29話 九校戦七日目
「クソッタレ…………」
第一高校天幕内で摩利さんと真由美さんとモニターの映像を見ていた俺の額に青筋が浮かぶのが自分でも分かる。幸い今のは小声だったのに加え摩利さんと真由美さんが状況が理解できずに呆然としてくれていたおかげで聞こえていなかった様だ。
今日は九校戦7日目、新人戦のモノリスコードが行われる予定の日だ。そして予定通り実際にモノリスコードは開始された。そこまでは良かったのだが開始された直後に森崎たちがいた廃ビルが崩れたのだ。
「一体何が…………!!」
「フライング!………それにあの魔法は」
「【破城槌】、屋内で使えば殺傷性ランク違反ですね」
2人が状況を把握しだした頃、ようやく俺も怒りが静まり発動した魔法を分析して森崎たちを心配できる程度には落ち着いてきていた。
「七草会長、渡辺委員長」
「「 ! 」」
俺がいつもの名前呼びではなく役職名で呼んだことで内容が真剣な物だと気付いた2人も真剣な面持ちになる。
「おそらく森崎たちは無事だとしても競技を続けられる状態ではないでしょう。十文字会頭を呼んで代役について協議する必要があるかと」
『競技を続けられる状態ではない』という言葉に2人の顔が多少こわばる、しかしそこは流石三巨頭と呼ばれるだけあり直ぐに顔のこわばりを直して頷いた。
「そうね、董夜くんも(競技に)出てくれるかしら」
「えぇ勿論僕も(協議に)出ますよ」
誤解とは怖いものだ。
「え?俺は出ませんよ?というか出れませんよ」
「「え!?」」
「それは何故だ?」
現在天幕の中にある一室では俺と真由美さんと摩利さんと克人さんの4人が集まっている。そこで摩利さんが『それでは董夜の他の2人を決めなければ』という言葉に対する俺の返事がこれだ。
真由美さんと摩利さんは「じゃあさっきの言葉は何なのよ」といった顔をしている。
「これでも戦略級魔法師ですからね、3種目以上に出ちゃうと色々まずいんですよ」
元々戦略級魔法師の俺が高校生の身だとしても『普通より少し上のレベル』の学生の大会に出れるはずはなかったのだ。
この前の週刊誌にも【戦略級魔法師と3人の十師族を有する第一高校は史上最強布陣か?】などと書かれてしまった。あれで批判されなかったのが奇跡と言える、これで俺がモノリスコードにまで出てしまったらそれこそ批判ものだろう。
これでも統合幕僚会議に
「それでどうするんだ?」
「「え?」」
俺が出場できない理由に3人が納得した時、克人さんが俺に布陣をどうするのかと訪ねてきた。俺に采配を一任するとしか取れない言葉に真由美さんは不思議そうな顔をする。
「俺たち3人を集めたのはお前だ、まさか呼んだだけではないのだろう?」
克人さんの言葉に俺は思わずフッと笑いがこみ上げてきてしまった。思い返せばこの人とも十師族の中では将輝と真由美さん並みに長い付き合いだ。
「えぇ勿論です、出場できない分1番勝てる布陣をお教えしますよ」
「ほぉそれは誰だ」
「まぁ布陣をお教えすると言っても決まっているのは1人だけ、そしてそいつに采配を任せるするつもりです」
俺の言葉に3人が少し眉をひそめた、今回は俺が布陣は任せてくれと言っている以上責任は全て俺にあることになる。そしてその采配を任せることはその人間を余程信用しているということだ、3人ともそれを理解したのだろう。
「それで其奴は誰だ?」
「布陣を任せるのはーーーーーーーー」
「それで、俺が呼ばれたというわけですか」
「そゆこと、それで任せてもいい?」
数分前、作戦室に呼び出された達也は自分が選ばれた理由を問い説明を受けて今に至る。後ろでは付いてきた深雪が達也をキラキラした目で見つめている。
「しかし、自分が出場するとなると他の一科生から反感が出ると思いますが」
おお、達也が完全に俺を視界から外して真由美さんたちに話してる。巻き込んだことは悪いと思うけどさ。
だがそんな事でへこたれる俺じゃない。無理やり会話に入ろう。
「勝てば誰も文句は言えんさ、まぁ十師族間では問題になるかもしれないけど」
まぁ良い活性油になるさ、と笑う俺に後ろで真由美さんと克人さんが少しだけ複雑そうな顔をする。十師族とは全ての魔法師の見本であり最強でなければならない、その十師族の次期当主が(表向きには)普通の学生である達也に負ければそりゃ問題にもなる。
おそらく新人戦が終わった後の克人さんの試合にもプレッシャーがかかるだろうが正直知った事ではない。
「………………それでは残りの2名は登録選手外から選んでもよろしいですか?」
と、いうわけでようやくモノリスコードの選手が決まったというわけだ。
最後まで克人さんたちは俺に難しい顔を向けていたがさっきも言ったけど知った事ではない。
今の十師族ははっきり言って非常に慢心が過ぎる。九島烈は『互いが牽制しあい、切磋琢磨して技術の向上を目指す』という理由で今の体制を作ったのだろうが今となっては『互いの不祥事を探り合い、蹴落とし合う』という散々なものだ。
