四葉家の死神   作:The sleeper

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25話 九校戦四日目

25話 九校戦四日目

 

 

 

 

やっと今日から新人戦が始まる。ここまでの成績は一校が1位で320ポイント、2位に三校で225ポイントとなっている。一校と三校のポイントは100ポイント近く差があるが、新人戦の結果によっては大きく変わる可能性がある。本来の予定ならもっとポイントに差がある予定だったけれど、摩利さんの怪我によって予定が大きく崩れてしまった。つまり、一校の優勝は新人戦の結果次第と言っても過言ではない。

そんな新人戦だが、競技の順番は本戦と同じだ。

今日行われる競技はバトルボードの予選、さらに午前中には女子スピードシューティングの予選と決勝。そして午後には男子スピードシューティングとなっている。バトルボードはほのかが出場していて女子スピードシューティングには雫が、そして男子スピードシューティングは俺が出場する。

俺は自分でCADを調整できるのでエンジニアは付いていない。一応、手の空いているエンジニアがフォローに入れるようにはなっているが、試合について来たりはしないので本当に念の為のものだ。CADの調整は既に終わっているし、体調も十全。

とは言っても俺の試合は午後から、先ずは雫のスピードシューティングを応援するために会場に向かった。

 

 

 

会場に着いた俺と深雪はエリカたちが空けてくれていた席に座ると既に選手たちが入場していた。俺が雫に目を向けようとすると隣からエリカが話しかけてくる。

 

「董夜くん昨日はすごかったじゃん!結構ネットニュースとかでも話題になってるよ!」

 

と俺に携帯端末の画面を見せて来た。もしかしなくても『昨日のこと』とは俺が摩利さんと七高の選手を受け止めたことだろう、そう思ってエリカの携帯端末の画面を見ると『2人の女子生徒の命を救った四葉家の御曹司』と書かれていた。どうやら俺の意図しないところでイメージアップに繋がってしまったらしい。

 

「いや、たまたま摩利さん達の先に俺がいたって話だよ。2人とも無事でよかった」

 

嘘だ。2人は『無事』じゃなかったし俺も『よかった』なんて毛ほども思ってない。けれど俺がここでウジウジ引きずるわけにはいかない、昨日摩利さんと話してもうけじめをつけて切り替えると決めたのだ。

 

「……………………董夜さん」

 

ふと達也と深雪を見るととても心配そうな顔で俺を見ていた。参ったなやっぱり2人に嘘はつけないか。それでも昨日のことを引きずって今日結果を出せないんじゃ目も当てられない。

 

「そろそろ始まるみたいだぞ」

 

試合開始の時間になり雫が構えを取った。スタートのランプがともり始め全てが点灯すると同時にクレーが空中に飛び出した。

クレーが有効エリア内に入った瞬間、それは粉々に粉砕された。それに続いて飛んでくるクレーも有効エリア内で粉々に砕け散る。

大勢の観客席から感嘆の声が漏れ、俺たちも感嘆と安堵を含めた息を吐き出す。

雫の視線にブレはなく、真っ直ぐ正面だけを見ていてクレーを見てもいない様子だ。

 

「うわ、豪快」

 

「……もしかして有効エリア全域を魔法の作用領域に設定しているんですか?」

 

エリカがシンプルな感想を述べ、反対では美月が自信なさそうに質問をする。

 

「そうですよ。雫は領域内に存在する固形物に振動波を与える魔法で標的を砕いているんです」

「より正確には有効エリア内にいくつか震源を設定して固形物に振動を与える仮想的な波動を発生させているのよ。魔法で直接に標的そのものに振動させているのではなく、標的に振動波を与える事象改変の領域を作り出しているの」

 

ほのかと深雪の解説に美月は感心したように頻りに頷いていた。

 

「知ってると思うがこの競技の有効エリアの範囲は一辺十五メートルの立方体だ。雫の魔法はこの内部に一辺十メートルの立方体を設定し、その各頂点と中心の合計九つの場所に震源を配置するものだ。欠点として効果範囲外にクレーが通った場合に対応ができないということが上げられるが、さすがに学生の競技で死角を突くような意地の悪い軌道は設定されていないだろうと踏んだわけで……どうやらアタリだったようだな」

 

さらに達也が付け加えると、今度は美月だけでなくよく意味の分かっていなかったエリカやレオたちも達也の作った魔法に感嘆の声を漏らしていた。

そんな俺たちの視線の先で雫は最後のクレーを破壊し、準々決勝進出を確実なものとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時間は経ちついに俺の出番になった。ちなみに雫は決勝まで順調に勝ち上がり先程決勝戦を迎えた。相手の三高の選手も優秀で大したものだったが結局雫が勝ち、雫が女子のスピードシューティングの優勝を飾った。

