四葉家の死神   作:The sleeper

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26話 九校戦五日目

26話 九校戦五日目

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁ…………あ……………あ」

 

九校戦5日目の朝…………朝…の筈だ。ふと外を見ると窓の外はもう明るくなり太陽の位置は決して低くはない位置にあった。

部屋の壁に取り付けてある時計に目をやると時刻は10時過ぎ…………………完全な寝坊である。

 

「あーーーーーー。やっちまった……………まぁ特に約束もないしいっか」

 

そして俺はベッドから起き上がり少しだけ掻いた汗を流すため部屋に取り付けてある簡易的なシャワー室に向かう。

確か今日俺のアイスピラーズブレイクの一回戦の試合開始時間はまだまだ先だし、悪いけど深雪と雫の一回戦には行けない旨のメールを送っておこう。

 

 

 

 

 

「おぉ昨夜からすごい連絡が来てる」

 

シャワーを浴びて携帯端末を開き誰かから連絡が来てないかを見ると1人の女性から何本も連絡が入っていた。

 

「そんな緊急性の高いことなんだろうか」

 

そう思い取り敢えず電話をすることにした。

そして電話に出たのは深雪でもなく雛子でもなく、ましてや学校の知り合いでもなく………。

 

『昨日はすごかったね!優勝おめでとう!董夜くん!!』

 

「あ、ありがとうございます………………テンション高いですね………澪さん」

 

そう昨夜から俺にすごい数の連絡をして来ていた女性は日本が誇るもう1人の【国家公認戦略級魔法師】にして【五輪家が十師族たる所以】の五輪澪その人である。

 

『そりゃ董夜くんが優勝したんだもの!』

 

「はぁ………体調は大丈夫なんですか?」

 

そう、澪さんは体の調子が良くない。俺が五輪家に招待された時や戦略国防会議や春と秋に皇居で開かれる会の際には車椅子で出席している。

毎回毎回元気そうにしているが本当のところはどうなのかわからないから心配になる。

 

『大丈夫だよ!それに董夜くんに心配されるほどヤワじゃないわ!」

 

「そうですかお元気そうで何よりです」

 

ヤワじゃない、なんて嘘ですよね。という言葉を俺は飲み込んだ。

おそらく彼女にも年上としてのプライドがあるのだろう。

 

『それにしても昨日の夜から連絡してたのに何で出なかったの?』

 

「いや、昨日は早く寝て今日も今起きたんですよ」

 

電話越しでも分かるぐらい澪さんが拗ねているのが分かる。てゆうか昨日俺の優勝が決定した時からこのテンションだったのか…………………すごい元気じゃん!

 

『へぇあの董夜くんでも疲れるんだね』

 

「あれだけの人の前で何かするなんて初めてでしたからね、さすがに疲れました」

 

『今日のアイスピラーズブレイク大丈夫?』

 

「そりゃもちろん、将輝に負けるつもりはありませんよ」

 

『将輝って言うと一条家の次期当主の子だよね、それに優勝候補の子に負けるつもりは無いってことは」

 

「もちろん優勝するつもりですよ」

 

前も言ったが九校戦は全国ネットでテレビ放送される。俺の存在が発表されたのは生まれた一年後だがこうして一般人にも見える形で表舞台に立つのは今回が初めてだ、だからここで四葉董夜が『どういう人間でどれ程の実力なのか』を知らしめる必要がある。

 

『でも一条家の【爆裂】ってアイスピラーズブレイクで有利じゃ無い?』

 

「おや、よくご存知で」

 

『それは毎年全ての競技を見ているんだもの!分析ぐらい当然だわ!』

 

知り合いの中で九校戦マニアなのって雫だけだと思ったらまさかこの人もそうだとは思わなかった。

 

「まぁ将輝とは決勝で当たるでしょうから、予選はーー『やめて!!』…………え?」

 

