19話 マジントシニガミ
沖合で水柱が何回か上がる。
敵の艦砲射撃の試し打ちだろう。最早達也も風間も真田も何も言わないが董夜はどこか楽しそうだった。
そして達也は武装デバイスを構える。銃弾の飛行時間や落下速度などを考慮すれば敵艦はすでに射程圏内だ。
達也は仮装領域魔法を展開し、引き金を4回引いた。
4回とも僅かに銃口をずらし、照準誤差を補うように撃っている。
「風間さん達はそこで映画でも見るように鑑賞してていいよ」
緊迫した場にもかかわらずその場に合わないほど気楽な声をあげたのは董夜だ。
達也が大規模な魔法を使うことを察知し、少し離れたところにいた風間達の緊迫した心情は董夜により少しだけ余裕が生まれた。
「君は本当にkーーーーーーーーー
風間が何処までも気楽な董夜に呆れ声を発し終わる前に衝撃音がひろがる。
達也の射程圏内に敵艦が入ったということは自分たちも敵艦の射程圏内に入ったということだ。
「なっ!?一体これは!?」
風間と真田が驚愕したのも無理はない。
雨のように飛んでくるが敵の砲弾が全て、達也の手前10メートル付近で直角に落ち、水面に水柱を立てているからだ。
「詳しいことは言えないけど風間さん達に砲弾が飛んでくることはないから安心しててくださいね」
砲弾の弾道が直角に曲がる理屈がわからずにいた風間達は達也の隣で両手をズボンのポケットに入れて敵艦を凝視している董夜を見る。
「こ、これを全て彼が………………!」
敵艦から絶えず雨のように飛んでくる砲弾を全て捌ききっている董夜に風間と真田は驚きが止まない。
こちらから敵艦の様子は水面の水柱で全く見えなくなっているが達也はバイザーに表示されている情報と自身の【
達也は自分が魔法の調整をしている間に、敵の攻撃を全て防いでいる董夜に安心感を感じながら自分の銃弾が敵艦隊のちょうど上空に到達したのを【
そのまま手を前に突き出し、掌に力を込めて開いた。
銃弾がーーーーエレルギーに 分解される。
質量分解魔法【
達也が魔法を放った瞬間、水平線の向こうに閃光が生じた。空を覆う雲が白い光を反射する。日没には程遠いいのに水平線が眩しく輝き爆音が轟く、誘爆する間も無く全ての燃料が爆ぜた音だ。
衝撃が収まり不気味な鳴動がつたわる。
「津波だ!!にげろ!!」
風間が叫んで真田も慌てている。
しかしそれに対して達也も董夜も冷めたものだ。
「だから言ったでしょ?『映画でも見るようになって鑑賞してろ』って」
董夜がそういうと風間と真田は彼のあまりの冷静さに疑問を覚える。
水平線を見ると既に津波が十数秒で到達するまでに来ていた。
「もう少し離れましょう」
いつの間に董夜から離れたのか達也が風間と真田にもう少し下がるよう忠告して、自身も離れる。
「よし、少しだけ頑張ろうかな」
達也達が自分から離れたことを確認した董夜の周囲に電気が発生し始める。
そして董夜が海に足をつけるとーーー
「!?」
董夜に迫っていた津波も含めて広範囲の水面に電気が走り、けたましい音が鳴ったと思うと津波もろとも海の水が砂浜から10メートルの地点まで跡形もなく消えた。
風間も真田ももはや言葉が出ずに口をパクパクさせている。
そこへ風間の無線機から着信を知らせる音が鳴った。
「な、なんだ………………………な、なに!?それは本当か!?」
まだ動揺が抜けていない風間がさらに動揺して顔が面白い感じになっていく。
「どうやら先ほどの達也くんの魔法を宣戦布告と判断したのかここから40キロのところに先程の3倍の量の艦隊が現れたようだ」
「ええ〜?あれに懲りずにまだ来るのか」
風間の新しい情報に董夜と達也は呆れ、真田は動揺で卒倒しそうになっていた。
「どうする?董夜」
「うーん、今から逃げてもさっきと変わんないから………………今度は俺が迎え撃とうかな」
董夜の思い切った発言に達也は驚き、風間と真田は『も、もう君達にまかせる』と疲弊した様子だ。
「叔母様からの許可は大丈夫なのか?」
「帰ってから怒られるから大丈夫だよ」
全然大丈夫じゃない状況に達也は溜息を吐き董夜は艦隊がいる方向を【眼】で確認してそちらに数歩歩いた。
深雪side
司令室で戦場の様子を見ていた私は…………………いや私だけじゃなくお母様を抜いた全ての人の顔が驚愕に染まった。
まずお兄様が武装デバイスを構えている間に襲いかかる敵の砲撃を全て捌ききった董夜さんもそうだし、敵艦の頭上に現れた光球が艦隊を飲み込むほどの爆発を起こしたお兄様にも一同驚きが去ることはない。
「す、すごい」