 

「さてと、次は俺の番だね」

 

「頑張ってくださいね!董夜さん!」

 

「ん、ありがと」

 

深雪達の激励を受けて控え室に向かう。俺の一回戦に何人の人が見にくるかは定かではないがそれでも九校戦はテレビで全国放送される、さすがの俺もそんな大人数の前で何かをすることがなかったため少しだけ緊張していた。

 

「あ、董夜くん」

 

「真由美さん、どうしました」

 

緊張を何とか振り払いいつも通りの調子で控え室の所まで来ると控え室の扉の前に真由美さんが立っていた。心なしか顔が固い気がする。

 

「董夜くんのことだから緊張とかしないかもしれないけど…………………頑張ってにぇ」

 

意を決したような表情で噛まれるとこちらとしても少し恥ずかしいのだが。噛んだことで顔を真っ赤にして手で顔を覆っている真由美さんに俺はいつも通りの調子でいつも通りの口調で話しかけた。

 

「失礼ですね俺だって緊張ぐらいしますよ。実際にさっきまで緊張してましたから」

 

「そっか………………………それじゃ四葉董夜くん頑張ってね!」

 

「はい。行ってきます」

 

それだけ言って俺は控え室の中に入った。最後のはおそらく『真由美さん』ではなく『七草会長』としての発言だろう。

 

「フーーー。……………」

 

深く深く息を吐き俺は競技開始の時刻を待った。

 

 

 

 

 

 

「ほい、パーフェクトっと」

 

俺が最後のクレーを破壊し相手がミスったところで試合終了を告げるブザーが会場に鳴り響き会場に収まりきっていない観客の人が歓声をあげた。今の準決勝の結果は100ー52で俺の圧勝だった。正直言って一回戦から準決勝まで骨のある相手じゃなかった、その分次の相手には期待が募る。

学生の身にして基本コードである【カーディナルコード】の1つを見つけたことから付けられた名は【カーディナルジョージ】。そう吉祥寺真紅郎である。

 

(この前将輝と電話した時に自慢されたな………………。)

 

 

 

時は遡り1週間前ーーーーーーー

 

「それで、董夜は何の競技に出るんだ?」

 

「ん?俺九校戦には出ないぞ」

 

「なっ!?嘘だろ!?」

 

「嘘だよ」

 

「…………………」

 

今俺の部屋の通信画面で顔を真っ赤にして怒っているのは十師族一条家の次期当主一条将輝だ。

 

「そんなに怒るなよ俺とお前の仲だろ」

 

「こんなことなら最初に会った時の距離感を保っていたかった」

 

こいつは十師族とは言っても克人さんのように巌のような雰囲気はなく真由美さんのようでもない。というか父親で一条家の剛毅さんのような雰囲気もなく純情なのだ、おそらく母親に似たのだろう。

 

「それで?何の競技に出るんだ?」

 

「あぁ『スピードシューティング』と『アイスピラーズブレイク』だよ」

 

「そうかならアイスピラーズブレイクで俺と当たるな」

 

「ん?そか、それじゃあスピードシューティングは退屈しそうだな」

 

俺が欠伸をしながら心の底から退屈そうにいうと将輝は顔に笑みを浮かべた。

 

「ふっふっふ」

 

「キモい」

 

何となくイラっときたからそう切り捨てると驚いた顔をした後に少し凹んだ顔をしてすぐに怒った顔になる。

 

(顔に出やすすぎるだろ)

 

こんなんで将来十師族の当主などやっていられるのか心配だ、こちらとしては扱いやすくて助かることこの上ないのだが友人としては少し心配してしまう。

 

「う、うるさいっ!それに油断しないほうがいいぞ『スピードシューティング』には我が三校が誇る【カーディナル・ジョージ】が出るからな」

 

「ほぉ……」

 

俺が少しだけ驚いた顔をすると俺を驚かせたことが嬉しかったのか将輝の顔が喜一色になり自慢げに話し始めた。

 

「【カーディナル・ジョージ】とは学生の身にして「いやそんぐらい知ってるよ」…………そうか」

 

「まぁそれなら退屈はしなさそうだなーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

時は戻って現在ーーーーーー

 

 

いや別に自慢してなかった、というより自慢する前に俺が切り捨てたんだった。

 