澪さんになら大丈夫だろうと予選と決勝で使う魔法を言おうとしたら澪さんらしくないヒステリックな声で遮られた。

 

「ど、どうしたんですか澪s『ネタバラシなんてしないでよ!!面白みがなくなるじゃ無い!!!』す、すみません」

 

その後も九校戦について熱く語り始めた澪さんから逃げるため「よ、用事があるので失礼します」と一方的に切る形になってしまった。今度会うときに何か埋め合わせの品を持って行こう。

 

「さて、そろそろ行こうかな」

 

あと2時間ぐらいで俺の一回戦が始まる時間だ。ちなみに雫と深雪には『ごめん、ちょっと休みたいから観戦には行けそうに無い』という旨のメールを送って2人から了承を得ている。まぁあの2人ならよっぽどのことがない限り大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふぅやっとついた」

 

ホテルの部屋から会場の控室まではそれなりに距離があり尚且つ道に少しだけ迷ってしまって余計に時間を食った。

今控室に到着して試合まで後30分、意外とギリギリだ……………………って1時間半も彷徨ってたのか。

 

「董夜いるか?」

 

あと30分を切ったことだし、いつもはしない精神集中でもやってみようかと思ったら控室のドアがノックされ返事をすると達也が大きなダンボールを持って入ってきた。

 

「どしたの?まさか激励に来たわけでもなかろうに………………てかその荷物何?」

 

「いや、預かりものがあってな」

 

そう言って達也はそばに置いていたダンボールを俺に手渡してきた。ダンボールは50×50×20ぐらいの大きさで両手で持たないと落とすほどの大きさだった。

 

「な、なにこれ。嫌な予感しかしないんだけど」

 

「さぁな俺は雛子から預かったものだから中身は知らん」

 

「え、あ、ちょ、達也!」

 

俺の呼びかけ虚しく達也は振り向くことなく部屋から出て言った。残されたのは呆然とする俺と大きなダンボール。てゆうか雛子め、あいつ最近出番が少ないからってこんなところでブッ込んでくるなよ。

 

「んで中身はっと………………………………まじか」

 

近くにハサミやカッターが無かったから【重力操作】でダンボールの上面を歪めて取り払うと中に入っていたのは……………………黒を基調とした浴衣だった。

 

「はぁぁぁぁぁ!?。アイスピラーズでコスプレするのって女子だけじゃないのかよ!!……………………ん?」

 

誰得だよ、と愚痴っていると中に一枚の紙が入っていた。雛子からのメッセージでも入っているのかと思ったら『この髪型にセットしろ!』と書かれていて横にどこかのモデルの写真が入っていた。

 

「いや、まずワックスないし俺セットできないs「任せてください董夜さん!」……………なんでいんの?」

 

余りにも不自然すぎるほどのタイミングでワックスを手にした深雪が部屋に入ってきた。

あれ?時間的に深雪ってさっき競技終わったばかりだよな?

 

「終わった後飛んできました!!」

 

………………………そうですか。

 

「それで?この浴衣はなに?」

 

「あ、それは雛子が用意した衣装です!」

 

「いや、それはわかってるんだけど………………何で?」

 

「それはですね。ーーーーーーーーーー

 

 

 

数日前 司波家にて

 

「それで?雛子が1人でくるなんて珍しいな」

 

現在司波家のリビングでは達也と深雪と雛子が座っている。今日は日曜日、董夜に夕飯の買い出しを強要した雛子は自分が董夜の【観察者の眼(オブザーバー・サイト)】の有効距離を離れたことを確認すると達也にアポを取り司波家にて来ていた。

 

「実は……………………九校戦のアイスピラーズブレイクで董夜にこれを着せて欲しいの!!」

 

「……………これは」

 

「ゆ、浴衣ですね。ーーーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけです!!」

 

「いや説明短い」

 

