27話 九校戦六日目
昨日と同じ朝がやって来た。今日で九校戦も6日目。
「……………明日で1週間か早いもんだな」
今日はアイスピラーズブレイクの第3試合から決勝までが行われる。順番は深雪が第1試合で俺が最終試合だ。
昨日ホテルに帰る際に九校戦の運営委員が立ち話しているのを聞いたがどうやら『選手のコンディションを考えて四葉選手を第1試合にしようとしたが視察に来ている魔法関係者の為に最後に回すハメになった』らしい。
「朝ごはん食べよ………………あれ?」
話は変わるがこのホテルでは九校戦に出場する選手とそれを支える技術スタッフの為に売店や食堂、それに上層階にあるレストランは早めに開店して普通より遅めに閉店している。
昨日レオに『食堂の『朝定食』が結構美味かったぞ!』ということを聞いた俺が誰かを誘って食堂に行こうと携帯端末を開くと一件のメールが入っていた。
「『今日は絶対に負けないからな!覚悟しろよ!!』……………はぁ」
律儀なやつだ。将輝から送られてきたメールの内容を見て思わずため息が出た。
おそらくこのメールの内容は純粋で真っ直ぐな本心なのだろう。とても十師族の次期当主とは思えない真っ直ぐさだ。
「まぁ宣戦布告にはキチンと応えるけどね」
そう言って1人部屋で着替えながら不敵な笑みを浮かべる 側から見たら気持ち悪い以外の何者でもない自分がいた。
「んで、結局達也だけか」
「悪かったな」
朝ごはんを誘おうといつものメンバーにメールを送ったが深雪とほのかと雫はもうすでに済ませてしまったらしく3人で深雪の部屋にいるらしい。
エリカとレオと美月は『仕事』らしい。あの3人はエリカの千葉家のコネを使って九校戦の会場に従業員として来ており、おそらくその仕事だろう。
幹比古に関してはメールアドレスを知らないことを今日初めて気付いた。
「それで?どうよ動きは」
「このまえ渡辺先輩に仕掛けられてからは動きなしだ」
「慎重になったかな?」
本来ならいつ人が来るかもわからない食堂で【
「さすがに【四葉】を名乗ってる俺には直接何かしてこないだろうけど深雪たちには何かあるかもしれないね」
「そのことで引っかかるんだが【
「ん?そりゃ開催前に侵入して…………………内通者か」
たしかに考えてみればおかしな話だ。この九校戦の会場は国防軍の富士演習場の近くにあり普段から警備もそれなりに厳重の筈だ。しかも開催数日前となれば警戒度も上がる。そんなときに警戒されずに会場に入れるなど大会の運営委員以外にありえない。
「警戒度を上げた方が良いだろうな」
おだやかな朝食の時間を過ごすつもりが少しだけピリついた朝食になった、まぁ内通者の存在を知れたのは収穫ではあった。
「いやぁ〜、俺も成長したつもりだったけどあいつも凄かったな」
深雪の試合が終わり観客の興奮が一向に下がる気配を見せない中俺は自分の控え室に向かっていた。少しだけ汗ばんでいるのは深雪の試合を見た後に急いで控え室に向かった為だ、今は途中にある自動販売機でお茶を買っている。
「本来ならこんなに急がなくても良いんだけどね」
俺の試合が開始されるまでまだ30分ある、それなのに何故こんなに急いで控え室に向かっているのかというとーーーー
「まだ浴衣をスムーズに着られないんだよな」
一回戦が終わった後に深雪からメールで浴衣の着方や髪のセット方法を教わったが昨日は疲れていたからそれを試す前に寝てしまった。そのため早めに控え室に向かってセットするのだ。
「間に合わなくて制服で出たら後で深雪と雛子が怖いからな………………ん?」
お茶のキャップの部分を人差し指と中指で挟みユラユラと揺らしながら歩いていると控え室の前に高校生とは思えないほど屈強で巨漢な…………………克人さんがいた。
「あぁ董夜か」
「『あぁ董夜か』って俺の事待ってたんじゃないんですか?そこ俺の控え室ですよ克人さん…………………もしかして心配してるんですか?俺が負けるんじゃないかと」
