13話 パーティー
董夜side
「ご子息がガーディアンと仲良くするのがそんなに気に入りませんか」
文弥と亜夜子が達也の所に向かうのを苦い顔で眺めている貢叔父様に無性に腹が立ち、少しだけ挑発気味な事を言ってやった。
すると何故か深雪が驚いたような顔でこちらを見て来た。俺が達也を庇おうとするのがそんなに珍しいだろうか。
「董夜君もあのガーディアンと仲がいいようだね」
貢叔父様が非難めいた目を向けて来る。
仕方のないことだが、やはりこいつが達也を【あのガーディアン】呼ばわりするのはカチンとくる。
これを言うつもりは無かったがしょうがない。こんなカード、今切ったって構わないのだ。
「彼が生まれたばかりの頃、あなた方分家が彼を殺そうとした事をまだ引きずっているのですか?」
耳打ちするために近づいていた叔父様から数歩離れる。近くでは深雪が首を傾げていた。
あぁ、深雪の
今更な事を考えていると、呆然としていた叔父様から殺気が漏れ始めた。
まさか、魔法は使わないよな。
「貴様!!!どこでそれを!!!」
あーあ、魔法は使わなかったけど、完全に冷静さを失っているな。
ほらほら亜夜子に文弥、挙句には来賓の客までこっち見てんじゃないか。
「おや、いまさら罪悪感に囚われているわけでも無いでしょうに。何をそんなに焦っているのですか?」
これ以上ヒートアップさせると後で深夜さんと母様に怒られそうだ。一旦引こう。
当然深雪をマジギレオヤジのそばに置いていくわけにもいかない。
「ゴメン深雪、行こう」
深雪が何かを言っていたが、それよりもまずは離脱が先だ。行儀よく握られていた深雪の手を取り、達也たちのいる方へと向かった。
「董夜兄様、どうしたんですか?」
達也たちのそばに行くと文弥が心配そうに聞いて来た、後ろの亜夜子も同じような顔をしている。
「いやいや、なんでもないよ。あと達也、悪いんだけどさっきこの会場の近くで不穏な気配を感じた。ちょっと外を巡回して来てくれない?」
「ああ、深雪は任せたぞ」
「あ、達也兄様!僕も行きます!」
俺の意図を察してくれたのか達也が会場の外に向かい、まだ話し足りないのか文弥がそれについていった。やはり、巻き込まれただけとはいえ、事の発端である達也を叔父様と同じ空間に置くのは悪手だろう。どうやら亜夜子は残るようだ。
「ごめんな、達也を追い出すような事をしちゃって」
「いえ、董夜兄様の意図は分かりますわ」
達也が外に出た事を確認し、深雪と亜夜子の方を振り向いて謝罪する。
亜夜子はともかく深雪にはこれでまた好感度が下がったんだろうな、ただでさえ嫌われているのに。
「董夜さん……………さっきは叔父様に何と言ったんですか」
ま、まさか『董夜さん』?初めて名前で呼ばれた、なんで!?…………………ああそっか達也を庇ったからか。
なるほど、達也を庇うと深雪からの好感度が上がるのか、参考までに覚えておこう。
「ゴメンね、母様に口止めされてるんだ。でも時が来たら深雪にも亜夜子にも言うつもりだよ」
そう言うと深雪は「そうですか」と言って何処かに行ってしまった。方向からして恐らくお手洗いだろう、とりあえず俺は亜夜子を連れて来賓の人たちに挨拶に向かった。
「先程はおさわがせして申し訳ありませんでした」
「お父様がご迷惑をおかけしました」
「おおこれは董夜殿に亜夜子さん!いやはやお気になさらず」
この人は四葉のスポンサーの一つである貿易会社の会長さんだ。会社は大きく、さらに一代で立ち上げたのだから大したものだ。
「そう言って頂けると僕としても助かります」
その後はあたり感触のない会話をしてその場を離れた。
これでも四葉家次期当主候補である。来賓の人には一人一人挨拶をしなくてはならない。それは主催者の娘である亜夜子も同様なのだ。
「はぁ」
「さぁ董夜兄様!エスコートをお願いしますわ!」
挨拶を全て終え、どこかの椅子に腰掛けようとすると、亜夜子が目を輝かせて服の袖を引っ張ってきた。どうやら休むのはまだ先になりそうだ。
董夜side end
深雪side
董夜さんと別れた後、辺りを見渡すと叔父様はいつの間にか会場からいなくなっていた。振り返ると、その事に気付いているのか分からないけれど、董夜さんは来賓の方々の方へと歩いて行った。
あ、そういえば私…………………いつの間にかあの人のことを董夜さんと頭の中で改めている。
その事実は驚くほど自然に心へと溶けていき、不快感を感じることはなかった。
「あ、お兄様」
何となく夜風に当たりたくて、会場のある建物の周りを回っていると、反対側からゆっくりと歩いて来たお兄様と合流できた。
「あら?お兄様、文弥君は」
「ああ、文弥ならさっき会場に戻って行ったよ」
元々文弥くんがいても良かったのだけれど、お兄様と二人きりなら好都合です。
「深雪、どうかしたのか?」
何も喋らない私をお兄様が気遣ってくださいました。やはりお兄様は優しいお方です。
「董夜さんが先程、叔父様になんと言ったのかが気になって」
「董夜さん?………………そうか」
私の言葉を聞いたお兄様が優しそうに微笑みました。そのことに私はハッとして先程の言葉を思い返した。
たった一度、董夜さんがお兄様を庇っただけで、『あの人』から『董夜さん』へと呼び名が改められる。そんな単純な私に、ため息をつきたくなりました。
「俺も董夜がなんと言ったのか気になっていたところだ、文弥も『お父様があんなに怒っているのを見たことが無い』と言っていた」
「そうですか……………」
「あいつは四葉に頼らずに独自の情報網を構築しているからな。それにあいつは俺達より………………下手したら分家の当主よりも四葉の深いところに関わっているのかもしれない」
この日は私が董夜さんに少しだけ心を許して、そして少しだけ恐怖心を抱いた一日でした。
深雪side end