの、深雪姉さま」

 

 

 叔父様の自慢話を我慢して聞いていると、文弥くんがそわそわと周りを見渡し始めた。

 

 

「……………達也兄様はどちらに?」

 

「お兄様ならあそこにいらっしゃるわ」

 

 

  そう言って私は入り口近くの壁際に寄りかかり、こちらの様子を伺っているお兄様の方に目線を向けた。

 

 

「あ!達也兄様!!」

 

「っもう!仕方ないわね」

 

 

  文弥くんはお兄様を見つけると、嬉しそうに駆けていき、亜夜子ちゃんは困ったように追いかけたが、その内面から嬉しさが滲み出ている。

  ふ、流石は文弥くんと亜夜子ちゃんね、お兄様の素晴らしさをよく分かっているわ。

 

 

「まったく」

 

 

  唯一、貢叔父様だけが苦い顔をしている。私と同じく次期四葉家当主候補である文弥君に、ガーディアンであるお兄様と親しくするなと言いたいのでしょうけど。お兄様と文弥君に亜夜子さんは再従兄弟同士、叔父様が気にし過ぎな点も否めない。

 

 

「ご子息がガーディアンと親密そうにするのは気に入りませんか?」

 

 

  私は一瞬誰が喋ったのかわかりませんでした。なぜならあの人がお兄様を社交的な場で庇ったことなどなかったからです。

 

 

「董夜君もあのガーディアンと仲がいいようだね」

 

 

  『あのガーディアン』

  吐き捨てるように言った叔父様の言葉を聞いた時、私はカーっとなるのを感じた。けれど、私が叔父様に不満を言おうとした時、あの人が叔父様に耳打ちをした。

 

 

「貴様!!どこでそれを!!!」

 

 

  耳打ちを終えたあの人が叔父様から離れる。すると叔父様の顔がどんどんと赤く染まっていき、パーティーの最中だという事も忘れてあの人に向かって怒鳴りつけた。

 

 

「おや、いまさら罪悪感に苛まれているわけでも無いでしょうに。何をそんなに焦っているのです?」

 

 

  もはや殺気すらも放っている叔父様の激昂にあの人は一切萎縮した様子もなく喋っている。

  遠くでは来賓の人たちに加え、文弥くんや亜夜子ちゃんも驚いた顔でこちらを見ていた。

 

 

「董夜さん………………?」

 

 

  私はこの人が兄を庇ってくれたのが無性に嬉しくて、周囲の空気がピリついているにも関わらずこの人を見直しまった。

  果たして、この人の名前を口に出して呼んだのはいつぶりだったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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