「そんなわけがない……………と普段ならいうんだが、このまま勝ち進んで行けば十中八九『一条』に当たるからな」
まぁそれだけあいつの【爆裂】は強力だからからな、克人さんが心配になるのもわかる、それでもーーーーー
「俺は負けませんよ、絶対に。それに浴衣まで来て注目を集めてるのにそれで負けるなんてダサすぎるでしょ?」
「フッ、それもそうだな。それにしても今年は十師族の者が4人も出るとはな」
「そのうちの3人が一校ですけどね」
正確には(技術スタッフも入れて)6人なのだが、そんなことを知る由も無い克人さんはそれだけ言うとどこかに行ってしまった。方向からして恐らく一校の天幕だろう。
「さて、急いで着付けしなきゃ」
結局着付けと髪のセットが終わったのは時間を知らせに来た大会の運営委員が董夜を呼びに来たのとほぼ同時だった。
そして遂に始まったアイスピラーズブレイク第三回戦最終試合。
舞台に上がった俺はカメラ目線で前髪を後ろに搔き上げる。その瞬間会場は女性陣の黄色い声に包まれた。一方の相手選手は余りのアウェー感に緊張がさらに高まっていた。
「まさかポーズまで指定されるとは、雛子の着せ替え人形みたいだな、これじゃ」
会場の観客席から達也達を探していると顔を真っ赤にさせた深雪が達也に支えられ雫にうちわで扇がれていた。
「あいつ熱中症じゃねぇの?ちゃんと水飲んでんのか?」
少しだけ心配になっていると飲み物を買いに行ってたのかほのかが戻って来て深雪に水を渡し、それを飲んだ深雪の顔色は幾分か落ち着いたようだった。
そんなこんなでポールが青い光を灯し後数秒で試合が開始されるのとを告げる。観客席が静寂に包まれそして黄色に変わり、最後に赤に変化したと同時に俺はCADの操作を開始する。
「さて、お返しだよ将輝」
「相変わらず凄いね〜」
董夜が入場してくると同時に会場からはアイドルのコンサート並みの歓声が響き渡った。それを聞いたエリカの言葉にこの場にいる全員が賛成する。
「ほのか、遅い」
「恐らく自販機が近くになかったんだろう。もうそろそろ帰ってくるさ」
雫は飲み物を買いに行ったきり戻ってこない友人を心配し、【無頭龍(ノードラ)】の事が頭によぎった達也が安心させるように返事をした。
「はぁぁぁぁぁぁぁ董夜さん」
顔を真っ赤にさせながらカメラのシャッターを切っている深雪に関しては達也を含めて全員スルーを決め込んでいた。しかし
「はうっ………………!」
董夜が前髪を後ろに搔き上げ、会場の歓声が何倍にもなったタイミングで深雪はさらに顔を赤くさせぐったりとなった。
「だ、大丈夫!?」
そして全員から溜息が漏れる中、ちょうど飲み物を買いに行っていたほのかが戻って来た。
「はぁ、ほのか。その水を一本もらって良いか?」
「あ、はい!どうぞ」
ほのかが念のためにジュースと水を買って来ているのをみた達也は了承を得てほのかから水を受け取り深雪に飲ませると深雪は落ち着いたようだった。
「あ、始まるみたいよ」
ポールに青い光が灯りそして黄色に変わる。会場内は先程とは打って変わりシンとしておりどこからか飛行機のエンジンの音が聞こえてくる。
そしてついに光が赤くなり試合が始まった。
「なっ……………………………!?」
それは誰の声だったか。董夜と対峙している選手か、それとも観客の誰かか、それか全員か。
ポールが赤くなり董夜がCADを操作すると同時に相手選手の氷柱がある空間が歪み始めたのだ。
観客から、そして選手から見ても氷柱はねじ曲がって見えている。そして歪んだのは一瞬、すぐに全ての氷柱が砕け散る。
呆然とする観客と相手選手を置いて試合終了の合図が鳴り響き、会場が静まり返ったまま董夜は退場して行った。
「宣戦布告にはキチンと答えたぞ………………………将輝」
最後の董夜の魔法の解説としては「相手の氷柱に強い重力をかけて押しつぶした。歪んで見えたのは大きすぎる重力に空間が歪んだから」ということです。
ツッコミどころは満載ですけどある程度は目をつぶっていただけると幸いです。