思わず突っ込んでしまった。

いやもっと雛子がこれを持って来た動機とかそこら辺の説明とかあると思ってたら、分かったことは『雛子が俺に隠れて浴衣を用意してた』ぐらいだ。思い返せば最近買い物を強要されたことがあった気がする。

 

「取り敢えずこれは着ないよ、雛子に送り返しといて」

 

「え!?……………………着ないん………ですか?」

 

「うぐっ!!」

 

適当にあしらってやはり制服で出場しようと思ったら深雪が悲しそうに涙目で上目遣いというほとんどの男子の理性を崩壊させそうなダブルコンボを入れて来た。

 

「ぐ………そんなことしても無理なものは無理」

 

「…………………」

 

「………………………………わぁかったよ!!着ればいいんでしょ着れば!!」

 

「はい!それでは本番楽しみにしてますね!!」

 

そういって深雪はスキップでもしそうな勢いで部屋から出て行った。

我ながら余りのちょろさに涙が出て来そうになる。それにしても深雪はあのダブルコンボをわかっててやっているのだろうか?無意識だとしたらそれなりに脅威だが、意識してやっているとしたら家で何か教育上よろしくない物を見ている可能性がある…………………達也は後で説教が必要だな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話の質問コーナー!!

Q:あれ?最近雛子の出番少なくない?

 

「董夜さん、雛子は九校戦見にこないんですか?」

 

「俺が家を開けるのが1日ぐらいなら連れて来ても良かったんだけど3日以上も家を開けるとなると留守中家を守ってもらわなくちゃいけないんだよ」

 

「家で1人なんて…………可哀想です」

 

「まぁあの家には四葉の機密情報がそれなりにあるからね、それでもこういう時には必ず埋め合わせするようにしてるよ」

 

A : と言う設定にはしていますが余りにも雛子の出番が少なすぎるとは私も思ってます。皆さん雛子の名字を覚えていますか?柊ですよ?ひいらぎ。

雛子をメインにした小話でも書こうかと思っているんですが中々アイデアが思い浮かばないです。『こんな話を書いて欲しい』とかあったらメッセージでも感想でも良いですから言ってくれると助かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、似合ってるんだろうか」

 

髪のセットをせずに出て行った深雪を連れ戻しセットしてもらい着付けは自分でした。俺は今控え室を出て会場に続く通路を歩いている。部屋を出る前に鏡で一応確認したが「見てくれは悪くない」程度だった。

 

「でもそれは主観的な意見だしな〜客観的に見たらダサい可能性も………………」

 

やばい今すぐにでも控え室に戻って制服に着替えたい。だがそんなことをすれば深雪が悲しむ………………いやもしかしたらキレられるかもしれない。

 

「うわ〜澪さんにいじられるんだろうなー」

 

テレビで九校戦をチェックしているであろう澪さんが今回だけを見逃すわけがない。

そしていよいよ会場の選手用入り口についた。あと数メートル進めば今の自分の姿が会場の観客に晒され大型モニターにも映されるのだろう。

 

「……………………よし!ここまで来たらとことんやってやろう!!」

 

ハハハハハハハハハハ……………と俺は吹っ切れることにした。恐らく昨日のスピードシューティングの観客の入りからして今日も満席なのだろう。だったらとことん【四葉董夜】を世間に見せつけてやろうではないか。

俺は堂々とした足取りで会場に入った。

 

 

 

 

 

 

 

その頃 五輪家本邸

 

「フフフフやっと董夜君の出番だわ」

 

私こと五輪澪は今現在、ベッドに入り上体を起こして側にある机に冷たい飲み物と果物の盛り合わせをセッティングして目の前には九校戦の会場が映されているテレビを見ている。

私は元々体が弱くて病弱だったがそんな私の楽しみの1つが毎年開催される【九校戦】だった。そして今年は弟のように慕っている董夜くんが出場するのだ。

 

そして遂に董夜くんが選手入場口から入場して来た。さぁ董夜くんはどんな魔法を見せてくれるのだろうか。

 