もしかしたらこの2人がいるだけで世界、いやこの星でさえも壊せるのではないか。
そんなことを思わせるほどのインパクトがあの2人にはあった。
「な、なに!?」
私が2人に恍惚とした表情を浮かべていると頭上のアラームが鳴り響き、赤い光を灯して緊急事態を知らせていた。
「沖合40キロ地点に先程の3倍の規模の敵艦隊を発見!!こちらに近づいています」
オペレーターの1人がアラームにも負けない声量で叫んだ。
先程のお兄様の【
モニターでは今の情報を聞いたのか風間さんと真田さんが慌てているが董夜さんとお兄様に動揺した様子はなかった。
「まさかあの子!…………真夜の許可は得ていないでしょう!!!」
今まで涼しい顔でモニターを見ていたお母様が突如驚いたような声をあげた。
モニターを見ると董夜さんがお兄様達から離れて、ゆっくりとした歩調で海へ歩を進めた。
先程の董夜さんの魔法で消えていた水は今となってはいつもと変わらないように存在している。
「董夜さん……………?」
ここ数日、彼とはよく話した。
そしてさっき彼に好意を抱いていることを自覚した。
そして私は彼の事を分かった気でいた。
董夜さんは一体幾つの秘密があるのだろうか。私が彼の全てを理解する日は来るのだろうか。
深雪 side out
董夜side
四葉董夜、それが俺の名前だ。
物心がついたのがいつだったかは覚えてないが俺の記憶では母様は俺に沢山の愛情を注いでくれてた。
けれどそれは俺に甘かったというわけではない。俺は幼少期から魔法の訓練や礼儀作法、勉学など様々な物を叩き込まれてきた。
武術だけはいくらやっても素人レベルから対して上がらなかったが、それ以外はどんどん上達していった。
成長するにつれて四葉の裏の仕事もするようになってきた。
四葉は国から反逆者の始末を依頼されることが多いらしく、俺もよくその仕事を手伝ったりしていた。
異変に気付いたのは小学校の5年の時。誰かを始末する仕事が入るのを楽しみにしている自分がいることに気づいた。
俺は裏の仕事を手伝うまで、幼少期から習得してきた魔法の技術をどこで使えばいいかわからなかったからかもしれない。
それに今まで俺には自分から守りたいと思える人間はいなかった。
だけど今日深雪が撃たれそうになった時、俺の体は頭で考えるよりも早く動いていた。
達也の魔法で一命をとりとめた俺に泣きながらすがりついて来る深雪を見て俺は『深雪を守る』と決めた。
「達也達は俺から10メートルくらい後ろにいてね」
そして今、俺は1人で相手するには多すぎる規模の艦隊を迎え撃っている。
さっき津波を防いだせいでサイオン量がヤバイけど俺の後ろには守るべき人がいる。
だから俺は負けるわけにはいかない。
董夜 side out
董夜が腕輪型CADをはめた右腕を前に突き出すと彼の背後に
5つの光球が浮かんだ。
「達也ー!これ打ったら多分サイオンの量がヤバイから意識失うと思うけどよろしくー!」
董夜が大声で後ろにいる達也に向かって叫ぶと達也は無言で頷いた。
その後ろでは風間が動揺から『次はどんな魔法を見せてくれるんだ?』という好奇心に染まった顔に変わっている。
「よしっ!敵の位置はっと」
董夜は自身の持つ【
そしてーーーーーーーーーーーーーー
「荷電粒子砲!発動!!」
董夜が突き出した手を握りしてると全ての光球がまばゆいほどの光を発し始めた。
放たれた5つのビームは董夜から100メートル程離れると合流し、太さ10メートルほどの巨大な柱のごとき姿に形を変えた。
そして【荷電粒子砲】はそのまま艦隊に直撃。艦隊を薙ぎ払った。しかし【
【荷電粒子砲】に触れた敵の艦隊や海の水は全てその高温によって蒸発している。
それによって津波は起こることはなく。見た目ほどの衝撃もない。
「こ、これほどとは」
風間が感嘆の声を漏らすと同時に董夜の体は力なく崩れ落ちた。
それもそのはず大量の海の水を蒸発させた直後に大規模な魔法を放ったのだ。いくら莫大なサイオン量を誇る董夜でも限界がきたのだ。
「………………今日はお前に助けられてばかりだったな」
崩れ落ちる董夜の上半身が地面に触れるよりも早く受け止めた達也が既に意識のない董夜に向かって囁いた。
衛星から今回の顛末を見ていた大東亜連合はそれ以降董夜を、ヒンドゥー教で荒々しい殺戮の女神として知られる【
これが世界中から【四葉の死神】と呼ばれるようになった所以である。
そして同じく衛星で見ていた日本政府や十師族により彼は【沖縄の英雄】と呼ばれ、そのなは日本中に広まっていった。