そんなクソみたいなもの
「俺が………………………」
「クソッ、どういうことだ!?」
とあるビルの一室、その中央に置かれたテーブルを囲む男の内の一人が手下からの報告に外面を取り繕う余裕もなく悪態を吐いた。
「大会委員に潜り込ませた工作員が行方不明! これでは電子金蚕を使うことができないではないか!?」
もう一人の男が叫び怒りを露わにする。もはや彼らには冷静な思考をする余裕など欠片も残されていなかった。
「もはや手段を選んでいる場合ではない」
「その通りだ、観客が大勢死ねば大会どころではないだろう」
「ではジェネレーターを送り込むということに異論はないな?」
誰かも反論の声は上がらない、この場に彼らを止める者は存在しなかった。
「念の為に行動を起こすジェネレーターは三体にするべきだ」
「そうだな、それなら誰も止めることなどできないだろう」
テーブルを囲む男たちは狂気を含んだ笑みを浮かべる。それは生への渇望、今の精神状態ならば男たちは生きるために核兵器の発射ボタンを躊躇いなく押すことだろう。傍から見ると滑稽な彼らの醜い足掻きは留まるところを知らなかった。
新人戦モノリスコードは達也の巧みな作戦によって順調に勝ち進み、ついに新人戦モノリスコード決勝。
選手の登場に観客たちは困惑の雰囲気を漂わせている。それも当然のことで幹比古とレオの二人がマントとローブという何とも言えない不思議な恰好をしていたからだ。そんな観客たちの中で周りとは違った反応を見せる人物が一人、エリカは幹比古たちの恰好に大爆笑していた。思いっきり周囲の注目を集めていても気にしないエリカだった。
「ちょっとエリカ、もう少し静かにしないと」
「いや、だってあれは面白すgアッハッハッハ!!」
深雪の注意をまるで意にかえした様子のないエリカにほのかと雫と深雪と美月の4人はため息が出るばかり。しかしすぐに深雪はどこか心配そうに、そして何かが起こっているのを感じながら空を見上げ、先程から連絡が取れない人物に想いを馳せる。
「董夜さん、一体どこに」
「プフッ、これは確かに面白いね」
『ホントだねー、ちゃんと家で録画してあるよ〜』
どこにでもありそうな男女の会話、しかし違うのは俺が立っている場所ともう1人の声の主が俺の隣にいない事だろうか。
「それで?動きはあった?雛子」
『う〜〜ん……………………ん、今ところはないよ董夜』
そう、俺は今誰もいないホテルの屋上に立っている。そして耳についている無線機からは雛子の声が聞こえてくる。
なぜこんなところにいるかというとモノリスコードの試合開始直前に【
『無頭龍の工作員がCADに細工をしようとしている』
送られてきた顔写真から工作員を探し出し先程九島烈に引き渡した後ジェネレーターが三体送り込まれたのを聞いてホテルの屋上に待機しているというわけだ。
そんなこんなしていると携帯端末から歓声が聞こえてくる。
「うーーん、流石の達也も将輝相手じゃ【
『一条将輝ってそんなに強いの?』
「お前と五分五分ぐらいじゃないか?あいつも本番の戦闘に参加したこともあるし」
『ふーん』
あ、顔は見えないけどこいつ今絶対不敵な笑み浮かべてるな、恐らく戦いたくて少し疼いたのだろう。こういう好戦的なところが無ければなー。
初めてあったときだって最初の一言が『ちょっと
『ん、董夜。ジェネレーターが動いたみたいだよ』
「おっけ」
そんなことを考えていると耳についている無線機からは余り緊張感のない声が聞こえてくる。そして俺はそばにあった黒を基調として黄色いラインが入った拳銃型のCADを持ち、構える。
「さて、ジェネレーターが人目につかないところにいる間に片付けるか」
俺は引き金を引いた。
人間の反射神経の限界に迫る速度で発動した魔法は、ジェネレーターが無意識に張っている情報強化を易々と貫いた。
【
ジェネレーターが自身の内部に魔法の発動を感知した瞬間内部で高圧の電撃が発生、高温によりジェネレーターは爆発することなく一瞬で蒸発した。
「後はそれを三回繰り返すだけ」
『………………うん、目標の消滅を確認。目撃者もいない模様』
「おっけ、それじゃあ大元の掃除は達也と藤林さんに任せよう、てことでお願いしますよ?藤林さん」
そう言って俺は無線を切った、最後にこの無線をハッキングしていた
「い、一体いつから」
国防軍某基地の内部にある国防陸軍第101旅団のオペレーションルームでこの旅団のトップの風間玄信の副官であり、旅団自体の幹部も勤めている藤林響子少尉は薄暗い室内で1人電子機器が多数並べられている席に座っていた。
「それにしても【
九校戦の会場で【
「こりゃ【
そうふとため息をつき、最近ため息の量が増えてきたな、とまたため息をつく魔女だった。
最近ルビを振ることを覚えたんですが見にくくないですか?大丈夫ですか?