「フフフ、楽しみね………………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 九校戦 第一高校天幕内

 

「うん!深雪さんも北山さんも順調に勝ち進んでるわね」

 

「ホントに今年の一年は心強いな」

 

「まったくだ」

 

現在、第一高校の天幕の中では生徒会長である私と摩利と十文字くんが会場の様子が映っているモニターを見ている。

 

「董夜くんは…………………大丈夫ね!!」

 

「戦略級魔法師の実力を見せてもらおう!」

 

「七草ではないがアイツなら大丈夫だろう」

 

私も摩利も十文字くんこれから始まる董夜くんの試合を楽しみにしているが誰も彼が勝利することを疑っていない。

 

「あ、来たわよ!」

 

そして近年稀に見る大歓声とともに董夜くんが選手入場口から入って来た。

しかしーーーーーーー

 

「………………………」

 

「何をやっているんだ?あいつは」

 

「ろ、録画………………しゃ、写真撮らなきゃ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選手入場口 数歩手前

 

「ちょっと待てよ…………何この歓声」

 

気持ちも吹っ切れていよいよ入場!!というところでいきなり会場内に大歓声が起こった。あまりの歓声に少しだけ狼狽えたがいつまでもこうしている訳にもいかない。

 

「ふーーーーーー…………………よし」

 

気持ちを整えて会場に入ると大型モニターに俺の姿がドアップで映された。そしてあれ程大きかった歓声が一瞬にして静まり返った。

 

(ウソだろ………まさか白けたか?)

 

うわ〜やってしまったぁ〜。と思っていると先程の歓声が霞むほどの大歓声が会場を埋め尽くした。どうやら掴みは悪くないようだ……………さっきの静寂が気になるけど。

 

「よし…………切り替えよう」

 

 

 

 

 

 

 

アイスピラーズブレイク会場 観客席

 

「いや〜深雪もだけど、董夜くん似合い過ぎ」

 

「ホントですね〜」

 

「深雪は何をやっているの?」

 

観客席では現在いつものE組とA組のメンバーがこれから始まる董夜の試合を観戦していた。

全員が董夜が浴衣で登場したことによる大歓声に圧倒されてる中、深雪はこの日のために購入した最新型超高解像度カメラで董夜を撮影していた。

 

「お兄様!見てください!!」

 

「あぁ見ているから落ち着きなさい」

 

そして何故かノリノリな董夜は自身の姿を大型モニターにも映しているカメラに向かってウィンクをしたり投げキッスをしたりしている。その度に会場の女性からは黄色い声が上がりエリカは笑い、美月は顔を赤らめ、レオは男として尊敬の眼差しを送り、ほのかは歓声に圧倒され、雫は無表情で、深雪は身悶えている。

 

「………………何をやっているんだ?あいつは」

 

雛子から頼まれたものを董夜に届けはしたがまさか本当に着ると思わなかった達也は只々呆れたようなため息をついていた。

 

 

 

 

そして遂に試合が始まる時間になり試合開始の合図をするポールに青い光が灯る。そして青い光が黄色い光に変わった瞬間相手選手が董夜の氷柱を破壊しようと魔法を発動しようとするが董夜がそれよりも早くーーーーー

 

「董夜くんも………」

 

「【氷炎地獄(インフェルノ)】……………!!」

 

董夜が発動したのは深雪が使った魔法と同じ振動減速魔法。この系統の魔法に関しては深雪の方が得意なため、董夜の発動時間は深雪に僅かに劣るもののそれでも一般選手には十分脅威になり得る。

領域を二分し、運動エネルギーや振動エネルギーを減速、もう一方のエリアにその余剰エネルギーを逃がすことで冷却と加熱を行う高難易度魔法。

 

「やっぱ深雪にはちょっと届かないか」

 

一回戦で董夜と当たった不運な選手の運命が決まるのにそう長い時間は必要なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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