「決勝戦まで………………まだ後ちょっとあるな」

 

そういって俺は控え室のソファに気だるそうに横になる。俺が控え室にいる際には精神集中のために誰も部屋に入らないように言ってある。まぁ『精神集中』なんてのは建前で本音はただ1人になりたいだけだ。

 

「…………………どうやって勝つか決めとこうかな………………ん?」

 

そこでふと携帯を見るといつの間にかエリカ達からメールが来ていた。中を見て見るとエリカもレオも美月もほのかも雫もみんなが激励をくれた。

 

「達也からは来てないのは想定内だけどね…………………相変わらず可愛げがねぇ」

 

想定内とはいえやはりあいつの性格には苦笑を禁じ得なかった。

深雪に関してもまた然り『親しい仲に言葉などいらない』というやつだろう。あいつからのメールはないが今会場で必死に祈っているのが脳裏に簡単に浮かんで来た。

会場で祈っている深雪を想像していると部屋のドアが来訪者を告げるノックの音を鳴らした、時間的にも俺を呼びに来た大会委員とかだろう。

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼します、四葉董夜君競技の時間ですので準備をお願いします」

 

そして決勝戦が幕を上げた

 

 

 

 

閑話

 

「ねぇねぇ董夜君にみんなで応援のメールでもしようよ」

 

「それいいですね!」「俺も賛成だぜ」「賛成」

 

「うん、決まりね。深雪もやるでしょ?」

 

「………………」(祈っていて何も聞こえてない)

 

「すまん、今はそっとしておいてやってくれ」

 

「そ、それじゃあ私たちだけでやりましょうか」

 

「う、うん」

 

閑話終了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

 

会場の入り口から会場内に入ると…………いや入る前から会場内の歓声は凄いものになっていた、俺が入場するとその歓声はさらに高くなる。まぁ話題性の強い人間が出てくればこうなるのは必然的だ。だがまさかこれほどの人数とは思っていなかった俺は多少面食らってしまった。

 

「お、達也達見つけた」

 

やはりこういう時は知り合いを見つけたくなるものである。俺は【観察者の眼(オブザーバー・サイト)】を使ってどこかに座っているだろう達也達を見つけて手を振ると会場に取り付けてある大モニターに映像を送っているであろうカメラが俺の顔をズームアップで写した。

 

(こういうのはノリよく何かしたほうがいいのだろうか)

 

そう思った俺はとりあえず軽く微笑みながらウィンクをした、会場の女性から黄色い声が上がったからまぁ掴みは上々だと思ったら達也達が全員呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相手の吉祥寺深紅郎が入場を終えついに試合開始の時間になった。吉祥寺は緊張しているのか顔が硬かったが今まで俺が予選で戦って来た相手ほどの緊張は無いようだった。

一方の俺は最初こそ多少緊張していたがそれよりも会場を埋め尽くさんばかりの観客が自分に注目しているという高揚感を抑えられなかった。

 

そしてついに試合開始を告げるブザーが会場に響き渡った。俺は瞬時にCADを構えて集中力を研ぎ澄ませ臨戦態勢に入る。

そして最初のクレーがお互いのコートに射出された。

 

「最初から攻めるよ」

 

俺はクレーが得点有効エリアに入るとCADの引き金を引く、するとエリア内にあった全てのクレーが砕け散った。そして観客席から大歓声が上がる。流石に俺もこれには驚いたが俺は予選を含めて今まで全てパーフェクトで駒を進めている、そして自分で言うのも何だが顔もある程度良くネームバリューもある俺は今やスターのような状態になっていた。

 

「……なっ!?」

 

観客とは違い相手のコートからは悔しさを含めた驚愕の声が上がった。吉祥寺のコートに射出されるクレーは速度を上げたり急に減速したりまた急加速したりと不規則な速度で動いている。

 

「くっ!そういうことかっ!!」

 

ようやくタネに気付いたようだがもう遅い。俺が使った魔法は【定速干渉】。【観察者の眼(オブザーバー・サイト)】でクレーを捉え速度に干渉している。

吉祥寺の【不可視の弾丸(インビジブル・ブレッド)】は確かに脅威だがクレーが見えていないんじゃしょうがない。

 

5……4……3……2……1……

 

「はい、俺の勝ち」

 

最後のクレーを俺が破壊し、吉祥寺が外したところで試合終了のブザーが鳴り、62-100という圧倒的な得点差で新人戦男子スピードシューティングの優勝者は俺に決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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