21話 ジュンビキカン
21話 ジュンビキカン
七月半ば、季節は夏に入り最高気温が30度を超える日が当たり前になっていた頃、国立魔法大学付属第一高校では定期試験も終わり九校戦に向けての気迫が高まり、校内の雰囲気は何処か浮ついていた。
ちなみに定期試験の順位はこんな感じだ。
総合成績
1位、四葉 董夜
2位、司波深雪
3位、光井ほのか
4位、北山雫
このように上位4人をA組で独占していた。
1位の董夜と2位の深雪の差は僅差で、少し離れてほのか、そして雫といった感じだ。
今回の成績で職員室内でのA組担任が鼻を高くしたのは職員室のストレスの一因となっているが校内を騒がせたのは違った理由だった。
「お兄様!流石です!!」
「あ〜、また達也に勝てなかった」
そう理論での成績で2科生である達也が1位になったのだ、これには全校生徒どころか職員まで驚愕に染まっていた。
しかし、いつまでも驚いているわけにはいかない。
九校戦―――正式名称、全国魔法科高校親善魔法競技大会。
毎年、全国にある九つの魔法科高校から、それぞれ選りすぐりの生徒たちが集い魔法競技を競う大会である。九校戦は毎年魔法関係者だけでなく一般企業や海外からも大勢の観客とスカウトが集まる大舞台だ。当然、全国の魔法科高校はこの競技に力を込めており、それはこの第一高校も例外ではない。
そんな大規模な行事に普通はテンションが上がるものかもしれないが、学校を仕切る立場、すなわち生徒会はそうも言ってられない。大会までは後半月以上もあるのに、その仕事の多さはもう殺人的だ。それは、あの真由美が軽口を叩くこともなく黙々と仕事に取り組んでいることから理解してもらえると思う。正確には黙々と仕事に取り組んでいるのではなく軽口を叩く暇さえないということなのだが。
董夜side
生徒会室には達也と摩利さんを含めた生徒会メンバーが集合していた。
「……今年の九校戦は、このメンバーなら負けることはないでしょう。それだけの人材が揃っているわ」
「そうですね、今年は一年生も優秀ですから。ですが……」
「エンジニアか」
鈴音の言葉を引き継ぐように摩利が発した言葉で、その場にいる達也以外の面々がため息でも吐きそうな様子を見せた。
「私と十文字くんがカバーするっていっても限度があるしなぁ……」
「はぁ。俺も達也みたいにCADの調整ができればなーー。…………………………達也みたいに」
「おい、何故2回言う」
「そりゃ大事な事だからね」
無表情からだんだん焦ったような表情に変わる達也とは逆に、うな垂れていた真由美さんの顔に笑顔が戻った。
「盲点だったわ……!」
ガバッと勢いよく身体を起こした真由美さんは獲物を見つけた鷹のような視線を達也に送る。視線を向けられた達也は俺のことを恨めしそうに睨むが、俺はそっぽを向いて素知らぬふりをした。
「待ってください、俺にエンジニアなんt「深雪はどう思う?」おい、俺の話を」
達也はなんとか逃げようとするが、そんな事させるわけにはいかない。こんな時には深雪に振るのが1番だ。
「お兄様!やりましょう!!」
当然深雪が否定的な意見を出すわけがない。深雪のキラキラとした視線を向けられた達也のエンジニア入りは確定したのだった。
(フッ、チョロいぜシスコン)
俺が心の中で悪態をついたら達也に思いっきり睨まれたが偶然だろう、うん偶然だよね?
その日の夜、俺と雛子が夕食を食べていると母さん(最近【母様】から【母さん】に呼び名を変えた)から電話があった、どうやら九校戦の会場である富士演習場の南東エリアで国際犯罪シンジケートの【
「うーん、四葉の命令なしに殲滅に動くと国防軍の妨害になりそうだからなー」
「要請があるまで動かなくていいんじゃないの?」
達也は国防軍所属の非公式戦略級魔法師だが、俺は国防軍には所属していない戦略級魔法師だ。ここは雛子の言う通り要請があるまで大人しくしていよう。
2時間後の司波家
「お兄様、お茶をお持ちしました」
「ちょうどよかった、入って」
部屋に入って来た深雪を見た達也は一瞬固まったが直ぐに思考を取り戻す。
「あぁ、フェアリー・ダンスのコスチュームか?似合ってるね」
「正解ですお兄様。よくわかりましたね」
深雪が出場する九校戦の【ミラージ・パッド】の別称である【フェアリー・ダンス】
妖精のようなコスチュームで競技を行うことからそう呼ばれている。
「それでお兄様、お茶g……………………飛行術式……………………常駐型重力制御魔法が完成したんですね! おめでとうございます、お兄様!!」
達也が床から浮いた状態であることに気付いた深雪のテンションはうなぎのぼりに登っていった。
「牛山さんやFLTの面々が急いでくれたおかげで予定よりもずっと早く完成したんだよ」
この達也の言葉により董夜と雛子は深雪に司波家まで呼び出され遅くまでお祝いムードが続いた。(ノリノリなのは深雪と雛子だけ)
「一昨日の夜ぶりですね母さん」
『ええほんと、何で昨日電話に出なかったのかしら』
深雪に呼び出されて深夜までお祝いに付き合わされた日の次の日の夜。俺は電話の前で冷や汗をかいていた。
「いや、昨日は達也の家に行ってまして」
『なるほどねぇ〜、私よりも深雪さんを取るのね』
「いえそういう訳では」
はっきり言ってここまで怒っているなんて俺も予想外だった。たしかに昨日は深雪の家でお祝いに付き合わされて母さんからの電話に出れなかったのは悪いとは思っていたが、そんな事でここまで不機嫌になるなんて。
(我が母ながらメンドクセェェェェ!!)
『今何か失礼な事を思わなかった?』
「いえいえそんな滅相もございませんよ!!」
『はぁ、もういいわ、それで飛行魔法の件なら達也さんから報告を受けたわ』
「いえ、少し確認したいことがあって」
俺の言葉に母さんは僅かに目を細める。
本当に僅かだが、長い付き合いだからわかるこういう時の母さんは何かを見極め試そうとする表情だ。母さんは日常の会話の中でもこういった試しをすることがある。母さんの意にそぐわない回答をしなければその人物は使えないと判断される。だから、こういった質問をするときはよく考えないといけない。母さんの納得できる質問でなければ不興を買うのは目に見えている。
「今度の九校戦で俺がスピードシューティングとアイスピラーズブレイクに出場することが決まったんですが、どこまでやっていいですか?」
『ふふっ、そうねぇ……全力でいいわ』
「は?ーーーーーーー」